詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

長島南子「追伸」

2024-06-19 21:11:12 | 詩(雑誌・同人誌)

長島南子「追伸」(「天国飲屋」5、2024年06月16日発行)

 長島南子「追伸」は「さっちゃん」にあてた手紙。「あの人は家を出て行きました/行方不明です」。それで、

誰もいない部屋でご飯を食べていると
食べ物をかみ砕く音だけが
耳に響いてくるのです
食べてからはもうすることがありせん
耳のなかがじんじんしてきます
大声でわめきたくなります
かたわらで猫がじっと見つめています

 という、おばさんにしか書けない「絶対孤独」を描写することばのあと、人間と人間の、これまたおばさんにしか書けない「間柄」のなかをことばが動いていく。
 
さっちゃん 行方不明なのは
わたしです
家には行方不明が服を着て
来客を待っています
近くまで来たらお寄りください
あれ 行方不明はあの人でした
いいえわたしでした
いいえさっちゃんでしょ
かたわらで猫がじっとみつめています

 「間柄」は「人間関係」と言いなおすことができるかもしれないけれど、そう言いなおしてしまえば、そこからは何か違ったものになってしまう。
 多くの男の詩人も「行方不明なのは/わたしです(いいえわたしでした)」は書けるが、「いいえさっちゃんでしょ」は書けない。特に、その「末尾」の「でしょ」の切なさ、正直は書けないなあ。
 「行方不明なのは/わたしです(いいえわたしでした)」が男にも書けるのは、そこには「論理」があるからだ。「論理」が「抽象」を動かすからだ。「人間関係」は「抽象的」なのものである。
 でも、「間柄」は、具体的な「人間」と「人間」との間に生まれてきてしまう「柄(模様)」のようなものであり、その「あや」を生み出すのは「でしょ」というような「働きかけ」を含んだ、具体的な「体温」なのだ。

 「猫」と「人間」は、私は猫がこわいから近づかないのでわからないが、そこには「間柄」はない。「間柄」があったとしても「変化」はない。「あや」は生まれない。かわらない「関係」だけがある。「かたわらで猫がじっと見つめています」「かたわらで猫がじっとみつめています」。
 漢字とひらがな。意識的かな? 無意識的かな?
 無意識だろうなあ。
 それが、なおさら、こわい。「無意識」というのは、「本心/正直」だからだ。長島は、猫に対して「でしょ」とは話しかけないだろう。

 と、書けば「間柄」が、どういうものかつたわるかなあ。まあ、つたわらなくてもいいけれど。つたわらない方が、「そんなこと書きましたっけ」としらばっくれることができるから、いいかもしれない。(この三行は、私から長島への「追伸」です。)

 

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