小金沢ライブラリー

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ミステリ感想-『三人目の幽霊』大倉崇裕

2007年06月28日 | ミステリ感想
~収録作品~
三人目の幽霊
不機嫌なソムリエ
三鴬荘奇談
崩壊する喫茶店
患う時計


~感想~
北村薫以来、一大勢力を築く「日常の謎」系列だが、昨今はただ殺人の起こらない些細な、しかし魅力的な謎を描くだけではなく、特殊な業界を舞台に、その業界ならではの日常の謎を描くものが増えている。
たとえば前にご紹介した剣持鷹士『あきらめのよい相談者』は弁護士の業界を、蒼井上鷹『ハンプティ・ダンプティは塀の中』は刑務所の中を描き、その業界でしか起こりえない特殊な事件・動機・トリックを楽しませてくれた。
これは全盛期の西澤保彦のSFミステリや、死者のよみがえる世界を描いた山口雅也『生ける屍の死』とも、一般的な読者の日常からかけ離れた異常な世界と、その世界でのみ通じる規則に応じた仕掛けを描く点において同じではないだろうか。
多彩な広がりを見せる「日常の謎」が単に「殺人を題材にしないミステリ」ではなく、「殺人を題材にしたミステリ」では到達できない高みへと登りつめてくれるのではないかと期待したいところだ。

閑話休題。で、今作は落語界を舞台にしているのだから、これも一般的な読者にとってはなじみの薄い世界のお話。その落語界の日常の謎だけではなく、落語を背景・主題に据えた物語もあり飽きさせない作りになっている。
一編挙げるなら『三鴬荘奇談』が最も落語と物語の融合が巧みでありながら、(ネタバレ→)唯一「殺人を題材にしている」 のが面白いところ。
5編中3編で張り込みを行うなど食傷気味の粗い面もあるが、今後も見守っていきたいシリーズの幕開けとして納得の作品である。

※創元推理文庫版は解説で最悪のネタバレをやっているのでご注意。なんとわざわざゴシック体で警告する前にトリックのネタを割ってしまっているのだ。これを先に読んだばかりに『崩壊する喫茶店』はどこにも謎が見当たらなくなってしまった。


07.6.27
評価:★★★ 6
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ミステリ感想-『スラッシャー 廃園の殺人』三津田信三

2007年06月27日 | ミステリ感想
~あらすじ~
ホラー作家が脳内世界を現出させ造り上げた廃墟庭園。
「魔庭」にこもっていた作家は姿を消し、肝試しに忍び込んだ大学生たちは遺体で発見された。
その廃園を撮影の舞台に選んだビデオ映画スタッフに、忍び寄る黒い影……。惨劇の果てに待つ衝撃的な結末とは。


~感想~
事前情報を仕入れすぎてしまい、全く驚けず。
こういった仕掛けだろうなあと思っていたとおりの真相でがっかり。とはいえ全編にちりばめられた伏線は実に丁寧で、ホラーというよりもミステリへの傾きが強い。
スプラッタ描写は平山夢明は別格としても、綾辻行人と比べてもおとなしめ。純粋にミステリとして楽しむのが吉か。


07.6.26
評価:★★★ 6
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ミステリ感想-『監禁』福田栄一

2007年06月21日 | ミステリ感想
~あらすじ~
「助けてくれ、カンキンされている」
そう書かれた一枚の紙切れを廃品の机から見つけた美哉は、単身でそのメッセージの真相を追う。
一方、荒れた生活から足を洗った恋人と婚約した義人は、彼女の両親を探す。
一方、職を失った泰夫は知り合った老婆から「命を狙われている」と相談を受ける。
一見、なんの関わりもなさそうな3つの事件は、裏でつながっているのか?


~感想~
点と点がつながり一本の線となり、ちりばめられたピースが定められた位置に収まり、一つの絵を描く。そんな形式のお手本のような作品。
たびたび挟まれる謎めいた独白や、3つの異なった視点とくれば、中町信ばりのあの仕掛けを期待してしまうところだが、本作はミステリとしての濃さはほとんどない。よってこの趣向ならば当然あるべき時間軸を用いたトリックもほぼ存在せず、読者を驚かせてやろうという試みは見当たらない。
が、話が進むほどにピースがぴたりぴたりとはまっていき、物語として許容範囲の都合の良い展開は一息に読ませてくれる。
どんでん返しやミステリ的な大仕掛けを期待しなければ、充分面白い佳作である。


07.6.21
評価:★★★ 6
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ミステリ感想-『DEATHNOTE ANOTHER NOTE ロサンゼルスBB連続殺人事件』西尾維新

2007年06月15日 | ミステリ感想
~あらすじ~
それはLとキラが出会う前の物語。
組織内で孤立していた南空ナオミのもとに、世界一の探偵Lから捜査協力の依頼が届く。連続殺人事件の犯人は? 現場に残された手がかりとは? そして南空の前に現れた竜崎の正体は?


