熟年の文化徒然雑記帳

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ダニ・ロドリック:バイデンは、未来像をFIXすべし

2021年04月13日 | 政治・経済・社会
   プロジェクト・シンジケートのDANI RODRIKの論文 ”Biden Must Fix the Future, Not the Past”  Apr 9, 2021
   を考えてみたい。
   ダニ・ロドリックは、「グローバリゼーション・パラドクス――世界経済の未来を決める三つの道」の著者で、国際経済学者である。

   バイデンの大胆な巨額の公共投資は、米国の変革にとっても有益だが、激動する時代の変遷で分岐点に立った経済の今こそ、過去の幻想に囚われずに、新しい将来ビジョンに立った未来像を確立すべきだと言うのである。

   米政権が提案した2兆ドルのインフラパッケージは、米国を変革し、それに倣う他の先進国にとっても重要な模範となろう。しかし、その可能性を達成するためには、この計画は、誤解を招く国家対市場の二分法と、時代遅れの冷戦トロープを避けなければならない。
   バイデン大統領の2兆ドルのインフラ計画は、市場が最も上手く機能し作用するという信念に基づいた新自由主義時代が去って、踊場にあるアメリカ経済にとっては、分岐点になる可能性が高い。しかし、新自由主義は死んでいるかもしれないが、何がそれに置き換えられるかはあまり明らかではない。
   米国や他の先進国が現在直面している挑戦は、20世紀初頭に直面した課題とは根本的に異なる。以前の挑戦は、ニューディールと福祉国家を生み出した。今日の問題(気候変動、新技術による労働市場の破壊、超グローバリゼーション)には、新しいソリューションが必要である。私たちは、国内で広く共有された繁栄と海外での世界的覇権を享受したあの神話化された時代へのノスタルジアではなく、新しい経済ビジョンが必要である。

   気候変動に関しては、バイデンの計画は、A・O・コルテス下院議員が提唱したグリーン・ニューディールには及ばない。しかし、電気自動車やその他の二酸化炭素排出量削減プログラムの市場支援など、グリーン経済への多額の投資が含まれており、温室化効果ガスを抑制する連邦政府史上最大の取り組みとなっている。雇用に関しては、インフラに加えて、製造業と成長業種である必須のケア経済に焦点を当てて、より良い賃金と福利厚生を提供して雇用の拡大を目論む。

   政府の役割に関する新しい考え方は、新しい優先事項として重要である。多くのコメンテーターは、バイデンのインフラ計画を、大きな政府への復帰だと考えている。しかし、このパッケージは、8年間に渡るプロジェ口で、GDPのわずか1%の公的支出の引き上げに過ぎず、最終的には収支が合う自己完結型となる。インフラへの公共投資の増加、グリーンへの移行、雇用創出問題等は、長い間、看過されてきた。たとえこの計画が、大企業に対する税金によって賄われる大きな公共投資であるにすぎないとしても、これは、米国経済にとって非常に良いことである。
   このバイデンの計画は、それ以上に価値がある。それは、経済における政府の役割と、その役割がどのように認識されているかを根本的に変える可能性がある。政府の経済的役割に対する伝統的な懐疑論は、利益動機で動く民間市場は効率的であるが、政府は無駄であるという信念に根ざしている。しかし、ここ数十年の民間市場の過剰(独占の台頭、民間金融の愚かさ、所得の極端な集中、経済不安の高まり)は、民間部門の輝きを曇らせてしまった。

   同時に、非常に多くの不確実性を特徴とする複雑な経済では、トップダウン規制が機能しえないことは今日よく理解されている。グリーン技術の推進、ホームケアワーカー向けの新しい制度的取り決めの開発、ハイテク製造のための国内サプライチェーンの深化、または成功する労働力開発プログラムの構築など、特定の分野に関わらず、政府と非政府組織との協力が、不可欠である。

   これらすべての分野で、政府は市場や民間企業、そして、労働組合やコミュニティグループなどの他の利害関係者と協力する必要がある。達成への知識と能力を持ったアクターの完全な参加で、公共目的の追求を確実にすべく、ガバナンスの新しいモデルが必要になる。政府は信頼できるパートナーになる必要があり、そして、同時に他の社会的なプレイヤーを信頼する必要がある。

   過去には、国家と市場間のバランスの過度のスイングが、同時に逆に反対方向に過度のスイングを惹起してきた。バイデン計画は、このサイクルを破ることができる。成功すれば、市場や政府が、代替としてではなく、補完役として機能し、他が、重要性を増したときに、それぞれがより良く機能し、その最も重要で永続的な遺産となり得る。

   この点に関して、バイデン計画を、世界、特に中国におけるアメリカの競争的地位を回復する方法と見なすることは、有益ではない。残念ながら、バイデン自身はこのフレーミングに誤りを犯している。このパッケージで、「今後数年間で中国との世界的な競争に勝つ立場に立つ」と、彼は最近主張しているのである。
   この方法でインフラ計画を売り込むのは政治的に魅力的かも知れない。以前には、米国が、弾道ミサイルや、宇宙競争で、ソ連が優位に立って負けていると言う恐怖感が、国家の技術動員を触発するのに役立った。
   しかし、今や恐怖を恐れる理由ははるかに少ない。党派の二極化の激しさを考えると、この計画に対して多くの共和党の支持を得ることは無理である。そして、それは実際の行動から注意をそらす。計画が、普通のアメリカ人の収入と機会を増加させるならば、それはアメリカの地政学的地位への影響に関係なく、やる価値がある。

   まして、経済学は軍拡競争とは異なる。中国の経済成長がアメリカを脅かす必要がないのと同様に、強い米国経済は中国にとって脅威であってはならない。バイデンのフレーミングは、国内の良い経済学を海外での積極的なゼロサム政策の道具に変える限りにおいては、害になる。バイデン計画に対する防衛策として、中国が、米国企業に制限を強化するとしても、中国を非難できないであろう。
   この計画は、米国を変革し、他の先進国の重要な模範となる可能性がある。しかし、その可能性を実現するためには、誤解を招く国家対市場の二分法と時代遅れの冷戦トロープを避けなければならない。過去のモデルから脱却してこそ、未来への新しいビジョンを描き得ると言うことである。

   私は、ロドリックの本は、「グローバリゼーション・パラドクス」しか読んでいないが、この本では、ロドリックは、
   「世界経済の政治的トリレンマの原理」を提示して、ハイパーグローバリゼーション、民主主義、国民国家(国民的自己決定)の三つは、当然のことだが、同時には満たすことが出来ない、三つのうち二つしか実現できない。として、三つの選択肢を提示して、検討を加えていて、
   自分の選択する道は、ハイパーグローバリゼーションを犠牲にして、民主政治の中心の場として国民国家を維持し、ブレトンウッズ体制を再構築することだ述べていた。
   Dani Rodrikは, Professor of International Political Economy at Harvard University’s John F. Kennedy School of Governmentで、新刊Straight Talk on Trade: Ideas for a Sane World Economy(貿易戦争の政治経済学:資本主義を再構築する)の著者であり、この本を読んでから、もう一度、この論文を考えてみようと思っている。
   グローバリゼーションを手放しでは喜ばない、国民国家アメリカが中心となったしっかりとした国際秩序が統べる国際社会を求めつつ、バイデンに期待しているのであろう。
コメント
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