小金沢ライブラリー

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ミステリ感想-『新宿鮫Ⅱ 毒猿』大沢在昌

2008年03月26日 | ミステリ感想
~あらすじ~
歌舞伎町に勤める奈美。孤独な彼女が心ひかれる外国人・楊は、謎の影を持つ男だった。
一方「新宿鮫」と恐れられる新宿署の鮫島は、恐るべき殺し屋が台湾から潜入していることを知る。「毒猿」と呼ばれる男が動きはじめた刹那、新宿を戦慄が襲う!
鮫島は、恐るべき人間凶器の暴走を止められるのか?


~感想~
主眼は殺し屋と、彼にひかれる女、そしてそれを追う台湾から来た刑事の3人におかれ、主役のはずの鮫島は脇に追いやられる。
だがシリーズ二作目にしては大胆なその趣向が大成功。絡み合う3人の男の思惑と戦いがより色濃く描かれることとなった。
前作をはるかに上回るエンタメ傑作である。


08.3.26
評価:★★★★ 8
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ミステリ感想-『零崎曲識の人間人間』西尾維新

2008年03月23日 | ミステリ感想
~あらすじ~
『零崎一賊』―それは“殺し名”の第三位に列せられる殺人鬼の一賊。“少女趣味”こと零崎曲識が、一賊に忍び寄る危機を察知し、ついに表舞台に現れた。一賊の結束はどうなるのか。“音使い”零崎曲識の闘いが今、始まる!
※コピペ


~感想~
たけ氏のカード目当てでついカッとなってレジに持っていった。反省はしている。

が、ライトノベルとしての完成度すら下がってしまった前作『人間ノック』から一転し、こちらはラノベとして満足いく作品になった。要するに主要キャラがちゃんと死にます。
じゃかすか死ねばいいというものではないが、死亡フラグを立てたら死ななければいけないのが物語というもの。キャラを殺せなくなった物語は『幽遊白書』を例に挙げるまでもなく見苦しい。
また前作よりも明らかに一冊の本として考えられた構成であり、時系列はバラバラながら物語はきちんとまとまっている。
打ち切りマンガみたいな結末を迎えた本編(戯言シリーズ)を補完するような人間シリーズも残すはあと一冊。こちらは失望させない着地を見せてほしいところ。


08.3.23
評価:★★★ 6
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ミステリ感想-『君の望む死に方』石持浅海

2008年03月20日 | ミステリ感想
~あらすじ~
私は君に殺されることにしたよ。
末期ガンを告知されたソル電機の創業者・日向貞則は社員の梶間晴征に、自分を殺させる最期を選んだ。彼には自分を殺す動機も権利もある。だが決して彼を殺人犯にはさせない。
幹部候補を対象にした、保養所での“お見合い研修”に梶間以下、4人の若手社員を招集。日向の思惑通り、舞台と仕掛けはととのった。
だが梶間に完全犯罪をさせるための計画は、ゲストとして招いた一人の女性の出現により微妙な齟齬をきたしはじめた……。


~感想~
話題をさらった『扉は閉ざされたまま』の続編的作品。
変則的な倒叙ミステリだが、真っ先に思いだすのはセガサターンの隠れた良作『金田一少年の事件簿』。これは金田一君になって謎を解くのではなく、犯人になって金田一君の魔手(?)から逃れるというもの。
思いも寄らないところから真相を見抜いてしまう金田一君の恐ろしさが、かえってその魅力を浮き彫りにするというマイナーながら楽しいゲームである。
本作はまさにそのミステリ版で、「自分を殺させるための計略」を裏で着々と練る語り手と、それを密かに阻止する探偵との静かな暗闘に引き込まれる。
が、前作と同じく結末がいただけない。
本作に限らず作者は(ネタバレ→)人殺しに許しを与える ことをよくするのだが、それは個人的に納得がいかない。踏み込むと厄介な問題なのでそれ以上は言及しないが、何度もくり返されるとうんざりしてくるのだ。
皮肉な結末は歌野晶午の某作を思わせ、どうも既知感がつきまとう。また個人的な問題だが、作者の合わない部分が色濃くにじみ出てしまった作品。合う人にはとことん合うだろう。


08.3.20
評価:★★★ 6
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映画感想―『デビルマン』

