小金沢ライブラリー

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ミステリ感想-『トップラン 3 身代金ローン』清涼院流水

2010年02月28日 | ミステリ感想
~あらすじ~
謎の人物の誘拐予告電話。標的は恋子の姉・銀子。相手が要求する身代金は3億7529万9500円。しかも支払いはローンでOK?
恋子は予告電話を逆に利用し「よろず鑑定師」貴船天使を罠へと誘い出す秘策を練る。書き下ろし文庫シリーズ第3話。


~感想~
巻を重ねるごとに内容が薄くなるシリーズはざらにあるが、第三巻にして早くも内容が無くなってしまうのが流水大説のすごいところ。
その薄さたるやもう、三巻は読まずに四巻の冒頭であらすじを振り返るだけでストーリーを追うのに全く支障のない有様である。
どのくらい内容が無いか具体例を挙げると、七章は恋子たちが行ったカラオケボックスで歌った曲目と、その場にいない貴船天使の持ち歌をただ羅列するだけというすごさであり、八章は恋子たちが注文した中華料理と、古今東西・三船敏郎の出演する黒澤映画に、パズルの必勝法というどうでもよさにどうでもよさをトッピングしてオーブンで焼いたような惨状だ。何ピザですかこれは?
また本編の展開よりも裏表紙に書かれたあらすじの方がはるかに面白そうという破格の構成も妙なところで、見せ球の方が勝負球より切れるってどういうことなのだろうか。
にもかかわらず後書きでの流水はあいかわらず強気で「マジ気合入れた」そうなのだが、これでマジならマジじゃない時はどんなものを書いてしまうのやら。(ヒント:秘密屋赤・白)
このペースで行くと四巻も読まずに五巻の冒頭を読めばよく、五巻は六巻の冒頭で……とくり返して行って、最終的には一冊も読まなくて良いという前代未聞の小説(あ、大説)が完成してしまいそうだが「読まなくてもいい(読む価値が無い)」という点では現時点でもすでに完成しているのは確かである。


10.2.28
評価:保留
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ミステリ感想-『狐憑きの娘』輪渡颯介

2010年02月26日 | ミステリ感想
~あらすじ~
川辺で侍の屍体が忽然と消え、目撃した子供たちも次々と死んだ。
一方、子どもたちの通う手習塾の師匠は狐憑きと噂される娘と、夜中にうろつく怪しい人影に悩まされていた。
相談を受けた酒豪で怪異好きの左門は、剣術師範候補の甚十郎に見張りを手伝わせるが、そこに侍の霊が現れ……。


~感想~
巻を重ねるごとに安定感が増す一方で、ミステリ味も怪談味も鳴りを潜め、普通の時代小説に近づいていくこのシリーズ、今回はいたって普通の時代小説に落ち着いた感が強い。
ストーリーに関わっていく怪談は語られるそばから仕掛けが透けて見え、ミステリ要素はもはやミステリなどと肩肘張って名乗るものはなく、せいぜいが理屈っぽい時代小説といったところ。
出版社の方もそれは承知のようで、歴女(笑)をターゲットに見据え、純朴青年の恋愛模様をアピールする始末。十分に面白いのだが、デビュー当初と比べると版型と反比例してなにもかもが薄くなっていて、物足りないのも事実。
また、老婆心ながら忠告するとこのシリーズがターゲットとすべきは歴女(爆)などではなく、通勤中に時代文庫を読むお父さん方である。こんな金儲けのための高くてでかいだけの手に取りにくいレーベルなどさっさと辞めるべきであろう。


10.2.26
評価:★★☆ 5
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ミステリ感想-『さよならの次にくる<新学期編>』似鳥鶏

2010年02月22日 | ミステリ感想
~あらすじ~
名探偵の伊神さんは卒業し、葉山君の美術部はあいもかわらず一人きり。そして迎えた新学期、曲がり角で衝突したことがきっかけで、後輩の佐藤さんと知り合った。
入学以来、怪しい男に後をつけられているという彼女のために、葉山君はストーカー撃退に奔走することになる『ハムスターの騎士』から始まる一気呵成の青春ミステリ・後編。


