小金沢ライブラリー

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ミステリ感想-『貴族探偵』麻耶雄嵩

2010年06月28日 | ミステリ感想
~収録作品~
ウィーンの森の物語
トリッチ・トラッチ・ポルカ
こうもり
加速度円舞曲
春の声



~感想~
麻耶雄嵩五年ぶりの新刊ということで期待は大きかったが、あいかわらずすごいことをやってくれる。
今回もド本格の真ん中直球でありながら、見たこともない変化球を放たれ脳髄がしびれる。
白眉は「こうもり」で、ネタバレをすると作者の狙いは
(↓以下ネタバレ↓)
「地の文で嘘をつかなくてもフェアとは限らないよね?」 という誰もが考えつきそうで誰も考えつかなかった逆転の発想が冴えに冴えわたり、驚愕させてもらった。これは年間ベスト、いやオールタイムベスト級の短編。
他の4編もアベレージの高い外れなしの短編集。ほとんどギャグとしか思えない設定の貴族探偵にひるむことなく、本格ファンはぜひお試しあれ。


10.6.24
評価:★★★☆ 7
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ミステリ感想-『新宿鮫Ⅲ 屍蘭』大沢在昌

2010年06月27日 | ミステリ感想
~あらすじ~
犯罪者たちから「新宿鮫」と恐れられる、新宿署刑事・鮫島。
新宿の高級娼婦の元締め・浜倉が殺された。事件に迫る鮫島の前に浮かび上がる産婦人科医「釜石クリニック」。背後に潜む呪われた犯罪とは?
だが敵の完璧な罠が「新宿鮫」を追いつめる。シリーズ第3弾。
93年このミス15位・文春7位


~感想~
ほとんど武侠小説だった前作から一転、今回は静かなる暗殺者と、権力をあやつる魔性の女の二人の女が鮫島の相手となる。
自然、物語は落ち着いた展開を見せ、意外と普通の刑事小説な様相なのだが、それでも安定して読ませるのはさすがの腕。
力ではなく手練手管で鮫島を追い詰め、対する鮫島はその場その場で打てる最善手を打っていき、しのぎを削りあう緊迫感で最後まで引っ張っていってくれる。
シリーズ作品でありながらジャンルを限定しない意欲作であり、ハードボイルドだからと敬遠することはないだろう。


10.6.17
評価:★★★ 6
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ミステリ感想-『エデン』近藤史恵

2010年06月26日 | ミステリ感想
~あらすじ~
あれから三年。白石誓はたった一人の日本人選手として、ツール・ド・フランスの舞台に立っていた。
だが彼は、チームの存亡を賭けた駆け引きに巻き込まれ、外からは見えないプロスポーツの深淵を知る。そしてまた悲劇が……。
ここは本当に「楽園」なのだろうか? 過酷なレースを走り抜けた白石誓が見出した結論とは。


~感想~
著者最大にして初のヒット作となった『サクリファイス』の続編。
前作を読んでいればより楽しめるが、こちらを先に読んでも問題はない。

まず前作との比較をすると、自転車ロードレースの楽しさはそのままに、しかもツール・ド・フランスというより大きな舞台での戦いを描くため、否が応にも盛り上がる。
前作のような明確にミステリしてる謎はないものの、個性的な選手たちと、解散寸前のチームという緊張感が物語に華を添える。やや唐突に起きる事件がちょっと浮いてしまった感があるが、だからといって邪魔になるわけではなく、ストーリー展開に深みと意外性を与えることに成功した。
とにかくシリーズが続いてくれたことが単純にうれしく、ミステリとしてどうかということは措いといて、チカの今後の活躍をもっと読みたくなる。先が楽しみでしかたないシリーズである。


10.6.14
評価:★★★☆ 7
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ミステリ感想-『写楽百面相』泡坂妻夫

2010年06月24日 | ミステリ感想
~あらすじ~
二三が馴染みの女の部屋で偶然目にしたそれは、かつて見たこともないほどの強烈な役者絵だった。
しかも役者は大坂で行方の知れない菊五郎。いったい誰がいつ描いたのか……。
上方と江戸を結ぶ大事件を軸に、浮世絵、芝居、黄表紙、川柳、相撲、機関など江戸の文化と粋を描ききった力作。