2008年03月17日 | 映画感想

~あらすじ~
必要なし。


~感想~
いや、意外とがんばったんじゃね?
事前に情報は仕入れていたので、棒読みやストーリーの適当さ、シレーヌやジンメンの扱いの酷さは覚悟していたので「確かに酷いな~」と楽しんで観られた。
そりゃ予備知識なしに映画館で観ちゃった日には大変なことになるだろうが、酷い酷いとさんざん言われてるのを知り、10秒に一回ペースでツッコミながらテレビで観る分には問題なし。
しかしせっかく深夜枠で放送したのに美樹ちゃんの生首とか生首とか生首などがカットされたのは残念だった。なんのための深夜枠だ。ゴールデンタイムに放送するリスクを避けただけではないか。
細かいツッコミはやりだすときりがないので、星の数ほどある各サイトの映画感想を参照してもらうとして、2時間という枠にあの壮大な物語を(強引にしろ)詰め込んだことだけは評価できるのでは。
原作の深い部分を慎重に避け、深い部分の上澄みだけをすくい、すくい切れない部分は解りやすく作り変え、いちおうの起承転結を(むちゃくちゃにしろ)まとめたことくらいは褒めておきたい。
……いやもちろん、原作殺しとかそういうレベルではなく、デビルマンという素材を使って学芸会のわりにがんばりましたってレベルの話なんだけども。
この映画は(これを映画と呼ぶことを各方面に深くお詫びいたします)作品単体ではなく(これを作品と呼ぶことを以下同文)観てしまった人々の魂の叫び、もとい感想を読むことを楽しむほうの作品(これを以下同文)でしょう。


08.3.16
評価:問題外
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ミステリ感想-『完全恋愛』牧薩次(辻真先)

2008年03月07日 | ミステリ感想
~あらすじ~
昭和20年。アメリカ兵を刺し殺した凶器は忽然と消失した。
昭和43年。ナイフは2300キロの時空を飛んで少女の胸を貫く。
昭和62年。彼は同時に2ヶ所に現れた。
平成19年。そして、最後に名探偵が登場する。


~感想~
他者にその存在さえ知られない罪を完全犯罪と呼ぶ
では
他者にその存在さえ知られない恋は完全恋愛と呼ばれるべきか?


御大の76歳にして最高傑作と聞いては読まないわけにはいかない。事実、歴史に残りうる傑作であった。
御大の作品はこれが初体験なのだが、その筆力やら構成力やらを僕ごときがなにか言うべきではない。長編を長編と感じさせない物語としての面白さ、無駄のない構成ならぬ無駄だらけの構成が、物語に深みを与えるという熟練の技。これぞ小説。
魅力的な3つの事件が次々と意外な決着を見せる解決。これぞミステリ。
そしてラスト、口をぽかんと開かせずにはいられない、あ然呆然の結末。これぞ「完全恋愛」。
本格ミステリで描ききった恋愛小説、恋愛小説で描ききった本格ミステリ。
今年度最高の収穫であることは疑いようもない。


08.3.6
評価:★★★★★ 10
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ミステリ感想-『消滅島 RPGマーダー』柄刀一

2008年03月02日 | ミステリ感想
~あらすじ~
この島はあと1、2時間で消滅する――。
聖なる島を訪れた天地龍之介は、奇妙な言い伝えを知る。沖に浮かぶ小島が消えたという伝承は真実なのか?
炎に包まれた人間が地面に消え、神の船は空に出航した。台風が直撃し、たび重なる余震で孤立状態となった島で、やがて伝承どおりに島は消滅した!?


~感想~
柄刀長編の初体験。短編をいくつか読むたびに疑問だったのだが、なぜ作者は龍之介を三十路を過ぎた男にしてしまったのだろうか。これが天才少年だったら許せるのだが、僕より年上の人間がこんなに子供っぽく、無邪気に(ある種幼稚に)していたら不気味でしかたないのだが。
それはともかく、島田荘司の後継者と目されるにふさわしい、大仕掛けのトリックは、しかし伝承と密接に絡み合うところまではいかなかった。島田御大ばりの大技を用いるなら、舞台をどことも知れない小島にし、ちっぽけな言い伝えなどに土台を打ってはいけない。大技は大技をくり出すに足る、鬼面人を驚かすような意匠を用意しなくてはならないのだ。
いろいろけなしてみたが、不思議なモノローグの謎が明かされるラストなど、実は意外と楽しめたのも事実。むしろアンチに近い僕がこれだけ読めたのだから、ファンならいっそう堪能できるのではなかろうか。
それにしても学習プレイランドは絶対に流行らないだろうなあ。


08.3.1
評価:★★★ 6
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