~感想~
おおこれは超展開!
といっても殊能将之のような超展開ではなく、地に足の着いた、しかし全く予想だにしない方向への展開なので、変な警戒は不要。
前作『卒業式編』は前編としての役割しかなく、真価がわかるのはこの『新学期編』でのこと。
ただの名探偵らしい変人っぷりと思われたあの人の行動や、ページの水増し程度にしか思っていなかったエピソードが次々と連関していく。「トリックが弱い」と連呼してきたが、この後編でも表に出るのは「弱い」物理トリックやちょっとした心理トリックばかり。しかしすべてはまるで、裏で進行していた本当の物語を隠すための煙幕のようで、「弱い」トリックにくらまされていた目に、いきなり本当に仕掛けられていたメイントリックが飛び込んできたときの衝撃はすばらしい。
正直言って前編はオチの弱さのせいでげんなりするのだが、この後編で見せる急展開と、青春ミステリらしいさわやかな幕切れ、そして人が変わったように無駄に熱の入ったあとがきと、すべての不満がきれいに消し飛んでしまう。
あとは捨て(?)トリックにも力を注ぎ、短い分量でも物語を処理できればブレイクは必至だろう。このシリーズもまだまだ続くだろうし、今後が非常に楽しみな作家である。いやー面白かった。


10.2.22
評価:★★★★☆ 9
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ミステリ感想-『さよならの次にくる<卒業式編>』似鳥鶏

2010年02月20日 | ミステリ感想
~あらすじ~
「東雅彦は嘘つきで女たらしです」愛心学園吹奏学部の部室に貼られた怪文書。
部員たちが中傷の犯人は誰だと騒ぐ中、渡会千尋が「私がやりました」と名乗り出た。
初恋の人の無実を証明すべく、葉山君が懸命に犯人捜しに取り組む『中村コンプレックス』など、四編を収録した学園ミステリの前編。


~感想~
デビュー作『理由あって冬に出る』はよくぞこれで鮎川賞に投じたと、それだけは感心できる脆弱なトリックで度肝を抜く一方で、出版にこぎつける原動力となった軽妙な筆致と等身大でありながら魅力的なキャラで楽しませてくれた作者だが、今作もやはり決定的にトリックが弱い。
しかし描写のうまさ、会話の楽しさはより輝きを増しており、物語として面白いのは大きな救いである。
……と、しつこくトリックの弱さを指摘してみたが、この作品はまだ前編であり、後編の『新学期編』では噂によると定評を覆す超展開が待ち受けているそうなので、期待半分・不安半分ながらもつづけて読んでみたいと思う。


10.2.16
評価:保留
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映画感想―『ドラゴンボールEVOLUTION』

2010年02月19日 | 映画感想

~あらすじ~
2000年前(!?)ピッコロ大魔王とその弟子の大猿(!?)が世界を危機に陥れた。
しかし7人の勇者(!?)によって封印されたピッコロはよみがえり、再び地球破壊を目論む。
一方、気の修行に励む孫悟空はハイスクール(!?)での冴えない日常(!?)に悩んでいた(!?)。


~感想~
鑑賞後、「つまらない」とか「むかつく」とか「ぶっ殺す」といった負の感情ではなく「……」という虚無の感情にとらわれた。
いまさら断るまでもなくドラゴンボールの実写化としては一から十まで破綻しているのだが、そのくせ魔封波のエフェクトだとか、ピッコロに加担する女の名前がマイだとか、ヤムチャが砂漠の盗賊だとか、そういった原作に無駄に忠実な部分があるにはあるのが、無性に腹が立つ。
変なところをいちいち指摘すると『デビルマン』並に収拾がつかないので、印象深いシーンだけ抜き出すと、
メジャーな技・影鶴拳。煩悩だらけの悟空(たぶん筋斗雲乗れない)。チチはアジア系なのに悟空はアメリカン。気功波が直撃したけどノンダメージなブルマ。どう見ても50代の亀仙人。脈絡もなくくっつくヤムチャとブルマ。ナマステー。かめはめ波は回復呪文。渡辺vs田中。いきなり最終決戦。ちっちゃい大猿。如意棒どこいった。7つの試練をいつ乗り越えた。かめはめ波は体当たり属性。じいちゃんを生き返らせるという発想はない。看病される大魔王。
などなど悪い意味で盛りだくさんの内容かつ『デビルマン』より断然まともな造りなので、どうしても観たいという方を積極的に止めようとは思わない。
でも思ってるほど酷くはないよ、きっと。


