小金沢ライブラリー

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ミステリ感想-『海のある奈良に死す』有栖川有栖

1999年05月31日 | ミステリ感想
~あらすじ~
半年がかりで書き上げた長編が、やっと見本になった!
推理作家・有栖川有栖は、出版社で喜びに浸っていると、
同業者の赤星学が大きなバックを肩に現れた。
赤星は「海のある奈良へ行ってくる」と言い残し去るが、翌日、福井で死体で発見された。
被害者と最後に話した関係者として、有栖は火村英生とともに調査を開始する。


~感想~
紀行文? まったくの個人的な意見だが、どうもこのあたりからアリスは雲行きが怪しくなった。
細かい構成はさすがだが、ウンチクに頼り切ったトリックなど、本格魂をどこかに置き忘れてきたよう。


99.5.31
評価:★☆ 3
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ミステリ感想-『孤島パズル』有栖川有栖

1999年05月26日 | ミステリ感想
~あらすじ~
新入会のマリアが提供した“あまりに推理研的な”夏休み。
宝探しパズルに挑むべく赴いた南海の孤島。
第一夜は平穏裏に更けるが、折しも嵐の第二夜、突如として惨劇が幕を開く。 


~感想~
純粋論理のフーダニット。しかし解きようがない謎は手ごたえを通り越して理不尽の一言。
動機も当たり前すぎて、探偵たちの鈍さには頭をひねる。
しかしゲームブック感覚で読めば前作と遜色なく楽しめることはうけあい。

感想からははずれるが、未読の方のためにひとつ注意を喚起したい。光原百合の解説のことである。
この解説が、僕が今までに見たなかでも最悪の部類なのだ。
まず「ネタバレの恐れがあるのでP392~3は飛ばして読んでください」と言っておきながら、P390で犯人の性別を特定する一文を書いてやがる。
さらに、『月光ゲーム』と『双頭の悪魔』の手がかり(それも探偵が真相をあばくまで明かされない手がかり)を堂々と書きつらね、読者が推理する楽しみを奪っているのだ。
ミステリ作家でもあるはずの氏の良識を疑わざるを得ない。


99.5.26
評価:★★★☆ 7
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ミステリ感想-『黒猫の三角』森博嗣

1999年05月24日 | ミステリ感想
~あらすじ~
くせものぞろいのアパート『阿漕荘』の住人、保呂草探偵に奇妙な依頼が持ち込まれた。
連続殺人鬼の魔手から一晩ガードして欲しい、というのだ。
ここ数年、那古野市には「数字にこだわる」殺人犯が暗躍していた。
殺人予告を送られていた依頼人が、衆人環視の中、密室に入ったその時……。


~感想~
Vシリーズ開幕。
こいつはどの異次元からやってきたのだろうと思う練無の口調、なんか無理してる感のある若者たちの会話、明らかに無理しているギャグなど、ややすべっている気もしないでもないが、読んでいるうちに全く気にならなくなってくるあたり、さすがは森氏。(褒めてますよ)
新シリーズ幕開けならでは、とも言える大胆不敵なトリックは秀逸。
特に(ネタバレ→)ここさえ見抜けばあっさりと犯人が解る罠を3ページ目に仕掛けたのは豪快。読み返してみると多少不自然だが、なるほど1つも嘘は言っていない。 のには恐れ入った。なにはともあれ上々のスタートを切った。


99.5.24
評価:★★★☆ 7
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ミステリ感想-『月光ゲーム』有栖川有栖

1999年05月21日 | ミステリ感想
~あらすじ~
夏合宿のため山深いキャンプ場へやってきた推理小説研究会の面々。
楽しいキャンプは山の噴火で一変。いあわせた3グループの学生たちは、
陸の孤島と化したキャンプ場に閉じ込められてしまう。その極限状況の中、出没する殺人鬼。
ひとり、またひとりとキャンプ仲間が殺されていく。
いったい犯人は誰なのか。そして現場に遺された「y」の意味するものとは? 


~感想~
模範的なフーダニット。処女作でありながら、その純粋論理は見事な冴え。
挑戦状も付すフェアプレイぶりには賞賛を送りたい。
以下難点。
文章がてんでなってない。外国文学やらの引用が多く、およそ一般的ではない漢字や単語が頻発し、鼻につく。
人物造型に全く血が通っていず、セリフがどれもこれも宙に浮きまくり。
ヒロインがなぜ語り手にひかれたのかさっぱり解らない。
要(?)のダイイング・メッセージは、この世に解ける人間がいないと思わせるほどに理不尽。
ゲームブック感覚で読むことをオススメしたい。


99.5.21
評価:★★★☆ 7
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ミステリ感想-『ペルシャ猫の謎』有栖川有栖

1999年05月18日 | ミステリ感想
~収録作品~
切り裂きジャックを待ちながら
わらう月
暗号を撒く男
赤い帽子
悲劇的
ペルシャ猫の謎
猫と雨と助教授と


~感想~
『切り裂きジャックを待ちながら』
2時間ドラマ。ありがちなプロット。つまらないトリック。陳腐なラスト。安っぽい。

『わらう月』
鮎川哲也『下り“はつかり”』を5レベルくらい下げると、この作品になる。

『暗号を撒く男』
なんだこれ? これがトリック……なの?

