熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

桐竹勘十郎お園で外人記者達を魅せる

2007年02月06日 | 観劇・文楽・歌舞伎
   夜7時から日本外人記者クラブで、文楽人形遣い桐竹勘十郎が、文楽について語り、そして、「艶姿女舞衣」のお園を演じて、多くの外人記者達を魅了した。

   文楽の歴史などを紐解いてから、まず文七の首を持って首根っこの紐を操りながら目や眉や顔の表情を説明し、お園の首に持ち替えて女の人形のまた違った扱い方を説明する。爽やかで丁寧な語り口である。
   女形の人形は柔らかく握って優しく扱うのがコツで、そうすることによって女らしさが滲み出るのだと実演する。人形の動きは実に優しくて手の動きが優雅である。
   歌舞伎では、玉三郎の清姫や亀治郎のお七の人形は意識してギコチなく演じていたが、文楽人形ではあんなぎこちなさは全くなくて、実にスムーズでスマートなのである。

   外人たちが食い入るように見ていたのは、右手の動きとそれを追う目線で、これが一致しないと芸がチグハグニなってぶっ壊しになるというくだりである。
   確かにそう言われて見ていると、成る程と感心するのだが、これは主遣いが首と右手を操って人形の動きをコントロールしているからであろう。
   我々の場合は、普通、右手と目線とは関係なく、両方の動きが一致する方が稀かもしれないのである。
   頭と肩の動きで人形の動きを左遣いと足遣いに教え、足遣いは主遣いの左腰にしっかりとくっ付いて動く様子など三人遣いの極意を説明しながら、編成が変わるので主も左も足も何でも遣えなければならないのだと説明していた。
  
   一通り説明した後、狭い演壇に立って黒衣をつけた左遣い(吉田勘弥)と足遣い(吉田簔紫郎)を従えて、バックミュージックに流れる義太夫語りに合わせて「艶姿女舞衣」のお園を演じ始めた。
   あの有名な「今ごろは半七さん、どこでどうしてござろうぞ」と言うお園の口説きのところで、芸者に現を抜かして一顧だにされない処女妻のただでさえ哀切極まりない場面だが、流石に東西随一の女形の簔助の一番弟子で飛ぶ鳥を落とす勢いの勘十郎であるから実に優雅で美しい。
   大阪の文楽劇場では空いているので被り付きで見ることもあるが、東京ではないので、今夜のように5メートル程の至近距離での鑑賞は臨場感豊で楽しい。

   一通り終わった後で、質問コーナーになり、正に被り付きで食い入るように見て写真を撮っていた辛口の日本学で有名なカレル・ヴァン・ウォルフレン氏が真っ先に質問に立った。
   歌舞伎は見ないが文楽は好きだと言いながら、文楽と歌舞伎との関連や古典と新作等々について聞いていた。
   新しい文楽も出てくるが線香花火のように消えてしまう、古典の魅力は計り知れない、と勘十郎は答えていた。

   イタリア女性記者が、80歳の老人形遣いが乙女を遣ったり、人形遣いは年寄ほど上だが体力など問題ないのかと、年と人形遣いの関係を聞いていた。
   人形が違うだけで遣う人形が若くても年とは関係ないと笑わせながら、先輩人形遣いは気が若くて頑張ってドンドン進んで行くので追いつくのが大変である。この気の若さが衰えると駄目で、確かに体力が衰えると重い人形が遣えなくなると勘十郎は説明していた。
   中国の女性記者に演じている途中、自分の顔の表情も人形の表情に合わせるのかと聞かれて、最初はそうだったようだが、師匠にお前が顔の表情を合わすのなら人形は要らんと怒られてからポーカーフェイスになったのだと答えていた。

   日本人記者に、文楽は何時まで持つのかと聞かれて、教えて頂きたいが100年は持たせたいと言いながら、これだけは言いたいと言って、文楽のライブ鑑賞の大切さを強調していた。
   ビデオやDVDなどまがい物があるが、文楽はライブに限る、とにかく、劇場まで足を運んで見て欲しいと言いながら、古典文楽の魅力を熱っぽく語っていた。

   後継者の育成について聞かれ、30年続けているが、ある年代でダンゴ状態に人材が滞っていて、これらの人材の育成の為に、組織を二分割するなど何かして、若手に出来るだけ早く登板するチャンスを与えるなど、古いベテランの師匠たちが生きている間に芸を継がせたいと思っているとも語っていた。

   お園の顔を近くで見て、初めて口の右側に小さな棘状の釘が打ち付けてあるので、袖の袂や手ぬぐいを噛み締める仕草が出来るのだと言うことを知った。
   このような素晴らしい先人の知恵の蓄積で文楽が息づいているのですねえ、と言ったら勘十郎丈はそうですねえとニッコリ笑っていた。
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