ヤンゴン中央駅には長距離列車と近郊列車が入り乱れてそれなりの本数が発着し、とくに午前9時前後と午後2時台、夕方5時前後は退屈しないほど頻繁に (?) 列車が行き交っていますが、そんなヤンゴン中央駅界隈における一日の撮影のスタートに相応しい存在が、ナゾの新首都ネーピードー (さすがに最近は外国人観光客も立入可能になったようですが) へ向かう急行31レです。朝7時からの宿の朝食をゆっくりと味わってダラダラと撮影スポットへやって来ると丁度この列車がやって来るというタイミングですし、これよりも早い時間帯は光量がイマイチ不足しますので、このネーピードー行急行を激写してウェイクアップを図るのが一番好都合だったわけですが、他の列車では余り見かけないビビッドな塗装のDF2000型DL (中国製) が急行用客車を連ねてやって来る光景にもシビレたという次第……(*^^*)。
しかし、この列車の威厳ある雰囲気はあくまで外見のみ! ナゾの新首都へ行く神秘性も何も、いざ一歩車内へ踏み込むと雲散霧消することでしょう (滝汗)。実はこの列車、現地での活動3日目に、ヤンゴンの北東70kmにある地方都市バゴー (ペグー) に鉄&観光しに行くべく乗ったのですが、まず切符を購入する段階から、想像以上に困難を抱えるミャンマー国鉄の現状を思い知らされたのでした……。
切符は当日券であれば中央駅駅舎内で購入するとのことですが、前日までの購入の場合には線路及び車両工場を挟んで駅舎とは反対側 (アウンサン将軍通りの脇) にある前売券売場に向かうことになります。そこで『地球の歩き方』に示された通りに訪れてみると……あれれ?それっぽい建物は全く見当たりません (滝汗)。そこで仔細に眺め回してみると、何と古ぼけた門の先にある今にも崩れそうな屋根に覆われた空間が前売券売場だったのでした……。昔の中国の北京南駅切符売場よりもはるかにボロく、恐らく英緬時代から変わっていないのではないかと……。
切符売場は普通車とアッパークラスで異なり、ミャンマー語でしか表記がないため、「明日の31レの切符を買いたい」と案内所らしき所に告げると、「こっちこっち」と連れて行かれた先には……夥しい台帳が裸電球に照らし出された何とも暗い窓口が! そう、他の東南アジア諸国の鉄道とは異なり、全くコンピュータ化されていないため、毎日の各列車の座席は台帳で管理され、しかもその台帳には最初から「この席はネーピードーまでの客に売る」「この席はバゴーまでの客に売る」と記されているのです。そして鉄道利用にあたり、国民はIDカード必携であり、外国人はパスポート必携であることから (検札時にも同時に要提示)、切符を売った相手の氏名とナンバーを台帳に書き込むようになっています。まぁ、日本の国鉄も昔は各駅から本社の座席指定センターに電話をかけて、台帳に従って指定券を発売していたようですし (違っていたら若造の浅見ということでご容赦願います)、中国の場合は各駅に切符の裏に貼る座位証 (小さくピラピラな紙が神のように重要だったという!) を分配することでダブルブッキングを防いでいたわけですが、ともあれ、停車各駅ごとに配分された台帳に記された販売計画に従って売る……という方式を採用しているのは、東アジア・東南アジアでは恐らくミャンマーが最後なのではないか?と思った次第です。
それでも、決して切符売り場は列が進まず阿鼻叫喚……ということはなく、連れて行かれた窓口は私一人だけで、実にゆったりと親切丁寧に売ってくれるあたり、C国とは全く違います (笑)。外国人観光客の利用が多いマンダレー行やパガン行と異なり、ネーピードー行は前日購入でも超余裕でしたが (台帳がまっさらでした。汗)、当日いざ乗ってみると結構座席は埋まりますので、当日購入が多いことが想像されます。どの列車に乗るにせよ、早めに購入した方が良いでしょう。また途中駅からの当日購入乗車の場合、列車到着直前のみの発売となりますが (他の駅の販売実績から「○駅は○枚売って良し」という連絡があるのでしょう)、外国人の場合パスポートを見せれば、台帳に従って早めに売ってくれる場合もあります。
それはさておき、いざ一歩車内に踏み込んでみますと……アッパークラスは1+2列の非常にゆったりとした椅子ではあるのですが、内装・窓は既にボロボロのドロドロ、椅子のフットレストは壊れ、トイレは真っ暗。そしていざ発車しますと、軌道状態が最悪なため、ポイントが連続するマラゴン (ヤンゴン市内東) までは最徐行でも脱線転覆しそうなほど揺れます……(@o@)。これが東郊の支線への分岐にあたるトウチャウカリーを過ぎますと、やや安定した走りにはなるのですが、それでもレールの長さは10mほどしかないためか、ジョイント音は極めて賑やかで、前後左右に小刻みに揺れ続けます。私は今回バゴーまでの往復計4時間の旅でしたが、これでマンダレーやパガンまでの長時間の旅はかなり辛いなぁ……と。
そして車窓に目をやれば、近郊列車の折返駅であるヤワッタージーを過ぎるあたりからバゴーに到着するまで電線が姿を消し、電気が辛うじてあるところ=駅前、電気のないところ=農村という景観となります。というわけで、このような状況から一体どのようにして他の東南アジア諸国と同様に発展すれば良いのか……そんな焦燥感をミャンマー政府が感じているであろうことは想像に難くないでしょうし、逆に電気などなくてもフツーに生活できてしまう熱帯の恵みがそこにある、とも解釈できるのでありました。
そんなこんなで、凄まじい乗り心地の中であれやこれや考えているうちに、やがて黄金のパゴタが複数視界に現れてバゴーに到着~。しかしそこで見たものは私にとって、観光目的でこれから訪れるつもりのパゴタよりも56億7000万倍超重要な光景だったのでありました……(続く)。