プロジェクト・シンジケートに、KENNETH ROGOFFが、
The Dollar’s Fragile Hegemony Mar 30, 2021を掲載した。
ラインハートとの共著「国家は破綻する――金融危機の800年」の著者である。
Gゼロ時代で、アメリカが覇権を失ったと言うことと関連して、ロゴフ教授は、ドルの覇権も人民元の猛追で危ないというのである。
ロゴフ教授の論点は、以下の通りである。
今日、米国の政策立案者や多くのエコノミストの間には、世界のドル債務に対する選好は事実上止まることがないという信仰に似た思い入れがある。しかし、中国の為替レート管理の近代化が進めば、ドルの地位を痛撃する可能性がある。と言う。
強大な米ドルは、世界市場で卓越した地位を占め続けている。しかし、中国の為替制度の将来の変化が、国際通貨秩序の大きな転換を引き起こすことが考えられるので、グリーンバックの優位性はより脆弱となろう。
多くの理由から、中国当局は、いつか人民元を通貨バスケットにペッギングするのをやめて、為替レートを、特にドルに対して、はるかに自由に変動することを可能にすべく、近代的なインフレターゲティング体制に移行するであろう。そうなれば、アジアの大部分が中国に従う可能性があるので、現在世界のGDPの約3分の2のアンカー通貨であるドルは、そのウエイトのほぼ半分を失う可能性がある。と言うのである。
米国が、ドルの特別な地位にどれだけ依存しているか、あるいは当時のフランスのディスカールデスタン財務大臣が、巨額の公的および民間の借り入れ資金を調達するためのアメリカの「法外な特権」と呼んだものを考慮すると、そのようなシフトの影響は、非常に大きい。米国がCOVID-19の経済的荒廃と戦うために積極的に膨大な借金を積み重ねてきたことを考えると、債務の持続可能性が、大いに疑問となる。
より柔軟な中国通貨への長年の議論は、中国の資本規制が何らかの隔壁を儲けたとしても、中国は、その経済を、米連邦準備制度理事会(FRB)に調子を合わせて踊るには大きすぎる。中国のGDP(購買力平価で測定)は2014年に米国を上回っており、そして、依然として米国やヨーロッパよりもはるかに急速に成長しており、為替レートの柔軟性を高めることが益々急務となってきているのである。
最近の問題は、ドルが中心であるから、米国政府に世界的な取引情報へのアクセスが集中しており、これはヨーロッパでも大きな懸念事項となっている。原則として、ドル取引は世界のどこでもクリアできるが、米国の銀行やクリアリングハウスは、危機の時に、無制限に通貨を発行する能力を持つFRBによって暗黙のうちに(または明示的に)バックアップされているので、大きな当然の利点を持っている。これと対照的に、米国外のドル清算機関は、常に信頼の危機にさらされており、ユーロ圏でさえ苦労している。
さらに、トランプ元米大統領の対中貿易への強硬政策は、犬猿の仲の民主党と共和党が合意する数少ない案件の一つであって容易に解消されるはずもなく、貿易の反グローバリゼーションの動きが、ドルを損なうことに疑問の余地はない。
中国の政策立案者は、現在の人民元ペッグから脱却しようとする際に多くの障害に直面してはいるが、独特なスタイルで、ゆっくりと多方面で着実に基礎的な準備を進めている。中国は徐々に外国の機関投資家に人民元債の購入を許可しており、2016年に、IMFは、特別引出権(SDR)の価値を決定する主要通貨バスケットに人民元を追加した。
また、中国人民銀行は、中央銀行がデジタル通貨を開発する上で、他の主要中央銀行よりもはるかに先行している。現在は純粋に国内使用向けだが、PBOCのデジタル通貨は、特に中国の通貨圏に入った国では、最終的には人民元の国際的な使用を促進する。これは、現在のシステムが米国に多くの情報を与えるのと同様に機能する、中国政府にデジタル人民元ユーザーの取引窓口を与えることになる。
