この本の原題は、
PROPHET OF INNOVATION: Joseph Schumpeter and Creative Destruction
イノベーションの予言者:ジョセフ・シュンペーターと創造的破壊
京都の学生時代に、授業とは関係なく、経済成長と景気循環に興味を持って勉強していたので、真っ先に手に取ったのが、シュンペーターの「経済発展の理論」
そして、「資本主義・社会主義・民主主義」にも手を出したが、今思えば、読んだというか目を通したと言うだけで、良く分かっていたはずがなく、当時出ていたシュンペーター関係の本や解説書などの助けを借りて、ほぼ、シュンペーターの創造的破壊などの核心部分に振れることが出来たのだと思う。
シュンペーターの著作については、前述の2作に加えて、死後妻エリザベスの尽力で出版された「経済分析の歴史」が主著だが、恥ずかしい話、真面にシュンペーターの著作に挑戦したことが殆どない。これは、スミスやマルクスやケインズなどについても言えることで、原典を読まずに周辺知識だけで分かったような気になって、経済を論じているのに恥じ入ることがある。
さて、このマクロウの本だが、表題の通り、創造的破壊の理論を確立してイノベーションを予言したシュンペーターの完全なる伝記で、索引と詳細な注記を含めて700㌻以上の大著であり、「景気循環論」をも含めて、膨大な著作についても解説を試みており、偉大な経済学者の生涯のみならず人間シュンペーターを語っていて、非常に啓発的である。
はじめて、正面切って、シュンペーターに対峙した感じであるが、これまでに理解していた創造的破壊などを根冠としたシュンペーター経済学の理解に誤りがなかったことを確認出来てホッとしている。
シュンペーターは、創造的破壊を、「資本主義・社会主義・民主主義」で次のように述べている。
「国内外に於ける新しい市場の開拓と、職人の店や工場からUSステールなどのような大企業組織への発展は、生物学の用語で言えば、工業の突然変異と同じ過程を示している。それは経済構造を内部から休みなく革新している。古い者を不断に破壊しながら、新しい者を不断に創造しているのである。この”創造的破壊”こそ、資本主義にとって本質的な事実である。それが資本主義の存在の仕方であり、すべての資本主義の企業が生きて行かなければならない環境である。」
殆どすべての企業は、如何に強くて成功していても必ず革新に失敗して、自動車が馬車を、電灯がガス灯を凌駕したように、新しい革新技術で装備したイノベーターの追い上げ参入によって駆逐される。責任ある実業家は、足下から崩れ落ちる地盤の上に立っていて、日々、たちまち変化することが確実な環境下で事業を行っているという教訓を無視すれば命取りとなることを銘記すべきだというのである。
この記述の中に、既にシュンペーターは、ドラッカーの経営学の核心を暗示し、クリステンセンの「イノベーターのジレンマ」の思想的根拠を示している。
更に、シュンペーターの偉大なところは、この創造的破壊という革新が、資本主義だけではなく一般的な物質的進歩の牽引力であると洞察していたことである。経済学という学問に一種の創造的破壊を適用したと言われているが、色々な社会現象における進化発展を考えても、創造的破壊現象は機能しており、言い換えれば、トインビーの「チャレンジ&レスポンス」の文明発展論にも相通じる思想でもあり非常に興味深い。
また、イノベーションを起動する企業家の企業家精神を具体的に「戦略」と結びつけて経営戦略論に言及し、「ベンチャーキャピタル」という言葉をコインしたのもシュンペーターであり、アントレプレナーを論じながら、経営学の基礎を提示していて、経済学者のみならず歴史学者であり社会学者でありギリシャやローマ哲学にも通じていた博識多才の面目躍如である。
興味深いのは、ケインズが、資本主義の変化に於ける革新の重要な役割を無視すると言う致命的な過ちを犯していたことに鑑み、シュンペーターが、おしむらくも、ケインズから重要なことを学ぶと言うことを一切しなかったことである。
弱肉強食、盛者必衰、下克上の資本主義の本質が創造的破壊だと、経済格差の拡大をも避け得ぬ現象だと意に介せず、ダイナミズムの極致とも言うべき競争優位の資本主義経済を説き続けていたシュンペーターには、静態的で短期的なマクロ経済の均衡には興味がなかったのであろうか。
しかし、シュンペーターの代表的弟子のサミュエルソンやトービンなどのノーベル賞学者がケインジアンだというのが面白い。
