『若水を汲む』 其の2
秩父の冬は厳しい。氷点下に在るのは日常茶飯事です。
山裾の井戸は、厚く氷が張る。若水汲みのために穴あけ作業をする。
これが実に勇ましい。チョットやソットで氷に穴が開かない。
20cm以上はあるだろう・・・か、氷の厚さ。
薪割り用の斧で打ち砕く。
最初の斧を頭上高く振り上げ氷に打ち込むと、張り詰めていた氷全体に
稲妻状に模様が入る。いわゆる氷りのヒビ・・・・稲妻です。
斧を振り落とす毎に、氷片が飛び散る。
3~5回と繰り返すうちにヤット氷に穴があく。
そしてドット水が、開けた穴から吹き上がる。
この作業は、暮れの大晦日に行われた。
翌日の若水汲みの為に、耕地の誰彼となく事前準備をしたのだった。
このようにして開けられていた氷穴から柄杓で若水を汲む。
いやいや前日に穴が開けられていたとて、外気は氷点下の温度、
風も吹けば雨も降る、その穴はすぐに氷が張り始める。
一晩の結氷厚さは、推して知るべし1cm程の厚さになります。
最初に到着した人は、
若水が汲めるように氷を砕いて穴を開けなくてはなりません。
元日の朝は、次から次へと若水汲む人が訪れ賑やかさを増した。
何回かすると手桶に一杯になる。次の人と交代する。
水が柄杓で水面が波で動いているときはよいが、僅かな交代時間でも
水面に氷が走る。
皆さんは、身震いしながら順番を待ち、汲み終えて足早に家にと急ぐのでした。
我が家では、母が帰りを待ち構えていた。
鉄瓶に移しお湯を沸かしたり、雑煮などの調理に利用した。
幼い頃でしたから山峡の各家には囲炉裏があり、
薪をくべて〔補給〕調理用のなべや鉄瓶を掛け手お湯を沸かした。
囲炉裏の周りでは四角の餅が鉄器の上に並べられ黄金色に焼かれる。
焼きすぎて黒くなることもしばしばでした。
お勝手では自家製の正月料理〔煮しめ、黒豆、キントン、コンニャクなど〕
が準備され、食卓に並べられるのを待つ。
雑煮も出来上がる。
雑煮とお茶(神酒)を神仏に供え、お正月が迎えられたことを報告する。
『頂きます』で、家族揃って食事をする。
若水を汲み神仏に供え五穀豊穣、家内安全、健康長寿を願い、
こうして新しい年を迎えた。
= 正月3日間の朝は、家例で雑煮を頂きました。=
故郷の生家、
画像奥地の山は、美の山です。
この山裾に荒川が流れ、景勝地の長瀞があります。
新年にふさわしい「若水を汲む】の題材を取り上げまして、
其の1、其の2と長くなりました。
秩父地方山間の正月風景をお伝えしました。
本年もよろしくお願いいたします。
コメント欄は、OPENです。