小金沢ライブラリー

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ミステリ感想-『愚者のエンドロール』米澤穂信

2007年03月28日 | ミステリ感想
~あらすじ~
「折木さん、わたしとても気になります」文化祭に出展される自主映画を観て千反田えるは呟いた。
その映画のラストでは、廃屋の密室で少年が腕を切り落とされ死んでいた。誰が彼を殺したのか? その方法は? だが、謎は明かされぬまま映画は尻切れとんぼで終わっていた。
結末が気になる千反田は、仲間の折木奉太郎たちと共に結末探しに乗り出す。


~感想~
裏表紙にはほろ苦青春ミステリと冠されているが、終わってみればどこにも悪意のない、善意だけの青春群像。
いわゆる『毒入りチョコレート事件』手法の、推理の連打と否定の連打。しかし探偵は唯一無二の回答を導き出した――と見せかけて、さまざまな視点から提出される否定の論証が楽しい。
短いながらに詰め込まれた本格魂。21世紀、本格魂はライトノベルに宿るのか? これは秀作。


07.3.28
評価:★★★☆ 7
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ミステリ感想-『箱の中の天国と地獄』矢野龍王

2007年03月24日 | ミステリ感想
~あらすじ~
「二つの箱のどちらかを開ければ上階への扉が開く。ただし不正解には死の制裁が」
般若の面をかぶる謎の人物に集められた男女6人が、25階建の施設から脱出するためくり広げる極限の二者択一ゲーム。
彼らはただ運を天に任せるしかないのか、それとも正解の箱を選ぶヒントがどこかに隠されているのか?


~感想~
メフィスト賞受賞作『極限推理コロシアム』受賞第二作『時限絶命マンション』。
2年続けて糞ミステリを放った龍王が、沈黙を破り満を持して世に問う第三作――。
が、意外と楽しめてしまった。知恵を絞り罠をかいくぐるのは『CUBE』死にっぷりは例によって『バトルロワイアル』舞台設定は『アイランド』そして最後に明かされる真相は『●●●』と、映画をいさぎよいほどそのまんまパクッた物語が、予想に反して楽しい。
もちろん話は薄んぺんぺらだ。謎めいた施設は謎めいたまんまで裏も表もありゃしない。一見して嫌な性格に思えるキャラは本当に嫌な性格だし、おざなりの感動と羽毛よりも軽い人命もいつもどおり。しかし今作は徹底してゲーム的に描ききってくれたおかげで、いままでの作品のように無理な感動やむちゃくちゃな感情を押しつけられず、単純にサバイバルゲームを楽しめるのだ。
途中で攻略法が明かされたと思いきやルールがひっくり返ったり、最後の最後で(映画そのまんまだけど)意外なトリックを仕掛け、ただの雰囲気作りだと思っていた舞台に意味を持たせてくれたりと飽きずに読み通せた。
気軽にさらりと読めるエンタメ作家として生まれ変わった(?)龍王。これは案外おすすめかも。


07.3.24
評価:★★★ 6
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ミステリ感想-『黄金の灰』柳広司

2007年03月21日 | ミステリ感想
~あらすじ~
世界の誰もが夢物語と笑う中、トロイアの遺跡から黄金の山を掘り当てた伝説の探検家シュリーマン。
しかしその史実の裏には謎が謎を呼ぶ異様な事件があった!
歴史の闇に消えた事件の秘密、シュリーマンの秘密、そして世界の秘密とは。


~感想~
著作を連続刊行され波に乗る柳広司のデビュー作。これまた労作である。だが描写とキャラの魅力ですらすらと読み進められるのが氏の特色。
まるで小説上の人物のようにぶっ飛んだ性格のシュリーマンを軸に、消失の謎、密室の謎、動機の謎が乱れ飛ぶ。
デビュー作だけに(?)全ての謎や秘密が渾然一体と溶け合うところまでは行かなかったが、推理のたびに明かされる各人の秘密や、単なる財宝争いに見えた事件の裏に潜む壮大な動機には唖然。
推理が謎を打ち砕き、歪んだ情景を再構成したり、全ての謎が明かされ、しかしそれでも歴然と説明不可能の奇蹟が忽然と立ちのぼるあたり、やはり京極夏彦の匂いを感じる。
柳広司。まだまだとんでもないミステリ書きがいたものだ。


07.3.21
評価:★★★ 6
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ミステリ感想-『晩餐は「檻」のなかで』関田涙

