詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

谷川俊太郎詩集『虚空へ』百字感想(7)

2021-12-15 09:52:55 | 谷川俊太郎『虚空へ』百字感想

谷川俊太郎詩集『虚空へ』百字感想(7)

(赤児の笑みが)

赤児の
笑みが宇宙へ
開く

花の
秘密と
ひとつになって

ヒトに
ひそむ
知り得ぬ

死ねば
この星の
大地が
償うだろうか

 「秘密」にふたつの意味がある。人間の知り得ない絶対的真理。人間の知られたくない揺れる心理。赤ん坊は、それを区別しない。未分節。謎のまま、世界を開いていく。そして、ことばと人間は、いつでも「ひとつ」。

 

 

 

 

(オナカそれとも)

オナカ
それとも
セナカ
かな?

寂しさが
澄む
ところ

秋の陽を
浴びて
歩く

無色の
幸せ
遥かな

 「寂しさが/澄む」は「寂しさが/住む」。「棲む」と書くとより寂しくなる。オナカとセナカは「ナカ」という音を持っている。「すむ」は「澄む/住む/棲む」を持つ。「遥かな」は「かな?」という疑問を誘う。

 

 

 

 

 

(自然に生まれ)

自然に生まれ
自然に
還る

簡素な
いのちの
複雑精妙

畏れ
慄き
戯れ
歌って

罪なく
消え失せ
ヒトは
自失

 「自然」は「しぜん」か「じねん」か。「自由」という意味につかえるのは、どちらだろう。こういうことは断定しない。分離、分節しない。先に読んだ「セナカ/オナカ」のように「ひとつ」のものとして生きていく。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

谷川俊太郎詩集『虚空へ』百字感想(4)

2021-12-12 11:10:27 | 谷川俊太郎『虚空へ』百字感想

谷川俊太郎詩集『虚空へ』百字感想(4)

(明日より今日が)

明日より
今日が
大事

波立つ海
裸の子
歓声

いつまでも
新しい
夏の
姿

風は
発電し
獏は
夢に食傷


 「新しい」は形容詞。だが、ここでは動詞のように働く。「いつまでも/新しい」は「いつでも/新しくよみがえる」であり、よみがえるは「なる」でも「する」でもある。今日は、明日新しくよみがえる。だから大事。

 

 

 

 

(世間の罅)

世間の
罅から
世界が
覗く

日々に
かかずらう
私を余所に

無限の

永遠の

舌に
馴染まぬ
無味だけれど

 言い換えがある。「無限」は「永遠」、「幻」は「夢」。そこにかすかな「罅」。一方、反対のことばがつくりだす罅もある。「余所に」の反対は「馴染む」。「馴染まぬ」と書かれることで不思議な罅が生まれる。

 

 

 

 

 

(夜 座っている)


座っている
足下に
地球

頭上に
限りない
人外

夢に
たゆたう

かたわらに
想う
ひとりの
ひと

 そのひとは、かたわらにはいない。だから「想う」。そのひとは「人外」にいる。「想う」とき「夢」のようにやってきて、そこにいる。「たゆたう」は、このとき存在の証。動くものだけが命の証。そうこころは動く。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

谷川俊太郎詩集『虚空へ』百字感想(3)

2021-12-11 10:00:43 | 谷川俊太郎『虚空へ』百字感想

 

 

 

 

谷川俊太郎詩集『虚空へ』百字感想(3)

(老いて一日は)

 

老いて
一日は

朝から
昼へ
己れに
躓き

昼から
夕へ
散らばる

幻の
明日の
星影


 動詞はふたつ。「躓き(く)」と「散らばる」。躓くのは肉体である。しかし、肉体の動きはどこかでこころにつながる。そのとき肉体は「散らばる」ことはないが、こころは「散らばる」。肉体を少し離れて。

 

 

 


(じっと)

じっとしていると
今が
音楽とともに
遠ざかる

時間が駆け
時は
うずくまる

音楽の額縁で
世界は
名画

美に
涙して
醜に
耐える

 「駆けて」「遠ざかる」とき「うずくまる」ものがある。動かない。「うずくまる」は「涙して」「耐える」に似ているか。「うずくまる」のは何だろう。音楽からこぼれた沈黙だろうか。

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

谷川俊太郎詩集『虚空へ』百字感想

2021-12-09 09:30:01 | 谷川俊太郎『虚空へ』百字感想

 

谷川俊太郎詩集『虚空へ』百字感想

(椅子を引き)

椅子を
引き
立ち上がる

手が掴み
足が踏む
心は知る
己が自然を

世界は
愛おしく
世界は
恐ろしい

大気が
香る
この時空

 世界は「香る大気」。手で掴めない。足で踏めない。でも、「肉体」は反応する。そこに「世界」が存在することを。「嗅ぐ」ではなく「香る」。主語が「私」から「私以外のもの」に交代する瞬間がある。

 谷川俊太郎『虚空へ』(新潮社、2021年9月25日発行)は短い詩篇。私の感想は、いつもだらだらと長いのだが、谷川にならって短くしてみた。毎回「百字以内」と決めて書いてみる。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする