熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

JST北澤宏一理事長:「第四の価値」を目指して

2010年12月07日 | イノベーションと経営
   JST戦略的創造研究推進事業の特別シンポジウムが開かれ、iPS細胞の京大山中伸弥教授や超伝導の東工大細野秀雄教授が講演を行うなど、日本の科学技術の最高峰を集めて、「世界を魅せる日本の課題解決型基礎研究」について語られた。
   このシンポジウムの冒頭の基調講演を、標記演題で、JSTの北澤理事長が行い、当日配布された著書「科学技術は日本を救うのか」を読んで、非常に重要な問題提起をされていたので、私なりに、感じるところを論じてみたいと思う。

   北澤さんは、高温超電導セラミック研究で国際的に有名な元東大教授で、科学技術振興機構の理事長であるから、私のように経済や経営を学んできた文系とは違った発想で語り書かれているので、非常に興味深いのだが、共感するところは多い。
   特に、冒頭から、日本経済の成長が止まったのは、20年間も技術革新がうまく回らなかった、有効に起こってこなかったからであると論破し、更に、物質主義の時代に分かれを告げるべきだ、GDPが伸びなくても良いと言う議論に対して、GDPの伸び率が2%を切ると、生産の合理化分をカバー出来なくなり、失業者が増えるので、絶対経済成長は必要である。輸出拡大は望めないので、内需を増やすために、イノベーションを誘発して「大きなビジョンの下に初めて実現できる夢」とも言うべき「第4の価値」を作り出す「第4次産業」を興すべきだと、説いている。

   ユニークなのは、第4次産業と言う発想で、これまでの第3次産業までは、その作り出す価値は大きなビジョンがなくても生産出来るような個人の欲求を満たすものであったが、これでは不十分であって、もっと、人類にとって大切な、地球、環境、社会正義、安全、美しさ、幸せと言った社会的・精神的に価値のあるものを経済的にペイするように生み出せるような第4次の産業を起こすべきだと言うのである。
   尤も、この第3次産業までは、経済学的に理論的根拠があってそれなりの位置づけがあり、北澤さんの主張する産業が、第4次と呼べるのかどうかは大いに疑問だが、しかし、言わんとしていることは良く分かる。

   イノベーションを促進して、日本を活性化すると言うのは、科学技術を振興するJSTの当然のミッションであるが、パルミサーノ・レポートの経済成長の85%はイノベーションによるとした見解を基に、北澤理事長は、プロセス・イノベーションとプロダクト・イノベーションの螺旋ループ展開を説きながら経済成長論を展開している。
   イノベーションを技術革新と言う誤った日本語(むしろ新機軸の方がベター)で話を進めているので多少誤解を招くのだが、何故、技術革新が回らないのかは、技術革新投資が不足している為であり、それは、企業が海外企業のM&Aや生産拠点の海外移転などに投資して国内で新規技術の開発努力が低調であること、国民の資産が貯蓄に向かって政府に貸し出されて財政赤字を生み出し、消費や株式投資に回らないからだとしている。
   もう一つ面白い指摘は、毎年、貿易黒字が10兆円と海外からの利子・配当などの所得黒字が10兆円で合計20兆円の超過所得が円高を引き起こしており、世界を買い始めているとんでもない国になっていて、このカネを国内に持ち込んで第4次産業を起こすべしと言うのである。

   多少、コメントしたい気持ちはあるが、国家も企業もその成長は、悉く、イノベーションにあると主張し続けている私には、仰ることに殆ど異存はない。
   消費の低迷による巨大な需給ギャップの存在が、日本の経済不況とバブルの原因だと言われているが、私は、グローバル経済の大潮流に乗り遅れて、新しい経済産業社会にキャッチアップ出来なかった成熟した日本の体質に問題があったと思っているが、いずれにしろ、イノベーションと言うか、クリエイティブな革新なり新機軸を打ち出せなかったことが、日本の悲劇を生んだのだと思っている。
   イノベーションについては、日本の場合、なかったのではなく、生まれ続けてはいたけれど、その殆どが既存技術の深追いと言うか持続的イノベーションであって、革命的かつクリエイティブな破壊的イノベーションを生み出せずに、グローバル経済に大きなインパクトを与えられなかったし、世界をリード出来なかったと言う方が正確であろうと思う。

   第4の価値を目指して、イノベーションを追及して、新産業を興して仕事と雇用を生み出して日本経済を再生させると言う提言は、非常に時宜を得ている。
   しかし、基礎科学の充実によって生まれ出た科学的なシーズを、如何に、テクノロジーと直結させて製品化してマーケットに乗せてイノベーションとして開花させて行くのかは、また、別問題で、死の海やダーウインの谷など大きな試練を乗り越えなければならない。
   日本は、目的や使命がはっきりした問題解決や改革を得意としているのであるから、政府の支援策も、エコ減税やエコ補助金と言った既存産業分野のサポートだけではダメで、同じグリーン革命志向政策でも、ヨーロッパに遅れじと、小宮山先生が説くような課題先進国としてのブレイクスルーを目指した根本的な問題解決への高度な目標設定と積極的な支援が必要であろう。
   グリーン革命を目指したオバマ政権も、経済の悪化と保守勢力の台頭で、COP16でも大きく後退してしまって益々宇宙船地球号を窮地に追い込むことになってしまっているが、今こそ、他国がどうだと言う前に、日本が、なりふり構わずに率先して、北澤理事長が説くように第4の価値を創造する第4次産業国家を目指すべきであろうと思う。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする