熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

クリエイティブ時代のトランプ経済策の効果は?

2017年05月27日 | 政治・経済・社会
   ロバート・ライシュが、「最後の資本主義」の冒頭で、米国など先進国の普通人が、経済的ストレスで悩んでいる原因は、「グローバル化と技術革新が多くの人々から競争力を奪ってしまったことが原因で、我々がやっていた仕事を、今や海外の低賃金労働者やコンピューター制御の機械が、もっと安価にこなしてしまうからだ。」と明言している。
   ICT革命によるコンピューターの効果を除けば、トランプが言っているように中国やメキシコにアメリカ人の仕事を奪われてしまったと言うのは、真実だと言うことになり、トランプの保護貿易主義的な内向きの経済政策が、分からないわけでもない。

   尤も、これが、一般的に説かれている現在の先進国の労働者の現状であり、異存はないと思うのだが、果たして、実際の問題は、こう単純に考えてよいのかと言うことである。

   これは、エドワード・ヒュームズの「移動の未来」を読んでいて、iPhoneのコスト分析で、アップルの収益が、58.8%だと言う記述に接して、これは、クリエイティブ時代のなせる業だと気づいたのである。
   加州アーバイン校の調査では、iPhoneのような最新の電子機器は、どこで作るにしても、全体の製造コストに占める人件費の割合は微々たるもので、中国の人件費はiPhoneの価格の僅か1.8%で、アメリカ国内を含む世界全体の人件費を合わせても5.3%で、材料費の21.9%と比べてもとるに足らない数字である。
   一切をアウトソーシングして製造して、クリエイティビティをフルに発揮して、企画デザインで無から有を生み出したアップルの様なファブレス先端企業が、現在、グローバルに展開している下請けなど末端の製造業を叩きに叩いて、異常に高い付加価値を叩きだして高利益を上げている。
   このビジネスモデルが、製造業を歪にスキューしているのではないかと言うことである。

   これは、ライシュも言っていることだが、第二次世界大戦後30年に及ぶ高度成長期には、経済は将来への希望を生み出すもので、年々国民の生活状況が向上して行き、豊かな中産階級が活力を得て好循環を生む幸せな時期であった。
   これは、日本にも言えることで、団塊の世代などは経験していることだと思うのだが、戦後復興効果はあったものの、日本経済はどんどん高度成長を続けて年々所得が上がって生活が向上し、1億総中流家庭と言われる幸せな時期が続いて、Japan as No.1の高見まで上り詰めた。
   ところが、今日、経済成長から見放されて、先の経済情勢は不透明で見通しが利かず、どんどん、経済格差が拡大して、貧富の差が激しくなって、富裕者は益々豊かになり、貧困率の悪化で貧困者は困窮の極に達している。

   何がそうさせたのか。
   資本主義そのものが、富が富者や強者に集中して行く体制システムに変質してしまったからである。
   経済構造そのものが大きく変革して、富と権力が、ICT革命に乗った革新的な先端ICT企業に、そして、金融イノベーションによって金融機関に集中するなどに加えて、
   「大企業の重役や彼らを取り巻く弁護士やロビイスト、金融業者やそこに群がる政治家、百万長者、億万長者たちなど、「自由市場」を声高に擁護する者たちは、何年もかけて自分たちを利するようせっせと政治を動かし市場を再構築し、そうしたことを問題にされないよう画策した」結果なのである。
   ウォール街を占拠せよの「We are the 99%.」が、その典型だが、現代資本主義はあまりにも、あの戦後の成功を続けた平安無事な(?)良き時代から隔たってしまっている。

   いずれにしろ、先のアップルのように時の潮流に乗ったクリエイティブ企業や強者に富が集中するようになってしまっている以上、トランプが、いくら、ラストベルトを救済すべく、保護主義政策をとって、重要性と比重が低下したレッドオーシャン企業を守ろうとしても、殆ど効果はなく、むしろ、競争力がなくなったコストの高い雇用を温存することとなって物価上昇を招いて国民生活にダメッジヲ与えるだけであろう。

   労働については、リチャード・フロリダが、「新クリエイティブ資本論」で説いているように、現代経済で、成長させる機能を持っているのは、クリエイティビティと、新たな社会階層「クリエイティブ・クラス」の台頭だと説いている。
   クリエイティブ・クラスは、科学、テクノロジー、メディア、カルチャーで働く人々のほかに、従来の知識労働者、専門職労働者などから構成され、現在、アメリカの総労働人口の3分の1近くに達していると言う。
   簡単に言えば、アップルのようにクリエイティブな商品やサービスを生む企業が利益を叩きだすように、新しい価値を創造し付加価値を生むクリエイティブな労働者が、経済社会の発展を推進する即戦力であって、その働き如何がアメリカの経済力の源泉だと言うことである。

   したがって、トランプの「アメリカ ファースト」の雇用政策は、大半アメリカが競争力を失ってしまったレッドオーシャン企業の雇用であり、既に時代遅れであって、更に、アメリカの労働の質の低下とその温存だとしか言えないのではなかろうか。

   強者をさらに利する減税に加えて、経済格差縮小の逆を行くオバマケア廃止のみならず、アメリカの発展のために必須の文教や科学振興予算を叩き切ると言う、時代の潮流に逆行する正気の沙汰とも思えないトランプ政策は、アメリカファーストと言うよりも、アメリカキルとも言うべき暴挙であろう。
   ラッファーカーブが示す連邦所得税の減税が経済成長を促すと言う理論は、これまで、現実化した事実はないと言われており、今回のトランプ減税政策が、アメリカ経済を3%も上昇させるなどと言った前提など、弱体化の一途を辿るアメリカ経済にとっては、夢の夢であろう。

   話は、一寸脇道へ飛んでしまったが、要するに、私が言いたいのは、クリエイティブ・クラスしか、有効な付加価値を生まなくなった時代に、トランプは、アメリカの雇用を守るべく、時代遅れとなったラストベルトのレッドオーシャン企業の雇用を取り戻そうとしているが、このクリエイティブかつグローバル時代においては、要素価格平準化定理の作用によって、既にその効果は消滅しており、この政策の推進は、むしろ、アメリカ経済の国際競争力を削いで下方修正するだけに終わるのではないかと言うことである。
   むしろ、文教や科学テクノロジーなどに、どんどん、資金を注ぎ込んで、アメリカを、益々、最先端のクリエイティブ・クラス社会へ突進させることであろう。
   
コメント
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