他のアジア諸国は中国に従うであろうか? 米国は、確かにドル経済圏の拡大維持にこれ勤めるであろうが、それは上り坂との戦いであって、米国が19世紀末に世界最大の貿易国として英国を凌駕したように、中国はずっと前に同じ方法でアメリカを上回っている。
確かに、日本とインドは自分の道を行くかもしれない。しかし、中国が、人民元をより柔軟にすれば、少なくとも外貨準備において、ドルに匹敵する重みを通貨に与えるであろう。
今日のアジアでのドルとの結びつきは、1960年代から1970年代初頭にかけてのヨーロッパ情勢と顕著な類似点がある。しかし、その時代は、高いインフレと戦後のブレトンウッズ体制の固定為替制度の崩壊で終わった。その後、ヨーロッパの大部分は、欧州内貿易が米国との貿易よりも重要であると認識し、その数十年後には、単一通貨ユーロに変身したドイツマルク圏の出現につながった。
これは、中国人民元が一晩で世界通貨になるという意味ではない。ある支配的な通貨から別の通貨への移行には長い時間がかかる。例えば、第一次世界大戦と第二次世界大戦の間の20年間、新規参入者であるドルは、1800年代初頭のナポレオン戦争の後、1世紀以上にわたり支配的な世界通貨であった英国ポンドとほぼ同じ中央銀行の準備金としての地位を得たのである。
では、ユーロ、人民元、ドルの3つの世界通貨の併存が何が悪いのか? 市場も政策立案者も、そのような移行に対して遠隔で準備しているようには見えないと言う点を除いては、何もない。米国政府の借入金利はほぼ確実に影響を受けるだろうが、本当に大きな影響は、企業の借り手、特に中小企業に響く。
今日、米国の政策立案者や多くのエコノミストの間では、世界のドル債務に対する選好は崩れないという信仰がある。しかし、中国の為替レートの取り決めがより近代化されれば、ドルの地位に痛撃を与えることになる。
と結論づけているのである。
ドルが覇権を失えば、通貨発行益であるシニョリッジ(seigniorage, seignorage)を失うなど、アメリカが、ドルが基軸通貨であったことによって享受してきた多くの特権や利権を失うことになって、それが、中国に移るとなると、上下違ってくるので、大きな落差でドラスティックに勢力が逆転する。
私がここで注目したいのは、ロゴフが、2014年に、既に、購買力平価のGDPで中国がアメリカを凌駕しており、中国が経済的にトップに躍り出ていると指摘していることである。
調べてみたら、得られたエヴィデンスは、次の世銀の2017年の統計で、下記のように記録されていて、中国のGDPがアメリカを超えている。
Expenditure (billion US$) Based on PPPs United States USA 19,519.4 China CHN 19,617.4
最近、イギリスの民間の調査機関が、中国のGDPが2028年にはアメリカを上回って世界1位になると言う予測を発表した。
大分前の話になるが、前世紀前半に頂点を極めた錆び付いたニューヨークの摩天楼と上海のモダンな金ぴかの超高層ビル群を同時に見て、既に勝負が付いていると感じたことを覚えている。
後は、一人あたりのGDPの数字だが、元々、中国は、先進国と発展途上国の同居した二重国家であるから、上海や北京など先進ゾーンがアメリカを凌駕すれば、それで十二分であろう。
現下においても、中国経済は、年率成長率がアメリカの二倍以上で成長を続けており、この傾向が止まりそうにないので、ロゴフが認めているように、名実ともに、アメリカの覇権のみならず、基軸通貨としてのドルの覇権も中国に奪われてしまう、すぐというわけではないが、徐々に、ドルの優位性が蚕食されてゆくと言うことであろう。
情報化知識産業化社会であり、ICT,デジタル革命によるAIやビッグデータの時代であるから、戦争など出来ないであろうから使いようのない軍拡競争よりも、金融や財政など経済情報が集積する国家や社会に、パワーが集中するのは必然であって、今や、国威の発揚や推移が、下部構造で大きく動きそうだというのは、非常に興味深いことだと思っている。