評価:なし 0
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ミステリ感想-『トップラン 2 恋人は誘拐犯』清涼院流水

2010年02月18日 | ミステリ感想
~あらすじ~
「よろず鑑定師」と名乗る貴船天使が課したトップラン・テスト第1問をクリアした音羽恋子。
第2の課題は『明日届ける7500万円入りのアタッシェケースを自宅で2ヶ月間隠し通すこと』。
しかし届いたのは「104」と書かれた1枚のハガキだった。テン(10)・シ(4)―天使?
書き下ろし文庫シリーズ第2話。


~感想~
ただでさえ薄い内容だった前巻をさらに希釈したような内容の乏しさにまず驚かされる。
なんせ分量の半分近くは主人公・恋子のトップラン・テストの採点結果と、テストについてのぐだぐだした分析に費やされるのだ。
しかも残り少ないページ数を「ゾロ目になる西暦について」などという、どうでもよさにどうでもよさを重ねたような話で4ページ消費できる流水マジすげえ。
ようやく物語が動くのは実に175ページ目のことで、そこから30ページ足らずで2巻は終わってしまうし、読み飛ばしと流し読みで30分程度で進んできたのに完全に予想通りの方向にストーリーが動くため、意外性は皆無。
というか、この2巻の帯には恋子のテスト採点結果が、3巻の裏表紙と冒頭には2巻のあらすじが書かれているので、早い話が2巻は読まなくてもいいという親切設計に仕上がっている。
忙しい現代人にとって非常に優しい小説(あ、大説)であると言えるだろう。
……本当に多忙な現代人はこんなの読む暇があったら昼寝でもするべきだけどな。


10.2.13
評価:保留
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ミステリ感想-『暴雪圏』佐々木譲

2010年02月15日 | ミステリ感想
~あらすじ~
十勝平野が十年ぶりの爆弾低気圧に覆われた午後、帯広近郊の小さな町・志茂別ではいくつかの悪意がうごめいていた。
暴力団組長宅襲撃犯、不倫の清算を決意した人妻、職場の金を持ち出すサラリーマン……。それぞれの事情を隠した逃亡者たちの運命が絡み合ったとき、恐怖の一夜の幕が開く。
すべての交通が遮断された町に、警察官は川久保篤巡査部長のほかいない――。


~感想~
前作『制服捜査』では地方の一駐在を主人公に据え、警察小説の新境地を拓いたのだが、前作のいい所がほとんど消えてしまった印象。
ただでさえ警察組織の末端のため、捜査にたずさわることもできず、私立探偵と大差ない権限の川久保が、今回は暴雪に閉じ込められ交番を出ることさえままならない。したがって鋭い推理を見せる余地などなく、推理を働かせられなければ事件も錯綜しようがなく、ひとりでに決着を迎えてしまう。
数々の事件・物語が同時進行で起こり、複雑に絡み合うのだが、絡み合っただけで終わってしまい、大半の事件が中途で投げ出されるのも不満。それどころか主筋の物語すら吹雪の中に隠れたように明確な決着を見せず、ありとあらゆる要素が半端なのも痛い。
前作にあふれていた本格魂などは当然望むべくもなく、無駄に力の入った濡れ場とあいまって2時間サスペンスドラマの雰囲気が充満。これを川久保篤シリーズとして、あれだけの傑作だった『制服捜査』の続編として書いた意味がどこにも感じられない。
作者も川久保も出版社も誰一人として得をしない、全くの駄作である。


10.2.13
評価:★☆ 3
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ミステリ感想-『キョウカンカク』天祢涼