~感想~
コラボ作品としては満点の出来だろう。
トリックこそこの内容でサプライズを演出するにはこれしかない、というもので驚きはないが、人気に便乗したような手抜きはどこにもなく、ミステリとしてもデスノートとしても維新作品としても充分な仕上がり。
本編と巧みにリンクする仕掛けもふんだんで、マンガのファンもこれなら納得だろう。会話や描写が西尾維新味を出しすぎてはいるけども。
それにしても、こんだけのミステリを書ける力がありながら、なんでラノベに走るかな~。


07.6.14
評価:★★★☆ 7
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ミステリ感想-『キララ、探偵す』竹本健治

2007年06月14日 | ミステリ感想
~あらすじ~
アイドル研究会に所属する大学生・乙島侑平は、天才研究者の従兄から新製品のモニターを頼まれた。
ところが届いた新製品とは、なんと美少女メイドロボット「キララ」。人間とまったく見わけのつかない超美少女メイドにご奉仕されて悩殺寸前の侑平。しかし彼の周りに不可解な事件が頻発するや、キララは意外な探偵の才能を見せだして……。

~収録作品~
キララ、登場す
キララ、豹変す
キララ、緘黙す
キララ、奮戦す


~感想~
「ああ、お優しいお言葉! ご主人様がこんなに慈愛あふれるお方で、キララは本当に果報者ですう。これから誠心誠意お仕え致しますう」
「いっけなーい。キララの慌てんぼさん!」
「いけませんわ、ご主人様。メイド風情にそんな卑屈なお言葉を。どんなときでもきっと毅然となさってくださいませ」


( ゜д゜)

メイドで美少女でロボットなキララが家事に炊事に夜のお勤めに大活躍する連作集。ものすごく敷居の高い表紙が読者を選びます。
それはともかくミステリ要素は意外と普通。マンガさながらの超ご都合主義のスピード感あふれる展開ですいすいと読み進められる。
萌え萌えメイドとはいえそこはロボット、車を受け止め暴漢を蹴散らし、一度見たものは決して忘れず、記憶の蓄積を頼りに推理してみせる新機軸の名探偵ぶりを見せてくれる。
とはいえ、ところどころに作者の年齢を感じさせる(失礼)描写や無理してる感が垣間見え、そのたびに「これって竹本健治が書いてるんだよなぁ…」とふと素に戻ってしまうのが玉にきず。
しかし言いかえるならば外見はこんなでも竹本作品であるため、ファンは臆せず手にとって欲しい。
……表紙がアレでも現代はネット通販で自宅に配達してもらえるしな!


07.6.14
評価:★★★ 6
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ミステリ感想-『制服捜査』佐々木譲

2007年06月13日 | ミステリ感想
~あらすじ~
警察官人生25年。不祥事をめぐる玉突き人事のあおりで、強行犯係の捜査員から、単身赴任の駐在勤務となった川久保。「犯罪発生率、管内最低」の健全な町で、川久保が目撃した荒廃の兆し、些細な出来事。
この町は本当に平和で静かな町なのか? 捜査の第一線に加われない駐在警官が、よそ者を嫌う町の犯罪を暴いていく。
06年このミス2位。

~収録作品~
逸脱
遺恨
割れガラス
感知器
仮装祭


~感想~
傑作。冒頭の「逸脱」から度肝を抜かれた。
一人の駐在警官の視点で丹念に紡がれた物語は実に重厚。駐在であるために限定される捜査と情報で地道に真相を暴いていくさまを、抜群の筆力で支えている。
警官だが川久保には警察の武器である組織力も権力もない。その捜査手法も権力も私立探偵とさして変わらず、警察小説でありながら探偵小説でもあると言えよう。限られた力で真相を追う、静かな闘志を燃やす主人公に共感すること請け合いだ。
物語としての質の高さはもちろんのこと、そこは昨年のこのミス2位、本格ミステリとしても意外な真相や鋭いトリックで驚かせてくれる。「逸脱」の結末には鳥肌が走った。警察小説と探偵小説の融合として、新たなる地平を切り拓いた極上の作品である。


07.6.13
評価:★★★★☆ 9
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ミステリ感想-『俺が俺に殺されて』蒼井上鷹

2007年06月09日 | ミステリ感想
~あらすじ~
別所に殺された俺は、目覚めたとき別所になっていた。さらに俺が殺された同時刻、兄が転落死していた。
別所にはその時、俺を殺していたというアリバイがある。しかし別所になった俺はそれを明かすことはできない!
犯行を疑われた俺(別所)は不本意ながら、俺と俺を殺した別所を守るために真相を追うことに……。


