熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

NHK:インドの衝撃・・・湧き上がる頭脳パワー

2007年11月25日 | 政治・経済・社会
   年初に放映されたようだったが見なかったので、NHKスペシャル報道班編「インドの衝撃」を読んだ。
   三部構成だが、最初の「湧き上がる頭脳パワー」が、今世紀のインドの衝撃的なグローバル舞台への登場を最も如実に語っていると思った。
   ゼロを発見したインド人の数学能力の卓越性は昔から有名であったが、やはり、その最も重要なスタートは、200年のイギリス支配からインドが独立した1947年に、時のネルー首相が、唯一の資源「頭脳パワー」による「頭脳立国」を標榜し、建国の為に、ダムや発電所、道路など国家の基盤となるものすべてを自ら作り出すことを企図して、 技術エリートの養成を目指して設立したIIT(インド工科大学)そのものであろう。

   IIT設立の場所は、多くのインドの知識人が、インド独立の為に戦って犠牲になった政治犯を収容していたイギリスの刑務所の跡・カルカッタに近いカラグプルである。
   同校の正面にネルーがモットーとした言葉:国家の為に身を奉げる(Dedicated to the service of the Nation)が掲げられていると言うが、NHKの取材では、必死に学ぶインドの若者達は、すべて異口同音に国家のため人のために頑張って勉強しているのだと言う。

   多くの優秀な技術者や学者を輩出し続けたIITだが、経済の低迷した貧しいインドには活躍の場がなく、多くはアメリカなど海外に出かけて行かざるを得なかった。
   しかし、1990年代に入って、ゴア副大統領の「情報スーパーハイウエイ構想」とインターネットの民間解放に呼応して爆発的に進展したIT革命が、IIT出身のインドパワーを炸裂させたのである。
   コンピューターソフトの需要が増加して、アメリカのIT企業の中枢に多くのIIT出身者が活躍しており、シリコンバレーをITブームにした起業家たちの15%がインド人でその殆どがIIT出身であった為に、同じくIIT出身でボストンに事務所を構えていたムルティのインフォシスなどを積極的に後押しし、一挙に、IT産業のアウトソーシング、オフシャリングが、インドに伝播して行ったのである。
   一世を風靡したフリードマンの「フラット化する世界」を発想させたのは、バンガロールにおいて、インフォシス本社で、ナンダン・ニレカニCEOの示唆であるといっているが、長い間眠り続けていた悠久の国インドが、何千年紀ぶりに世界文明の中心に躍り出たことを示す感動的な逸話である。

   農業や工業が、まだ、発展途上国の著についたばかりの貧しいインドが、一挙に最先端の情報産業にキャッチアップして、ロストウなどの経済発展論を覆してしまったのである。
   リチャード・フロリダの説く知が総てを制する「クリエイティブ・クラスの時代」の到来であり、国の命運を決するのは、軍事力でも鉄でも天然資源でも資本でもなく、頭脳なのであると言う厳粛な事実を如実に物語っている。

   このIITだが、学問水準はとも角、入試難易度は、アメリカのMITより遥かに高い超難関校であると言う。
   NHKは、この超難関校IITを突破する為に、最も貧しいビハール州のトタン屋根の予備校に犇めき合って必死に学ぶインドの若者達の感動的な姿を活写している。
   ケンブリッジ大学に招聘されながら渡航費など工面できなくて涙を飲んだ偉大な数学者アーナンド・クマールが、二度と子供たちに同じ苦渋を味わわせない為に、自力でトタン屋根の「ラマヌジャン数学アカデミー」を設立し、貧しい優秀な子供たちに奨学金を与え、IIT合格率ナンバーワンの学校を作り上げてしまったのである。

   世界のトップ企業を支える技術を開発し続けるインフォシスの快進撃の秘密は、頭脳が総てだと、ムルティは言う。
   成功の秘訣は、優秀な人材に拘り続けたことで、その優秀な人材に、品質の高いテクノロジーを備えさせ、彼らが存分に力を発揮出来るようしてきたことだと言うことだが、常に自分より優秀な人材に囲まれていなくてはならない環境を作り上げたということでもある。
   
   文部科学省が中心になって偉い人たちが、色々と日本の教育のことについて熱心に議論を展開しているが、バカな考え休むに似たりで、国立大学も独立行政法人化して多少突き放したお陰で独立独歩の革新的な歩みをし始めてきた。
   これほど文化文明の成熟した日本であるから、教育基本思想さえしっかりしておれば、ロクスッポ勉強もしてこなくて功なり名を遂げた学識経験者(?)などの諮問や意見など無視して、学校教育は出来る限り自由な運営に任せて、モラル欠如の学校やNOVAのようにのりを外せば行政介入すれば良いと思っている。
   欧米の水準には到底及ばず、インドや中国の追い上げについて行けるはずもない日本の教育をどうするのか、たった一人の優秀な人材を育成する為にも少なくとも最低25年を要するのだが、このままでは今世紀後半の日本の将来が思いやられると言うものであろう。
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