2010年02月14日 | ミステリ感想
~あらすじ~
女性を殺し、焼却する殺人鬼フレイム。幼なじみを殺され、後追い自殺を図った高校生・甘祢山紫郎は“共感覚”を持つ探偵・音宮美夜と出会い、ともに捜査に乗り出した。
音を視覚でとらえる美夜の特殊能力は、殺人鬼を追い詰められるのか?
第43回メフィスト賞受賞作。


~感想~
久々にメフィスト賞らしいぶっ飛んだ作品。
文章は下手だ。設定は中二病だ。構成は稚拙だ。しかし、前代未聞の犯行の動機がすべての欠点を補って余りある。
一度きりの一発ネタだがその破壊力は十分で、厨っぷり全開の語り手や、思わせぶりなばかりの探偵と警察関係者による、いまいち盛り上がらない事件をまとめて吹き飛ばし、今作を一読の価値ある本に引き上げた。
通勤バスの中で読んでいて危うく「ええっ!?」と叫びかけたほどで、僕もそれなりに多くのミステリを読んできたが、トリックでも犯人でもない「動機」に目をむいたのは初めての経験である。
作者は続編を作る気満々のようだが、この先もこれ以上の「なにか」を用意できるのか非常に注目である。メフィスト賞はこうでなくては!


10.2.13
評価:★★★☆ 7
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映画感想―『イーグル・アイ』

2010年02月10日 | 映画感想

~あらすじ~
ごく平凡な青年ジェリーが自宅のアパートに帰ると、そこには大量の銃器が置かれていた。そして携帯に女の声で「30秒後にFBIがやって来る。すぐに逃げろ」と謎の警告が。その言葉通り、FBIが現われ、訳もわからないまま拘束されるジェリー。一方、最愛の息子を人質にとられたレイチェルもまた、同じ声の主が命じる不可解な指示に従わされていた。


~感想~
観る前はもうちょっとサスペンスフルな映画を想像していたのだが、いざ始まってみるとなんでこの題材でこんなに無駄に派手なアクションがくり広げられてしまうのだろうと呆気にとられた。
SFとしては非常に使い古されたネタで新味はないのだが、必要以上に派手なアクションだけは観る価値があるかもしれない。


評価:★★☆ 5
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ミステリ感想-『女王暗殺』浦賀和宏

2010年02月09日 | ミステリ感想
~あらすじ~
謎の数字を遺して母が死んだ。孤独に生きる俺に残されたのは欠陥品の心臓だけ。だが、突然現れた記憶喪失の女によって世界が変わる。
俺をつけ狙う怪しい奴らの正体は、母を殺した犯人なのか。心臓を奪われ殺された死体は、なにを語るのか。父と母の正体は。


~感想~
ミステリでもなんでもない方向にすっ飛んでいった前作『萩原重化学工業連続殺人事件』と比してだいぶミステリの範疇に戻ってきたが、ミステリと呼ぶよりは浦賀作品というジャンルに類したほうが収まりは良い。
このシリーズを『SAW』シリーズにたとえた千街氏の解説が秀逸で、まさにSAWさながらに初見お断りの、それどころか前作『萩原~』を読んでいること前提の問答無用・説明不足に突っ走る物語がいっそいさぎよい。終盤にかけてシリーズの、特に前作とのリンクが次々と現れ、SAW新作のように入り組んだ人間関係とストーリー展開を追うこと自体が大変。6年ぶりのシリーズ再開でこんなに複雑にされても……。誰か人物相関図を作ってくれ。
とはいえ本書で仕組まれた謎は本書の中だけで解け、それなりにミステリらしい、それ以上に浦賀作品らしい決着を見せるので、すくなくともファンは満足できるはず。主人公(?)も名前だけ登場するよ!
それにしても、ここまで物語が錯綜してきているのだから、流れを振り返り、新規読者を獲得するためにもいいかげん講談社はせめて傑作『時の鳥籠』以降のシリーズだけでも文庫化するべきだと思うのだが。綾辻の館シリーズは2回も改版してるくせに。


10.2.7
評価:★★☆ 5
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