熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

R.ユングブルート著「IKEA 超巨大企業、成功の秘訣」

2007年11月02日 | 経営・ビジネス
   昨年4月に、超巨大家具店イケアが千葉県船橋市のららぼーと屋内スキー場跡地にオープンした。
   家具店と言う簡単なものではなく、リビング、ベッド、キッチン、ダイニング、子供部屋、ワークスペイスetc.住宅関連生活用品一切と言うか、文具、インテリア、北欧の食品等々も含め、それに、子供の遊技場や巨大なレストランのある一大ショッピングセンターで、大変な人で賑わっている。
   このイケアは、1943年実業学校の生徒であったドイツ系移民のイングヴァル・カンプラードによってスウェーデンで設立された会社ではあるが、子孫にも誰にも影響されずに恒久的存続を意図して、オランダに設立した財団法人スティヒティング・インカ・ファウンデーションに全株・所有権を移転し、実際の本社機能はスイスにある巨大なグローバルベースの家具店である。

   私が、初めてイケアの店舗に出かけたのは1985年オランダにいた時だが、その後、ロンドンに移ってからも郊外店に出かけているので良く知っているが、あの頃は、安くて便利な組み立て家具店と言う印象であった。
   店の展示場で気に入った商品を見つけて商品番号を控えて倉庫に行って、その商品を見つけてレジで精算して持って帰り、自宅で組み立てるのだが、非常にコンパクトに梱包されているので扱い易く、組み立ては素人でも簡単であった。
   イギリスから持ち帰った小さな座卓は、今でも重宝して使っている。

   このけちで頑固で有名なカンプラードは、幼少から何でも売れるものは売って商売する性癖があって、勤めや軍役に服しながらも、外国から文房具や雑貨を輸入して小売商に卸売り通信販売をしていたようであったが、独立して大量販売に切り替えた初期にも、パンフレットを「農民新聞」に折り込んで通信販売を続けていた。
   勝負に勝つためには安い価格で勝負する以外にないと考えて、他の家具店の商品が高いのは仲買人がいるからだ自分の直接販売の利点を大々的に宣伝したのが功を奏して注文が飛躍的に伸びた。

   その後、実物を見ずに買う通信販売のトラブルを避けるために、カタログやダイレクトメールを送ると同時に、大きな家具展示場を設営して顧客に商品を見せて注文をとり、その商品をメーカー工場から直接購入者に送る方式を取って大儲けした。
   カタログ発行部数50万部、展示場への客集めのために国鉄に割引乗車券を発行させ、上客にホテルでの夕食を誘うなどセールスプロモーションを怠りなく半世紀以上も前にやっていたのには驚く。

   イケアの家具の組み立て方式は、出来るだけ商品をフラットに薄く梱包することによって運送費の節約になるのみならず、何よりも、家具の命である商品の傷みを軽減するのに大きく貢献した。
   自家用車で来た客が自分で車に乗せて持って帰るのが最善だと言うビジネスモデルは、DIYの走り、いわば、アルビン・トフラーの生産消費者の概念を取り入れたイノベーションである。
   この客がお金を払ってすぐ自宅に持ち帰る「キャッシュ・アンド・キャリー」原則が、安価な大量生産と相まってイケアの業績を更にアップした。

   こんなイケヤに対して、家具業界が黙っている筈がない。只でさえ売上がダウンしていた家具メーカーから総スカンを食って商品を売ってもらえず、困り果てたカンプラードは、ベルリンの壁崩壊前の共産ポーランドに飛んで、苦心惨憺して製造会社を見つけて安い家具を調達して更に競争力を付けた。ユニクロ方式の先駆けである。
   革命と同時にポーランドでの家具調達に齟齬を来たしてからは自社生産を導入するのだが、東欧諸国やアジアからも商品を調達するなど価格削減に余念がなかった。

   このカンプラードのイケアの安くて質の高い斬新な家具が、家具市場を革命的に変化させて、これまで所得の何年分も要した家具調達コストを、所得の何か月分程度に大幅に引き下げて市場を拡大した。
   中国だけは、イケアの家具はローカル市場より高いようだが、進出する度毎に世界各地で熱狂的に受け入れられていると言う。

   最近では、安いだけではなく、有名なデザイナーを起用して高度なデザインに注力するなど更に質の高いライフスタイルの開発を目指して事業展開をしている。
   イケアは、家具インテリア文化に新しい革命的な変化を引き起こしながら、新しいライフ・スタイルを一緒に考えてみようと人々に提案し、豊かな生活空間を創造するために大きく貢献していると言っても言い過ぎではないと思う。
   
   ところで、面白いのは、馬鹿げたスウェーーデンの重税を避けるために、カンプラードは、デンマークに移住し、更に、スイスに移り住んでいる。
   昔、スウェーデンに経済視察に行った時、税金が高いので、隣のエストニアのタリンに住居を移しているスウェーデンの大臣がいると聞いたことがある。
   
   裸一貫から、貧しいドイツ移民が、銀行から借金をせずに、株式市場と一切関わりもなく、自分の稼いだ金だけでグローバルな超巨大小売業を築き上げた。この本当にイノベーターと称すべき偉大な企業家カンプラードの成功の軌跡をあますところなく書き上げたのが、このユングブルートの本である。
   久しぶりに、ドイツの経済記者の経済書を読んだのだが、米英の著者たちとは一寸違ったニュアンスの内容が非常に新鮮で面白かった。
   
(追記)写真は、イケアのホームページから借用。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする