熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

死に追い詰められたシルバーバックのマウンテン・ゴリラ

2008年03月21日 | 地球温暖化・環境問題
   英国の高級紙「インディペンデント」の電子版を読んでいて、ショッキングな写真(口絵)を見つけた。
   殺害された巨大なリーダー・ゴリラが、タンカに縛り付けられて住民達に運ばれて行く怪獣映画の一シーンのような写真である。
   手の腕だけでも、大人一人分の大きさがあろうかと思える巨大なマウンテン・ゴリラがアフリカにいて、それらが、人間の金儲けの為に何頭も殺されているのである。何とも悲しくて慙愧に耐えない。
   何故、絶滅寸前のゴリラが殺されるのか。ゴリラの生息地である森林を伐採して木炭を製造する為に、守護神であるべき筈のコンゴのヴィルンガ公立公園のディレクターHonore Mashagiroが、部下に命令して殺させたと言うのである。

   コンゴ、ウガンダ、ルワンダ3国の国境にあるヴィルンガの死火山の火口の傾斜地に、ユネスコが管理し捕獲を禁止されている700匹のマウンテン・ゴリラの内半数が生息しているが、この地で、国立公園の管理役人が率先してゴリラを殺害していることが発覚し、当事者が逮捕されたと言うのだから、コンゴ政府も見過ごすわけにも行かず、世界のワイルドライフや環境保護団体が顔を曇らせている。

   原住民の密猟者なら貴重な肉を目的とするのだが、そのまま殺害されて放置されており、第一に、一般人が殆ど近づけないところであり、正に公園の管理人たちの仕業であり、Mashagiroは、違法な炭焼オファーでも容疑を受けている。
   違法な木炭業者が、ゴリラの生息地である木材を切り倒して工業用燃料として年間30億円($30M)を儲けているようだが、昨年、コンゴ政府が、この取締りを強化したので、環境保護団体は、これが更に事態を悪化させたと考えている。
   Mashagiroは、ゴリラ殺害があった直後に、コンゴ自然保護協会の上級官吏官から、このヴィルンガのディレクターに任命され、カフズ・ビーガ国立公園のゴリラ頭数担当官の任についており、有名な環境保護者が、彼は稀に見る逸材の一人でで逮捕にはショックを受けていると言っているのだから、いい加減なものである。

   この問題は、環境問題のみならず、色々な貴重な問題点を提起している。
   絶滅品種の生物保護と言う問題にしても、これらの殆どの原因は、先進国の自分たち勝手なエゴによる成長志向の経済社会発展に起因している。
   貴重な動植物の最後の楽園は、後進国の原野や森林・山林など未開発の地域に追いやられてしまっているが、グローバル経済に巻き込まれた貧しい住民にとっては、否応なく、生きて行くためには、この経済法則に従って自分たちの身近な自然を犠牲にする以外に方策はない。
   僅か30億円の資金を稼ぐ為に、貴重な自然が破壊され、絶滅寸前の自分たちの仲間である霊長類のゴリラが殺害されるのなどは、恐らく、原住民の価値感と先進国の保護団体の考え方には雲泥の差がある筈である。
   この50年の間に、成長成長で、貴重な自然環境のみならず、取り返しのつかない貴重な遺産・財産を数限りなく失ってきた日本の歴史を振り返ってみれば、そのことが良く分かる。

   地球温暖化等にかんする環境問題は、バイオエタノールへの転換で食料価格を高騰させる等で貧しい後進国の生活を益々窮地に立たせており、石油や原材料など天然資源の価格高騰が、持たざる国を直撃し、更に、ドル安による世界経済秩序の大転換などの大変動が、後進国経済の存続自体を脅かし続けている。
   恐らく、マウンテン・ゴリラを追い詰めてヴィルンガで生産された木炭は、グローバル市場へと言うのではなく、アフリカの小さな工場でのエネルギー資源として使われるのであろう。
   環境問題にしても、世界経済社会の発展の問題にしても、グローバル・システムに否応なく取り込まれて翻弄され続けている、このようなアフリカなどの後進国での深刻な問題を無視・軽視してはならないと思っている。

   
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京都議定書を糾弾するG.プリンスLSE教授

2008年03月10日 | 地球温暖化・環境問題
   経団連の主張に沿った問題提起で「京都議定書以後の国際枠組みとセクター別アプローチ」日米欧3極シンポジウムが開かれたので聴講した。
   出席者は、日米欧の学者、経済団体や国際機関の役員、経産省担当官、そして、産業界は、石油、電力、鉄鋼等からで、正に、経団連の従来からの見解であるセクター別地球温暖化政策グループの集合と言う感じではあったが、私自身には、非常に勉強になった一日であった。

   まず、非常に興味を持ったのは、冒頭のグウィン.プリンスLSE教授の「Recent trends in adressing the climate change issue 地球温暖化問題に関する最近の動向」と言う講演で、京都議定書を激しく糾弾しながらセクター別アプローチが如何に優れているかを語り、洞爺湖サミットでの日本の指導的地位の重要性を強調していたことである。
   プリンス教授は、LSE(ロンドン・スクール・オブ・エコノミックス)の長周期事象研究に関するLSE Mackinderプログラムのディレクターだが、長い間アフリカに住みアフリカ人と草の根活動を共にして医療関係の事業に携るなど広い分野の文明史の専門家であり、オックスフォードのSteve Rayner氏と連名で、昨年10月に「ネイチャー誌」に「Time to ditch Kyoto」と言う論文を掲載して、京都議定書を糾弾している。

   Natureの論文や講演を加味して考えると、プリンス教授は、まず、京都議定書の地球温暖化対策は、過去のオゾン層破壊、酸性雨、核兵器に関する非常にシンプルな条約のように扱っていることで、
   地球温暖化が、全地球を巻き込まなければならない極めて複雑な問題であることを無視して、核兵器と同じように二酸化炭素を扱って、各国が検証した目的とタイムテーブルに従って削減できると考えて、グローバルベースで直接温暖化ガスの排出量をコントロールしようとしていることで、これは根本的に間違っていると言うのである。
   
   京都議定書の更なる欠陥は、トップダウンで上から排出権総量を決めて、各国間の排出権取引を認めていることで、早い話が、この先5~10年グローバルベースの炭素価格がどのようになるのか、安定するのかどうかさえ分からないし、今でも、欧州の排出権取引スキーム自体が多くの深刻な問題を抱えており、投機に走ってぼろ儲けする輩が出て来ることである。
   元々、トップダウンで国際条約によって、腐敗するのが分かりきっているカーボン市場を創設すること自体が間違いであって、今後、中国やインドの工業化の進展と石炭への傾斜が進めばどうなるのか。市場経済において、権力が強制的に創設するコモディティ市場が上手く機能する筈がないと言う強い危惧を持っている。
   それに、京都議定書による温暖化政策は政治的な意思が強すぎて、京都議定書さえ上手く行けば総て温暖化問題が解決すると言った風潮を助長したのにも問題があり、このような運動はボトムアップであるべきだとも言う。

   そのほか、京都議定書やEU主導の地球温暖化対策については、色々な点から問題点を論じているが、相対的には、政府の介入を出来るだけ避けるべきで、民間ベースのボトムアップで対処すべきだと言う。
   しかし、唯一つ、政府が主導権を発揮して対処すべきは、地球温暖化対策の為にイノベーションを喚起することが最も大切であり、、低炭素社会の為のアポロ計画に匹敵するR&D戦略を打ち上げるべきだと言っている。
   カーボン価格をドラスティックに引き下げる為にも、今後これまで以上にエネルギー・インテンシブな経済産業社会化が進んで行く以上、クリーンなエネルギー技術の開発が急務であり、R&Dの役割は遥かに重要となる。

   プリンス教授は、
   そのためにも、民間私企業のイノベーションによる根元からのカーボン排出削減努力が益々重要となり、セクター別アプローチが最も適した方策である。
   サプライ・サイド、すなわち、モノやサービスを生み出す主体からの自主的な削減努力による果敢な地球温暖化対策が最も有効にワークし、この方面で、最も対応と技術的な貢献を続けている日本がイニシャティブをとるべきで、洞爺湖サミットがこのための千載一遇の好機だと主張するのである。
   今や地球温暖化運動の主導権はヨーロッパから環太平洋群、カナダ、中国、日本、インド、アメリカに移ったとも言う。

   私自身としては、セクター別アプローチにも問題が山積みだと思うのだが、このプリンス教授の見解も含めて、今回は、私自身があまり知らなかった新しい視点からの地球温暖化問題の提起があって、朝10時から午後の6時前までの長丁場のシンポジウムであったが、非常に興味深く聴講した。
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低炭素社会:時代の潮流を見誤った経団連の転進

2008年02月23日 | 地球温暖化・環境問題
   経産省が、地球温暖化対策に対して、EUのキャップ&トレード方式の導入を検討するとの日経記事を読んで、2月21日に、経団連の自主規制方式に対して疑問を呈するブログを書いたが、同日に、経団連の御手洗会長が、大分での記者会見で、EUの排出権取引を容認する姿勢を示したと、翌日の日経朝刊が報じた。
   その記事のタイトルが、”EUの排出権取引、経団連会長が容認姿勢「潮流踏まえて検討」”と言うのだから、その時代認識の甘さと言うか、ビジョンと定見の無さに呆れざるを得ないが、これでは、榊原英資教授でなくても、「日本は没落する」と言わざるを得ない。

   経団連は、1997年に、「経団連環境自主規制計画」をぶち上げて、10年以上も、排出権の公平な割り当てが困難であるなどと理屈をつけてEU型のキャップ&トレード方式に執拗に反対し続けて来ており、
   御手洗会長は、12月の鴨下環境相との会合においても、地球温暖化ガス排出の上限を設けるキャップ&トレード型の国内排出権取引制度の導入に反対し、バリで開催中のCOP13において不合理な総量規制を受け入れるなど安易な妥協をしないように釘を刺していた。
   年頭での会合においてもこの見解を踏襲した発言をしており、環境省が、今年に入って、省エネ実績連動を軸とした「ベンチマーク方式」の導入など日本型排出権取引を検討に入ったが、これにも産業界は、EU方式だとして強く反対してきた。
   2月18日の日経とのインタビューで、経団連地球環境部会長である猪野博行氏が経団連の自主行動計画で、地球温暖化防止に十分対応出来ると言い切っており、低炭素社会に向かっての世界の潮流を考慮しようとする姿勢は微塵も無かった。

   ところが、アメリカ次期大統領がEU方式の導入を示唆し、経産省がこれに追随する姿勢を示し、福田首相が環境問題に対する有識者会議を設置する等と言った雪崩現象が起きてきた所為か、舌の根も乾かない内に、「欧米などの世界の潮流を踏まえて、環境問題をテーマとするサミットの主催国として、これを成功させるためにも検討して行くのがカギになる。」と言うのだから、何をか況やである。
   ここで気になるのは、この発言は、経団連の重要な方針の転換であるから、本来なら経団連の然るべき会議で機関決定されるべき重要案件だと思うのだが、経団連のガバナンスはどうなっているのであろうか。
   何れにしろ、地球温暖化対策にとっては良い方向に向かっているので、もう、これ以上何も言うまい。

   20世紀は安価な石油に依存して成長拡大してきた産業社会であったが、アメリカのような石油漬けの消費大国ではなく、幸いなことに、2次に渡る石油危機の為に、日本企業は省エネ技術の涵養に努めて生産技術や製品の質の向上に励んだ結果、そして、個別企業のCSR指向の経営努力のお陰で、産業の低炭素社会への対応は進んでいる。
   しかし、それは、個別企業ベースの努力であって、日本全体としてのエコイノベーションへの取り組みや、エコプロダクツ・エコサービスの創造への努力は勿論のこと、エコ社会への経済社会全体や法制度の整備などは、政府が強力なイニシャティブを取ってこなかった為に、EUと比べれば格段に遅れてしまっている。

   もう一つ温暖化対策について疑問なのは、福田首相が立ち上げる地球温暖化問題に関する懇談会(低炭素社会懇談会)の構成メンバーだが、福田首相は、「良いメンバーだ。電力・鉄鋼は日本の産業界の6割くらい温暖化ガスを排出している。そういう人に積極的に協力して欲しいという思いもあった。」と言っているのだが、そのこと事態がミスキャストではないのかと言うことである。
   産業界からのメンバーは、トヨタ、東京電力、新日鉄だが、これらの業界は、地球温暖化に最も貢献(?)し宇宙船地球号を追い詰めてきた会社であり、そのために見かけ上は、最も温暖化対策にも努力して貢献しているように見えるのだが、キャップ&トレードの排出権規制に執拗に反対してきた日本産業界のエスタブリッシュメント企業であり、足枷にこそなれ益になることはないと思われる。
   ソニーなどクライメート・セイバーのメンバーのように、しっかりとした経営哲学とビジョンを持って地球環境問題に取り組んでいる先進的な企業からメンバーを選ぶべきであろう。

   しかし、メンバーの中に山本良一東大教授が入っているので、十分にカウンターベイリング・パワーを発揮して貰って、本当に日本が低炭素社会のリーダーとなるような提言をしてくれることを期待したい。
   政府の地方分権改革推進委員会の丹羽宇一郎委員長が、後から鉄砲の玉が飛んでくるのを覚悟で引き受けたと言っていたが、このくらいの覚悟でないと、洞爺湖サミットで日本は赤恥をかくだけに終わってしまう。   
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世界の孤児となる日本の地球温暖化対策(?)

2008年02月20日 | 地球温暖化・環境問題
   2月19日の日経に、「米、温暖化対策転換へ 排出権取引3候補前向き」と言う記事が掲載されて、この3人の内の誰が大統領に選任されても、アメリカが温暖化ガスの削減目標を設定して排出権取引を導入することは間違いなくなった。
   ブッシュ大統領が否定してきた排出権取引で足並みを揃えており、国レベルで排出権取引の受け入れで態度を明確にしていない日本は難しい立場に立たされそうだ、とも報じている。
   このブログでも、アメリカがEU主導の排出権取引を導入するのは時間の問題であり、自主規制などと言って世界の趨勢に横になって逆らっている日本は、必ず、地球温暖化対策で孤児になると指摘したが、その通りに世界は動きそうである。

   経団連が、1997年に「経団連環境自主行動計画」を発表して、各産業が誰からも強制されることなく自らの判断で行った全く自主的な取り組みであると自画自賛して始めた地球温暖化対策が、実は衣の下に鎧で、本音は、本日の日経が報じているように、「キャップ&トレード型の排出権取引を導入すると、(自分たちの首が締まり)排出権価格の高騰を招いたり、規制を嫌う企業が国外に生産基地を移したりする懸念がある」等と言った規制反対が本音であった。
   ところが、世界は経団連のエゴなど関係なく大きく動いており、地球環境保護については、先行してスタンダードを確立した欧州型のキャップ&トレード型の排出権取引システムに欧米が雪崩を打って移行しようとしているのである。

   本日の日経が、「経産省が方針転換 ”各企業に上限、売買で過不足調整” EU型排出権取引検討」と言う見出しで、経済産業省が、民間企業などに温暖化ガスの排出量上限を義務付けた上で、排出権の売買で過不足を調整する欧州連合(EU)型の排出権取引の導入の検討に入ると報じた。
   経産省が、EU型のシステムの導入については既に世界の趨勢であって日本もこれに倣うべきであると言う見解に達していたことは、然るべきルートで知っていたので、公式に発表しただけだが、経済界に対して力の弱くなった経産省も、新大統領の下でのアメリカがEU型に追随すると明確になった以上、経団連も有無を言えなくなったと言うことであろう。

   排出権導入と同時に環境税の導入も検討すると言うが当然であろう。
   元々、EU型を押していた環境省と見解が一致して政府としては統一見解となり、依然慎重論が強い経済界との調整が焦点となると日経は報じているが、慎重論などと言う次元ではなく、その程度のお粗末な方針に固守して世界の趨勢について行けないような経済団体が主体の経済社会なら明日の日本は最早ないと思うべきであろう。
   宇宙船地球号が瀕死の状態であり、世界中が必死になって温暖化対策を強化して、地球環境を死守しようと戦っているのである。

   もう一つ、この地球環境の保持で深刻な問題提起は、日経ビジネスの「太陽電池の痛恨 シャープ、世界首位陥落」と言うスクープ記事である。
   CO2を排出しないクリーンな電源太陽電池、これまで日本が技術と市場の両面で世界をリードして来た「お家芸」だが、生産量世界一を誇ったシャープが、1999年創立の新興企業ドイツのQセルズに追い抜かれたのである。
   シャープの落ち込みは、材料のシリコン逼迫で、その調達ミスにあるとしているが、日経ビジネスが報じる別な要因であるドイツの「フィード・イン・タリフ」方式などを含めたEUの地球温暖化対策のためのエコ・ビジネスに対する強力なサポートシステムに、大きな要因があるように思っている。
   「フィード・イン・タリフ」方式とは、事業所や家庭が太陽電池で発電した電気を、電力会社が市場価格よりも高く買い取ることを義務付けることで、ランニングコストを回収出来るばかりではなく、利回りが計算出来るので投資対象にもなっていると言う。

   日本が世界に誇れる唯一の技術は省エネ技術なのだが、その虎の子の太陽電池でも、一寸進めばすぐ補助金を打ち切ってしまって低迷させてしまうと言う日本政府の短慮、あれやこれら総てが、高い技術力で世界の半導体市場で上位を占めていた日本メーカーが凋落した「半導体の悪夢」を思い出させると日経ビジネスは憂う。
   エコイノベーションを経済開発の首座に据えて経済を活性化させてサステイナブル社会を構築して行こうと官民こぞって敢然と立ち向かおうとしているEUに対して、日本はどう戦おうとしているのか。
   技術大国、工業立国の日本が、環境ビジネス、エコイノベーションで遅れを取ってしまえば、もう明日は暗い。
   
(追記)環境問題については、このブログの左欄calenndarの下の方の、categoryのところの「環境問題」の文字をクリックして頂くと、今までの環境問題に対するブログ記事が全部出てきます。暇な時に、宜しければお読みください。   
   
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ブッシュの完全敗北・日本の追従・・・COP13バリ会議

2007年12月16日 | 地球温暖化・環境問題
   COP13バリ会議の最終局面で、アメリカのドブリアンスキー国務次官が、最終文書の中で、発展途上国の約束を明確に取り込むべきだと強く主張し、さらに、先進国が発展途上国に与える支援について、"measurable,reportable,and verifaiable" assistanceの文言を受け入れられないと発言するに至って、途上国の敵意が噴出し、批難ごうごうで、
   パプアニューギニアのケヴィン・コンラッド大使が、「アメリカがリードすることを期待している。もし、何らかの理由でその意思がないのなら、残りの我々に任せてくれ。邪魔するだけだったら、この会場からさっさと出て行ってくれ。」と発言すると会場が大変な騒ぎとなった。
   ブッシュ大統領が進展を妨げないと明言しながらも悉く反対にまわるアメリカに対して、腹に据えかねていた各国代表団の一致した気持ちで、アメリカの同盟国のどこの国もアメリカをサポートしなかった。

   これが、正に、歴史の転換点となり、国際世論の大きな流れをブロックすると如何にその代償が高くつくかをアメリカに知らしめた瞬間となり、南北が地球温暖化ガスの増加を阻止する為に協力しようと言う流れを作り出しCOP13のロードマップ合意に一挙に進展させたのである。

   結局、アメリカは方針を大転換して、ポーラ・ドブリアンスキー次官が、
   「我々は、新しいフレームワークを更に進展させる為にバリにやって来た。我々は、ビジョンを共有し、前進したいと思う。我々は、このバリにおいて成功を勝ち得たい。一致協力して前進しようではないか。」とフロアーから発言した。
   各国の代表達は、とうとう、合意が成立したことを知って感激して爆発的に反応し長い間賞賛の拍手が鳴り止まなかった。
      
   以上の報道は、ニューヨークタイムズとワシントンポストを一分纏めたものだが、これは、バリでの国連気候変動会議におけるアメリカの見方であろう。
   後者の記事の一部で、アメリカ同様に、COP13の趣旨に反対する道路上の障害物となっている国があるとして、ロシア、カナダ、日本、インドを名指ししており、日本については、コミットメントが少ないと批難している。
   この口絵のビラは、「削減目標の妨害をやめてくれ」と言うNPOのプロパガンダだが、ブッシュ、福田首相、カナダのハーパー首相の写真が掲載されており、日本が抵抗勢力であることを天下に知らしめたものである。
   政府は、仲介者の役割を果たしたと言って自画自賛しているが、京都議定書の当事国でありながら、経団連を筆頭に経済界から削減目標設定など地球温暖化対策に対して強い抵抗があり、政府も経産省と環境省との不協和音があり、更に日本政府の国家的な取り組みと政策遂行に対しては極めて消極的であることは、世界の世論、特に、ヨーロッパの人々は先刻承知で、来年の洞爺湖サミットの成功には、既に暗雲が漂っている。

   読売新聞の報道では、当初案にあった「先進国は、温暖化ガスを20年までに25-40%削減する」と言う文言などが削除され数値目標が消えたので、財界は非常に好意的に見ているとしているが、そこまで、日本人の誇りと心意気がダウンしてしまったのかと思うと悲しくなる。
   省エネなど努力に努力を重ねて、乾いた雑巾のようになってしまったので、更に厳しい規制を課されるとやっていけないと言う恐怖感があると言うのだが、イノベーション、イノベーションと叫び続ける日本が、これでは、未来が暗すぎるし、地球温暖化は、地獄の一丁目を通り越して奈落の底に突き進んでいるのである。
   
   ところで、福田総理が、「エコプロダクツ2007」を見学して、NEDOの鉄道駅の改札を通ると足の圧力で発電する装置に感心して、「なかなか日本も捨てたもんじゃない。民間が草の根でやるのが一番強い。」と言ったと言うが、NEDOは謂わば政府機関である。5000万人の年金の名寄せについて公約だとは知らなかったと言う総理だから仕方がないが、こと地球温暖化については、国家が強力なリーダーシップを取って抜本的対策に乗り出さねばならないことを忘れないで欲しい。
   経団連の反対を良いことに数値目標を体良く拒否して笑いものになったが、一頃のブレアのようにアメリカのスピッツに成り下がるのも程々にすべきであろう。
   

   ところで、イギリスの最高級紙「インディペンデント」の記事だが、ブッシュ大統領については徹底的に批判している。
   ”The world gets the better of Bush" と言うタイトルの社説で、
   「先週は、先週であった。そして、昨日は、ついに、世界が、ジョージ・ブッシュの単細胞の頭、近視眼的視点、自己利益にのみ腐心する考え方に飽き飽きしたことを天下に知らしめた正にその日となった。
   その瞬間は、灰燼や血痕に満ちたイラクや、グアンタナモ基地での拷問や国家的テロリズムの最中ではなく、インドネシアの神々の楽園において訪れたのであった。
   それは、気候変動で起こった――邪悪なテキサス男が、他の世界の国々や未来の世代の利益を犠牲にして自分の観念的な本能と石油塗れの執念を押し付けてきた正にその問題でである。」と言う書き出しで始まる激烈なものである。

   アメリカは、バリ会議において、他国の代表から、全く進歩がないと糾弾され敵意を受け続けて、ブッシュが名指しされて、あたかも、フセインやムガベのように嫌われ者扱いとなり、居ない方が上手く行くとまで言われたのである。
   アメリカは、それでも、反対を性懲りもなく続けていたが、パプア・ニューギニアなど187カ国の轟々たる非難によって、世界の世論に屈しなくてはならなくなったのである。

   アメリカは、国際交渉で、世界の国から阻害されて相手にされなくなると、今回のように、すぐに屈する。これは、ハイリゲンダムでのG8の時もそうだし、2年前のモントリオールでもそうだったと言う。
   イギリスのメディアなので、アメリカが、今回のバリ会議の総量規制などで反対してアメリカを助けるようにイギリス政府に働きかけており、イギリスもそれなりに考えていたようだがEUとの足並みを乱す訳にも行かなかったことなど報じている。

   ところで、アメリカでも、上院が地球温暖化規制を法制化に動きだし、28州でも果敢に対応が図られるなど、ブッシュ包囲網が急速に進んでいる。
   今回のバリ会議でも、ブッシュの任期がもう一年を切ったレイムダックなので、辞めるのだからほっておけといった諦めムードで、次のアメリカの大統領に期待する空気が濃厚であったようである。
   本当は、ブッシュの罪は、人類にとって、ヒットラーより酷いと言いたいのではないかと思ってイギリスの新聞を読んだが、他のヨーロッパではもっと酷い論調であろうと思う。
   

   
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野口健:ヒマラヤ氷河が消える・・・エコプロダクツ2007

2007年12月13日 | 地球温暖化・環境問題
   最近朝日新聞に、名古屋大学との共同調査で、ヒマラヤの氷河が氷解し巨大な氷河湖が出来ているショッキングな航空写真が掲載されていたが、本日のエコプロダクツ2007パネル討論「1人、1日、1kgCO2削減をすべての人が取り組むために」において、アルピニスト野口健氏が、実際に見聞きしているヒマラヤの氷河湖の現状、そして、深刻な地球温暖化の影響などについて語った。

   ヒマラヤの氷河がどんどん解け始めており、土石流の氾濫によって強大な氷河湖であるイムジャ湖が崩壊の危機にあり、決壊すると、谷間に住むシェルパの村々が流されてしまうので、恐怖に陥っていると言う。
   「ヒマラヤは地球の頂上で謂わば頭、頭に熱を持つと人間は病気になるのと同じで、地球が大変なことになる。どうにかしてくれ。」と訴えられているのだが、自分自身も身の危険を感じているが、日本人には、このリアリティの感覚が全くないと言うのである。
   ネパールやブータンの人々にとっては、温室効果ガスの排出などむしろマイナスで、我々先進国の人間が加害者なのである。

   ヒマラヤの氷河の氷解は、下流のバングラディッシュにも影響を与えており、どんどん陸地が水に浸かって後退しており、毎日のように民家や店舗が流出しているのだという。
   ヒマラヤの氷河の消失は時間の問題であると言うことだが、そうなると、我々が文明生活に酔いしれている間に、いつか近い将来に、シェルパの住む村々すべてが流出したと言うニュースが入る筈である。

   メルケル独首相の顧問ハンス・シェルンフーバー氏によると、北極海氷の消滅と西南極大陸氷床の崩壊については臨海に達して、もう元に戻らないし、グリーンランド氷床の融解の臨界点も真近であると言うことであるから、傾斜の激しいヒマラヤ氷河の崩壊など時間の問題なのであろう。
   スイスなどアルプス氷河の後退については、文明国なので既に十分な対策は打たれているだろうが、ヒマラヤのエコシステムの崩壊については、上流も下流も貧しい発展途上国なので、いざ発生すると深刻な状況になることは必定である。

   野口氏は、更に、NPOの依頼で、ネパールやブータンなどヒマラヤ近隣国の首相など政府高官を招聘して、大分で「第一回アジア太平洋水フォーラム」を開催した話をした。
   皇太子殿下や福田首相も参加したとのことだが、今日、朝日新聞の電子版に所収されていたので、皇太子殿下のスピーチを読んだ。人と水との豊かな繋がりを築くための努力を積み重ねてきた歴史があったことを理解してもらえればと、世界と日本における人と水との戦いの歴史などを丁寧に紐解きながら、IPCC第4次報告や地球温暖化についても語りかけるなど、非常に真摯な素晴らしい講演であった。
   野口氏の話では、ネパールやブータンなどの首相や大臣は必死に窮状を訴えていたが、中国などの発展途上国(?)や日本などの対応は中途半端であった模様である。
   JICAなどを通じての援助などを外務省に依頼したら、うちの案件ではないと断られたといって慨嘆していた。

   野口氏は、また、先進国がこれまでに散々に地球環境を悪化させておきながら、自分たちが遅れて享受しようとしたらダメだといって規制するのはおかしいと発展途上国や貧困国の人々に言われると言う。
   確かに、温暖化対策に対する先進国の発展途上国への押し付けは理不尽甚だしい議論ではあるが、その解決の為には、例えば中国に対してのODAは、全額環境対策でよいと主張する。

   地球温暖化対策にはみんなで立ち上がらなければダメだと言いながら、面白い話をした。
   汚すぎるので富士山の世界遺産は否定されたが、5年前からボランティアで100人くらいからゴミ集め「拾い隊」を始めたら、今では6000人以上が参加して5合目以上上からはゴミがなくなった、日本人は良いことでも恥ずかしがってやりたがらないが弾みがつくとやり始める、と言う。
   今では、登山者が一人一人ゴミを拾うところまで行っているというが、そもそも、富士山に自動販売機があること自体がおかしいのだが、日本人には不思議ではない。
   余談だが、アメリカの国立公園などでは、ホテルやレストランの存在さえ厳しく規制されているのに、日本の国立公園には娯楽施設や飲食施設は必要以上に何でもありで、このことが、世界の常識からずれている。

   この討論会は、他に、東大の山本良一教授、イオンの上山静一氏、京都精華大の服部静枝講師が参加し、枝廣淳子氏の司会で、非常にみのりある討論がなされて面白かった。
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加速する地球温暖化・・・東大山本良一教授

2007年12月03日 | 地球温暖化・環境問題
   シンポジウム「地球温暖化とエコ・イノベーション」で、山本教授の講演「加速する地球温暖化――急がれるエコ・イノベーション」を聴講した。
   先日このブログ(11月11日)で取り上げた教授の近著「地球温暖化地獄」を、直接教授の口から地球環境を死守しようという激しい言葉として直に聴いたのだから、迫力が違う。
   地球環境の破局の前兆は随所に現われており、地球温暖化は既に地獄の一丁目まで来ているにも拘わらず、日本人は危機意識もなければ全くの能天気で立ち上がろうともしない。地球温暖化に対して宣戦布告をすべきで、天皇陛下の詔書が欲しい、とまで言う。

   30年前に、「地球は、環境を生命の生存に相応しい状態に維持するために惑星規模のスケールのコントロール能力を保持している」というガイア理論を打ち立てたジェイムス・ラブロック博士が、昨年一月には、「地球は地球温暖化の引き返すことの出来ない時点を過ぎてしまった」と言ったが、この予言を引用し、私たちはポイント・オブ・ノーリターンを超えてしまったのかと問いかける。
   例え、今、温室効果ガスをゼロにしても、現在生み出されたカーボンは、何千年もの間、地球上を浮遊するのだと言う。北極海の海氷は、NASAの衛生写真で毎年トルコの面積ずつ氷解しており、もう既に元に戻らず、2030年には完全に消滅し、続いて、グリーンランドと南極大陸の氷床もチッピングポイントを越える時期が近付いており、これが氷解すると温暖化と海表面の上昇で臨海大都市の水没や地球環境の破壊は限りないと言う。
   今でさえ、海氷の氷解で餌に辿りつけずに、どんどん北極熊が死んでいるのに、もうすぐこの地球上から死滅してしまう。人口は幾何級数的に増えているのに、温暖化の為に、年間、何万種と言う動植物が死に絶えているのである。

   山本教授の一番嘆くのは、熱心な欧米と違って、日本の財界の地球温暖化に対する非協力的な態度で、温室効果ガス排出量の総量規制や排出権取引や環境税の創設など経団連が反対していて、各個別企業の自主規制に任されていると言うことである。
   聞くところによると豊田章一郎氏が経団連会長の時に反対したのが継続しているようだが、この状態を続けていると、京都議定書の6%削減目標実現も難しく、世界中の国から完全に遅れてしまって相手にされなくなると言う。

   とにかく、温室効果ガス排出など地球環境対策をイギリスのように法制化したり、多くのヨーロッパのように企業に厳しい排出権枠を与えて法的に規制するなど、少なくともヨーロッパ並みの排出権枠規制や排出権取引やカーボン税などの環境税設定など法態勢などの整備が必要であろう。
   日本企業の環境対応技術など最も進んでいると言った議論がなされているが、実際はそうではなく、省エネでは多少進んでいてもエコプロダクツやエコ・イノベーションなど多方面で、ヨーロッパなどから遥かに遅れているのだと言う。
   日本の経済は、まだ、GDPベースでは世界第二位だが、一人当たり国民所得はヨーロッパの中位位の水準で、国際競争力は先進国で最低水準に近く、色々な面で昔日の面影を喪失して普通の国になってしまっていることを認識しない為の幻想が結構多い。
   
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山本良一著「温暖化地獄」・・・待ったなしの地球救出

2007年11月11日 | 地球温暖化・環境問題
   ”地球温暖化地獄の一丁目”に入り込んでいるのに、危機感や切迫感は全く希薄。”科学”と”政治”の間のこの巨大なギャップを埋める為に、本書を書いたと山本良一東大教授は言う。
   アメリカを震撼させたハリケーン・カタリーナを筆頭に、今まで人類が経験したことのないような温暖化による極端な異常気象などの自然現象が頻繁に起こっており、人類のみならず他の多くの生物種にとっても地獄の様相を呈し始めた。
   ジョン・ホルドレン・ハーバード大教授の「すでに世界は危険な状態に入っている。人類は、人類による機構の錯乱を、これからたっぷり経験することになるだろう。」と言う言葉が正にこのことを正確に告げている。
   山本教授は、宇宙船地球号のエコシステムの壊滅的な破壊によって、もう、人類生存の為には、引き返すことの出来ない「ポイント・オブ・ノーリターン」に差し掛かっている、もう残された時間は10年もない、と温暖化地獄と言う言葉で警告しているのである。

   山本教授は工学博士であり科学者である。
   「自然科学の法則は自己貫徹する。人類は自然法則に逆らえば滅亡し、それに則ってこそ繁栄が可能である。自然法則は私たちの行動を強く規制する。したがって、科学的合理性に基づかない行動は、おろかというか狂気というほかない。これは何も、文化芸術、宗教を否定することではまったくなく、私たちの豊かな文明の持続可能性を願うなら、それは科学的合理性に基づかなければならない。」と主張する。 
   アル・ゴアの「不都合な真実」、IPCC第4次報告、厖大な世界中の多くの科学的調査研究や検証・シュミレーション、地球温暖化を憂慮する多くの科学者や団体組織等の声明など多くの資料を駆使して、「地球温暖化地獄」の現状と問題点を浮き彫りにしている。

