熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

ジェフリー・サックス:アメリカの第3回目の再構築

2021年04月08日 | 政治・経済・社会
   JEFFREY D. SACHS教授が、プロジェクト・シンジケートで、America’s Third Reconstruction Mar 30, 2021を投稿した。
   ザックス教授は、2020年のアメリカ大統領選挙で、トランプが民主主義を踏みにじって暴挙の限りを演じたと報道されたアメリカの選挙が如何にいい加減か、その一端を語りながら、現在、正道では、選挙に勝ち目のない共和党が、特に、共和党支配下の諸州において、非白人を選挙権から更に排除する法案を続々と作り上げており、今こそ、憲法で保障されている米国国民全員が選挙出来るように改革すべき第三の再構築期だと説いている。
   まず、非白人に対する人種差別的な投票権排除によるアメリカの歴史的推移について語りながら、アメリカの選挙制度の問題点を浮き彫りにしているので、ザックス教授の論点を記してみたい。

   現在、米国全土の共和党が支配する州議会は、非白人を対象とした有権者の参加を新たな制限する法律を制定している。南北戦争以来、アメリカの白人至上主義は、今日では、少数派の縮小に利されて、常に暴力と有権者の弾圧によって力を得てきた。
   アメリカは一つの国に2つの文化が存在し、まず最初の文化は、奴隷制、ネイティブアメリカンの大量虐殺、白人至上主義を強制する「ジム・クロウ」法、そして、ドナルド・トランプの、(これは1月6日の国会議事堂での反乱で最高潮に達したのだが、)いじめ、嘘、残虐行為をもたらした。第二の文化は、解放、公民権運動、バラク・オバマ大統領、そして、ジョー・バイデンの大統領選出をもたらした。アメリカの白人至上主義文化は、マイノリティのシュリンクを良いことに、常に暴力と有権者の弾圧に基づいて力を得てきた。投票権をめぐる現在の戦いがアメリカの将来のための戦いであるのはこのためである。

   2つの文化の戦いは現在、全国とワシントンDCで行われている。バイデンの勝利は、白人至上主義者の有権者弾圧にダブルパンチを食らわせた。共和党は、公正な投票では国の権力を保持できないことを知っているので、共和党が支配する州議会は、非白人を有権者に参加出来ないように新たな制限を制定しようとしている。一方、ワシントンでは、包括的な文化が、すべてのアメリカ人の選挙へのアクセスの確保を意図した1960年代以来、最も重要な投票権改革を議会で進めている。

   有権者の弾圧は、アメリカにおける白人至上主義の長年の手段であった。この物語は、1935年に出版されたアメリカのブラック・リコンストラクションのW.E.B・デュ・ボワによって最も鮮明に語られている。彼は、アフリカ系アメリカ人が、アメリカ内戦(1861-65年)で、自由のために、そして教育と勤勉を通じて、リコンストラクション期(1865-77)の市民として、完全な解放を求めて、どんなに英雄的に戦ったかを、悲惨で包括的な言葉で述べている。しかし、その解放は、多くの南部の白人の暴虐とテロに加えて、多くの北部の白人の無関心と人種差別によって、残酷に半ば踏みにじられた。当時の南部のジム・クロウ政権の中核施策は、憲法違反であるアフリカ系アメリカ人の投票権の弾圧であった。
   1960年代の公民権運動は、ジム・クロウに止めを刺してアメリカの民主主義を再構築を目指して行われた第二のリコンストラクションであった。しかし、1964年の公民権法や1965年の投票権法を含む英雄的な前進も、再び人種差別的な反発を引き起こした。議会の北部民主党が南部分離派民主党の反対を支持して法案を可決すると、民主党は2つに分裂し、リチャード・ニクソン率いる共和党は、1968年の選挙で、白人人種差別主義者に勝つために悪名高い「南部戦略」を採用した。

   南部の白人は民主党から共和党に大挙して移ったが、人種差別自体は残った。南部戦略は、大量の有権者の弾圧のための新しい戦術が続き、今回は、軽微な違反に対する非白人の大量投獄や、または、しばしば、実際の違反に基づかずに、投票を拒否したり生涯投票権を取り上げたりするなど、彼らの投票権を拒否する新戦術が導入された。
   しかし、アメリカの白人至上主義者の権力は長期的には低下している。2008年の選挙と2012年でのオバマの当選、そして2020年の初の非白人で女性のカマラ・ハリス副大統領の選出は、その証明である。これに対し、トランプは、まず州共和党当局者に選挙の集計を改ざんするよう説得し、議会が結果を証明するのを防ぐことや、結果を覆すことによって権力を維持しようとした。

   ニューヨーク大学ロースクールのブレナン司法センターは、トランプの敗北によって、現在、共和党議員が、43州で250以上の多くの有権者弾圧法案を策していると、報告している。ブレナンセンターは、「これらの提案された法案は、非白人の有権者をターゲットにし、パンデミックの影響での郵便投票などを含めて2020年の選挙で実施された選挙の方法を変更して、投票を困難にしようとしている。」と報じている。
   バイデンは、いみじくも、ジョージア州の共和党支配下の議会によって提出された投票を制限する新しい法律を、「21世紀のジム・クロウ」の明確なケースだと呼んでいる。南部の奴隷諸州が奴隷制と白人至上主義を維持し延長するために、連邦から離脱してからちょうど160年後の今、米国は、第三のリコンストラクションに至っている。一番目は、奴隷制度を終わらせるために、2回目はアメリカのアパルトヘイトを終わらせるため、そして、今回の3番目は有権者の弾圧と大量投獄を終わらせるための再構築である。(第三次リコンストラクションの指導者の一人,ウィリアム・J・バーバー2世牧師は,この挑戦を名を冠した本でビビッドに論じている。)

   アメリカの人種差別は根が深くしぶといが、死にかけている。米国下院は、投票権法以来、最も重要な投票権と政治改革法案を可決し、上院に送った。上院のこの法律S.1は、期日前投票や郵便投票、有権者の差別に対する連邦法の施行、そして、刑務所から出た有罪判決を受けた重罪犯罪者に連邦選挙での投票権の回復などを含めて、有権者の登録と投票を容易にするための国家基準を作成する。この法律はまた、キャンペーンファイナンスを改革するためにいくつかの重要な措置を講じる。

   上院はまもなくS.1を取り上げるが、白人至上主義を代表する共和党上院議員は、51の単純な過半数ではなく60票を獲得すべきだという法案で選挙妨害して、それを圧殺しようと目論んでいる。これは、分離主義者が1960年代まで公民権法案を阻止するために使用した戦術だが、1960年代には失敗しており、今回も、彼らの試みは再び失敗する可能性が高い。民主党は、白人至上主義をきっぱりと葬り去ろうとしており、人種差別主義者が再び有色人種の票を抑圧しようとしても、座視しているわけではない。上院は、米国憲法採択から230年以上経った今、すべてのアメリカ人に対する公正な投票が最終的に確保されるように、この重要な法律への選挙妨害を防ぐために規則を変更する可能性が最も高い。
   と、ザックスは希望的観測で稿を終えている。

   結局歴史の分岐点は、断末魔のトランプの悪あがきで、ジョージアの上院議員選挙で民主党が勝利して、権力が民主党側に傾いて、ザックスが説くこの結論のように、第3の復興が実現できそうなことである。

   ジャレド・ダイアモンドが、「危機と人類」で書いているが、アメリカには、自党に有利なように選挙区の区割りを頻繁に変更する「ゲリマンダー」制度があり、
   日本のように、年齢に達すれば自動的に有権者になるのではなく、各自が有権者登録を行う必要があり、人種差別などで故意に登録を拒否されたり、投票日に投票を拒否されたり、このような選挙を阻む障害が随所にあり、
   今回のように、アメリカ政府、あるいは州政府を手中に収めた政党が有権者登録をどんどん操作し、裁判所判事に同調者を送り込み、こうした裁判所を使って選挙結果に介入し、「法的処置」を発動し、警察や国家警備隊、陸軍予備軍や陸軍そのものを使って政治的反対勢力の抑圧をおこなう可能性があるなど、
   信じられないような制度が存在しており、尤も、悪用するのは共和党側のようだが、尋常な選挙システムではない上に、トランプのような常軌を逸した人物が頂点にたち常識さえ欠いた大衆が雪崩を打って迎合すると、独立以降苦難に苦難を重ねて築き挙げてきた憲法の精神も民主主義も、ひ弱な花である悲しさで、瞬時に危機に追い込まれてしまう。

   バイデン政権になって、やっと、常識的尋常な米国に立ち戻りそうになったような気がしている。
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