熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

アルヴィン・E・ロス「100年後には」

2015年12月05日 | 書評(ブックレビュー)・読書
   パラシオス=ウエルタ著「経済学者、未来を語る」で興味深いのは、マッチング理論でノーベル経済学賞を取ったアルヴィン・E・ロスの「100年後には」と言う論文である。
   現在は嫌悪されている取引で、100年後にどれが一般的な取引として認知されるか、予想を立てようと言うのである。

   まず、前提として、環境破壊、テロの広がり、大量破壊兵器を使った戦争などに妨害されずに、世界経済は成長を継続して結束をさらに強め、豊かになり、人口は増加し、健康は改善し寿命が延びるであろうとしている。

  論旨を要約すれば、
  ”スポーツではドーピングなどで禁止されているが、集中力や記憶力や知能を向上させるなどと言った能力向上ドラッグが一般化する。
   遺伝学や生殖作用や胎児成長の仕組みについて理解が進み、親の選択肢が広がり、生殖技術の分野では、国際市場が発達して行く。生殖サービスがコモディティ化し、健康で長生きすれば、子育ての期間が人生のほんの一部になるので、離婚率が増えて複婚が新たな婚姻関係になる。
   しかし、生殖技術の発達とともに生殖医療は一般に普及するが、遺伝子操作などは嫌悪されるかも知れない。

   一方、コンピュータを通じたデータ取得が、今は当たり前になっている行為の一部が、個人データのプライバシーが、市民的権利に関わる問題として俄然注目されるので、嫌悪される。
   コンピュータ化された市場では、優れたものを適切に配分するためのマーケティングデザインが、更に重要になる。
   教育の一部がコモディティ化して、エリート大学への入学者の選択や、研究の協力者やビジネスパートナーを見つけたりするためにも、マッチング市場は、ネットワーキングや出会いの場を提供するであろう。”
   と言ったところであろうか。

   後半は、専門のマッチング理論を展開しているので、良く分からないが、第一印象としては、100年経っても、あまり、世の中は変わらないのかと言う事である。

   先の生殖についてだが、実際の性行為を伴わない様々なオプションが広くコモディティ化され、精子や卵子の提供にふさわしい人物を選ぶ苦労から解放される。その結果、家族は主要な生殖単位の一つとして残るが、伝統にとらわれない形の結婚や子育て、晩婚、母子父子家庭など、同性婚や一夫多妻など代替的な手段多くは嫌悪の対象ではなくなり、法的障害も解消されるであろう。言っている。

   この傾向などは、100年もかからずに、単純に変わってしまうような気がしている。
   これは、私自身の経験だが、以前に、ヨーロッパにいた時に、セクレタリーが、オランダでもイギリスでも、まず、若い男女が同棲してから、結婚するかどうかは、たとえ、子供が生まれていても、その後で決めるのが普通であって、親の時代には、考えられなかったことだと言っていた。からである。

   経済学者と言うのは、やはり、即物的な現象だけを考えて、精神的な問題をあまり考えないのであろうが、重要なのは、人類が幸せになるのかどうか、心の推移、文化的な方面が、どのように変わって行くのかであるような気がしている。
   社会が、経済成長して益々豊かになっていくのなら、あるいは、労苦から解放されて行くのなら、家族や男女の関係においても、本当に、人々は幸せになって行くのかどうか、その方が、大切な問題のように思う。
   過去の歴史を見れば、確かに、生活環境なり、社会制度など、今から考えれば、随分悪かったが、しかし、人々は、その社会の中のその時代の価値観で生きていたので、幸や不幸の感覚なりその程度などは、ある意味では、今日の我々と変わらなかったのではないかと思っている。
   健康の心配がなくなり、寿命も延びる、と言うのだが、人々の幸せ感はどうなるのかと言う事である。
コメント
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