   あまりにもお粗末で世界の趨勢から取り残されている日本の地球温暖化対策を憂慮して、
   「日本は、地球温暖化効果ガス排出量の長期的な削減目標を掲げていないし、キャップ&トレード型の温暖効果ガスの排出量取引市場を開設していない。
   京都議定書以降を見越した国のビジョンや対策のあり方が根本的に欠けており、「低炭素化社会」へ向けた国家総動員態勢がとられていない。
   英国などのように法制化して、日本もハードルの高い長期削減目標を設定して、具体的な実施計画を公表して「我に続け」と宣言しない限り、国際社会からは相手にもされないであろう。」と言う。

   山本教授は、温暖化地獄解決の鍵は、エコイノベーションだと言う。
   EUの環境戦略は、高い温室効果ガス削減率や高い再生可能エネルギーの導入率といった高い志を掲げて、炭素税、排出権取引、エコデザイン指令等、あらゆる政策手段を動員してエコイノベーションを引き起こしてエコテクノロジーを開発し、産業の国際競争力を高めてEU域内の経済成長を促進し雇用を増加させることであり、これに倣うべきだと言うのである。
   エコイノベーションとは、英文ウイキペディアにも載っていない新造語のようだが、economyとecologyに、innovationを重ねた言葉で、環境保全と経済成長を調和させ両立させるイノベーションと言うことであろう。
   英国の某環境企業は、市場価値を高め、環境的かつ社会的に受容可能なプロダクト、プロセス、組織的なイノベーションだと定義していたがまず近い概念であろうと思う。

   もっとも、山本教授の意図するのはもっと広い概念で、
   エコイノベーションは、能動的な環境対応が付加価値をもたらす持続可能性のあるアクションであり、新たな経済社会を創出するものだ。今までにはない発想で技術やビジネスにおける革新、制度改革に取り組み、経済社会システムそのものを変革して行く。環境経済が成り立ち、サステイナブルな産業、社会、生活を生み出すことが期待される、と言う。
   環境・エネルギー・資源の制約に対応したものづくりを積極的に進めて行くということであろうが、エコデザインやエコプロダクツの創出が極めて重要になってくると同時に、経済成長そのものが環境問題の解決を促進して、サステイナブルな社会を構築して行くというのなら、一石二鳥である。
   
   しかし、私自身は、そんなに上手い話のエコイノベーションが生まれるのかと言う懐疑論者である。
   早い話が、私の子供の頃には30億であった世界の人口が、現在たった半世紀足らずのうちに倍の60億人を超えてしまい、3倍の90億人になるのは目前だと言う。
   それに、人口の40%を占める中国とインドの経済が先進国並みの消費生活になったらどうなるのか、今でも、渇水断流の為に、あの巨大な黄河が一日中上流から下流まで流れる日は、年にたった5日しかないと言うのである。
   極論すれば、温暖化地獄の最中の現在、世界に冠たる超優良企業のトヨタが、たとえプリウスでも車一台売る毎に、温室効果ガスを排出して地球環境を悪化させて地球船宇宙号を死地に追い詰めていると言っても過言ではないのである。
   また、人類そのものの生存がエコシステムの均衡を破壊し、共存共栄すべきはずの何万何千種と言う自然界の動植物が生命を絶たれて、年々、地球上から消えて逝くのである。

   このような厳粛な事実を認識すれば、ロハスな生活、自然に帰った生活をする以外に人類の生きる道はないとしか言えなくなる。
   増加一方の人類を支える地球のエコシステムの限界が早晩やってくるのは必然なのに、サブプライム問題のように崩壊の時期が来るのを待つだけで良いのであろうか。
   今夜、WOWWOWで、山田洋次監督の「武士の一分」を見た。貧しい東北の田舎だが、はらはら枯葉が舞う自然が限りなく美しい。あれが、本当の人間の住処である。
      
   

   
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「帰らざる河」に差し掛かった地球環境の危機・・・環境・エネルギー課題解決のための賢人会議

2007年11月08日 | 地球温暖化・環境問題
   宇宙船地球号が、エコシステムのの崩壊で、人類の危機に直面している。
   こんな警鐘が鳴らされて久しいが、先日、品川のホテルで、多くの聴衆を集めて第2回目の「環境・エネルギー課題解決のための賢人会議」が開催され、甘利明経産大臣が「美しい星50」を語り、ジョン・ハットン英国ビジネス・企業・規制改革大臣が、「気候変動・エネルギー革新への挑戦」について熱っぽく論陣を張った。
   クリスチャン・エーゲンホッファ氏の「EUの気候変動政策の現状」公演は、正に、EUでの地球環境を死守する為の地球温暖化への最前線の戦いを生々しく語っていたが、西田厚聰東芝社長、中鉢良治ソニー社長、ロレイン・ボルシンガーGEバイス・プレジデントの企業ベースの果敢かつ意欲的な地球環境保全への取り組みなどの講演は、正に、我々一般人の膝元から大きなエコシステム擁護の戦いが始まっていることを感じさせて感動的でさえあった。
   エコジャパンと日経の主催だが、早くから環境問題に意欲的に取り組んできた作家山根一眞氏が、ラジェンドラ・パチャウリIPCC議長のビデオでのメッセージや会談を交えながら司会進行を勤め、実質4時間あまりのフォーラムを非常に意義深いものに仕上げていた。

   ガイヤ仮設のジェームス・ラブロックが、「地球は、地球温暖化の引き返すことの出来ない時点を通り過ぎてしまったと言っている。地球のエコシステムは、もう崩壊を止めることの出来ないポイント・オブ・ノーリターンまで行ってしまった、もう、今となっては遅すぎると言っているのである。

   しかし、ハットン大臣も冒頭で触れたが、地球温暖化に対する経済学に対するスターン・レポートでは、このまま加速し続ける地球温暖化を放置すれば、経済的損失は最大世界のGDPを20%を失うことになるが、今直ちに対応すれば、1%の対策コスト、すなわち、20分の1の投資で済むと計算している。
   一文惜しみの銭失いどころか、この1%を惜しむと途方もないことになってしまうと言うことである。

   何れにしろ、北極海の海氷が異常な速度で氷解しており、グリーンランドや南極大陸の氷床の氷解が進むと海面水位がどんどん上昇して行き、世界各地の大都市の多くは勿論東京湾が水没して行くことは明らかで、その前には、グローバルベースでの極端な異常気象の出現でエコシステムの崩壊が起こるであろう。

   ところが、京都議定書の本国でありながら、日本の国家レベルでの地球温暖化対策は世界でも最も遅れた国で恥ずかしいほどの水準にあると言う。
   先日来日時に、早く対処して欲しいとパチャウリ議長も訴えていたが、温暖化ガス排出量規制や排出量取引市場がまだ全く導入されていないのである。
   その原因は、某自動車会社のトップが会長の時に抵抗を示し、経団連が導入に反対し続けているからだと言う。
   産業界が、温室効果ガス排出の上限を定めるのを嫌い、削減目標を決めるのに強く反対して、
   企業の成長に影響する削減目標よりも、省エネを重視するエネルギー効率などの指標を産業セクターごとに導入すべきであると、企業の自主的な取り組みに任せていると言えば体が良いが、このことが世界の孤児の孤児たる由縁であるらしい。
   規制を強くすると、公害規制の緩い発展途上国に工場が逃げ出して空洞化するからダメだと言ったらしいが、日本財界自ら、途上国に公害を垂れ流せと言ったとしか思えず悲しい話である。

   ついでながら、忘れてはならないのは、日本の食料自給率が40%を切って大半を輸入に頼っていることだが、このことは、食料生産のためには厖大な水が必要であることから考えても、日本が世界の国から、水資源の凄まじい量を収奪しているのみならず、他国の環境汚染をドライブする大きな要因になっていることを肝に銘じておくべきである。

   政府自らが率先して温室効果ガス排出量の長期的な削減目標を掲げると同時に、欧米で活発化し始めているキャップ&トレード型の温室効果ガスの排出量取引市場を一日も早く開設することである。
   国や業界や企業ごとに排出量を割り当てて(キャップ)、削減で浮いた排出量の一部を売買(トレード)する方式だが、EUでは、2005年に、EU ETS(EU Emission Trading Scheme)がスタートして実際に機能しており、アメリカや大洋州にも拡大している。
   
   欧州政策研究所のエーゲンホッファ氏は、このEU ETSのキャップ&トレードの実際のスキームの運営や試行錯誤について問題点を浮き彫りにしながら詳細に説明していたが、日本が導入する時には、素晴らしいモデルが出来上がっているわけであるから、世界の趨勢に取り残されない為にも、早急に取り組むべきであろう。

   政策目標として2050年までに温室効果ガスの現在の排出量の80%削減を達成するようになっているが、「低炭素社会化」への国民挙げての取り組みが、日本のような国ではボランタリーベースではなく、ヨーロッパのように法制化しないと実現しないのかも知れない。
   省エネや公害対策等環境ビジネスにおいては、日本の技術が最先端を行くことは世界の認める所であり、このイノベーション指向を更に進めて、経済成長と環境保護の両立と言う二兎を追う成長戦略の推進が、最も日本に適したものづくり企業の使命であろう。
   

   
   
   
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低炭素化社会を目指すドイツのエコロジー近代化政策

2007年10月18日 | 地球温暖化・環境問題
   オホーツク海の紋別に、40キロのマグロが陸揚げされてセリにかけられた。
   暖海のプランクトンが増えて、マンボウやカツオや鯛など他の南の海の魚も陸揚げされており、冷たい海の魚が駆逐されそうだが、それもこれも、総て地球温暖化の所為だと言う。
   地球変動に対する政府間パネル(IPCC)とアル・ゴア元副大統領がノーベル平和賞を受けることになったが、正に、宇宙船地球号の危機がそこまで差し迫っていることを世界中に示した快挙である。

   日経ホールで、地球環境戦略研究機関などの主催で、「低炭素社会を目指した産業構造変革への挑戦」をテーマに国際シンポジウムが開かれた。
   低炭素化を目指した産業構造の変革に向けての試みについて、欧米日の関係機関が最近の動向と問題などについて報告し討論されたのであるが、やはり、国や地域に応じて同じ目標に向かっていても、温度差や哲学などに差があって興味深かった。

   先のハイリゲンダムG8サミットにおいて、日本主導で合意された「脱温暖化2050プロジェクト」では、2050年までに温暖化ガス排出量を1990年レベルを50%削減すると言う長期目標を掲げているのだが、私自身は、それまで、人類の歴史が持つのかどうか疑問に感じている。
   勿論人類が滅びると言う極端なことではなく、例えば、カタリーナ級の台風が、年に2~30襲ってきたり、海水面の上昇で多くの臨海大都市が水没し、逆に地球の半分が砂漠化するなど、天変地異が激しくて人類が正常な文明生活を継続出来なくなっているであろうと言う心配である。

   先のシンポジウムでは、世界経済フォーラムやEUなどヨーロッパの取り組みが報告されたが、興味深かったのは、ヘルムート・ヴァイトナー氏の語ったドイツの「エコロジー近代化 Ecological Modernization」と言う概念とその取り組み方であった。
   経済的な利益や利便性、環境問題の解決、国民の福祉の向上などを目指して近代化を図ろうと言う政策だが、2020年目標では、温暖化効果ガスを30~40%削減、エネルギー効率3%/年アップ、20%の資源再利用、コ・ジェネ25%など高度なターゲットを設定している。
   欧米で一般的な、持続可能な社会(Sustainable Society)と言ったグローバルベースの視点での環境対応の政策ではなく、あくまで、環境改善など国内の近代化に的を絞ったプラグマチックな政策だと言う。
   アメリカやBRIC’sなど世界の経済大国が環境問題に熱心でなく、ドイツ国内の止むに止まれぬ危機意識の発露であって、エコロジカル イノベーションを追求するのだと言うのだが、公害で環境が破壊されていた東ドイツでの自然環境の回復やグリーン党の活躍、ドイツ人の現実指向などが影響しているのだろう。

   日経の清水正巳論説委員が、アダム・スミスの神の手の導きに任せた市場原理での環境問題の解決について提示したのに対して、ヨーロッパの論者達が、ヨーロッパは、参加型民主主義が基本であって、労働組合の積極的参加など様々な関係者・機関等への配慮が必要だとパブリックの介入による秩序維持を説いていたのが面白かった。
   低炭素化社会の実現の為には、ヨーロッパだけいくら頑張ってもダメで、世界中の国々がこぞってグローバルベースで、地球環境の保護に当たらなければダメだと何度も強調していたのも印象的であった。

   私は、ブッシュになって極端に幼稚化してしまったアメリカに対して、イラク戦争での初期の独仏の強烈なアメリカ非難など以降の行動も含めて、今度の環境問題対応にしても、ヨーロッパの方がやはり文化文明の守護者であって、はるかに大人の対応をしていると思っている。
   私自身、アメリカで大学院教育を受けたので一宿一飯の恩義も感じており、アメリカの良さも痛いほど分かっているつもりだが、何でもアメリカ志向と言う日本の風潮には疑問を感じており、日本の見習うべきは、むしろ、ヨーロッパではないかと常々思っている。
   
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風景保護か,家を建てる権利か

2007年09月20日 | 地球温暖化・環境問題
   ニューヨーク・タイムズの電子版を開いたら、ケープ・コッド湾の南ツルノの荒涼とした海岸風景(写真)が出ていて、「A Town Tries to Protect an Artistic Inspiration」のタイトルの記事で、この風景が変えられようとしていて、住民たちの風景保護の戦いが始まっていると報じていた。
   ケープ・コッドは、アメリカのニューイングランドの海岸で、この沖にイギリスのプリマス港を出港した初めてのアメリカ移民を乗せたメイフラワー号が漂着した所である。
   問題は、この海岸に、アメリカの有名な風景画家エドワード・ホッパーが1930年から1967年まで住んでいた旧家があって、沢山の風景画を残しているのだが、その敷地の隣地を購入した地主が、ガレージとプール付きの大きな家を建てようと建築許可申請を出したことから起こった。

   荒涼としたこの海岸線は、僅かな漁民と芸術家などの関心をひく程度なのだが、近所の住民300人ほどが、そんな家を建てたらホッパーの白亜の家からの芸術的な風景が台無しになり雰囲気をぶち壊す、第一、芸術的歴史的価値を破壊する暴挙だと反対しているのだが、地主の方は、法を犯しているわけではないからどんな家を建てようと勝手だ、今までほって置いてなんだと応酬しているのである。
   土地利用委員会で検討されているが、地元の役所は、土地を買い取って保護する意思はないといっている。
   
   このような問題は、世界各地のあっちこっちで起こっていて珍しいことではないが、大体、人間は保守的なので、余程自分にプラスにならない限り、変化には、難癖をつけて反対する傾向がある。
   しかし、同じ BRIC'sでも、中国は共産主義ゆえ強権を発動できるので開発し易いけれど、インドは、曲がりなりにも民主主義なので開発許可が下り難い、これが、インフラ整備のスピードの差だと言うのが面白いが、経済社会での利便性と自然環境のアメニティの保護とは絶えずバッティングする。

   開発許可と建築許可とは違うし、国によって、その扱いは全く違う。
   私の経験でも、オランダの場合には、住宅の窓枠は白で囲うとか細かい規則があって、庭の木一本切るのにも許可が要った。
   その点、イギリスの場合には、個々の建物で個別に建築許可が下りるので、異質な意匠のビルが建つ事があり、街の景観が変わってくる事もある。住宅の場合についてだが、隣家の改装に異議があるか、役所から、私に照会があったが、住民の意向を尊重するようである。
   シティで、英国トップクラスのホテルと組んでホテル建設を計画して開発計画を提出した時、シティが公聴会を開いたので、住民が来て、「連れ込みホテルを造られると治安が悪くなる」とか、あることないことナンセンスな議論が展開されることもあった。

   苦労したのは、サッチャーのビッグバンでロンドンのシティが大変なブームであった頃、ファイナンシャル・タイムズの本社ビル(ブラッケン・ハウス)を買収して、日本の銀行のために最新鋭のディーリング・ルームを備えた金融センターとも言うべきロンドン本部を開発したプロジェクトであった。
   ナチス・ドイツの爆撃でセント・ポール寺院だけ残して廃墟のようになった隣接地に建てられたビルだが、煤けて黒ずんではいるがファイナンシャル・タイムズの新聞紙と同じピンク色のホリントン・ストーンで外装されたシックな建物であった。
   しかし、地下には巨大な輪転機が据えられた工場があり、この時(1988年)、まだ、床には活字が転がっていた。上の6階分は本社だが、歪な建物で内部に22階相当のアップダウンがあって、正に現代のラビリンスのような部屋が入り組んでいて、その中を記者たちが走り回っていた。