~感想~
序盤からとにかく固有名詞の連発で圧倒される。しかしそこはミステリ界きっての筆力を持つ泡坂妻夫、一人ひとりしっかりと書き分けられ読者は混乱することはなく――なんてことはなく、普通に誰が誰やら判別がつかない。
さらに、さしたる説明もなしに江戸時代の専門用語が飛び交い、時代小説を読み慣れない向きには意味が通じない描写が頻発。人物も描写もわからなくてはもう物語を追うことも容易ではない。
肝心の写楽の正体も言葉遊び(というかダジャレ)の果てにひねり出されて、興味も引かれなければ驚きもない。
ラストは箇条書きの年表で締める構成もそっけなく、ミステリとしても時代小説としても最後まで読みどころがなかった。
この作品を楽しむための経験値が僕にはなかったということで、ひとつ。


10.6.8
評価:★ 2
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映画感想―『チョコレート・ファイター』

2010年06月21日 | 映画感想

~あらすじ?~
『マッハ!』監督作!この蹴りに世界がひれ伏す!!!史上最強美少女誕生!スタントなし!アドレナリン爆裂のノンストップ生傷アクション!
※コピペ


~感想~
スタントなしワイヤーなしCGなしでトニー・ジャーが演じた「マッハ!!!!!!!」の血を引く作品だが、今回の主人公はか細い少女。ムエタイの達人であるトニー・ジャーでさえ生傷の絶えなかった過酷な映画に、女の子が挑んで無事で済むのか、トニー・ジャーに負けないバトルを見せられるのかと心配してしまうところだが、まったくの杞憂であった。
むしろトニー・ジャーをも上回る暴れっぷりで、ハードヒットする打撃や、一歩間違えば重傷を負う激しいアクションが目白押し。
特にラストは、なにもそんな狭くて高いところでやらなくても……と引いてしまうほどの危険地帯での高速バトルで、女だからとか華奢だからとか、そんなことは戦いとは無関係だとまざまざと思い知らせてくれる。
少女が強い理由を「そういう病気だから」の一言で済ませているのはあんまりだし、他に方法がなかったのかと思うが、「マッハ!!!!!!!」のファンが見逃す手はない。

あとクランクアップから一年半後に「やっぱり阿部ちゃんのチャンバラが欲しい」と言われ喜んでタイに出向いた阿部寛は漢だと思う。


評価:★★★☆ 7
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映画感想―『ダイアナの選択』

2010年06月19日 | 映画感想

~あらすじ~
17歳のダイアナと親友のモーリーンは、ハイスクール銃乱射事件の犯人に「どちらか一人を殺す」と究極の選択を迫られる。
その悲劇から15年。事件の記憶にさいなまれ、罪悪感に苦しみながらも懸命に夢に向かって歩んできたダイアナ。優しい夫。利発的な娘。やり甲斐のある仕事。
ダイアナは理想の人生を手に入れたはずだった。17歳のダイアナと32歳のダイアナ。二人の人生が交差した時、衝撃の事実が明かされる。


~感想~
冒頭の事件から一気に時間が飛び、はたしてダイアナの選択はいかなるものだったのかわからないまま物語は進んでいく。
普通に考えればその選択とは「親友を犠牲にし自分は生き延びた」ものだと思われるが、こういった趣向の映画なのだから、当然そんな単純にはいかないだろうと期待してしまう。
それではどんな選択だったのかと推理しながら見続け、そして終盤ついに明かされた真実の「ダイアナの選択」とは――。

その「選択」の意外さはもちろんのこと、定石通りに冒頭からもう一度ストーリーがくり返されるや、あからさまに張られていた伏線にも驚いた。
予想の一歩前、それも斜め上を行く「ダイアナの選択」は一見の価値あり。これは面白い映画である。


評価:★★★☆ 7
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映画感想―『K-20 怪人二十面相・伝』

2010年06月17日 | 映画感想

~あらすじ~
19世紀から続く華族制度により貧富が二極化する帝都。そんな中、富裕層のみをターゲットとするK-20と呼ばれる≪怪人二十面相≫が世間を騒がせていた。
二十面相の罠にはまった曲芸師の平吉は、二十面相に狙われた令嬢の羽柴葉子と、その婚約者であり探偵の明智小五郎と共に、二十面相との戦いを決意する。


~感想~
これは久々に面白い邦画アクションではなかろうか。
怪人二十面相が暗躍する帝都を舞台に、金城武が派手なワイヤーアクションを見せるのだが、帝都の雰囲気もアクションとしてのテンポの良さも充分で、邦画にありがちなたるむ場面がほとんどない。
金城武の名を聞くと「レッドクリフ」での雰囲気抜群の諸葛孔明を経た今でさえどうしてもゲーム「鬼武者」での棒読みっぷりを思い出してしまうのだが、だいぶ日本語が不自由ではなくなったようで、棒読みっぷりもときどきしか顔をのぞかせないのもいいところ。
娯楽作品として非常に楽しい映画でした。なんだ日本もこういうの作れんじゃんか。


