(102 車輪の世界制覇 begin)
102 車輪の世界制覇
電動キックボードというものが街角の未来風景になっています。渋滞の脇をすっと抜いていく。なんだ、あれは?
あのキックボードというおもちゃは、筆者が子供のころ、つまり七十年前ですが、みんな乗っていました。スケートとか、言っていました。歩道もない悪舗装の道を子供が突っ走ていて、よほど危険でしたね。
車輪がついたものを、子どもや、幼稚な人が、運転すれば危険に見えるものです。
車輪がついた乗り物に、子どもは乗りたがる。三輪車、キックボード。
車輪は、人類文明初期の大発明といえます。六千年前にイラクのあたりで都市を作り始めたシュメール人が使い始めたらしい、とされています。
車輪を発明する前段階があったはずですが、それらしいものの考古学サンプルは発掘されていないようです。四輪車や二輪車の発掘物あるいは描画などの形でしか発掘されないでしょう。コロから車輪に移る前段階は、車軸がない運搬方法が使われたはずですが、それがどのようなものだったかのエビデンスは得られていません。
コロから車輪への進化の中間段階は、ミッシングリンクです。突然、飛躍的に、車輪が発明された、と思うしかありません。
中間段階は、なぜ、発掘品になっていないのか?なぜ、描画やおもちゃとして、残っていないのか?
その制作物は、まず数が僅少であった、と推測できます。それは実用性がなかったからでしょう。
実用性がないから模倣する人も少ない。素材も、たぶん木製や粘土製で崩壊腐敗消滅する。
印象も弱いので、描画も遺跡に残らないでしょう。
考古学的遺物としての車輪のエビデンスは、たぶん上述の理由で、古いものは発見されていませんが、憶測すれば、六千年くらい前から存在していたようです。遺跡や遺物として数千年残るためには、金属製あるいは骨製、石造である必要がありますが、初期の車輪は製作が容易で軽い木製で用を足した時代が長く続いたと考えられます。
木製の車輪は、木工製品としては最も高度な技術を必要とします。高速で回転する機構は、現代でも高精度の工作技術を要するタービンやベアリングですが、同様に木工でも高度な計測、切削、研磨の技術を必要とします。木製の車輪は、木工製品としては最も高度な技術を必要とします。高速で回転する機構は、現代でも高精度の工作技術を要するタービンやベアリングがそうですが、これらの製品は、木工でも同様に、高度な計測、切削、研磨の技術を必要とします。この技術を持った職人は、専門職として、大規模の都市国家に基盤を持つマニュファクチュア組織に組み込まれていたはずです。古代には、シュメール文化など最先端の文明の中にのみ、このような技術は存在したでしょう。
当時、最先端の技術を要求する需要は、宗教上の権威の象徴、あるいは王権の示威をもたらすものだったかもしれません。僅少であるが故の貴重性です。華麗な装飾の類です。それが徐々に貴族層に所有され、街路を練り歩く。祭事の山車、あるいは牛車、あるいは戦場の指揮車。
実物の遺物は残りませんが、描画、文献にその存在の叙述が残るでしょう。
