哲学の科学

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資本主義の夢(11)

2023-05-27 | yy89資本主義の夢


危機感は、最近強調されつつあります。新産業、スタートアップの創出は、昨今、国を挙げての最重要課題とされています。技術イノベーション、企業デジタル化、アントレプルヌール教育、ベンチャーキャピトル。手法の研究、試行プロジェクト、優遇制度など、多くが実行段階に入っています。もちろん成果はまだ出ていなくて、それを待つ、奨励、勧告、あるいはさらに進行させる、など政府、マスメディアでも多く主張されています。
起業家の育成、個人の資質などを問題とする議論も活発です。明治維新、戦後高成長など新企業がかつて輩出した時代はどうであったのか、今とどう違うのか、歴史的興味やノスタルジーばかりでなく分析的な検討が必要でしょう。
日本資本主義は、一九世紀の開国以来、二〇世紀にかけて高度成長に成功、世界の先進国に追いつく快挙、という夢をかなえました。
次の瞬間、冷戦の終了と同時にシーンは切り替わり、世界の先頭に立って新技術開発と社会革新に取り組まされる場面での戸惑いからか、前進を止め、世界の前線から離脱し、ひそかに守旧的防衛的な姿勢を強めているように見えます。
結局は年功序列の給与生活、安全運転の会社経営、無事故無違反長寿が得。企業も個人も(拙稿81章「ノーチェンジャーゲーム」)。ブランド志向の顧客。大企業の人気。大卒一括採用は依然として根強い。などなど。

人の一生は重荷を負うて遠き道を行くがごとし。急ぐべからず。
とは言うが、徳川時代二六〇年ほどではないが、平成令和三十数年の沈滞は長い。
資本主義としては、いつまでも続く悲観には耐えられない。耐える沈滞から飽きたための沈滞に変わってきています。全システムを断捨離したい、との気分が底流から湧いてきそうです。










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資本主義の夢(10)

2023-05-21 | yy89資本主義の夢


戦後資本主義の大発展には、SCAP(連合国軍最高司令官)の権威を借用した中央官僚の手腕があったといわれています。一方、その底流には逆方向に、自由に解き放されたと感じた国民個々人の巨大な楽観が沸き上がっていた、とみることができます。
この時期、福沢が夢見た尚商立国、つまりリバタリアン的世界がついに実現したといえるでしょう。
この後、シーンはまた一変して、ソ連崩壊、バブル崩壊があり、冷戦に勝利した米国一強のグローバリゼーションが始まります。インターネットサイバー新世界の広大な開拓地で米西海岸のリバタリアン起業人たちの世界制覇が顕著に見えてきます。
シリコンバレーのリバタリアンたちは、コンピュータシステムの活用に長けたその能力を生かして、規制論者たちがまだ気づいていない自由なサイバー天地で資本主義システムを最大限に活用しているかのようです。
福沢たち明治日本のリバタリアンが、今世紀米国新産業の興隆と官尊民卑の旧弊から脱却できない現代日本との対比を知ったとすれば、さぞ慨嘆するでしょう。この違いはどこから来るのか?









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資本主義の夢(9)

2023-05-13 | yy89資本主義の夢


中国、韓国、シンガポール、香港、台湾など、歴史的に関係が深く、文化が日本に近い国が、経済、厚生、教育、治安などで優秀なシステムを現在獲得できていることも関係があるでしょう。

近隣に楽観をもたらした中心であったこの国は昨今、ひとり悲観に沈んでいきます。ジャーナリストや言論人の関心は、GDP世界三位への転落、少子高齢化、コロナ感染などへ向かい、ステータス喪失のショックとして報道しています。それら憂鬱な話を拝聴するしかない国民は希望を砕かれていきます。
マスメディアの悲観論をバランスする楽観論があれば沈降は止まるはずですが、悲観が悲観を呼ぶという悪循環が根強い。スポーツ国際試合の快挙だけでは食い止められないようです。

福沢諭吉は一八九〇年、時事新報の社説で、尚商立国論を展開しました。明治維新以降も改まらない官尊民卑の風潮が日本の発展を妨げている、との主張です。

元来尊卑とは相対の語にして、低きものを高くするも、高きものを低くするも、其成跡は同様なる可ければ、従前の如く官途人が独り社会の高処に居て人民の自から奮て高きに登らんことを俟つよりも、先づ自家の容体を平易にして人民に近づくの工風専一なる可し(一八九〇年「尚商立国論『時事新報』八月三〇日」)
東大入試を頂点とする現代の受験競争にもつながり企業内格差や企業間格差の根源にもなっているこの風潮は、福沢によれば、自由の敵である。教育も産業も自由市場にまかせれば人情にかない国も強くなる、とする。スペンサー流のリバタリアン思想です。
福沢にとって残念なことには、大正から昭和の大衆化とマスメディア伸長の社会にいたって、官尊民卑はますます顕著になり、軍国政府の硬直化を招いて壊滅的敗戦に収束します。









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資本主義の夢(8)

2023-05-06 | yy89資本主義の夢


二宮金次郎の銅像がかつて全国の小学校の校庭にありました(合併で廃校になった小学校の金次郎が小田原駅構内に移設されています)。小学生の夢は金次郎であるべきなのか?この人(二宮 尊徳 一七八七年―一八五六年)は勤勉努力の結果、江戸時代の農村に組合(の原型)を作り銀行(の原型)を作り会社(の原型)を作って江戸時代農村の経済を活性化しました。日本資本主義の祖父(父は渋沢栄一)と呼ばれています。
信念をもって資本主義を追求する人もいますが、信念をもって社会主義を追求する人のほうが多いようです。青少年は社会主義の理想的美しさに惹かれるからでしょう。
社会主義はエリートや政治家の信念と希望でかなりのところまで行けますが、資本主義はエリートや政治家の信念だけではうまくまわりません。多くの人々が身の回りの経済の現実に希望を持たなければだめです。逆にいえば実際そうであったから、現代にまで、しぶとく生き残っています。
時代が進んで、結局、社会主義が先に挫折したようですが、資本主義も楽観や希望が希薄になってきているようなので危なくなるかもしれません。

グローバルには世界に楽観は満ちている(拙稿84章「幸福な現代人」)。どの国のGDPも数%、あるいはその数分の一だったりしても、間違いなく増加しているし、平均寿命は延びています。
なにより一人当たりGDPと各人の余命は間断なく伸びています。GDP世界順位は、中国やインドが上位に迫っていますが、日本も抜かれながらもそれほど落ちているわけではない。 
前世紀から先進国である国はそうすぐには破綻しません。今世紀中も日本は上位グループから脱落することはないでしょう。国の順位競争がすぐ個人の幸福に結びつくわけではないから、駅伝の観戦程度に応援すればよい。
中国やインド、インドネシアなどアジアの人口大国が経済や外交で活躍する時代がきたのは、百五十年前から前世紀末まで、日本が孤独な非西欧国として欧米を相手に頑張ってきた姿に感化されたからといえます。









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