小金沢ライブラリー

ミステリ感想以外はサイトへ移行しました

ミステリ感想-『怪盗グリフィン、絶体絶命』法月綸太郎

2006年03月30日 | ミステリ感想
~あらすじ~
「あるべきものを、あるべき場所に」が信条の怪盗グリフィンのもとに、メトロポリタン美術館に所蔵されたゴッホの絵を盗んで欲しいとの依頼が舞い込む。なんでも美術館のゴッホは偽物で、本物の絵と入れ替えろとのことだが――。


~感想~
「ミステリーランド」にあの法月が放ったのは、麻耶雄嵩も真っ青の歪んだジュヴナイル――などではなく、正々堂々、真正面からの娯楽小説。ジュヴナイルのお手本のような構成で、文字通りに大人から子供まで楽しませてくれる。
三部構成に分かれた物語は、主人公グリフィンの怪盗ぶりを描きつつも、グリフィンの追う「呪いの人形」を軸に、陰謀あり駆け引きあり謎解きありと、山場と見せ場が間断なくつづくミステリとしても整っている。
結末は予想通りに期待通り、グリフィンの信条たる「あるべきものを、あるべき場所に」に従い、パズルのピースをはめるように、ぴたりと物語を収束させてくれる。
著者初の(?)ジュヴナイルということで、どうなることかと思ったが、最近の好調ぶりを思わせる、安定感にあふれた丁寧な、しかし肩の力を抜き、楽しんでものされただろう佳作。値段相応と言ってもいいくらいの満足感は得られた。
余計な感想だが、今作で初めて法月綸太郎を知った少年少女が、氏の初期の作品に手を伸ばしたら、さぞかし驚くだろうなあ。


06.3.30
評価:★★★☆ 7
コメント

ミステリ感想-『ゲッベルスの贈り物』藤岡真

2006年03月27日 | ミステリ感想
~あらすじ~
謎のアイドル「ドミノ」を探すことになった"おれ"と、次々と有名人を自殺に見せかけて手に掛ける殺し屋の"わたし"。
"おれ"はガセネタをつかまされながらも、次第に「ドミノ」の正体に迫り、そして当然のごとく"わたし"に接近していく。一見つながりそうもない"おれ"と"わたし"が交錯したとき、「ドミノ」を追う"おれ"の冒険譚(?)は、戦時中ある軍人がドイツから日本へ持ち帰ろうとした最終兵器「ゲッベルスの贈り物」の正体をめぐる思いも寄らない方向へ飛び――。


~感想~
おそらく普通に読んでしまっては、不満が多々出てしまうことだろう。ツッコミを入れながら気楽に読み進めていくのが吉。
ツッコミどころは満載。"おれ"の探偵パートに次々と現れる奇矯な人物たち。あ然とさせられる真犯人の犯行動機。最後の最後まで引っぱった「ゲッベルスの贈り物」の正体はもののついでのようにただの一言で片づけられ「それが主眼じゃなかったの!?」と驚かされる。そしてなんといっても目を疑わされるのは、全く必要のなさそうなあのトリック。まさに読者を驚かせるためだけに用意された悪巧みで、呆然としてしまうこと請け合い。

バカミスと称される本作だが、伏線の張り方といいミスディレクションの巧みさといい、実は非常によくできている。特に読者の騙し方は一級品で、大半の読者はそこにトリックが隠されていることにすら気づかないだろう。よくよく振り返ってみれば余計な贅肉の少ない、ほとんどの描写が伏線とミスディレクションを張るために費やされた構造。
それでも「端整な」という言葉がまったく似合わないのは、軽妙(とはまた違うのだが小気味いい、例えるならヘタウマ)な文体のおかげだろう。
あまり"普通じゃない"ミステリを読みたい方には強くオススメしたい。


06.3.27
評価:★★★ 6
コメント

ミステリ感想-『つきまとわれて』今邑彩

2006年03月23日 | ミステリ感想
~収録作品~
おまえが犯人だ
帰り花
つきまとわれて
六月の花嫁
吾子の肖像
お告げ
逢ふを待つ間に
生霊


~感想~
連作ぎみ短編集。
短編が集まって長編を形成することはないが、各編の登場人物が別の物語にも顔を出していく。
前半の話の真相を語っていることも多々あるので、順番通りに読むことをおすすめする。
正面から殺人事件を描いたのは冒頭の一作のみ。あとは日常の謎――というのはちょっと気が引けるが、新聞記事にはならないような小事件ばかり。しかしそれが退屈・矮小なわけではなく、ひとつひとつが丹念に描かれている。
ひとは誰しも大なり小なり、謎や秘密を抱えて生きているのだと思わせてくれる、地味ながらも端正な短編集。
結末では連作形式の面目躍如、解決したはずの物語を意外な方向にひっくり返し、見事に綴じてみせた。


06.3.23
評価:★★★ 6
コメント

ミステリ感想-『びっくり館の殺人』綾辻行人

2006年03月22日 | ミステリ感想
~あらすじ~
ふと立ち寄った古本屋で手に取った一冊の本が、10年前の記憶を呼び起こす。小学6年生のクリスマスの夜、「びっくり館」と呼ばれる洋館に招かれた三知也は、密室殺人に巻き込まれ――。


~感想~
「かつて子供だったあなたと少年少女のために」がコンセプトのミステリーランド。そこに綾辻が放ったのは、まさかの館シリーズ最新作。
しかしはっきり言ってこれは、とても子供に見せられる代物ではない。
(↓以下ネタバレ↓)
館・密室・隠し通路・狂気・血縁と綾辻テイストのオンパレード。人形を介しトシオとリリカを双子(綾辻作品に欠かせない要素である)として描いてみせた――と読むのは勘ぐりすぎか。
ざっと取り上げてみても、母親による子殺し・純粋悪・精神病・近親相姦・狂気・祖父殺し・虚無への供物と、子供に「これなあに?」と聞かれた親が答えに窮するような題材ばかり。こんなものを少年少女に提出していいのだろうか?
疑問はさておき、本来の読者層である大人向け、綾辻ファン向けとして捉えるならば十分に及第点。
薄味ながらに館シリーズとしての面目を保ち、意外な叙述トリックあり、密室トリックあり、ラストでは「暗黒館の殺人」を思わせる幻想的な締めくくりと、
期待はまずまず裏切らなかった。
しかしどう考えても――自分の子供には読ませたくないよなぁ。


06.3.22
評価:★★★ 6
コメント

ミステリ感想-『ファントムの夜明け』浦賀和宏

2006年03月20日 | ミステリ感想
~あらすじ~
真美の頭の中には、幼い頃に亡くした妹が住んでいる。
別れた恋人の失踪を知ったときから、真美の中で妹と同じ不思議な力が目覚めて――。


~感想~
書いておいてなんだが、あらすじを書くだけでも興ざめになりそうな作品。ぜひ予備知識なしで読んでいただきたい。
『彼女は存在しない』と同じく、冷静に読み解いていけばトリックは簡単に割れてしまう。なにも考えずにただ物語に身を任せるのが正しいだろう。
しかしその割れやすいトリックも、此岸ではなく彼岸に流れ着くのだから、この作者はあなどれない。
シリーズを離れた浦賀作品はどれも異色の意欲作。これもオススメ。


06.3.20
評価:★★★☆ 7
コメント

ミステリ感想-『六とん2』蘇部健一

2006年03月17日 | ミステリ感想
~あらすじ~
ミステリ界に失笑と怒りの渦を巻き起こしたアホバカミステリ「六とん」が帰ってきた!
「六とん」「動かぬ証拠」「ノンシリーズ」の3ジャンルが詰め込まれたお徳用(?)短編集。


~感想~
前作にしてデビュー作にしてメフィスト賞受賞作の「六枚のとんかつ」こと通称「六とん」は、そのすさまじさで旋風を巻き起こした。
誰でも書けそうな文で書かれた、誰でも思いつけそうなトリックの数々。つまらないことを売りにした、バカミスを超えた(下回った?)戦慄のアホバカミステリ短編集。それが「六とん」である。
常識人は褒めないし、そもそも読まなかった前作につづく第二弾は、アホバカトリックは鳴りを潜めたものの、「動かぬ証拠」で好評だった「最後のページに描かれた一枚の絵で真相を明かす」という手法を、ものの見事にレベルダウンさせたり(私見です)、正統派の小説を書いて逆に反感を買ったりと、期待通りの仕上がり。
読者が蘇部健一に期待するものは、ちゃんと発揮してくれている。
ある書店では
「この本おもしろいの?」
「ううん」

という紹介がなされたという本作。ハズレを承知のうえなら読んでみるのもいいのでは。


06.3.17
評価:★★☆ 5
コメント

ミステリ感想-『摩天楼の怪人』島田荘司

2006年03月12日 | ミステリ感想
~あらすじ~
臨終の床に瀕した往年の大女優は語る。「この事件の犯人は私。でもその謎は誰にも解けない」
停電で機能を停止した高層ビルの34階にいた彼女は、たった10分で1階にいた男を射殺し、戻ってきたという。
一斉に破裂した窓とともに墜落死した男、次々と謎の自殺を遂げる女優たち、時計部屋の処刑、謎めいた暗号。
すべての事件の裏には、摩天楼を跳梁跋扈する怪人ファントムの影が妖しくうごめく。


~感想~
『魔神の遊戯』『ネジ式ザゼツキー』といった21世紀型の島田作品ではなく『水晶のピラミッド』『アトポス』ら往年の系譜に連なるべき作品。
不可能犯罪、怪人、密室、暗号、地下帝国と、20世紀初頭のマンハッタンを舞台に、いかにもな舞台装置と仕掛けがこれでもかと詰め込まれている。
摩天楼という1つのビルを中心に語られているにもかかわらず、冒険譚としても成立し、誰もが期待する御手洗と怪人の対決ももちろん用意されている。
『アトポス』以来、奇想・トリックに傾いた御手洗シリーズが、久々に物語・浪漫をメインに押し立てて堂々の凱旋を果たした。

舞台からして摩天楼という「いかにも島田荘司らしい物理トリックがありそう」なもの。冒頭には大女優による「この事件は人間業を超えたとてつもない事件である」という乱歩めいた挑戦的なセリフまで吐かれ、50年の時を越え怪人が姿を現す段に及んでは、あの頃の御手洗シリーズを思い出して顔のにやつきを抑えられない。
正直、トリックには少々物足りないものを感じたが、この雰囲気と展開が「あぁ~御手洗物を読んでるなぁ」と大満足させてくれる。

『オペラ座の怪人』を下敷きに、20世紀初頭のマンハッタンを取り巻く状況や演劇界の様相などもさらりと取り入れ、一人の女優の人生を浮き彫りにしてみせるあたりはまさにお家芸。
開幕から幕引きまで一気に読み通せる、まさにまさにの「島田荘司の御手洗物」でした。


06.3.14
評価:★★★☆ 7
コメント