2007年03月15日 | ミステリ感想
~あらすじ~
死刑制度の廃止に伴い新設された仇討ち制度。
その遂行のため「檻」に集められた七人の男女。彼らにはそれぞれ「殺人者」「被害者」「共謀者」「傍観者」「邪魔者」「監視者」それに「探偵」という役割が与えられていた。
たがいの役割を知らず疑心暗鬼の中、ついに仇討ちが行われる。


~感想~
SF的設定ながら、その世界でしか描きえないトリックではなく、「檻」の中と外を巧みに組み合わせ意表を突くトリックを見せてくれた。
おそらく大半の読者は中盤にかけ、ある一つの真相を思い描くことだろう。しかしそれこそが作者の罠。二重三重に仕掛けられた罠はしっかりと騙してくれること請け合い。
「檻」の外の男の口調や男に降りかかる災難といい、最後に明かされる仕掛けといい、ずっと折原一の新作を読んでいる気分だったのはご愛敬。


07.3.15
評価:★★★ 6
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ミステリ感想-『折鶴』泡坂妻夫

2007年03月13日 | ミステリ感想
~収録作品~
忍火山恋唄
駈落
角館にて
折鶴


~感想~
「死んだら化けて出てやりたいんだが、一体どこへ出たらいいのか。この頃はそればっかり考えていますよ」

『忍火山恋唄』『折鶴』の2作は直木賞候補。
佳作ぞろい。『忍火山恋唄』は正直拍子抜けというか、子供騙しとまでは言わないもののトリックにがっかりしたが、シンプルにまとめて人情を利かせた『駈落』、職人の意地と悲哀を描き表題作の貫禄を見せた『折鶴』もいいが、最も印象に残ったのは『角館にて』。読んだ直後にはあまりピンと来なかったが、無言の女と能弁な男の静かな応酬が見物。言葉少なだった女が実は男よりも雄弁に語っていたという構成にうなった。
いずれ劣らぬいぶし銀のハズレ無しの作品集。絶版ながらオススメです。


07.3.10
評価:★★★ 6
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ミステリ感想-『片眼の猿』道尾秀介

2007年03月07日 | ミステリ感想
~あらすじ~
私立探偵の三梨はちょっとした特技で業界では名が通っている。
その特技を活かし依頼をこなしていたが、その最中とんでもない事件に巻き込まれて……。


~感想~
なにを書いてもネタバレになる類のミステリである。しかしそこまで伏線を張ってなにが言いたかったかというと(どうしてもネタバレになってしまうのだが)僕にとっては至極あたりまえのこと。
個人的事情によりものすごく相性の悪い物語となってしまった。なにを今さらといったところだ。伏線も片っ端から見抜けてしまったし。
設定といいトリックといいずっと『葉桜の季節に君を想うということ』がちらついたのもマイナス要因。あれと比べてしまっては色あせるのも当然か。
僕は全く楽しめなかったが、それはごく特殊な事情のせい。普通のミステリ読みにはどう受け止められる作品なのかは、非常に興味がある。
どうでもいいがタイトルからしててっきり『背の眼』『骸の爪』の続編だと思ったのだが。


07.3.6
評価:★☆ 3
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ミステリ感想-『饗宴(シュンポシオン)』柳広司

2007年03月04日 | ミステリ感想
~あらすじ~
紀元前5世紀。相次ぐ戦乱の果てにアテナイは暗雲に覆われつつあった。
そんななか、奇妙な事件が連続して発生する。若き貴族が衆人環視下で不可解な死を遂げ、アクロポリスでは異邦の青年がバラバラに引きちぎられたのだ。すべては謎の“ピュタゴラス教団”の仕業なのか?
哲人ソクラテスが、比類なき論理で異形の謎に挑む。


~感想~
哲学者が探偵役――などと尻込む必要はない。文体はいたって平易。御手洗潔をほうふつとさせる奇人ソクラテスのキャラと相まって、簡単に読み進めていける。謎も島田荘司さながらに奇想が冴え、解決に到っては事象を再構築し別の世界を作り上げるという京極夏彦風味。よって、島田・京極のファンならばすんなりと作品世界に入っていけるだろう。
その分、終盤の哲学を利かせた論理の応酬にはちょっとげんなり。勝手な希望だが、もっと鬼面人を驚かす一発トリックを望んでいたのだが。
しかし(僕にはさっぱり解らんけど)ラストはプラトンの著したソクラテスの経歴をそのままなぞり、ソクラテス最後の選択を事件の解決と絡めたあたり、ものすごい技巧である。
書くのに非常に骨の折れるだろう労作ながら、読者に提供するのは解りやすく、楽しい物語。柳広司、ただものではない。


07.3.4
評価:★★★ 6
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