~収録作品~
三人目の幽霊
不機嫌なソムリエ
三鴬荘奇談
崩壊する喫茶店
患う時計
~感想~
北村薫以来、一大勢力を築く「日常の謎」系列だが、昨今はただ殺人の起こらない些細な、しかし魅力的な謎を描くだけではなく、特殊な業界を舞台に、その業界ならではの日常の謎を描くものが増えている。
たとえば前にご紹介した剣持鷹士『あきらめのよい相談者』は弁護士の業界を、蒼井上鷹『ハンプティ・ダンプティは塀の中』は刑務所の中を描き、その業界でしか起こりえない特殊な事件・動機・トリックを楽しませてくれた。
これは全盛期の西澤保彦のSFミステリや、死者のよみがえる世界を描いた山口雅也『生ける屍の死』とも、一般的な読者の日常からかけ離れた異常な世界と、その世界でのみ通じる規則に応じた仕掛けを描く点において同じではないだろうか。
多彩な広がりを見せる「日常の謎」が単に「殺人を題材にしないミステリ」ではなく、「殺人を題材にしたミステリ」では到達できない高みへと登りつめてくれるのではないかと期待したいところだ。
閑話休題。で、今作は落語界を舞台にしているのだから、これも一般的な読者にとってはなじみの薄い世界のお話。その落語界の日常の謎だけではなく、落語を背景・主題に据えた物語もあり飽きさせない作りになっている。
一編挙げるなら『三鴬荘奇談』が最も落語と物語の融合が巧みでありながら、(ネタバレ→)唯一「殺人を題材にしている」 のが面白いところ。
5編中3編で張り込みを行うなど食傷気味の粗い面もあるが、今後も見守っていきたいシリーズの幕開けとして納得の作品である。
※創元推理文庫版は解説で最悪のネタバレをやっているのでご注意。なんとわざわざゴシック体で警告する前にトリックのネタを割ってしまっているのだ。これを先に読んだばかりに『崩壊する喫茶店』はどこにも謎が見当たらなくなってしまった。
07.6.27
評価:★★★ 6
三人目の幽霊
不機嫌なソムリエ
三鴬荘奇談
崩壊する喫茶店
患う時計
~感想~
北村薫以来、一大勢力を築く「日常の謎」系列だが、昨今はただ殺人の起こらない些細な、しかし魅力的な謎を描くだけではなく、特殊な業界を舞台に、その業界ならではの日常の謎を描くものが増えている。
たとえば前にご紹介した剣持鷹士『あきらめのよい相談者』は弁護士の業界を、蒼井上鷹『ハンプティ・ダンプティは塀の中』は刑務所の中を描き、その業界でしか起こりえない特殊な事件・動機・トリックを楽しませてくれた。
これは全盛期の西澤保彦のSFミステリや、死者のよみがえる世界を描いた山口雅也『生ける屍の死』とも、一般的な読者の日常からかけ離れた異常な世界と、その世界でのみ通じる規則に応じた仕掛けを描く点において同じではないだろうか。
多彩な広がりを見せる「日常の謎」が単に「殺人を題材にしないミステリ」ではなく、「殺人を題材にしたミステリ」では到達できない高みへと登りつめてくれるのではないかと期待したいところだ。
閑話休題。で、今作は落語界を舞台にしているのだから、これも一般的な読者にとってはなじみの薄い世界のお話。その落語界の日常の謎だけではなく、落語を背景・主題に据えた物語もあり飽きさせない作りになっている。
一編挙げるなら『三鴬荘奇談』が最も落語と物語の融合が巧みでありながら、(ネタバレ→)唯一「殺人を題材にしている」 のが面白いところ。
5編中3編で張り込みを行うなど食傷気味の粗い面もあるが、今後も見守っていきたいシリーズの幕開けとして納得の作品である。
※創元推理文庫版は解説で最悪のネタバレをやっているのでご注意。なんとわざわざゴシック体で警告する前にトリックのネタを割ってしまっているのだ。これを先に読んだばかりに『崩壊する喫茶店』はどこにも謎が見当たらなくなってしまった。
07.6.27
評価:★★★ 6