   問題は、このビルを金融センタービルに改装するための建築許可の取得である。
   歴史的建造物として保存運動が展開されていて、運悪く買収後に、重要文化財指定となって重度の保存建物になってしまったので、益々、許可取得が難しくなった。
   幸いシティが開発に好意的であったのだが、その頃、チャールズ皇太子が、シティの乱開発は「英国の陵辱(rape of Britain)」だとして、BBC番組や本、講演等で、個々の建物を名指しで激しく非難するなどシティ開発反対の大論陣を張っていた頃であり、大変な状態であった。
   その時、名指しされて頓挫し、その後三菱地所が買収して開発に当たったパターノスタースクェアーの再開発が、20年以上も経てやっと数年前に完了したのは、この後遺症であろう。

   結論は、当時のブラッケン・ハウスより素晴らしいビルを再開発する以外に道はないと腹を括って、英国のトップ・アーキテクトを総てインタヴューしてまわってプランを固め、シティや政府関係当局、環境保護団体や学者、ジャーナリスト等の説得など大変な日々を過ごした。
   自分自身が代表者として仕掛けたプロジェクトだったので、最初から最後まで、殆ど前例のない異国での戦いであったが、完成した時には感激であったし、王立建築家協会など賞を総なめにして、その銘板がエントランスの壁面に並んでいる。
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地球温暖化を無視し続けるアメリカ

2007年09月01日 | 地球温暖化・環境問題
   「温暖化はでたらめだ」と、アメリカの石油や製鉄、自動車、電力と言った分野の企業や業界団体が、地球機構連合や環境に関する情報協議会(CEI)を結成して、「温暖化を事実ではなく仮設と位置づける」ことや温暖化に対する研究への疑念を広めることに邁進してきた。
   石油業界と太いパイプを持つブッシュ大統領が、石油・石炭業界の元ロビイストを気候関係の政策に携る重要ポストに据えることで、科学者が作成したデータを修正させたり公表を阻止してきており、ブッシュ政権下では、温暖化対策を強化しようと言う議員の試みは悉く頓挫してしまった。
   業界では、エクソンモービルが、シンクタンクを使って学者を買収し、温暖化に反論している。J.D.ロックフェラー四世上院議員等も、「妖しげなデータを広めてきたCEI」などに1900万ドル資金提供していると非難した。エクソンモービルも、昨今の世論の動きや逆風に逆らえず、心を入れ替えて献金を減らし、次の大統領に冷遇されるのを恐れて防戦に努めている。

   サブプライム世界経済危機特集の記事も色あせるくらい強烈な調子で、謂わばブッシュ産業複合体Bush-Industrial Complex(?)の地球環境保護運動ぶち壊し戦争を糾弾しているのが、ニューズウイークの9月5日号である。
   アル・ゴアが、「不都合な真実」で、ブッシュが大統領選で国民に約束しておきながら悉く環境保護関係の公約を破棄し、京都議定書をも反故にしてしまったことを暴露しているが、私自身は、ブッシュのイラク戦争に関する誤り(これも許せない)よりも、この環境破壊活動に加担したブッシュの反人道主義的かつ反文明政策の方がはるかに罪が重いと思っている。

   ニューズウイークの報道では、あのカタリーナ級の大ハリケーンが何本もアメリカを直撃し、アメリカ人にグローバルベースのエコシステムの破壊が、如何に人類の生命を危機に陥れているかを、実際の気候変動がダメッジを与えて教えない限り、アメリカ人の態度は変わらないと言う。
   先日もこのブログで書いたが、中国やインドなどの新興開発国の人々がアメリカ人並の生活水準を維持し始めれば、瞬時に、エコシステムは破壊されて地球は崩壊してしまうのだが、その時期は急速に近付いてきている。
   解決方法は、ただ一つ。エコシステム維持のための最大炭酸ガス排出量を算出して世界人口で割り、その数字を国の人口に掛け算して各国の排出量限度額を決めてそれを守らせることである。
   現実には、先進国の排出量をこの段階にまで減らせる筈がないが、それを基準に国際協議を行うことで、文明国、先進国の既得権などあってはならず、もし、これまでその基準値よりはるかにオーバーして炭酸ガスを排出していたのなら、ペナルティとして一挙にその国の人々の生活水準を下げることである。
   そうでなければ、中国やインドの人々の二酸化炭素排出量を規制することなど出来ない。不可能であれば、人類破滅への道を歩んで行く以外に選択肢はない。

   核拡散の問題もそうだが、核保有国が、新しい国が核を保有しないように核拡散防止に躍起になっているが、現状ではこれはこれで必須の条件ではあるが、本来、核保有国だけが核を保有する権利があるなどと言うのはおかしい。
   私は、フィラデルフィアで院生であった頃、アメリカの友人達に、日本に核爆弾を二発も投下した以上、アメリカ人には、世界規模での核管理能力なりその資格は一切ない、あると考えるなら、それはアメリカ人の傲慢であると言っていた。アメリカは、世界の警察であり国際秩序を守る義務と責任があるのだと反論して来たが、そのような強者の論理は許せなかった。

   この記事の隣に、ロバート・サミュエルソンの経済コラム「メディアが陥る「悪者捜し」の愚」が掲載されていて、ニューズウイークの論調に対して「義憤と善悪二元論への単純化では地球温暖化は解決しないと反論している。
   サミュエルソンの考えは、業界やブッシュ寄りで、押し寄せてくる現実の多くは食い止める技術がないのでアメリカが対処できない問題であり、異を唱えるのは自由社会の命の筈で、ことの重大さや解決に疑問をさしはさむ人物をバカか変人、業界の手先として扱うのはおかしいと主張する。

   サミュエルソンは、解決策として、二酸化炭素を地中に埋める技術の開発、ハイブリッドカーの電池性能向上、ガソリン税の引き上げ、自動車の燃費規制、天然ガスの採掘増などを提言しているが、抜本的な改革は何も言えずに、アメリカがいくら削減しても、中国と他の国に相殺されてしまうと言う。悪いのは、中国やインドが豊かになって自動車が増えるからだと言わんばかりである。
   地球温暖化の解決には、技術開発で、倫理問題と捉えるのはメディアの間違いだと言う。
   地球環境問題に対しての、危機意識の欠如と言うか、西欧や日本の基準から言うと可なりの認識不足と言うか、そんな保守反動気味の学者であるサミュエルソンが、永い間ニューズウイークの経済コラムを書き続けていると言うこと自体が驚きだが、案外これが一般的なアメリカ人の考え方なのかも知れない。
   何れにしろ、これもアメリカの胃袋の大きさを示しているのだと思えば面白いが、私にはサミュエルソンの論調は許せない。
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トウモロコシ価格の高騰・バイオ燃料は悪くない?

2007年08月30日 | 地球温暖化・環境問題
   ニューズウイークに「バイオ燃料は悪くない」。トウモロコシ高騰の原因はエタノールではなく、犯人はドル安や悪天候、原油高、そして中国の成長だ、と言う記事が載っていた。
   この問題については、今や、穀物はガソリンスタンドとスーパー・マーケットの争奪戦となっていると早くからレスター・ブラウンが警告を発していて、このブログでも何度か触れているが、今や、トウモロコシの国際価格が、1ブッシェル4ドル台で05年の2倍もしていて、貧しい所帯の台所を直撃していると言う。
   確かに、トウモロコシやブラジルのサトウキビなどは、明らかにエタノールの原材料として転用されているので、価格高騰の影響がないわけではないが、
   食品価格の仕組みはもっと複雑で、地球規模での食料需給、石油価格、天候、為替相場などに影響されていると言うのである。
   いずれにしても、トウモロコシ始め農産物については需給関係が逼迫してきたのが、価格高騰の原因であることには間違いはない。

   為替については、サブプライム問題が発生するまでは円安であったので、日本人は気付かなかったが、他の通貨についてはドル安が進行していたので、ドル建て決済が主であるトウモロコシ価格の高騰の3分の1は単なる為替の問題だと言う。
   面白いのは、石油の影響である。エタノール戦争とは別に、石油は、大抵の食品包装材は石油を原料としており、原油価格が上がれば総ての工程でコストがかさんで食品価格をアップさせる。

   悪天候による不作も深刻な問題である。昨年のオーストラリアの旱魃、中国での大洪水、欧州北部の穀物成長期の少雨など自然災害による供給不足も食品価格を引き上げた。
   気候変動に耐えられる強い作物を開発するグリーン革命の低迷も深刻なようだが、遺伝子組み換え技術の普及に対するアレルギー反応にも問題があるのかも知れない。
   世界人口の急速な増加に対しては、新しい形でのマルサス人口論の陰が見え隠れしている。

   ニューズウイークが一番の原因は、発展途上国の富の増大にあるとする。
   BOAの調査では、新興市場の上位24カ国のGDPは、02年の倍に増え、一人当たりのGDPが年率14%で伸びている。
   早く言えば、中国やインドが急に豊かになったので、牛肉、豚肉や鶏肉などの消費が異常に増えた、牛肉1キロにつき飼料7キロが必要になるので、同時に穀物の需要を引き上げたと言うことである。

