詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

アルメ時代34 秋の注釈

2020-07-31 23:30:41 | アルメ時代
アルメ時代34 秋の注釈  谷内修三



池を渡ってくる風が
窓の手前で曲がる
水に映った空から光が引いていく
時雨が水面を閉じるまで
しばらく均一な間が残される
「空虚はたしかに存在する
透明なために見えないのか
不透明なために見えないのか」
一日中さがしていたことばが
激しい音とになって
金属的な匂いのなかを去っていく
(思春期の肉体の音階に似ている)
しかし、
注釈は退けなければならない



(アルメ254 、1987年12月25日)
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アルメ時代33 雨の形

2020-07-30 22:13:48 | アルメ時代
アルメ時代33 雨の形  谷内修三



ワイパーが雨をぬぐっていく
消えていく気持ちを
いまなら持っていることができる
言い聞かせて
疲労のほてりを踏んでいく靴を負う
電話ボックスは溶けだしている
横顔があきらめたように直立する
見覚えがある
この時間には見覚えがある
(裏切っていくのは疲れた
肉体だろうか精神だろうか)
こめかみをガラスに押しつける
雨の角度が見える



(アルメ252 、1987年09月25日)
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アルメ時代(1)

2019-04-02 20:18:01 | アルメ時代
鴎外橋


カナダ人が
川岸のぬれた水苔を見てタイドと言った
――近くに海があるの、
――私はバンクーバーで育った。
それから古里の話をしてくれた
――妻とは別れシングルだ。
息子の写真を持っていた
――スマートね、
――うん、ハンサムだ。
私の英語をなおしてくれたわ

女の話を聞いていると
この河口にも源があるとわかる
潮に身をまかせる水は遠くからやってくる
女のことばもカナダ人のことばも
遠くからやってきた
私は振り返ってアルミニウムの欄干に伸びる影を見た
その先の川の上を綿の風は
見えないので耳を澄ました
だが何も聞こえない。
世の中を歩いていないので
私のことばは動いていかない
女のことばを
美しい形にして返せない
「雲がすっかり秋ね」
女の視線をおいかけながら
川面に影をうつす柳のように
女のことばに揺られてみる
「夏の雲と違って大きくなることはない
ただターナーの色にそまっている」


(アルメ229、1984年11月10日)
コメント (1)
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