細田傳造「ジェローム・アレキサンダーに会ったらきいてみたい」(「ウルトラ・バルズ」41、2024年05月25日発行)
細田傳造「ジェローム・アレキサンダーに会ったらきいてみたい」の最後の部分。
ジェローム・アレキサンダーに会ったら
きいてみたい
市立大学で二十年も
ジャック・ラカンを研究した男だ
きっと馬鹿にされるな
かれを馬鹿にしている
最後の最後の、この二行がいい。細田傳造そのものである。ひとはひとを馬鹿にする。理由は、はっきりしている。だから、その理由を私は書きたいとは思わない。そして、理由がはっきりしているからこそ、細田はいつでもひとを馬鹿にしている。しかし、それはジェローム・アレキサンダーが細田を馬鹿にするときとはまったく違っている。そういうことが実際にあるわけではないだろうが、ジェローム・アレキサンダーは細田に会ったら、そして細田がジェローム・アレキサンダーにジャック・ラカンのことを聞いたら、きっとジェローム・アレキサンダーは細田を馬鹿にする。ちゃんと、「馬鹿にしている」ことがわかるように、馬鹿にする。しかし、細田は、わかるようにではなく、「わからないように馬鹿にする」。そして、それをこっそりと書く。
この複雑な粘着性。
いつでも「感情」がからみついている。
この「からみつき」を意識しながら、一連目を読んでみるとおもしろい。
早暁
目覚めると
夢の残渣
淫らだった夢はドリームとよべるのか
失業してコンビニの裏口
売れ残った弁当を
愛想のいい店長から
手渡されている夢はナイトメアというのか
「夢」をあらわす英語がいくつあるかしらないが、細田は「ドリーム」と「ナイトメア」を選び出し、そこに「英語の感情」ではなく、細田自身の感情をからみつかせ、そうすることで「英語の感情」を「馬鹿にしている」。そんな、他人の「基準」なんか、採用しないぞ、と言っている。
「いつでも、けっして、自分を譲らない」。これは、馬鹿にされても気にしない、ということであり、他人を馬鹿にするということである。
「野原」というのは、子犬といっしょに野原をかける詩である。その最後の部分。
なんさいなの
子犬にききました
しらない
なんさいなの
子犬がききました
ななさい がっこうにいってない
ぼくたちはなんだかつまらなくなって
はなしをやめて走りました
牧場がみえてきます
がっこうってなんだろう
走りながらぼくたちはかんがえました
「馬鹿にする」ということは「考える」ということである。そして、自分で考えたことを何よりも大切にすることである。細田の詩には、自分を大切にする感情がいつも、とてもしっかりと残っている。
だからといえばいいのだろうか。
細田は「自分を大切にしているもの」に対しては、親切である。そういう人たちに対しては、「表面的」には相手を馬鹿にする。しかし、その相手をしっかりと受け止める。まるで、子犬を見守るように。だから、その「馬鹿にする」は、とても温かい。
たとえば、「ジェローム・アレキサンダーに会ったらきいてみたい」の、次の部分。
白昼
道ですれ違った老人と
ある奇妙な行動をした
左手で敬礼したら
右手で敬礼された
無礼な奴
右足で蹴っとばしてやったら
左足で蹴っばされた
同時同瞬の出来事だ
あれはなんとうい白昼夢の具象だったのか
まあ、これは「他人」ではなく、細田自身の自己矛盾なのかもしれないけれどね。
そして、「自己矛盾」だからこそ、そこに「やさしさ」がある。「矛盾」をかかえて、それでも人間は存在していることができる。生きていることができる。細田は「他人の考え」は「馬鹿にする」けれど、他人が「生きていること」に対しては、絶対に「馬鹿にしない」。
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