熟年の文化徒然雑記帳

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PS:スティグリッツ「トランプの選挙勝利が米国経済に及ぼす影響 What a Donald Trump election victory would mean for the US economy

2024年09月10日 | 政治・経済・社会時事評論
プロジェクトシンジケートのジョセフ・スティグリッツ教授の「ドナルド・トランプの選挙勝利が米国経済に及ぼす影響 What a Donald Trump election victory would mean for the US economy」

   先に、「ノーベル賞受賞の経済学者16人がトランプ再選に警鐘」にふれて、この経済学者たちの代表であったスティグリッツ教授の「トランプよりバイデン、米国経済にとってどちらがよいか議論の余地なし There’s No Debating Who Would Be Better for the US Economy」を紹介して、トランプの経済政策がバイデンよりはるかに悪いことを論じた。
   今回のこの論文は、ハリス擁護、トランプ拒否のダメ押しである。

   論旨極めて明快なので、抄訳する。
   11月の米国大統領選挙は多くの理由で極めて重要であり、危機に瀕しているのは米国民主主義の存続だけでなく、経済の健全な管理であり、それは世界の他の国々に広範囲にわたる影響を及ぼす。米国の有権者は、異なる政策だけでなく、異なる政策目標の間で選択を迫られている。
   民主党候補のカマラ・ハリス副大統領は、まだ経済政策の詳細を完全に明らかにしていないが、バイデン大統領の政策の中心となる原則は維持する可能性が高く、その原則には、競争の維持、環境の保護、生活費の削減、成長の維持、国家経済の主権と回復力の強化、格差の緩和など、強力な政策が含まれている。
   対照的に、対立候補のトランプ前大統領は、より公正で強固で持続可能な経済の創出には関心がない。その代わりに、共和党候補は石炭や石油会社に白紙の小切手を提供し、イーロン・マスクやピーター・ティールのような億万長者に接近している。さらに、健全な経済運営には目標を設定し、それを達成するための政策を設計する必要があるが、ショックに対応し、トランプは前政権下で新型コロナウイルス感染症のパンデミックへの対応で惨めに失敗し、100万人以上の死者を出した。

   前例のない事態に対応するには、最善の科学に基づいた難しい判断が必要である。ハリス側の米国には、トレードオフを検討し、バランスの取れた解決策を考案する思慮深く実用的な人物がいるが、トランプは、混乱を好み、科学的専門知識を拒否する衝動的なナルシストである。60%以上の一律関税を導入するという提案だが、価格が上昇するだけであり、コストの矢面に立たされるのは低所得層と中所得層の米国人で、インフレが上昇し、FRBが金利引き上げを余儀なくされると、経済の成長鈍化、インフレ上昇、失業率上昇という三重苦に見舞われることになる。
   さらに悪いことに、トランプはFRBの独立性を脅かす極端な立場をとっている。トランプが再び大統領になれば、経済の不確実性が絶えず生じ、投資と成長が抑制され、インフレ期待が高まることはほぼ確実である。トランプが提案する税制も同様に危険で、企業と億万長者に対する2017年の減税は、追加投資を刺激できず、自社株買いを促しただけであった。トランプのようなポピュリストの扇動家は財政赤字を気にしないが、米国と海外の投資家は心配すべきである。生産性向上につながらない支出による財政赤字の膨張は、インフレ期待をさらに高め、経済パフォーマンスを低下させ、格差を悪化させるだろう。

   同様に、バイデン政権の代表的なインフレ抑制法を廃止することは、環境や、国の将来にとって極めて重要な重要分野における米国の競争力に悪影響を及ぼすだけでなく、医薬品のコストを下げてきた条項も廃止し、生活費の上昇を招くことになる。
  トランプは、また、バイデン・ハリス政権の強力な競争政策を撤回したいと考えている。この政策もまた、市場支配力を固定化し、イノベーションを阻害することで、格差を拡大し、経済パフォーマンスを弱めることになる。また、所得連動型学生ローンをより適切に設計することで高等教育へのアクセスを増やす取り組みを廃止し、21世紀の革新的経済の課題に対応するために米国が最も必要としている分野への投資を最終的に減らすことになるだろう。

   これが、米国の長期的な経済的成功にとって最も厄介なトランプの政策の特徴である。トランプ政権が再び誕生すれば、過去200年間の米国の競争優位性と生活水準の向上の源泉である基礎科学技術への資金が大幅に削減されることになる。トランプは前任期中、ほぼ毎年のように科学技術への大幅な予算削減を提案したが、非過激派の共和党議員らがこうした予算削減を阻止してきた。しかし今回は状況が異なる。共和党がトランプの個人崇拝の対象となっているからである。

   トランプがベンダーや請負業者への支払いを拒否してきた長い実績は、同氏の性格を物語っている。同氏は権力を行使して誰からでも奪おうとする横暴者である。だが、暴力的な反乱分子を公然と支持するようになることで、さらに大きな問題となる。法の支配は、単に私たちが大切にすべきものというだけでなく、経済と民主主義の健全な機能にとって極めて重要である。2024年の秋を迎えるにあたり、今後4年間で経済がどのようなショックに直面するかは分からない。しかし、これだけは明らかだ。ハリスが当選すれば、2028年の経済ははるかに強くなり、より平等になり、より回復力が高まっているであろう。

   さて、この論文で、特に強調しているのは、トランプが、最善の科学に基づいた難しい判断が出来ず、科学的専門知識を拒否する衝動的なナルシストであること。
   米国の長期的な経済的成功にとって最も重要な経済政策である科学技術振興に対して消極的で、トランプ政権が再び誕生すれば、過去200年間の米国の競争優位性と生活水準の向上の源泉である基礎科学技術への資金が大幅に削減されることになる。イノベーションを阻害するのみならず、経済パフォーマンスを弱めて国の将来にとって極めて重要な分野における米国の国際競争力を棄損する。
   トランプの一枚看板「MAGA」の真逆の愚行である。

   ここでは論じられていないが、トランプは勿論、保守党の基本政策は、弱肉強食の市場経済至上主義であって、強者・富者優先であり、労働者や経済的弱者のための経済政策など微塵もない。
   なぜ、疎外された白人労働者たち、保守党が見向きもしない弱者貧者たちが、トランプを岩盤支持層となって囃し立てるのか、
   今や、保守党は、穏健派が弱体化して、トランプ一色のカルト集団のように変身してしまっているので、独裁者トランプの脅威は尋常ではない。

   民主党は、今回の選挙で、明確に主義信条において一線を画すべきであって、徹底的に、中間層重視の政策を協調して、本来のリベラル色を前面に押し出して、真の国民政党に脱皮すべきである。
   リフレッシュしたハリスなら出来る。
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