小金沢ライブラリー

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ミステリ感想-『犯罪ホロスコープⅠ』法月綸太郎

2008年01月28日 | ミステリ感想
~収録作品~
ギリシャ羊の秘密
六人の女王の問題
ゼウスの息子たち
ヒュドラ第十の首
鏡の中のライオン
冥府に囚われた娘


~感想~
『法月綸太郎の新冒険』を中編ミステリの最高峰と評価しているだけに、非常に楽しみにしていた。
結果はといえば、「端正な」という言葉がよく似合う、実に端正な短編ミステリ。
なんのてらいもない直球勝負の純粋さは、現在ではむしろ珍しいかもしれないが、普通であることのすごさを見せつけてくれる。
昨今の変化球なミステリもいいが、時にはこういった気持ちのいいストレートも味わいたくなる。
白眉をあげるならば、犯人当て小説として書かれた『ゼウスの息子たち』『ヒュドラ第十の首』の2編が秀逸。
どちらも犯人当てという制約をものともせず、きっちりと意外な真相を用意してくれている。


08.1.28
評価:★★★☆ 7
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ミステリ感想-『ラットマン』道尾秀介

2008年01月26日 | ミステリ感想
~あらすじ~
高校時代に同級生3人とともに結成したアマチュアバンドは、細々と続けて14年になり、メンバーのほとんどは30歳を超え、ギタリスト姫川の恋人・ひかりが叩いていたドラムだけが、彼女の妹・桂に交代していた。
姫川は父と姉を幼い頃に亡くしており、二人が亡くなったときの奇妙な経緯は、心に暗い影を落としていた。ある冬の日曜日、練習中にスタジオで起こった事件が、姫川の過去の記憶を呼び覚ます。


~感想~
過ちと正しさが、そっくり同じ顔をしているのであれば、誰がそれを見分けられるというのだ。


「本格で人間を描ける」俊英がものした傑作。
前作『ソロモンの犬』よりも青春小説としてさらに(登場人物の年齢は上がっているにもかかわらず)濃く、ミステリとしての切れ味も増している。
道尾秀介はなんといっても第二撃がうまい。凡百の作家ならばフィニッシュブローとするだろう一発だけで終わらないのだ。
鋭い右ストレートを受けて倒れかけたところで、さらに強烈な左のアッパーが見えない位置から飛んでくる。
本書ではさらにその後もフックの連打を浴びせかけ、やすやすとはリングに這わせてくれない。
あなたが見ている物語は、その物語のひとつの側面でしかない。『シャドウ』再び。


08.1.26
評価:★★★★☆ 9
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ミステリ感想-『掘割で笑う女』輪渡颯介

2008年01月22日 | ミステリ感想
~あらすじ~
城下の掘割に現れる女の姿を見た者は必ず死ぬという噂が囁かれる折、掘割で家老が闇討ちされた。
怪談嫌いの甚十郎と、酒と怪談を愛する浪人左門が、闇に溶け込んだ真実を暴く。
第38回メフィスト賞受賞作。


~感想~
どうしてこれが『パラダイス・クローズド』と一緒に刊行されてしまうのか首をひねりたくなる。さすがはメフィスト賞、面目躍如といったところか。
まさに時代小説とミステリの幸せな結婚。よく舞台が江戸なだけのもどき小説を見かけるが、その点では心配ご無用。確かな筆力を備えた作者は、ミステリに寄り過ぎず、時代小説に傾き過ぎず、絶妙なバランスを保っている。
やはりトリックなどは一目で解ってしまうような代物だが、もともと時代小説は予定調和を愛でる部分もあるもの。なんら問題はない。
バリエーションに富んだ数々の怪談。魅力的な人物造形。これだけの腕があれば時代物にとどまらずなんでも書けるだろうが、やはり次作は続編を期待したい。楽しみな作家がまたできた。


08.1.22
評価:★★★★ 8
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映画感想―『ローレライ』