評価:★★★☆ 7
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映画感想―『GOEMON』

2010年06月16日 | 映画感想

~あらすじ~
天下統一を成し遂げた豊臣政権真っ只中の世。平安は訪れたものの庶民は困窮し、それを見かねた大泥棒・石川五右衛門は盗んだ金品を貧しい人に分け与えていた。
しかし五右衛門は豊臣政権を根底から揺るがす秘密を握ってしまい……。


~感想~
脚本は酷いがアクション映画としてはまずまずの作品。
主人公のGOEMONの人物造形がむちゃくちゃで、中盤以降はゴリ扮する猿飛佐助(あれ猿飛佐助だったんだ!?)が言うとおり「GOEMONがなにを考えてるのかわからない」有様。
無数の天守閣がそびえ立ちロングホーンまで生えてる大阪城など、極彩色で破天荒な、日本はもちろん世界各国の意匠を取り入れた、とにかくケレンに富んだ映像と、ほとんど全編CGで埋め尽くされた派手なアクションはいいのに、それ以外の面は残念な結果になってしまっている。
せっかく大泥棒キャラだったGOEMONが中盤から単なる忍に変わり、最終的には世界平和をうたいながら戦国無双するキラ様状態。変に社会風刺だの取り入れず娯楽に徹していればいいのに……。
またCGも背景はともかく人の動きが意外としょぼくて、人間が演じているシーンとCGで描いたシーンのつなぎ目がはっきりわかるレベルで、ところどころに違和感を覚えてしまうのも惜しいところ。
それにしてもゴリは芸人としては本当につまんねえと思いつつあるが、役者の才能はあるんだな。


評価:★☆ 3
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映画感想―『サロゲート』

2010年06月14日 | 映画感想

~あらすじ~
近未来、“サロゲート”と呼ばれる身代わりロボットが開発され、人類は自宅からサロゲートを遠隔操作するだけで、現実世界に生身の肉体をさらす必要はなくなった。
しかし、起こるはずのない殺人事件が暗雲をもたらす。サロゲートへのダメージが使用者に及ぶとなると、この社会システム全体が破滅してしまう。
捜査を開始したFBI捜査官グリアーは、サロゲートを開発したVSI社に事件の謎を解く鍵があると推理する。


~感想~
設定とあらすじから想像する物語から一歩も出ないが、そういう意味での安定感があるのも確かで、気軽に観ることができる。
とはいえ起伏に乏しいのは致命的で、他の映画と比較して優れた面はほぼ皆無であり、興行的にコケたことも大いにうなずける。
まあ髪がフサフサで肌も妙に若々しく、違和感がすさまじいブルース・ウィリスが観られただけでもよしとすべきか。


評価:★★ 4
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映画感想―『20世紀少年 最終章 ぼくらの旗』

2010年06月13日 | 映画感想

~あらすじ~
2017年。「世界大統領」として君臨する“ともだち”は「8月20日、人類は宇宙人に滅ぼされる。私を信じるものだけが救われる」と説いていた。
一方、“ともだち”の追手から逃れ、身を潜めているかつての仲間たちはそれぞれのやり方で、闘いを続けていた。


~感想~
世紀末救世主伝説なストーリーはおいといて、実際に聞くととても人類に希望を与えられるとは思えないほど相当にアレなケンジの曲や、その曲を口ずさみながら万博会場に集う民衆がともだち教よりよっぽど宗教してるところなんかもおいといて、「俺はこれ以上、人が死ぬところを見たくない!」と叫んだ2分後に目の前で人死にが出たりするあんまりな展開もおいといて、せっかく前作であれだけ活躍したカンナがまるっきり空気なこともおいとくと、もう触れることといえば「劇場版独自のラスト」しかなくなってしまう。

しかしこれが「独自のラスト」などと胸を張って言えるほどの代物ではなく、単に原作24冊分の内容を映画三本に縮めるならこうするだろう、という程度の「工夫」に留まっており、原作よりはだいぶすっきりした形のラストではあるものの、驚くことは一切ないので、期待はしないほうが吉。
やはり原作自体がアレだと実写化しても自ずと限界はあるものである。

原作の文句なしに面白かった部分までの実写化に留め、しかも衝撃のラストをぶち込んだ「デスノート」はやはりすごい作品だったのだなあ。


評価:★★ 4
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