徒歩圏宇宙からワープする場合、高速移動システムに搭乗する。つまり自転車に乗る、または車を運転する。あるいはタクシー、バス、電車に乗った場合、徒歩に比べれば当然はるか遠くに行くことができます。電車で遠距離通勤する人は、らくらくと隣の県、さらに隣の県との間を毎日往復するでしょう。
それでも乗り物を降りてから、いくらかの距離を歩くことになります。つまり、駅から出てそこの徒歩圏に入る。乗る前の徒歩圏宇宙から降りた場所の徒歩圏宇宙へワープする。高速移動の最中は着いた先の徒歩圏宇宙の構造などは考えません。とにかく目的の駅に降り立ってから、そこでの徒歩圏はどうなっているかな、と考えればよろしい。
結局、だれもいつでも、乗物から降りて歩きだしたとたんに、自分の周りに広がる徒歩圏宇宙の中心に自分がいる、ということでしかない。徒歩圏宇宙は広げることも縮めることもできません。その人の直感で決まっています。
この宇宙は、どこへ行こうという意識を持たずに身体が移動できる範囲のことです。ふつう円形で境界の円周に囲まれているはずですが、どこが境界線かは自覚できません。しかしこの宇宙の実際の大きさはだれもあまり違いはない。だいたい半径八百メートル前後でしょう。
昔の人が使った距離単位は、たぶん、徒歩圏の大きさから来ているようです。たとえば一里は江戸時代からは四キロメートルになりましたが、鎌倉時代以前は、七里ヶ浜を見ても分かるように、六百メートルくらいでした。西洋のマイルは古代ローマのmilliariumから来ていて、これは二千歩(千複歩)ですから千五百メートルくらいです。徒歩圏の直径ですね。感覚的にそのくらいの距離がすぐ歩ける範囲ということでしょう。徒歩圏の概念に一致します。
自分の徒歩圏宇宙の中ではいつでもどこでも自由に行ける気がする。さっと行ける。すぐ行ける。すぐ戻れる。一方、この宇宙の外に行こうとすると、気楽に簡単には行けない。行き先を意識してしまいます。徒歩圏の内側と外側は感覚的に違う空間です。
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(67 徒歩圏宇宙の構造 begin)
67 徒歩圏宇宙の構造
徒歩で十分くらいの距離を徒歩圏という。
不動産広告などに〇〇駅から徒歩十分などと書かれている場合、一分で八十メートルの速足で歩けば、十分でその物件に到着できます。つまり半径八百メートルの円内が徒歩圏。面積は約二平方キロメートルですね。
すぐ行ける距離内が徒歩圏。逆にいえば、それより外側の世界は「さてどこへ出かけるか」と計画しないと出かけられない遠方です。
徒歩圏内ならば、強い意志を持たなくてもぶらぶら歩いているうちにすぐ着きます。角のコンビニでアイスを買うか買わないか、決めなくても出かけることができる。さっきは買わなかったがやはり買いたい、ということになれば、もう一度出かければよいからです。
途中に歩道橋などあると嫌ですね。向こう側にわたる勇気が出ない。交通研究者によると、歩道橋の向こう側では徒歩圏が実質七十メートル縮まる。高齢者の場合、百六十メートルも縮まるそうです。半径八百メートルの徒歩圏は歩道橋があると(高齢者の場合)半径六百四十メートルになってしまうということです。
アインシュタインが言うように宇宙ではブラックホールなど大きな物があると空間がかなり歪む。徒歩圏宇宙では歩道橋や信号が長い交差点があると、空間はやはり歪みます。歩道橋の他、工事中の道路、狭すぎる歩道、変な行き止まり、なども徒歩圏宇宙を歪ませます。
さて、とにかく十分か十五分くらい、ぶらぶら歩くと徒歩圏宇宙の果てに行きつきます。そこから周りを見渡すと、ふつうまた徒歩で進める空間が広がっている。今ここを中心として半径八百メートルの円が、今また新しい徒歩圏宇宙になっています。
そこでこの新しい宇宙を進んでみます。もと来た方向へ戻らずに新しい方へ行ってみましょう。もちろん、徒歩で。
町中であれば、たいていは同じような街頭風景が広がっています。ランチを食べる店を探すとか、目的があれば、目がきょろきょろして店の看板などがよく見えます。逆に食べ物屋以外のものは見えない。美人を見つけたり花が咲いているのが見えたりするときは、目的もなく散歩しているときですね。散歩のときは徒歩圏宇宙の宇宙遊泳。徒歩そのものが目的です。
行き先がはっきりしているときは、最短距離で行く。できるだけ直線で進む。放置自転車なども邪魔です。
ルーティンになっている歩行は徒歩圏内が多い。通勤通学とか、車でない場合、徒歩圏宇宙の圏内に駅やバス停があれば使います。そこまで毎日同じ道を歩く。ふつう最短経路を取ります。行き先がはっきりしている場合、最短経路を取ることが一番楽です。
ルーティンな徒歩圏内では、目をつぶっても歩ける、というほどではありませんが、経路を意識せずに歩けます。らくらくと歩きスマホ(あるいはフォーンウオーキング)できる。どこを歩いているかなど意識せずにスマホに集中しながら移動できます(危険ですが)。逆にスマホで遠くの(友達の)宇宙につながっていないと、頭が暇でしかたない。前を美人が歩いていれば別ですが。
徒歩圏から出る場合。つまり八百メートル以上遠方の目的地へ徒歩で行く場合、徒歩圏の縁くらいに中継点を決めて、それを目指す。大きな交差点などです。それを目指して最短経路で歩く。
中継点に達すると、次の中継点を目指す。それも当然、次の徒歩圏の縁にあります。
これを繰り返して遠方の最終ゴールを目指します。徒歩圏の周りの風景は、ふつう、どんどん変化していきます。それで退屈しない。歩いても歩いても変化がないと、かえってつらい。