『赤い帽子』
作りは丁寧。伏線も周到。だが、地味な展開と解りやすすぎる犯人がどうも……。

『悲劇的』
この短さが効果的。うまい。

『ペルシャ猫の謎』
「こんな物語を見せられた読者はどう思うのでしょうか?」
とうとう開き直ったか……。

『猫と雨と助教授と』
まさにアンコール。


~総括~
「こんな物語を見せられた読者はどう思うのでしょうか?」
少なくとも、あなたが一人のファンを失ったことだけは、たしかです。


99.5.18
評価:☆ 1
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ミステリ感想-『46番目の密室』有栖川有栖

1999年05月13日 | ミステリ感想
~あらすじ~
45の密室トリックを発表した推理小説の大家が殺された。
密室と化した地下の書庫で、暖炉に上半身を突っ込むという悲惨な姿であった。
彼は自らの46番目の密室トリックで殺されたのか?
推理作家・有栖川有栖と臨床犯罪学者・火村英生が謎に挑む。 


~感想~
いかにも氏らしい、丁寧に編まれた良作。長く頭に残るトリックが印象的。
この頃のアリスはいいもの書いてたなあ~とつくづく思う。


99.5.13
評価:★★★☆ 7
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ミステリ感想-『霧枯れの街殺人事件』奥田哲也

1999年05月12日 | ミステリ感想
~あらすじ~
北国の街、久寿里は1年の半分は霧に、冬は雪と氷に閉ざされている。
真夏でもぐずつくことの多い空に人々の心は晴れない。この街で、さらに陰鬱な事件が起こった。
若い女性の首吊り死体と密室の中で首なし死体が発見されたのだ。
署長に嫌われ捜査の主流から外れた4人の刑事が犯人を追う。

※文庫化に際し「霧の町の殺人」から改題


~感想~
派手さには欠けるが緻密な構成、整った情景、軽妙な会話、見事な比喩と奥田氏らしい丁寧な造りに感服。
著者の言葉「普通の町で普通の人が起こす普通の事件をどうにか異常にできないか苦労した(うろ覚え)」
まさにそんな作品。


99.5.12
評価:★★★ 6
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ミステリ感想-『七回死んだ男』西澤保彦

1999年05月08日 | ミステリ感想
~あらすじ~
何度も何度もくり返される殺人。
殺されるのはいつも祖父。
だが、それを認識できるのは孫の久太郎だけ。
特異な能力で時間の“反復落とし穴”にはまり込んだ久太郎は、
祖父の命を救うべく孤軍奮闘するが……。

日本推理作家協会賞 候補


~感想~
すごいすごいとにかくすごい。スラップスティックな展開に乗り、トンデモなSF仕掛けが本格ミステリを演出する。
こんなもの西澤保彦にしか書けない考えられない。
歴代ミステリの中でNo.1に推す評論家がいるというのも納得な、ミステリ嫌いにこそオススメの一作です。


99.5.8
評価:★★★★★ 10
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ミステリ感想-『下り“はつかり”』鮎川哲也

1999年05月01日 | ミステリ感想
~収録作品~
鮎川哲也傑作選-2。

地虫
赤い密室
碑文谷事件
達也が嗤う
絵のない絵本
誰の屍体か
他殺にしてくれ
金魚の寝言
暗い河
下り“はつかり”
死が二人を別つまで

日本推理作家協会賞 候補 ――赤い密室


~感想~
『地虫』
シンデレラを下敷きにした幻想メルヘン。

『赤い密室』
短編ミステリ史上最高傑作の1つ。

『碑文谷事件』
優れた作品だが……。

『達也が嗤う』
かの『薔薇荘殺人事件』をも越える純粋パズラー再び。企みに満ちた構成にも刮目!

『絵のない絵本』
残酷本格メルヘン。

『誰の屍体か』
純粋論理が達したひとつの頂点。

『他殺にしてくれ』
二転三転する展開はいいが(ネタバレ→)タバコの件はアンフェア、刺殺と射殺が意味もなく混乱している。

『金魚の寝言』
タイトルで落ちてしまった感。出落ち。

『暗い河』
雑学。

『下り“はつかり”』
鉄壁のアリバイ。切れるトリック。不可能状況。

『死が二人を別つまで』
作者自身が認める複雑なプロット。しかしそれに見合った練り込み具合。


~総括~
前作とは異なり、幅広く作品を集めた。好みは分かれるだろうが、いずれも傑作ぞろい。
いいから買え!


99.5.1
評価:★★★★★ 10
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