詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

こころは存在するか(46)

2025-01-12 23:29:06 | こころは存在するか

 大岡昇平「レイテ戦記」(全集9、筑摩書房)は、とてもむずかしい本である。知らない地名が出てくる。地図がつけられているのだが、地図を見てもわからないことが多い。たとえば、距離。何キロという具合に客観的に書かれているのだが、山の中と平野では違う。川や沼地では違う。肉体は、数字に向き合って動くのではなく、あくまでも地形、そしてそのときの条件に向き合って動く。その動きが、私には想像できない。さらに、それに海軍、空軍の動きが加わる。人間の動き(それがトラックにのったり、馬に乗ったりしていたとしても)、そのスピードと、海の上の船のスピード、空を飛ぶ飛行機のスピードが違うから、それを組み合わせて理解するのがむずかしい。
 以前見た映画「ダンケルク」(クリストファー・ノーラン監督)では、クライマックスの一日へ向かって陸、海、空が動くのだが、スピードが違うにもかかわらず、まるでそれが「一日」のできごとであるかのように巧みに語られていたが、現実は、そんな具合には動かない。だいたい、映画と違って小説は短い時間で終わらない。本を開いていれば、自然にページが動いていって、おわりがくるわけではない。自分でひとつひとつことばを追っていかないと、おわらない。
 そして、この「戦記」を読んでいると、当時の世界だけではなく、いまの世界も見えてきて、それがとてもおもしろい。
 こんなことばがある。(347ページ)

 一度廻りはじめた戦争の歯車は、その喚起したエネルギーを使い果たすまで廻り続けるヨーロッパと太平洋には、巨大な兵器と軍事物質が送られ続け、それはハワイ、オーストラリア、ニューギニアに蓄積されていた。戦争を続けなければ、アメリカ経済がひっくり返ってしまうのであった。日本突然降伏したら、一番困るのはルーズベルトであったろう。あくまでも定量砲撃で放談を浪費するのは、アメリカの軍需産業を円滑に進行さすために欠くことが出来なかったのである。

 これを、ウクライナとロシアの戦争に結びつけて私は読んでしまった。
 トランプは、大統領に就任したら戦争を終わらせると言って立候補していたが、いまは六か月に後退している。もっと後退するだろうと思う。トランプに能力がないからではなく、アメリカの軍需産業うが許さないのだ。ゼレンスキーが突然降伏したら、アメリカの軍需産業は大慌てをするだろう。イスラエルが突然和平に踏み切っても同じだろう。NATO諸国に、そして日本に、どれだけ多くのアメリカ軍需産業がつくった武器が蓄積されているか、想像してみればいい。
 こうした大きな「枠組み」だけではなく、人間の、あまりにも人間臭い動きも、「レイテ戦記」には克明に描かれている。それをしっかりと描き出す文章にぶつかるたびに、私は立ち止まる。

 


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