2008年01月19日 | 映画感想

~あらすじ~
1945年8月。同盟国ドイツは降伏し、広島には最初の原爆が投下される。
窮地に立たされた日本軍はドイツから極秘裏に接収した戦利潜水艦・伊507に最後の望みを託す。
特殊兵器“ローレライ”を搭載する伊507に課せられた任務は、広島に続く本土への原爆投下を阻止するため、南太平洋上に浮かぶ発進基地を単独で奇襲すること。この無謀な作戦を遂行するため浅倉大佐によって招集された乗組員は、艦長に抜擢された絹見をはじめ、軍人としては一癖も二癖もあるまさに規格外品の男たちだった……。


~感想~
『終戦のローレライ』体験版といったところ。
原作は文庫4冊にもわたる長編であり、それを2時間強に縮めたわけだから窮屈になるのも当然。
「このセールスマン誰? 高須? なんで?」と戸惑っているうちにローレライが発動し、原作を読んでいないとさっぱり意味が解らないようなローレライの弱点が明かされ、あっさり裏切りあっさり和解し(高須あんまりだよ高須)、清永のあんまりな最期に唖然とし、あれよあれよという間にラストシーン。
原作を読んでいないとどこまで理解できるのだろうと心配になるが、映画を見て面白かったら原作をどうぞという体験版ととらえれば、それなりに楽しいSFアクションではなかろうか。
逆にいえばフリッツも小松も土谷も抜きに、たったの2時間でよくぞここまで日本映画が原作を再現して見せたと感心すべき。
もし映画を楽しめたのなら、100倍面白い原作をぜひ。


評価:★★☆ 5
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映画感想―『笑う大天使(ミカエル)』

2008年01月18日 | 映画感想

~あらすじ~
川原泉の人気漫画を実写映画化。
ごく普通の女子高生・史緒は、突然母親を亡くし、生き別れとなっていた大金持ちの兄・一臣と再会する。
兄の勧めで、渋々ながら転校することになった先は、由緒正しいお嬢様学園。そこは、根っからの庶民である史緒にとっては全くの別世界。
息の詰まる日々を送る史緒だったが、クラスメイトの和音と柚子も猫をかぶっていることを知り意気投合する。そんな矢先、学園で大事件が勃発する。


~感想~
メジャーではない(と思う)が熱狂的ファンを多く抱える川原泉作品。
姉の薦めで読んだ僕もファンで、その実写化とあっては見過ごせない。
前半は原作の忠実な再現で、「これならアニメでいいんじゃね?」と思うが後半にいたって一変。
『チャーリーズエンジェル』よりよっぽど『チャーリーズエンジェル』なアクションは、並の映画よりはるかにしっかりしている。やるじゃないか上野樹里。
惜しむらくはラスト、原作ファンにとっては自明のことを最後まで取っておき、今更のように明かして「サプライズです」と胸を張られても困る。読んでなくても気づきそうだし。
原作つきということで、予定調和の部分も楽しむのが吉。原作ファンならそこそこ納得できるのでは。


評価:★★★ 6
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ミステリ感想-『パラダイス・クローズド』汀こるもの

2008年01月17日 | ミステリ感想
~あらすじ~
周囲の者が次々と殺人や事故に巻き込まれる死神体質の魚マニア・美樹と、それらを処理する探偵体質の弟・真樹。彼ら美少年双子はミステリ作家が所有する孤島の館へ向かうが、案の定、館主密室殺人に遭遇。犯人は館に集った癖のあるミステリ作家たちの中にいるのか、それとも双子の…?最強にして最凶の美少年双子ミステリ。第37回メフィスト賞受賞作。
※コピペ


~感想~
本格をブチ壊す異才がまたしても登場。メフィスト賞はこうでなくては。
本格のコードというコードを茶化し否定し粉々に砕く。その姿勢は解決編に至っても貫き通し、前代未聞の決着を見せてくれる。
さすがに衝撃度ではかの清涼院流水には及ばない(及んでも困るが)ものの、誰もやらないことをやってのけたのには素直に拍手を送りたい。
ただ、小説としての完成度は極めて低い。
昨今の新人賞はなんらかの専門知識がないと獲れない風潮らしいが、メフィスト賞にもその波は押し寄せ、全編にわたってお魚雑学が繰り広げられており、読んでいて面白いのはお魚トーク部分だけという有様。
平易な文体のわりにものすごく読みづらく、底の浅いネタと寒い独り語りで終始、空回りしっぱなし。
本格ミステリの新たなる刺客としては興味深いが、小説としては完全に失敗という極端な作品。文章さえもうちょっとなんとかなっていれば……。


