科学理論から推測すれば雪は白かった。だから雪に覆われた地域では保護色として白い表皮を持つ恐竜が進化しただろうとも推測できます。しかし変温動物の恐竜は雪の中では動けないでしょう。そうすると白い恐竜は存在しなかったのか? こういう議論ならば科学者も参加してくれるでしょう。しかし拙稿がここでしている議論は、もう少しややこしい。
「雪は白い」と言える世界が、私たちが住んでいる世界です。しかし、無色の結晶の粉末が可視光線を波長によらず一様に反射するような物理法則に従っている世界では、かならず「雪は白い」と言えるのか? 物理法則は同じであっても人間がいない世界では、そうはいかないのではないか?「雪は白い」と言う人間がいない世界は私たちが住んでいる世界と同じなのか、いや同じではないのではないか、という問題です。
たとえば、人間が住んでいない南極にも雪はある。というよりも、雪しかない。その雪は白いのか?
愚問に聞こえますね。
行ってみればすぐ分かる。現代では犬ぞりなど使わずに、飛行機で簡単に行けます。間違いなく、そこの雪は白いでしょう。
しかし、行ってみなくても、そこの雪は白いに決まっているではないか、と思えますね。それは科学理論によってもそうであると分かりますが、それ以前に直感でそうに決まっていると思えます。
まあ、そういうことにして、先に進みましょう。
それでは、火星の南極にあるらしいとされている雪は白いのか?
これは愚問でしょうか?
H2O 固体の粉末は白い。故に火星の雪も白い。そうは言えますが、ちょっとすっきりしない気がしませんか?
次にこういう話はどうでしょうか? 海王星の軌道の外側に、2004年に発見された準惑星ハウメア の表面は望遠鏡の分光分析で白色と観測されています。反射率から推定すると雪のような氷の結晶らしいとされます。この雪(らしい物質)は白いのか?人間は、まず遠い未来であっても、たぶん、この天体には、地球から遠すぎるので、着陸できないでしょう。そういう天体の雪は白いのか?
「ハウメアにおいて、雪は白いと言えるか?」こんな質問をされた場合、惑星科学者、あるいはSF愛好家以外の人は横を向いてしまいたくなるでしょう。直感では想像するのもむずかしい。科学理論を援用すれば、仮にそこに人間を置いた場合、その人間は視覚で白を感知するはずである、と推定されるが、それをもって「ハウメアにおいて雪は白い」と言ってもよいのでしょうか。科学者は、たぶん、そう言ってよい、というでしょう。一方、科学者ではないふつうの人は、そういう分からない話は聞きたくないと思うでしょう。
初めて名前を聞いただけの天体に関して仮にそうであるとしても、それを知って私はどう動けばよいのか?もしそうでないとすれば、私はどうすべきなのか?どうにも関係はありそうにありません。
ほとんどの人にとって準惑星ハウメアの表層における雪状の物質はこのような話として存在しています。ほとんどの人にとってハウメアの雪は、要するに、どうでもよい物質です。取るに足らない話です。しかし、地球上あるいは宇宙の、どの物質についても、物質というものは、たいてい、このような話としてしか存在できないのではないでしょうか?