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ミステリ感想-『まもなく電車が出現します』似鳥鶏

2011年06月18日 | ミステリ感想
~あらすじ~
芸術棟が封鎖され、あぶれたクラブや同好会が新たな部室を探し始めた。美術部の僕は開かずの間をめぐる鉄研と映研の争いに、否応なく巻き込まれてしまう。
しかし翌日、その開かずの間に突如として鉄道模型が出現!?

~収録作品~
まもなく電車が出現します
シチュー皿の底は平行宇宙に繋がるか?
頭上の惨劇にご注意ください
嫁と竜のどちらをとるか?
今日から彼氏


~感想~
個人的に楽しみでしかたなくなったシリーズ待望の三作目。今回は初の連作ではない短編集。
再三指摘されているトリックの弱さは相変わらずで、細かい仕掛けでどうにか事件を成立させているだけの物が、まず三編続く。
四編目は「頭の体操」に出てきそうな程度の問題ながら、鋭く切れる掌編で一息入り、そして迎える最後の一編。これが見事に掉尾を飾ってくれた。
もともと「これでよくぞ鮎川賞に挑んだ」とそれだけは感心された脆弱なトリックながら、軽妙な筆致のおかげでデビューに漕ぎ着けた作者だが、ここに来てその筆力が全開に。いーちゃん亡き今、ミステリ界で最高峰のツッコミ役かもしれない葉山君のツッコミが冴え渡り、パンチが軽いならば手数で勝負と言わんばかりの、細かい伏線とトリックの連打で驚かせ、最後はこれ以上ない綺麗な幕切れを見せてくれた。
そしていつものように、異常なほど無駄に熱のこもったあとがきで笑わせ、最初の1ページに戻らせて感心させる、という構成力の高さ(?)で、非常に後味が良い。
こんなに良い作家がどうして無名なのか。いずれブレイクすることは必至だろうが、その時には「ワシが育てた」と前二作は発売日にすら買っていない分際で図々しく言いたいものである。


11.6.17
評価:★★★ 6
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