石毛拓郎「獄中●●の木橋」(「飛脚」26、2020年11月03日発行)
石毛拓郎「獄中●●の木橋」は、こうはじまる。
「●●」は何か。タイトルの●●と一行目の●●は同じものか。「一行目の」と書いたのは、この詩には●●が何度も出てくるからである。
●●を修飾することばが同じだから、そこに同じことばが入るかどうか。同じことばを入れてみたい気がする。ことばを入れて「答え」を出したい気持ちになる。
これが問題なのだと思う。
私はなぜ答えを求めるのか。なぜ●●をことばとは受け止めないのか。私の知らないことばがある、ということだけで私は満足できないのか。
「腑に落ちない」と繰り返されることばは、はたして同じか。「だが」ではじまろうが、「まだ」でひっぱりだそうが、同じことばか。そもそも「だが」と「まだ」はどう違うのか。「点」と「面」はどう違うのか。
何もわからない。
わからないということで、すべてのことばは●●とつながっている。
「十三歳」も「少年」も「哀しみ」も「荒野」もわかる。わかったつもりでいる。「哀しみの荒野」ということばは「身ひとつ」とか「手ぶら」ということばと向き合って一つの精神的な情景を浮かびあがらせる。精神を感じさせる。
だが、これだって、あやしいものだ。
だから、私は、あらゆることを保留する。「答え」を出すことを拒絶する。
「木橋は揺れるように そこに見えていた/かれは その橋を渡らないことには/何も始まらないことすら わからなかった」という「十三歳の少年」になりかわって発せられたことばを拒絶する。「木橋」「揺れ」「渡る」「始まる」「わからない」の意味を拒絶する。
だが、ことばのリズムは私の肉体のなかに入ってくる。ことばを統一するリズムが、石毛の「ほんとう」として聴こえてくる。「狂気のせつなさ」ということばがあるが、どのことばも「せつない」響きを持っている。「せつない」の定義はむずかしいが、それ以外に、ことばはない、という追い詰められた感じがする。追い詰められ、追い詰められ、ことばがみつからないまま●●と書くしかなくなる。あらゆることばが●●と向き合っている。
そこには、ほんとうはことばはないのだ。
試してみるといい。●●をなかったこととして石毛のことばを読んでも、意味は変わらない。というか、「意味」が通じるだろう。意味が通じるとは、そこにある意味がそのまま流布する(共有される)ということである。省略しても意味が意味は変わらないからこそ、それが重要なのだ。省略してはいけないのだ。
「流通している意味ではない何か」「意味を拒んでいる何か」つまり、「解読されたくない何か」がそこにあって、石毛は、その解読できない何かを通して永山則夫と対峙しているのである。そこにもしことばがみつかり、●●を●●ではないものにした瞬間に、その永山と石毛の関係は消えてしまう。●●を省略した瞬間、世間で言われている「意味」になってしまうことからも、そのことがわかる。
繰り返される「腑に落ちない」ということば。それが指し示すものだけが石毛をささえている。
●●を通して石毛は永山になるのだ。それは省略できない「腑に落ちない」という「せつない」気持ちだ。
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石毛拓郎「獄中●●の木橋」は、こうはじまる。
だが 腑に落ちない●●点もある
あの時 十三歳の少年は
哀しみの荒野にいて
それも 身ひとつで
なによりも 手ぶらであった
根雪がふる ふりつもる
木橋は揺れるように そこに見えていた
かれは その橋を渡らないことには
何も始まらないことすら わからなかった
「●●」は何か。タイトルの●●と一行目の●●は同じものか。「一行目の」と書いたのは、この詩には●●が何度も出てくるからである。
まだ 腑に落ちない●●面もある
なぜ 凶器を使ったのか
かれは 虎の影に追いかけられ
どこへ行っても 憐憫の瓦礫が目をふさぐ
塹壕のどん底から
樹木の高みへと 逃げる術など
思いもよらなかった
狂気のせつなさ 雪がしぐれてくる
手ぶらの狂暴が 熱くささやいた
●●を修飾することばが同じだから、そこに同じことばが入るかどうか。同じことばを入れてみたい気がする。ことばを入れて「答え」を出したい気持ちになる。
これが問題なのだと思う。
私はなぜ答えを求めるのか。なぜ●●をことばとは受け止めないのか。私の知らないことばがある、ということだけで私は満足できないのか。
「腑に落ちない」と繰り返されることばは、はたして同じか。「だが」ではじまろうが、「まだ」でひっぱりだそうが、同じことばか。そもそも「だが」と「まだ」はどう違うのか。「点」と「面」はどう違うのか。
何もわからない。
わからないということで、すべてのことばは●●とつながっている。
「十三歳」も「少年」も「哀しみ」も「荒野」もわかる。わかったつもりでいる。「哀しみの荒野」ということばは「身ひとつ」とか「手ぶら」ということばと向き合って一つの精神的な情景を浮かびあがらせる。精神を感じさせる。
だが、これだって、あやしいものだ。
だから、私は、あらゆることを保留する。「答え」を出すことを拒絶する。
「木橋は揺れるように そこに見えていた/かれは その橋を渡らないことには/何も始まらないことすら わからなかった」という「十三歳の少年」になりかわって発せられたことばを拒絶する。「木橋」「揺れ」「渡る」「始まる」「わからない」の意味を拒絶する。
だが、ことばのリズムは私の肉体のなかに入ってくる。ことばを統一するリズムが、石毛の「ほんとう」として聴こえてくる。「狂気のせつなさ」ということばがあるが、どのことばも「せつない」響きを持っている。「せつない」の定義はむずかしいが、それ以外に、ことばはない、という追い詰められた感じがする。追い詰められ、追い詰められ、ことばがみつからないまま●●と書くしかなくなる。あらゆることばが●●と向き合っている。
そこには、ほんとうはことばはないのだ。
試してみるといい。●●をなかったこととして石毛のことばを読んでも、意味は変わらない。というか、「意味」が通じるだろう。意味が通じるとは、そこにある意味がそのまま流布する(共有される)ということである。省略しても意味が意味は変わらないからこそ、それが重要なのだ。省略してはいけないのだ。
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繰り返される「腑に落ちない」ということば。それが指し示すものだけが石毛をささえている。
耳にひそむ誘惑に 嵌ったのか
やむをえず かれは極刑をえらんだのか
まだ 腑に落ちない●●事がある
東京拘置所に架かった木橋は 足をかけると
あの日 あの時のように揺れた
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