~感想~
設定は面白いし、終局で明かされる趣向も意欲にあふれている。が、それが設定の勝利につながっていない。
まず事件そのものと比較して設定の練り込みが浅い。全盛期の西澤保彦のSFミステリを見ていれば、この設定自体になんらかの仕掛けがあると考えてしまいがち。しかも「なぜ魂が入れ替わったのか」「別所の魂はどこへ行ったのか」という大きな2つの謎があるのだから期待してしまうのも当然だろう。しかしそこにはなんの真相も仕掛けもありゃしない。「なぜか入れ替わりました」「別所の魂はどっかに行きました」ではがっかりだ。
また事件の真相もしごく当然のところに落ちついてしまった。設定の突飛さと比べて真相はあまりにおとなしい。さんざん書かれてきた「魂入れ替わりもの」だから、いまさら「入れ替わったことにより起こる騒動」を細かく描かなくともいいとは思うが、あまりに騒動も起こらなさすぎる。別所が沈黙を強いられているという設定も、騒動を起こさないために作ったのだろうと思えてしまう。せっかく入れ替わったのに周囲の人間は勝手にべらべら情報提供する、家庭は帰って寝るだけの場所と、都合が良すぎはしないか。
ラストのブラックなオチだけが蒼井上鷹の本領発揮といったところ。長編は3作つづけて(個人的に)大ハズレでした。


07.6.9
評価:★☆ 3
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ミステリ感想-『前巷説百物語』京極夏彦

2007年06月08日 | ミステリ感想
~収録作品~
大損まる損困り損、泣き損死に損遣られ損。ありとあらゆる憂き世の損を、見合った銭で肩代わり。銭で埋まらぬ損を買い、仕掛けて補う妖怪からくり。寝肥、周防の大蟆、二口女、かみなり、山地乳、旧鼠―小股潜りの又市が、初めて見せる御行姿。明治へ続く巷説が、ここから始まる百物語―。


~感想~
御行になる前の又市を描くシリーズ第四弾。もうここまで続くと身もフタもない話、怪異が起こっても「又市がなんかやってこうなったんだろう」とは解るのだが、それをマンネリにせず新しい切り口で見せてくれるのが実に巧い。
今回は又市の成長物語でもあり、まだ仕掛けに不慣れな分(?)とんでもないバカトリックを連発し、それでも八方丸く収めるのだからたまらない。以降のシリーズへとつながる伏線、再三語られてきたあの事件の真相なども見どころであり、後半の重要人物がバタバタ死んでいく容赦のない展開は某『ネコソギラジカル』との対比を見るようである。
ファンは黙って買いの一冊。次回作の上方に舞台を移した『西巷説百物語』も今から待ち遠しい。こうなったらなんとかして百物語を達成して欲しいものだ。


07.6.7
評価:★★★★☆ 9
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ミステリ感想-『パラドックス学園』鯨統一郎

2007年06月07日 | ミステリ感想
~あらすじ~
パラドックス学園パラレル研究会、通称パラパラ研。所属部員は、ドイルにルブラン、カーにクリスティー、クイーンにポー。
新入部員のワンダは、彼らが著名なミステリ作家であることを知っている。しかし彼らは大学生で、ミステリ小説など読んだことがないと言う。ワンダは、パラレルワールドに入り込んでしまったのか?
本格ミステリパラパラ漫画つき。


~感想~
終盤、口をあんぐりと開く場面が3回ほど。
流水大説みたいな会話や、寒いラストシーンはさすが鯨統一郎といったところだが、ここまでやってくれれば褒めるしかない。
メタミステリの極北『歪んだ創世記』に匹敵する空前のトリックはまさに一読驚嘆。ページの水増しかと思っていた(暴言)会話までが真相に直結していくあたり、正直、鯨統一郎は嫌いなのだがこれは傑作(あるいは問題作)と称するほかないではないか。
(以下ネタバレ→)『ウルチモ・トルッコ』なぞ問題にならない、読者=犯人トリックの現時点での最高峰。なんせ誰もが疑いなく、100%パラパラやってカーを殺してることは確実なのだ。


07.6.5
評価:★★★★ 8
コメント

ミステリ感想-『百万のマルコ』柳広司

2007年06月06日 | ミステリ感想
~あらすじ~
黄金があふれる島ジパングで、私は黄金を捨てることで莫大な黄金を手に入れた――。
囚人たちが退屈に苦しむジェノヴァの牢。新入り囚人“百万のマルコ”ことマルコ・ポーロは、彼らに不思議な物語を語りはじめる。いつも肝心なところが不可解なまま終わってしまう彼の物語。囚人たちは知恵を絞って真相を推理するのだが……。


~感想~
連作短編集。一編一編は20ページ程度と短く、気軽に取り組める。
そのぶん内容も薄く、「頭の体操」や中国故事が元ネタの話まで散見され、出題と同時に答えが解ってしまうこともしばしば。しかしそこは20ページ程度なのですらすら読み進められ、多少の質の低さは気にならない。謎と答えよりも熟練の腕前でものされた物語自体が楽しく、それが13編も集まると一定の満足感は得られる。
飛び抜けて面白い一編こそないが、質より量、騙りより語りの物量作戦は成功を収めたと言えよう。
それにしても、13編そろって初めて勝負になるというのに、たった1編取りだして(それも2年連続で)年度代表作としてしまう『本格ミステリ』シリーズの選考基準っていったいなんだろう。(シリーズファン以外は置いてけぼりの『黒の貴婦人』を選んだり)


07.6.4
評価:★★★ 6
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