The Dollar’s Fragile Hegemony Mar 30, 2021を掲載した。
ラインハートとの共著「国家は破綻する――金融危機の800年」の著者である。
Gゼロ時代で、アメリカが覇権を失ったと言うことと関連して、ロゴフ教授は、ドルの覇権も人民元の猛追で危ないというのである。
ロゴフ教授の論点は、以下の通りである。
今日、米国の政策立案者や多くのエコノミストの間には、世界のドル債務に対する選好は事実上止まることがないという信仰に似た思い入れがある。しかし、中国の為替レート管理の近代化が進めば、ドルの地位を痛撃する可能性がある。と言う。
強大な米ドルは、世界市場で卓越した地位を占め続けている。しかし、中国の為替制度の将来の変化が、国際通貨秩序の大きな転換を引き起こすことが考えられるので、グリーンバックの優位性はより脆弱となろう。
多くの理由から、中国当局は、いつか人民元を通貨バスケットにペッギングするのをやめて、為替レートを、特にドルに対して、はるかに自由に変動することを可能にすべく、近代的なインフレターゲティング体制に移行するであろう。そうなれば、アジアの大部分が中国に従う可能性があるので、現在世界のGDPの約3分の2のアンカー通貨であるドルは、そのウエイトのほぼ半分を失う可能性がある。と言うのである。
米国が、ドルの特別な地位にどれだけ依存しているか、あるいは当時のフランスのディスカールデスタン財務大臣が、巨額の公的および民間の借り入れ資金を調達するためのアメリカの「法外な特権」と呼んだものを考慮すると、そのようなシフトの影響は、非常に大きい。米国がCOVID-19の経済的荒廃と戦うために積極的に膨大な借金を積み重ねてきたことを考えると、債務の持続可能性が、大いに疑問となる。
より柔軟な中国通貨への長年の議論は、中国の資本規制が何らかの隔壁を儲けたとしても、中国は、その経済を、米連邦準備制度理事会(FRB)に調子を合わせて踊るには大きすぎる。中国のGDP(購買力平価で測定)は2014年に米国を上回っており、そして、依然として米国やヨーロッパよりもはるかに急速に成長しており、為替レートの柔軟性を高めることが益々急務となってきているのである。
最近の問題は、ドルが中心であるから、米国政府に世界的な取引情報へのアクセスが集中しており、これはヨーロッパでも大きな懸念事項となっている。原則として、ドル取引は世界のどこでもクリアできるが、米国の銀行やクリアリングハウスは、危機の時に、無制限に通貨を発行する能力を持つFRBによって暗黙のうちに(または明示的に)バックアップされているので、大きな当然の利点を持っている。これと対照的に、米国外のドル清算機関は、常に信頼の危機にさらされており、ユーロ圏でさえ苦労している。
さらに、トランプ元米大統領の対中貿易への強硬政策は、犬猿の仲の民主党と共和党が合意する数少ない案件の一つであって容易に解消されるはずもなく、貿易の反グローバリゼーションの動きが、ドルを損なうことに疑問の余地はない。
中国の政策立案者は、現在の人民元ペッグから脱却しようとする際に多くの障害に直面してはいるが、独特なスタイルで、ゆっくりと多方面で着実に基礎的な準備を進めている。中国は徐々に外国の機関投資家に人民元債の購入を許可しており、2016年に、IMFは、特別引出権(SDR)の価値を決定する主要通貨バスケットに人民元を追加した。
また、中国人民銀行は、中央銀行がデジタル通貨を開発する上で、他の主要中央銀行よりもはるかに先行している。現在は純粋に国内使用向けだが、PBOCのデジタル通貨は、特に中国の通貨圏に入った国では、最終的には人民元の国際的な使用を促進する。これは、現在のシステムが米国に多くの情報を与えるのと同様に機能する、中国政府にデジタル人民元ユーザーの取引窓口を与えることになる。
他のアジア諸国は中国に従うであろうか? 米国は、確かにドル経済圏の拡大維持にこれ勤めるであろうが、それは上り坂との戦いであって、米国が19世紀末に世界最大の貿易国として英国を凌駕したように、中国はずっと前に同じ方法でアメリカを上回っている。
確かに、日本とインドは自分の道を行くかもしれない。しかし、中国が、人民元をより柔軟にすれば、少なくとも外貨準備において、ドルに匹敵する重みを通貨に与えるであろう。
今日のアジアでのドルとの結びつきは、1960年代から1970年代初頭にかけてのヨーロッパ情勢と顕著な類似点がある。しかし、その時代は、高いインフレと戦後のブレトンウッズ体制の固定為替制度の崩壊で終わった。その後、ヨーロッパの大部分は、欧州内貿易が米国との貿易よりも重要であると認識し、その数十年後には、単一通貨ユーロに変身したドイツマルク圏の出現につながった。
これは、中国人民元が一晩で世界通貨になるという意味ではない。ある支配的な通貨から別の通貨への移行には長い時間がかかる。例えば、第一次世界大戦と第二次世界大戦の間の20年間、新規参入者であるドルは、1800年代初頭のナポレオン戦争の後、1世紀以上にわたり支配的な世界通貨であった英国ポンドとほぼ同じ中央銀行の準備金としての地位を得たのである。
では、ユーロ、人民元、ドルの3つの世界通貨の併存が何が悪いのか? 市場も政策立案者も、そのような移行に対して遠隔で準備しているようには見えないと言う点を除いては、何もない。米国政府の借入金利はほぼ確実に影響を受けるだろうが、本当に大きな影響は、企業の借り手、特に中小企業に響く。
今日、米国の政策立案者や多くのエコノミストの間では、世界のドル債務に対する選好は崩れないという信仰がある。しかし、中国の為替レートの取り決めがより近代化されれば、ドルの地位に痛撃を与えることになる。
と結論づけているのである。
ドルが覇権を失えば、通貨発行益であるシニョリッジ(seigniorage, seignorage)を失うなど、アメリカが、ドルが基軸通貨であったことによって享受してきた多くの特権や利権を失うことになって、それが、中国に移るとなると、上下違ってくるので、大きな落差でドラスティックに勢力が逆転する。
私がここで注目したいのは、ロゴフが、2014年に、既に、購買力平価のGDPで中国がアメリカを凌駕しており、中国が経済的にトップに躍り出ていると指摘していることである。
調べてみたら、得られたエヴィデンスは、次の世銀の2017年の統計で、下記のように記録されていて、中国のGDPがアメリカを超えている。
Expenditure (billion US$) Based on PPPs United States USA 19,519.4 China CHN 19,617.4
最近、イギリスの民間の調査機関が、中国のGDPが2028年にはアメリカを上回って世界1位になると言う予測を発表した。
大分前の話になるが、前世紀前半に頂点を極めた錆び付いたニューヨークの摩天楼と上海のモダンな金ぴかの超高層ビル群を同時に見て、既に勝負が付いていると感じたことを覚えている。
後は、一人あたりのGDPの数字だが、元々、中国は、先進国と発展途上国の同居した二重国家であるから、上海や北京など先進ゾーンがアメリカを凌駕すれば、それで十二分であろう。
現下においても、中国経済は、年率成長率がアメリカの二倍以上で成長を続けており、この傾向が止まりそうにないので、ロゴフが認めているように、名実ともに、アメリカの覇権のみならず、基軸通貨としてのドルの覇権も中国に奪われてしまう、すぐというわけではないが、徐々に、ドルの優位性が蚕食されてゆくと言うことであろう。
情報化知識産業化社会であり、ICT,デジタル革命によるAIやビッグデータの時代であるから、戦争など出来ないであろうから使いようのない軍拡競争よりも、金融や財政など経済情報が集積する国家や社会に、パワーが集中するのは必然であって、今や、国威の発揚や推移が、下部構造で大きく動きそうだというのは、非常に興味深いことだと思っている。