知らない土地で、完全な直線を一時間以上も歩くという経験は、皆さん、一生に何度もないでしょう。筆者は二〇代の頃、アメリカ中西部の、三百六十度地平線しか見えない草原を走る完全な直線道路を、一時間半歩いて空港にたどり着いたことがあります。レンタカーを借りるにはそこしかないと言われたからです。途中でタクシーかバスに乗れば良い、という東京人の間違った常識で歩きはじめました。実際はバス停もない。タクシーどころか車もほとんど走っていない。その土地の現実を認識した頃には、戻るのもいやになるほどホテルから離れてしまっていました。
閑話休題。目標地点がかなり遠い場合、気楽に歩いていくということはできません。地図を見ながら、あるいはナビを見ながら歩く。あるいは富士山やランドマークタワーなどを目指して歩く。つまり遠い目標に向かって最短経路を黙々と歩く、ということになります。徒歩圏を次々と貫いていかなければなりません。ゴールを強く意識してしまいます。
らくらくと気楽に歩くためには、やはり、遠いゴールなど決めてはいけません。徒歩圏内から出ることを考えないで数分だけ歩いてみる、というようにする必要があります。もちろん結果的には出てよいのですが、出た後のことは考えない。
徒歩圏の端に着いてしまったならば、改めて、そこを中心とした新しい徒歩圏を思い浮かべればよろしい。その新しい徒歩圏宇宙を感じ取った上で、あらためてその中を数分だけ動くことにする。これを繰り返して、実際ずいぶん遠くへ行くことができます。
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かくしてオフィスはより洗練され、美しいほうへ進化していくでしょう。しかし何十年も続いた既存の大会社が生き残るよりも、外資やベンチャーの拡大急成長のほうが華々しく見える時代です。都心に密生する高層ビル群は、落雷で植生が交代する極相の原生林であるのかもしれません。
オフィスの美しさは、組織を守り市場シェアを守る。その目的で美しいオフィスは人材と資金を吸収する。大木ばかりの密林では、地面に日光が届かなくなって、幼木の育ちが悪くなっていないでしょうか?
グローバルな競争市場を勝ち抜いていく都心の美しいオフィス群は一つの極相なのか?いつまでも安定して持続できるのか?今この瞬間のワンシーンに過ぎないのか?もう少し時間を待たないと、先は見えそうにありませんね。待ち時間はそれほど長くはないでしょうけれど。■
(66 オフィスの美しさについて end)
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一匹狼のアントレプレナーが自宅のガレージから起業する、という伝説があります。アメリカの話ですが。グーグルもアマゾンも、二十年くらい前に、若い創業者がガレージに机を置いて最初のソフトウェアを手作りしたとのことです。
ガレージから初めて、武器を選び、仲間を選び、マーケットを選んで戦う相手を選ぶ。敵を殲滅するたびに資金が集まり、ノウハウも蓄積されて戦闘力レベルがあがる。ロールプレイングゲームのようです。自信ができたところで美しいオフィスに引っ越します。あとは時流に乗って急成長するだけです。
スーパー世界企業になったこれら元ガレージの、現在のオフィスは最先端のアートのような美しさです。世界中の会社がお手本にしようとしています。美しいオフィスだから成功するのか?成功したからオフィスが美しいのか?まあ、皆さん、後者だと思っていますね。
グーグルもアップルもフェイスブックもアマゾンも、オフィスが美しい。美しいオフィス風景はオーナーの美的感覚を表している。そういうセンスがいい会社ならばユーザーは好感を持つ。シェア寡占を許す。優秀な人材が集まる。投資家が勇んで資金を預ける。人々の心をつかむ技に長けています。フィードフォワードで指数関数的な成長曲線を描くでしょう。
逆に、会社が大きくなってもいつまでもガレージのような安普請のうす暗いオフィスに居続けている会社は社員の士気も上がらず、外から観察する顧客や投資家も目をそらす。結局は経費節減にもならず効率が落ちて成長が止まることになります。
であるから、社長の趣味で美しいオフィスにしているのではなくて、成長を続けるためにはそうせざるを得ないからオフィスは美しくなるわけです。
現代、市場競争はますます熾烈になっています。かつては非効率でも安泰であることで悪名高かった官庁など公的組織でも、民営化が進められています。数値目標で成果を評価される時代になり、予算定員を絞られるなど強い競争圧力にさらされています。
効率に優れ生産性の高いオフィスだけが生き残る。生産性をたかめる努力を怠ってはなりません。
寡占シェアの維持拡大のために組織は繰り返し再編成されます。オフィスの形態を変えるきっかけはすぐやってきます。
AIを導入すると単純事務は不要になるはずです。正社員を減らし派遣労働者に代える。組織を合併しオフィスをコンパクトにする。いや、スペーシャスな美しいインテリジェントオフィスに引っ越す。そうすれば、美しいオフィスを持つと同時に古い贅肉を落とせる。経常コストを減らし生産性が上がります。
リストラクチャリングは追い詰められて実行するものではなくて先手を打って行われる様になっています。システムは更改される。設備もIoTが埋め込まれ、クラウドに繋がれていきます。
オフィスの革新はいいが、更新メンテナンスにはコストがかかります。あまり頻繁に変化させるとロスが多い。テレビの買い替えくらいの頻度がよいか?社長交代のたびくらいがよいのか?
いずれにせよ、オフィス再編成の機会に美しさが減るようでは困る。コストの上限まで最先端技術を取り入れて、人に褒められるような美しさを目指すべきでしょう。
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