高橋睦郎『深きより』(20)(思潮社、2020年10月31日発行)
「二十 流されつづけて」は「京極為兼」。
歌の師たる者の為ごとの第一は 歌の場を整へること
生まれる歌に新しい息吹を吹き込みつづけること
そのためには何が必要か。常に歌が生まれるとき、そこにいないといけない。ところが京極為兼は追放される。それも一度ではない。
しかし、
わたくしにとつて二度の遠島は むしろ二つの誉れ
為兼は、これを「誉れ」と言い直している。
為兼が追放されたのは、為兼の「歌の場を整へる」力、「生まれる歌に新しい息吹を吹き込」む力を、ひとが恐れたからだ。
日本が、
歌の国 主上以下の歌の力により 政事たれる国
であるならば、結局、「歌の師」が「政事」を先導・指導してしまうからである。しかも為兼には、それを「つづける」力がある。だれが「主」になろうが、その「主」のために「場」をととのえ、その歌に「新しい息吹」を吹き込む。
その「連続性」をこそが恐れられたのだ。
主が交代しても為兼がおなじ仕事をつづけるのならば、それは為兼こそが「影の主」でとして生きつづけることになる。
だからこそ、都から遠い場所、「遠島」へ追放された。それは都とは「つづいていない」ところである。
だが、そういうことをしても、歌はつづいていく、歌はつながっていく。人間と違って、歌は(ことばは)、「場」には拘束されない「息吹」だからである。つまり、「場」はいつでも生まれ、「息吹」はいつまでも途絶えることがない。「場」はいつでも整えることができるし、どんな歌にも「新しい息吹」を吹き込むことはできる。為兼は、そう知っているからこそ、運命を静かに受け入れる。
「流されつづける」ことこそ、間接的に、為兼の「歌(思想)」の正しさを証明するからである。
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