熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

国立劇場・・・初春歌舞伎「姫路城音菊礎石」

2019年01月18日 | 観劇・文楽・歌舞伎
   正月の国立劇場の歌舞伎は、菊五郎劇団の通し狂言。今回は、並木五瓶の「袖簿播州廻」を、菊五郎と国立劇場とで脚色したとかで、「ひめじじょうおとにきくそのいしずえ」というタイトルであるから、音羽屋菊五郎の歌舞伎である。

   この歌舞伎は、江戸時代、播州姫路城の城主・桃井家が、御家乗っ取りを策する悪者たちに将軍家に献上すべき家宝の香炉を奪われると言う歌舞伎の常套テーマを軸にして、家来印南大蔵(彦三郎)たちに唆されて廓遊びにうつつを抜かして病気と称して将軍への謁見を断っている嫡男陸次郎(梅枝)の締まらない当主がメインで、身請けした傾城尾上(尾上右近)が生んだ国松(寺島和史)への相続というのが筋であるから悪者の暴れ放題で、最後には、追放された前城主の子である印南内膳に対峙されて幕という芝居。
   この忠臣面した家老で、どんでん返しで大悪と化す内膳を演じるのが、菊五郎であるから、貫禄十分、見せて魅せる芝居である。

   姫路城の天守にまつわる怪異物語の歌舞伎は、玉三郎の妖艶なお姫様が、若くて凛々しい鷹匠と恋に落ちる幻想的な物語、泉鏡花の「天守物語」のファンタスティックな舞台を思い出すのだが、この歌舞伎では、お家再興のため、没落した桃井家の後室・碪の前(時蔵)が、荒廃した姫路城で、侍女たちと妖怪姿で現れて、妖怪が出現するという噂を広め、妖怪退治に挑む腕試しにやってきた勇者を味方につけようとするストーリーになっていて、発想がユニークである。
   忠臣を装う家老の印南内膳(菊五郎)に殺されたはずの忠臣主水(松緑)が蘇生して百姓の平作に成り代わって、女房のお辰(菊之助)と力を合わせて、桃井家の遺児たちを悪者から守るのだが、桃井家から以前受けた恩義に報いる与九郎(松緑)・小女郎(菊之助)の夫婦狐の健気な助っ人姿が、白衣の狐衣装で展開されるなど、動物譚を交えた舞台展開が、さらに怪異さを増す。

   この歌舞伎では、菊五郎に伍して舞台を引き締めているのが、颯爽とした侍姿の生田兵庫之介と風格のある碪の前を演じる時蔵で、この舞台でも、菊五郎との相性の良さを示して輝いている。
   それに、桃井修理太夫の楽膳をはじめ、團蔵、萬次郎、権十郎などのベテランが舞台を支えており、花形の菊之助や松緑の、それぞれの個性満開の華麗でエネルギッシュな芸は抜群の冴えで感動的である。
   面白いのは、悪者を演じた飾磨大学の片岡亀蔵のドスの利いた迫力に加えて、大蔵の彦三郎と久住新平の坂東亀蔵の兄弟の性格俳優ぶりを前面に押し出した新鮮な演技が素晴らしい。
   もう一つ、なよなよした締まらない若殿の梅枝は、女形故の会心の舞台で、それに、右近の傾城姿と変身した奥方の美しくて風格のある姿が印象的で、観客を喜ばせていたのが、菊五郎の孫二人、和史と福寿狐の寺島眞秀の達者な可愛い舞台姿である。

   新作ともいうべき舞台で、通し狂言としては、色々な歌舞伎特有の工夫を凝らした見せ場を各所に展開する意欲的な、非常に面白い歌舞伎であるにも拘わらず、やはり、親しみに欠ける所為か、残念ながら空席がかなりあって、大向こうの掛け声も散発であった。
   
   
   
   
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