熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

オルセー美術館展・・・東京都美術館

2007年03月23日 | 展覧会・展示会
   愈々終わりに近づいてきたので、東京都美術館の「オルセー美術館展~19世紀芸術家たちの楽園」を見に行った。
   印象派の絵画が多い所為もあって会場は大変な熱気で、それに、空間が豊かで自然光が差し込む明るい実際のオルセー美術館の雰囲気とは違った環境で、出開帳の芸術作品にとってはどのような思いであろうか。
   
   オルセー美術館は、1986年開館だから、実際の展示品を最初に観たのは前の印象派美術館で、その後、開館直後から何度か出かけているが、広い会場に膨大な絵画などの芸術品が展示されているので、一日で見切れるわけではなく、ルーブル美術館もそうだが、旅行での見物だと何か目的を持って目標を決めていかないとフラストレーションを起こしてしまう。
   ルーブルに入ると、廊下の向こうに翼を広げて立つ階段上のサモトラケのニケが圧倒的な第一印象を与えるが、このオルセーは、138メートルもある美しいアーチ状の天井の高い元駅舎の広いホールが広がっていて、天球儀を奉げ持つ乙女達の群像彫刻などが置かれた彫刻群が出迎えてくれ、その開放的で明るい空間が目を見張らせる。
   私は、一番最初に、左手のひっそりとした小部屋のミレーの「晩鐘」と「落穂拾い」を目指したのだが、もう、これも20年ほども前になる。
   二月革命の1848年から第一次世界大戦勃発の1914年までの絵画などが、このオルセーに収容されているので、印象派の絵画の名作の大半はここにあり、今回も展示品の目玉は印象派の絵画であった。

   今回、私は、週日の閉館間際の一時間半を鑑賞に当てたが、それでも大変な人出であった。
   しかし、最初の一時間くらいは列に並んで牛歩の歩みだが、その後は客が出口の売店に殺到するので、十分に鑑賞出来たし、美術館や博物館の鑑賞は閉館間際に限ると思っている。
   東京都美術館は会場内が暗くて、絵画に上方から電気の照明が照らしているので、油絵などは反射して見辛いのが難点で、実際のオルセーの明るくて解放的な雰囲気で絵の具の香りまで感じられるのとは大きな違いである。

   作品は、一通り来ていて非常に楽しめるが、やはり、看板作品は来ていなかったし、アラカルト的で不満が残る。
   例えば、マネのルーアン大聖堂でも一点だけしかなかったので、時刻や光の加減で微妙に変化する瞬間の美しさを複数の連作で見せてくれるオルセーとは桁違いだし、それに、ルノアールにしろゴッホにしろ他の印象派の画家にしろ、複数の大作が並んで展示されていると一挙に画家に対する理解や思い入れが増幅されるのだが、それが出来ないもどかしさがある。
   しかし、私の場合、記憶にあった何点かの作品を除いて、あまりにも多すぎて現地では見過ごしていた絵画などを、今回は、一点づつ丹念に鑑賞出来たので、その意味では幸いであった。

   ところで、この口絵の黒ずくめの衣装に身を固めた非常に気品のある婦人を描いたマネの「すみれのブーケをつけたベルト・モリゾ」は、恋人とも言われる弟の妻であるが、強く印象に残っていて、記憶している何点かの一つであるが、やはり、マネの大作で非難を巻き起こした非常に人間的でリアルなヌードを描いた「オランピア」や「草上の昼食」などが来ていないのが寂しい。
   しかし、マネを中心とした印象派の画家達を描いた群像が2点あり、その1点はラトゥールの「バティニョールのアトリエ」と、もう1点はバジールの「バジールのアトリエ」で、、モネ、ルノアール、ゾラなどが描かれていてその当時の雰囲気などが分かって面白い。
   今回は、前述のモリゾやその娘を描いた印象派画家の絵画などが数点あってマネの背景が少し滲み出していて興味深い。

   私が、もう一つ注目して見たのは、象徴派のギュスターヴ・モローの「ガラテア」の美しい絵である。
   ヨーロッパに移り住んでから、新しく興味を持った画家が二人いて、一人はオランダのフェルメールだが、もう一人は、このモローであった。
   最初に見たのは、フランスの何処かで、「サロメ」を描いた小品だったが、細密画のように丁寧にルネッサンスの頃の画家のように描かれた一寸怪奇だが素晴らしい絵で、その色彩の何とも言えない鮮やかな美しさに魅了されたのである。
   このガラテアは、キプロス王ピグマリオンが象牙で作った人形に命を吹き込んだと言う絶世の美女で、荒々しい洞窟の中にモローが描いた裸身のキプロス王妃の輝きは郡を抜いている。
   神話や聖書からインスピレーションを得て描いたモローの幻想的な世界は、一寸狂おしいほどの怪奇性を帯びているが、だから、あれだけの美しい色彩を生み出せるのであろう。
   ついでながら、もう一人、色彩が美しいルドンの絵だが、今回は、残念ながら、小品と無色の板絵だけだったので、その美しさを楽しむことが出来なかった。

   世界の美術館を回っていて、当然、ダヴィンチやラファエルロ、レンブラントの絵画などを目当てにしているのだが、ついでに、フェルメールなどは殆どないのだが、モローやルドンの絵を探す楽しみも持っている。
   上野の森の東京都美術館の1時間半の楽しい散策であった。
   
   

   

   
コメント (1)
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