日常の習慣にはそれぞれ理論があるのではないでしょうか?たまにその習慣の合理性を子供に説明する必要がある場合、それが行われている理由、つまり理論、が意識的に語られるのでしょう。
外人賢明理論
「外人は利口だから」と隣のおばあさんは言いました。筆者が若いころ、雑談の中ででてきたその言葉を、今も覚えています。ひどく乱暴な理論だな、とそのとき面食らったので記憶が作れたのでしょう。国立の女子大を出た百年前のインテリ女性でした。
たしかに日本人は小利口だがずるさが顔に出る。外人はあんな顔をしているのでずるいことを考えていてもこちらに分からない、というようなニュアンスだったのでしょう。
学歴賢明理論
有名大学の卒業生と聞くと、頭がいいから、と言われます。学歴と知能は全然無関係、という人は少ない。これ、あまりにも頻繁に行われる問答なので、まあそんなもの、ということになっていますが、どこまでもあいまいさが抜けない理論の典型でしょう。
先憂後楽理論
人生の初期に苦労しておくと、後で幸福になれる、という理論は広く普及しています。昔、おばあさんがよく言っていました。子供に勉強しろ、というとき必ず使われる理論です。
これもまた、そうではない、という事例も多く語られているので、最後まで苦労で終わる人生も多いような気もします。
あまりいつも我慢していると忍耐が快感になりマゾヒストになります。これは忍耐報奨理論とでもいえる理論になります。
Carpe diem
古代ローマの格言、「今日をつかめ」。まだ来ない明日や過ぎ去った昨日を思い煩うな、という人生訓。欧米の中学程度で習うラテン語なので西洋人の信奉者が多い。つまり、明日を見るな、今を生きよ。
鎌倉若宮大路の下馬交差点でこのラテン語看板を見てなんだこれは、と驚きましたが、そこはブラジル柔術の道場でした。最近六本木飯倉片町交差点の近くにもあります。
動物本能理論
人間は理性で生きる。人間以外の動物は本能しかない。動物機械論と似た理論ですが、本能というと神秘感が出ます。神に創造された仕組みという感じが出ます。
人間は理性がある、というメタ理論が後ろに隠れていますが、拙稿の見解ではこのメタ理論も否定できます(拙稿34章「この世に神秘はない」)。動物本能理論もまたダメ理論のひとつです。生物の機構など複雑すぎるので、すぐ神秘に逃げたくなり本能など神秘的概念を作って安心したくなりますが、だめですね。
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87 理論を語る人々
歯磨きをするには、まず歯ブラシを水でぬらす。
習慣であるから意味などない、でしょう。これに合理的説明をつける人がいます。
おもに歯医者さんたちです。
歯ブラシ濡らし理論。
歯ブラシを水でぬらしてはいけない。歯磨きペーストが水で薄まって泡が多くなり歯磨き時間が短縮できてしまうからいけません。菌や汚れが良く落ちない。
いや逆に、水でぬらすほうが良い。歯ブラシの上で繁殖している雑菌を簡単に洗い流せる。
インターネットを見ると前者のご意見を書き込んでいる歯医者さんが多い。最近、テレビで後の意見を述べた歯医者がいました。筆者はそれまで前者の理論を採用していましたが、この後、後者に変えました。今もそうしています。
どちらが正しいかは素人には分かりません。理論対理論。どれが多く信じられているかは調査できますが、多数派が正しいのかどうか怪しい、みんな間違いの場合も多い。
種々の理論は聞けば聞くほど、それぞれもっともらしく語られています。素人はふつう見極めを諦めます。
それが正しいかどうかよりもその理論が面白いとかインパクトがあって覚えやすい場合、その理論は繰り返される。普及します。
迷信、言い伝え、ことわざ、ジンクス
夜爪を切ってはいけない
沈黙は金
試合の前にひげをそってはいけない
信じてよいのかよく分からないけれども覚えやすい理論。本当かいな、と思わせる部分がある理論。しかし結局使ってしまう。私たちは日々、理論を語られ、それを応用して暮らしている。そうせざるを得ない場合が多いからです。
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目的のない人生が正しいとすれば、目的を持たされてしまう状況を避けなければなりません。たとえば、結婚、出産、就職。
社会に出たとしても、野心を持ってはいけません。大出世、大投資、大入札、オークション、政権奪取などを目指してはいけない。
会社買収、不動産取得、馬主になる、畜妾、テレビセレブ。なれればうれしいが、その後毎日、人生が非常に面倒です。それらのコミットをすればそう簡単に投げ出せない。もう逃げられません。結局、忙しくて惰眠など全然できなくなります。
これ、そうなれれば幸せ、と言えばたしかに幸せですが、なにかむなしい。なぜむなしいのかわからない。邯鄲の虚無のようなものがいつもちらつく。単純な惰眠のほうはコミットがない分、むなしさがはっきりしてよい、ともいえます。
ベーシックインカムを獲得できれば、あとは惰眠。というのが真実かもしれない。もしそうであればそれを本気で実現する政権は亡国の英雄でしょう。■
(86 惰眠する人々 end)
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こうなると世の教えである勤勉、真面目、地味にこつこつ。というのは間違いかな、という気になります。やはりいつも惰眠していてときどき宝くじ。などというのが真の生き方かもしれない。簡単で楽そうだし、と思えます。
それでは発明も技術革新もできないでしょう。そうかもしれないが、それらはどこかから出てくる天才に任せて、私たちは天才の邪魔をせず成果だけをいただけばよいでしょう。
つまりベーシックインカムのような仕組みに入り込んであとは惰眠をむさぼる。これが理想の人生、ということでしょうか?人生に目的などない、とすれば。
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目の前の、手を伸ばしてつかめるところに目的物があれば、いっぱいに手を伸ばします。目的物があっても宇宙のかなたであれば一瞬にしてあきらめる、というか、無視して惰眠を決め込む。これは動物として健全な行動パターンです。惰眠して邯鄲の夢を見ていればよい。簡単ゲームをしてもよし。
惰眠の連続で人生を終わることを酔生夢死と言います。 雖高才明智膠於見聞酔生夢死不自覚也(一一世紀前期 程顥「程子語録」)
生活に目的がある。子を産んで育てる。家を建てる。仲間と商売を始める。競争して入賞する。そのプロジェクトの成果が目の前に見えるとき、惰眠はしません。それがまったく見えないときは惰眠することが当然でしょう。
やることがないから惰眠する。
やることはあるが面倒だからそれは簡単にこなしてあとは惰眠する。
「私は怠け者を選んでむずかしいことをさせる。なぜなら怠け者というのはそれを簡単にすます方法を見つけるからだ(ビル・ゲイツ)」
昔、ハーバード大学院の計算機室で一緒に順番待ちをしていた少年のような学部生がITの王者になるとは思いませんでしたが、そういえばどこかずば抜けた雰囲気を持っていましたね。
むずかしいことを簡単に考える、ごろ寝奉行(二〇〇〇年 ジョージ秋山「浮浪雲65」)。権力を持つので公務は適当にこなすが、いつも面倒がる。明るいニヒリスト。正義感はあるがそれを見せないふりが好き。仕事を怠ける官僚を一種の理想として描いています。
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