   振興経済国の所得増が、食料インフレの原因の3分の1を担っていると専門家が言っている。
   公害と地球環境の問題の時も、BRIC’sなど新興国の経済成長が問題とされるのだが、この理論は、先進国のこれまでの飽食と無駄な資源の浪費を棚に上げて発展途上国の成長を云々するのは勝手な論理でおかしい。
   根本的な問題は、中国やインドが、アメリカ流の消費生活をおくり同等の生活水準を謳歌すれば地球は間違いなしに破綻する、しかし、先進国にはそれを抑止し非難する権利も理由も全くないと言うことであり、さすれば、どうするかと言うことである。

   日本人が、中国を非難する時、公害垂れ流しや知財無視の物まね剽窃天国を声高に揶揄するが、戦後成長期の日本の公害の酷さは今の中国の比ではなかったし、物まね知財無視は日常茶飯事であって、日本人が生まれながらの優等生であった筈はない。
   地球のエコシステムそのものがピークに達して極めて深刻な状態に陥ったので、農産物価格の高騰を抑えることや、公害対策など地球規模での対応が必要であることは間違いないし、人類がそのツケを払わなければならないことも事実である。
   しかし、振興経済国の消費や不経済性を糾弾して押さえ込むことだけではなく、先進国自身が、過去の償いを含めて、今のような生ぬるい制限や抑止ではなくて、もっともっと速度を上げて農産物価格の高騰や地球環境の保護に努力すべきであろう。
   そうでなければ、振興国家の協力等取り付けることは不可能であろう。 
   

   
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「課題先進国」日本の役割・・・小宮山宏東大総長

2007年06月12日 | 地球温暖化・環境問題
   日本は、現在、次のような多くの深刻な課題に直面している。
   ・ヒートアイランド現象
   ・エネルギー・資源少
   ・廃棄物増加
   ・環境汚染
   ・少子高齢化社会
   これらの問題は、今までに世界の誰もが経験したこともなく解決したこともないフロントランナーとしての先進国日本に与えられた課題である。
   地球や人類の将来がかかっているこのような深刻な問題は、日本が最も解決出来る能力を備えた国なので、真正面から挑戦して課題解決先進国を目指そう。

   小宮山宏東大総長は、本日有楽町のよみうりホールで開かれたECO JAPANと日経が主催した「環境・エネルギー課題解決のための賢人会議」で、持論である「課題先進国日本の役割」について、熱弁を振るった。
   
   20世紀は膨張の世紀で、物質生産の膨張によって、環境・資源問題を引き起こし、知の膨張によって全体像が見えなくなってしまった。
   エネルギーと環境のトータルビジョンを描く為に、時間、地域、対象、技術等細分化された1億枚のピースを繋ぎ合わせて、現実把握、理論、推論、あらゆる手段を動員して知の統合をはかり重層構造の全体像をつかまなければならないが、何が正しいのかシャーロック・ホームズの知が欲しいと仰る。

   資源が乏しく人口密度の高い、しかし、豊かな先進国日本は、これまでに水俣病や多くの公害問題に挑戦して解決してきた。
   アメリカは、資源多消費の20世紀型国家で多くを期待できないが、日本は公害対策のみならずエネルギー効率最高の経済社会を実現してきた国であり、この実績を活かし、資源節約型社会と環境調和型社会の形成に邁進し21世紀の先進国モデルとなり得る、これこそが、正にこれからの日本の世界史的役割である。
   同時に、日本の国際競争力を強化し、世界の国々から敬意を集める源泉でもある。

   さらに、小宮山先生は、知を構造化する場が不可欠であり、そのためにも大学の役割は大きいと付け加えた。
   ハーバードは潰れても良いが、東大を潰してはならない、と笑わせていたが、かって、優秀な人材を育んできた日比谷高校などの公立エリート校を葬り去った文部行政があった以上、笑ってもいられないかも知れない。
   
   小宮山総長は、地球のサステイナビリティについても語っていたが、sustainableと言うのは維持可能と言うことであって、少なくとも現状維持で、良くなるという見込みが希薄な後ろ向きの概念である。
   もう、悲しいかな、地球や環境を語る時には、この言葉しか使えなくなってしまったのである。

   ところで、このシンポジウムは、小宮山総長の講演の後、
   山口光恒東大教授の講演「ポスト京都―日本の戦略」
   山根一眞氏の司会によるパネルディスカッション「地球環境問題克服に向けた日本の対応と課題」が行われた。
   パネルの最後に、来年の阿寒湖でのサミットには、会場設営を徹底的にエコシステムで行うべきであると言う提言があったが、確かに日本が21世紀ビジョンを世界に発信する千載一遇のチャンスであり、日本に何が出来るか日本の気迫と科学技術の粋を世界に叩きつける好機であることには間違いない。
   東京オリンピックまで待てないのである。
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売上高1%を地球環境保護に・・・パタゴニア

2007年05月07日 | 地球温暖化・環境問題
   自社製のシャツを総てオーガニック・コットンで製造し、初めてペットボトルからフリースを作った会社「パタゴニア」の創業者社長イヴォンヌ・シュイナード氏が、「社員をサーフィンに行かせよう let my people go surfing」と言う経営学を書いた。
   仕事が多忙を極めていても、サーフィン日和で行きたくなれば、何時でも自分勝手にサーフィンに行けと言う会社があると言うのは愉快だが、ビックリするのは、この社長は、危機に瀕している宇宙船地球号を死守する為に、1% for the Planet(地球の為の1%)運動を立ち上げて強力に推進していることである。

   「創業以来、企業の責任とは何かと言う課題と格闘して来た。誰に対して責任があるのか、株主でも、顧客でも、社員でもない、ビジネスは、地球資源に対して責任があると言う結論に達した。
   自然保護論者のD.ブラウアーは、「死んだ地球からはビジネスは生まれない」と言った。健康な地球がなければ、株主も、顧客も、社員も存在しない。」
   と言う。

   自然環境が崩壊の危機に瀕している。ほんの数年前まで地球の温暖化について誰も耳を貸さなかったが、今では、やっと人々は動き始めた。しかし、もう遅い、手遅れだ。
   だからこそ、温暖化の加速度を少しでも緩めるための努力を、今すぐしなければならない。
   私たちのビジネスで最も重要な使命は、売上高よりも、利益よりも、私たちの地球を守ることである。

   「パタゴニア」は、従来の常識に挑み、信頼出来るビジネスの形を示す為に存在する。現在流布している資本主義のモデル、果てしない成長を必要とし、自然破壊の責めを負ってしかるべきモデルは排除しなければならない。
   従来の規範に従わなくてもビジネスは立ち行くばかりか、一層機能する。パタゴニアは、正しい行いが利益を生む優良ビジネスにつながることを実業界に示す手段と決意を持っている。
   この決意とその正しさを実証する為に15年の歳月を要した。
   と語っている。

   クライミングで放浪を続けながら鍛冶屋として事業を興し、烈々たる使命感と情熱を傾けて環境と自然保護に身を挺して来たシュイナードの胸が透くような自伝的経営学書に、これほど感銘を受けたことも珍しい。

   この「1% for the Planet」は、自然環境の保護及び回復を精力的に推進する人々に対して、少なくとも1%を寄付すると言う企業の同盟であり、より多くの資金を草の根環境保護グループの活動成果を増大させることである。
   売上高に対する税引き後の純利益が5%の会社なら、利益の20%を拠出することとなり、その額の大きさが分かろうと言うもので、日本の大企業でもそれに従えば多くの企業が赤字に転落する可能性がある。

   非常に興味深いのは、税金の支払いについては納税者は一切自分で使途について条件は出せないが、この1% for the Planetに参加して活動家への寄付と言う形で自分に課税すれば、環境保護に貢献すると言う発言権を得られると言う発想である。
   環境保護の体裁だけは装っているブッシュ政権に対する巧妙な当てつけであり抵抗であるが、アメリカの反骨精神の発露でもあり、面白いところでもある。
   2001年に、このグループを結成し、1~2年で3倍の500社に達し、日本企業も入っていると言う。
   日本も、人類にとって高尚だと思えることに対して、税額控除さえ認めるような税制度になれば、多少とも社会が良くなるかも知れないのである。

   ところで、フランスも保守的なサルコジ大統領の誕生で、マーケット至上主義のアメリカ型の政治経済体制に傾斜することになった。
   経済の成長戦略を取れば取るほど、地球を酷使することになる。
   結局、人類は、煮え蛙の運命を背負って生きて行かなければならないと言うことであろうか。
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