熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

インド経済のアキレス腱インフラの整備

2007年05月29日 | 政治・経済・社会
   好調なグローバル経済を支えているのが中国とインドと言われるくらい両国の経済的躍進は凄まじい。
   BRIC’sと言っても、ブラジルはまだ眠っているし、ソ連は元々超大国でありながら一時崩壊の危機に直面していたのが、今日やっと石油価格の高騰など資源外交が効を奏して立ち直った状態で、年率10%近い経済成長を継続しながら成長を続ける中印に世界が注目するのも無理はない。
   しかし、問題は、この中国もインドも、大国でありながら政治経済的にはまだ発展途上国の段階にあり、国内には、膨大な貧困に喘ぐヒンターランドを抱えており、この解決が難しい。
   その上、インドの場合は、先を行く中国と違って、経済発展を支える大動脈とも言うべきインフラストラクチュアが極端に貧弱であるので、この早急なる整備拡充が急務となっている。

   早大の「インド経済シンポジウム」の二日目、インド経済発展の最大のアキレス腱であるインフラストラクチュアの整備、特に、そのファイナンスと開発政策に集中して議論が展開された。
   経済発展を阻害している貧弱なインフラに加えて、さらに深刻な貧困と格差を解消するためのソーシャル・インフラの整備など、貧しいインドにとって、気の遠くなるような課題が前途に横たわっている。

   インド政府の高官達は、壮大なインフラ整備計画をぶち上げ、厳しいチャレンジではあるが、同時に、空前絶後のビジネス・チャンスであると力説する。
   道路、空港、港湾、電力、上下水道、鉄道、通信等々あらゆるインフラ整備が必要で、ムンバイからデリーまで、或いは、コルコタからデリーまで、港に陸揚げされた貨物の運送が、たった千数百キロの道のりを何日も時には1ヶ月もかかり、或いは、電力不足の為に自家発電機を設置しないと持続して操業が継続出来ないと言うのである。
   従って、インド経済にとっては、これらのインフラ整備は必須であり、現在存在する1.5~2億人の富裕層が年間2500万人ずつ増加しており、益々、これらの人々からの質の高いインフラとユティリティやサービスの需要が拡大して行くので、民間及び外資によるPPPへの参画は、非常に有望な投資機会となること間違いないと言うのである。

   元々、インド経済は内需、国内のサービス産業と消費によって支えられてきたのが、アメリカ企業のバックオフイス業務のアウトソーシングが引き金になってIT産業が急拡大して経済成長を主導してきたのだが、その80%は外需に頼っており、M&Aで躍進著しいタタグループを筆頭に製造業も始動しはじめたがまだ揺籃期にあり、農業にいたっては依然不十分な状態にある。
   中国の経済的過熱とその先行きに不安を感じている筋も多いが、私自身は、それよりも、発展途上国でありながら、製造業と農業が遅れてサービス産業だけが突出している跛行的経済構造で、しかもインフラが極端に脆弱であり、更に一日1ドル以下で生活している最貧困層が20%も存在する貧しいヒンターランドを抱えた二重国家インドの方が、経済的リスクは高いと思っている。

   インド政府高官は、日本の場合は、一般投資家のインド株などへの投資は熱心だが、プロジェクト等への投融資には消極的であると言っていたが、為替リスクの問題以外にも、PFIと違って、初期の段階でインド政府が出資者として参画すると言うPPP方式そのものにも不明確な点が多くて、現段階では、おいそれと長期的なリスクを取って参画するなど中々難しいであろう。

   さて、昔、ケネディ大統領に志願してインド大使となったガルブレイスが、何かの論文か演説で、インドの経済開発へのアドバイスで
「貧しいインドにとって大切なことは教育の充実である。勉強すれば、鍬を取ることを悟る。」と言っていたのを覚えている。
   ガルブレイスがインドに興味を持ったのは、貧困問題と、素晴らしい歴史と文化だったと言っているが、面白いのは、コンピューター技術の開発支援をしたと言うことであった。
   シリコンバレーで多くのインド人起業家がIT関連事業を起こしたが、これらの企業家を通じてのアウトソーシングがインドのIT事業の発展をもたらしたのだが、40年経ってこのガルブレイスの努力が実ったのかも知れないと思うと面白い。
   しかし、残念ながら、肝心の初等中等教育など基礎教育の充実は上手く行かなかったようで、その後著しい発展はなかったようである。

   インドのハードとしてのインフラは経済力で推進出来たとしても、初等教育では、入学はするものの卒業できずにドロップアウトする率が極めて高いと言うことは、インド社会に内在する深刻な貧困問題とカースト制度などによる極端な差別と格差が教育の継続を阻んでいることを物語っており、環境・健康・医療などといった幅広いソフト面を含めたソーシャル・インフラの整備の困難さを如実に示している。
   インド経済については、ばら色の未来のみが強調されているのだが、前途は多難である。
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