PROPHET OF INNOVATION: Joseph Schumpeter and Creative Destruction
イノベーションの予言者:ジョセフ・シュンペーターと創造的破壊
京都の学生時代に、授業とは関係なく、経済成長と景気循環に興味を持って勉強していたので、真っ先に手に取ったのが、シュンペーターの「経済発展の理論」
そして、「資本主義・社会主義・民主主義」にも手を出したが、今思えば、読んだというか目を通したと言うだけで、良く分かっていたはずがなく、当時出ていたシュンペーター関係の本や解説書などの助けを借りて、ほぼ、シュンペーターの創造的破壊などの核心部分に振れることが出来たのだと思う。
シュンペーターの著作については、前述の2作に加えて、死後妻エリザベスの尽力で出版された「経済分析の歴史」が主著だが、恥ずかしい話、真面にシュンペーターの著作に挑戦したことが殆どない。これは、スミスやマルクスやケインズなどについても言えることで、原典を読まずに周辺知識だけで分かったような気になって、経済を論じているのに恥じ入ることがある。
さて、このマクロウの本だが、表題の通り、創造的破壊の理論を確立してイノベーションを予言したシュンペーターの完全なる伝記で、索引と詳細な注記を含めて700㌻以上の大著であり、「景気循環論」をも含めて、膨大な著作についても解説を試みており、偉大な経済学者の生涯のみならず人間シュンペーターを語っていて、非常に啓発的である。
はじめて、正面切って、シュンペーターに対峙した感じであるが、これまでに理解していた創造的破壊などを根冠としたシュンペーター経済学の理解に誤りがなかったことを確認出来てホッとしている。
シュンペーターは、創造的破壊を、「資本主義・社会主義・民主主義」で次のように述べている。
「国内外に於ける新しい市場の開拓と、職人の店や工場からUSステールなどのような大企業組織への発展は、生物学の用語で言えば、工業の突然変異と同じ過程を示している。それは経済構造を内部から休みなく革新している。古い者を不断に破壊しながら、新しい者を不断に創造しているのである。この”創造的破壊”こそ、資本主義にとって本質的な事実である。それが資本主義の存在の仕方であり、すべての資本主義の企業が生きて行かなければならない環境である。」
殆どすべての企業は、如何に強くて成功していても必ず革新に失敗して、自動車が馬車を、電灯がガス灯を凌駕したように、新しい革新技術で装備したイノベーターの追い上げ参入によって駆逐される。責任ある実業家は、足下から崩れ落ちる地盤の上に立っていて、日々、たちまち変化することが確実な環境下で事業を行っているという教訓を無視すれば命取りとなることを銘記すべきだというのである。
この記述の中に、既にシュンペーターは、ドラッカーの経営学の核心を暗示し、クリステンセンの「イノベーターのジレンマ」の思想的根拠を示している。
更に、シュンペーターの偉大なところは、この創造的破壊という革新が、資本主義だけではなく一般的な物質的進歩の牽引力であると洞察していたことである。経済学という学問に一種の創造的破壊を適用したと言われているが、色々な社会現象における進化発展を考えても、創造的破壊現象は機能しており、言い換えれば、トインビーの「チャレンジ&レスポンス」の文明発展論にも相通じる思想でもあり非常に興味深い。
また、イノベーションを起動する企業家の企業家精神を具体的に「戦略」と結びつけて経営戦略論に言及し、「ベンチャーキャピタル」という言葉をコインしたのもシュンペーターであり、アントレプレナーを論じながら、経営学の基礎を提示していて、経済学者のみならず歴史学者であり社会学者でありギリシャやローマ哲学にも通じていた博識多才の面目躍如である。
興味深いのは、ケインズが、資本主義の変化に於ける革新の重要な役割を無視すると言う致命的な過ちを犯していたことに鑑み、シュンペーターが、おしむらくも、ケインズから重要なことを学ぶと言うことを一切しなかったことである。
弱肉強食、盛者必衰、下克上の資本主義の本質が創造的破壊だと、経済格差の拡大をも避け得ぬ現象だと意に介せず、ダイナミズムの極致とも言うべき競争優位の資本主義経済を説き続けていたシュンペーターには、静態的で短期的なマクロ経済の均衡には興味がなかったのであろうか。
しかし、シュンペーターの代表的弟子のサミュエルソンやトービンなどのノーベル賞学者がケインジアンだというのが面白い。