高柳誠『フランチェスカのスカート』(6)(書肆山田、2021年06月05日発行)
「修道院」は「親方」を別の角度で描いている。もちろん親方は出てこないが。登場するのは院長先生と教育係のシスターだ。
ぼくたちの教育係だったシスター・エリザベートは、院長先生とは
正反対で、ある意味スキだらけのずいぶんな年寄りに見えた。
私が棒線を引いたのは「正反対」ということば。「正反対」が登場することで、世界の幅が広がる。「親方」におかみさんがいるのと同じだ。
この正反対は、まず、院長先生について書かれている。
きびしさの中心にやさしさがあるのだ。
きびしさとやさしさの同居。そのとき、高柳は「中心」という不思議なことばをつかっている。
「正反対」のものがあるとき、その間には「中心」がある。それは対立するというよりも、ひとつの「円」なのである。「正反対」は「中心」があることで生まれる。
だから、ほんとうのキーワードは、一回だけつかわれている「中心」ということばである。「正反対」は中心の存在を証明する「方便」なのである。
そして、それが「方便」であるとすれば。
ここから、もうひとつ、おもしろいことが見えてくる。
「ぼく」(詩の主人公)がいたずらをすると、
眼を見開いて「まあ、あなたって子は…」と言ったきり、絶句して
しまう。そして、体中がぶるぶるふるえだすので、そのまま死んで
しまうのではないかと心配になる。その深く刻まれたしわのなかの、
悲しみに満ちた眼をみると、ぼくの心にはじめて後悔の念が襲って
くるのだ。
「ぼくの心」が「中心」を生み出している。「中心」を発見している。そしてそのとき、その「発見」は自分自身の発見でもある。
「きびしさはやさしさである」と発見する。それに気づいた「ぼく」が院長先生の「本質」を発見するとき、「ぼく」は僕自身の「生き方」を発見する。
「中心」は「ぼくの心」である。それは同時に「世界」を描写する高柳の「ことば」である。
「中心」ということばのなかに「心」という文字があるのは象徴的である。
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