熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

ソフトローの世界・・・東大21世紀COEプログラム

2007年03月05日 | 政治・経済・社会
   「法」と言えば、裁判所で履行が担保されている国の法律(ハードロー)のことをさすのだと思うのだが、しかし、良く考えてみると、この世の中には、そのような法律ばかりではなく、日常生活において行動の基準となっている「規範」は沢山ある。
   このように国の法律ではなく、最終的に裁判所による強制的実行は保証されてはいないが、現実の経済社会において、国や企業が何らかの形で拘束感を持ちながら従っている諸規範があるが、これをソフトローと称して、東大の21世紀COEプログラム「国家と市場の相互関係におけるソフトロー」が研究を続けている。
   今回、神田秀樹教授の司会で「デファクト・スタンダードと規範形成」と言うタイトルで六本木ヒルズのオーディトリアムで公開シンポジウムが開かれた。

   第一セッションは、三苫裕助教授の「ビジネスロー分野におけるデファクト・スタンダードの形成とハードローとの相互作用」と言う面白い講演で、不動産流動化と敵対的買収防衛策を例に、まず、デファクト・スタンダードとは何かから話が始まった。

   デファクト・スタンダードと言えば、電子機器やソフトウエアの規格などでポピュラーだが、その分野での事実上の標準・規範・規格を形成している。
   このデファクト・スタンダードは、ビジネス・ローの世界にも存在しているが、
   法令ではなく、有効性・適法性についての保証もないし、逸脱したからと言って問題を惹起するわけでもなく、内容を性格に記述出来ないし、複数存在するし、固定的ではなく経済情勢やハードローなどのよって変化する。
   ハードローのない分野や業界団体がある分野や外国に同種取引がある分野に形成され、意図的に上からガイドラインやモデル等の形で形成されたり関係当事者間での先例踏襲や模倣、自然淘汰などのかたちで形成される。

   不動産流動化取引については、法の換骨奪胎を図り有利なスキームを模索しながら、特定の法律に根拠があるわけではないが、有限会社/合同会社を核とするYK(GK)-TKスキームが成立した過程を説明し、その後の金融商品取引法などのハードローの成立で間口が狭くなって来ており上手く逃げ切れるかどうかと言った話を展開した。

   敵対的買収防衛策については、経済産業省の企業価値研究会の議論やアメリカのポイズンピル(ライツプラン)に沿って、信託型ライツプランと事前警告型防衛策が同時並行的に起こったが、結局、機能や法的安定性に大差なく、導入コストが安く、仕組みが簡単で改変の自由度が高く、模倣が容易なので、事前警告型防衛策がデファクト・スタンダードになった経緯を説明した。 
   面白かったのは、先行者が、大変な苦労をして編み出した防衛策を、後続者は殆どコピーするだけで良く、このフリーライドを認めたことだが、これは、デファクト・スタンダードになれば、法的安定性が高まり、アドバイザーもその後の仕事にありつけるからだと言うことであったらしい。
   皆で渡ると怖くない、デファクト・スタンダードになれば、法も無視できなくなると言うことであろうか。

   ソフトローを後追いしてハードローが形成される場合が多いが、その逆も有り、ハードローとソフトローのお互いに影響を与え合う双方向性や相互補完性についても論じていた。

   第二セッションは、小賀坂敦公認会計士の「デファクト・スタンダードとしての会計基準の形成」。
   企業会計、資本市場における会計基準やその役割について概説し、わが国の会計基準の形成過程を詳細に論じた。
   神田教授のコメントだが、会計関連法規は、法の形成は民間で、エンフォースメントは政府と言う特異な法の分野だと言うことである。

   第三セッションは、宮崎裕子客員教授の『国際課税におけるデファクト・スタンダード」。
   日本法人が形成した匿名組合に、本社がアメリカにあるオランダ法人が匿名組合員として参加して利益を得た場合、その利益配分についての国際課税の問題を、二重課税の回避・排除とからませながらデファクト・スタンダードの複雑性を論じた。
   匿名組合は英米にもオランダにもない制度だが、日本においても不明確で問題の多い法システムでもある。外国の組合員には税がかからなかったので英国で国際的に美味しい取引だと報道されて人気が出始めて、その後日本でも調査を強めて税法を変えたりしたのでトラブルが起こり、法体系がしっかりしていないと混乱を来たすと仰る。
   
   このシンポジウムも今回は8回目だとかで、非常に漠然としたソフトローの世界を、色々な切り口で研究しており、このような学際的なアプローチで法体系を追求することによって、法のあり方を考えるのは非常に貴重だと思って、専門分野ではない難しい話をよく分からないままに聞いていた。
   COEプログラムでは、東大と早稲田大学の公開セミナーやシンポジウムで勉強させて貰っているが、非常に素晴らしいシステムだと思っている。
   
   
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