熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

イノベーションと経営(11)・・・イノベーションよりリノベーション

2006年04月18日 | イノベーションと経営
   事業の発展を目指すのであれば、イノベーションなど止めてリノベーションをやれ、と言う勇ましい議論を展開しているのが、元コカ・コーラのマーケティング最高責任者であったセルジオ・ジンマンである。
   ペプシの追い上げを避ける為に出したイノベーション製品ニューコークが失敗して、たった77日間で元のクラシックコークを再登場させた苦い経験から学んだ教訓に基づく持論を展開しているのである。

   「そんな事業なら、やめてしまえ! RENOVATE BEFORE YOU INOVATE」と言う著書。原題どおり、「イノベートする前にリノベートせよ」と言うべきだが、多くの実際の企業を例示して説明しているので、面白いし説得力もある。

   イノベーションは、既存の資産とコア・コンピタンシー(中核となる事業能力)を既存の事業とは異なることを行う為に活用し、新製品や新サービスを創造することであるが、消費者に買うように説得しなければならない。
   一方、リノベーションは、既存の資産と事業能力を利用して何か別のことをするのではなく、それらを利用してより優れたことをすること、企業の基本的な部分には手を付けないでグレードアップすることである。
   リノベーション(本業の見直し・改善etc)は、まず売れるものは何かを考えて顧客が本当に望む製品やサービスを提供し、企業のコア・アッセンスと顧客との間で確立された関係を利用するので成功の確率が高い、と言う。

   事業の成功のためには、企業のコア・コンピテンシー、コア・エッセンス、資産やインフラストラクチュアの3要素がバランス良く機能することが必要だと言うが、ジンマンは、リノベーションのためには、コア・エッセンスが最も重要だと強調している。
   コア・エッセンスとは、何か。非常に抽象的なので分かり難いが、顧客や消費者が共通して持っている企業やブランドに抱いているイメージや期待、彼らの心に投影している姿、ブランドが顧客達に約束しているものetc.
   このコア・エッセンスに沿った事業戦略を打ち出して、消費者に確実に実現を約束できるように、必要かつ適当なコア・コンピタンシーと資産を確保するのである。

   ジンマンが例示しているのはiPodである。
   このiPodは、クリエイティブなハイテクによる楽しさがアップルのコア・エッセンスなので、この理論的延長線上の製品で、音楽ファイルをダウンロードして保存して聞いて楽しむと言う風潮を利用して、それを簡単にしただけで、コア・コンピタンシー(音楽ソフトを保存する方法等)は買収して資産を整備したのだと言うのである。
   後段で、リノベーションの手法について競争的枠組みを説いている所で、ロシアでコカコーラを売り出した時に、競争相手は市バス(何故なら貧しくて市バスに乗るかコークを飲むかの選択)だったと述懐していたが、ソニーのウオークマンの天敵は同業者ではなかったことを示していて面白い。

   ジンマンは、イノベーションが如何に企業にとってコストと時間を要して大変かを、多くの企業のイノベーションの試みを例示して、その失敗と蹉跌について説明していて謎解きのようで興味深い。
   基本的なポイントは、リノベーションは、まず最初に何が売れるのかを考えて、企業のコア・エッセンス、即ち、顧客が当該企業に期待する、その企業のイメージどおりの製品を開発して提供するのであるから、リスクは少ないと言うことであろうか。
   しかし、イノベーションの場合は、海のものとも山のものとも分からない新製品や新サービスを創造して顧客に提供するのであるから、場合によっては、企業の経営資源を新プロジェクトにシフトし、膨大なコストと時間を要し、販売促進を行わねばならないのであるから、確かに、リスクが高い。
   このあたりは、クリステンセンの「イノベーションのジレンマ」で、何故、リーディング企業が破壊的イノベーションに対応できずに新規参入企業に出し抜かれて没落してゆくのか、論述されているので自明である。

   良く考えてれば、現在、その業界のトップ企業のコア・ビジネスを良く見てみれば、その企業がイノベーションしたのではなく、別のイノベーターが開発した製品やサービスである場合が多い。
   これも言ってみれば、イノベーションではなくてリノベーションで、今では目を見張るような革新的な会社に変身してしまったが、昔のマネシタデンキの手法がもっとも有効と言うことであろうか。

   このジンマンの本は、日本語の本のタイトルが挑戦的なので誤解を招きそうだが、実務家の書いた実に有益な経営学書である。

(追記)椿は、花仙山。
   

   

   
   
   
   
   
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