08.1.17
評価:★★ 4
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映画感想―『人形霊』

2008年01月16日 | 映画感想

~あらすじ~
森の奥深くに建つ人形ギャラリー。ある日、5人の若者が人形師のジェウォンからこの洋館に招待された。
館内には様々な人形が所狭しと並び、その精巧な美しさに5人は魅了される。そんな中、彫刻家のヘミは自分を以前から知っているという謎の少女ミナと出会う。
そして誰もが洋館の空気に得体のしれない不安を感じ始めた頃、首を切られた人形が発見され……。


~感想~
人形大暴れ。
どこから調達してきたと聞きたくなるような、人形に組み込まれたランプなどの異様な調度品がもう、それだけで不気味。
人形特有の無表情な怖さを生かした作品かと思いきや、残酷描写全開のスプラッタな暴れっぷりで意表をつく。
和製ホラーは理由のつかない恐怖と解決しない物語が名物だが、韓国ホラーは理由も解決もどんでん返しも付けてくれる。
終盤は除霊アクションになってしまい、怖さはどこかに消えてなくなるが、確かな演技力で損はしない作品に仕上がっている。


評価:★★☆ 5
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映画感想―『狐階段』

2008年01月15日 | 映画感想

~あらすじ~
女子寮の28段の階段には狐の霊が棲みついていて、願いを込めて上ると29段目が現われ願いが叶うという――。
ソヒとジンソンはバレエ部の親友同士。しかしコンクールに出場するのがソヒと知ったジンソンは、狐に“自分を出場させて”とお願いする。
しかし結局代表にはソヒが選ばれ、ジンソンは嫉妬のあまりソヒを階段から突き落とし……。


~感想~
後半にかけ、ホラー性よりも映像美に重点がおかれ、展開も描写もどんどん意味不明になっていく。
どんでん返しというよりも、意味不明だったパートが最後になって説明される方式で、驚きはないがストーリーに幅を持たせているのはやや好感。
とにかく若い主演3人、特にヘジュ役の演技が抜群で、演技力よりも人気重視の日本とは違う、韓流の力を見せてくれる。まったく、あれだけの狂気(&汚れ)を演じられる(しかも美人)若手女優が日本にいるだろうか。
ホラーとしても物語としてもいまいち、しかし3人の熱演は一見の価値ありといったところ。貞子登場はご愛敬。


評価:★★☆ 5
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ミステリ感想-『ベルリン飛行指令』佐々木譲

2008年01月14日 | ミステリ感想
~あらすじ~
1940年、欧州戦線で苦汁をなめていたドイツ空軍は極秘情報を入手した。日本で画期的な戦闘機が開発されたというのだ。
驚異的な航続距離を誇る新戦闘機、その名は"タイプ・ゼロ"。三国同盟を盾に取り日本に零戦の供与を求めるドイツ。
そして日本海軍の札付きパイロット安藤、乾の二人に極秘指令が下った。張りめぐらされた包囲網の下、零戦は遥かベルリンの灯を目指す!


~感想~
冒険小説の代表格として『このミス』19年間の総合で9位に選ばれた傑作。
……なのだが、いまひとつ口に合わず。
筆力や描写になにひとつ文句をさしはさめる余地はないのだが、物語のおいしい部分は冒頭だけで出尽くしてしまった感が……。
『ロシア幽霊軍艦事件』の最終章のように、筋の解っている物語をなぞっていくようで、どうにも盛り上がらなかった。
時代背景も戦時中の空気も好物なんだけどなあ……。


08.1.14
評価:★★☆ 5
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ミステリ感想-『天使が開けた密室』谷原秋桜子

2008年01月13日 | ミステリ感想
~あらすじ~
バイト先で高額の借金を負うはめになった倉西美波。そこに「寝ているだけで一晩五千円」という怪しげなバイトが舞い込んだ。
背に腹は代えられず引き受けるも密室殺人事件に巻き込まれて……。
創元推理文庫版には短編「たった、二十九分の誘拐」も併録。


~感想~
趣味が悪いだけのオチ無しスプラッタが推理作家協会賞を獲ってしまう、石を投げればミステリに当たる、猫も杓子も本格な現代。
ラノベ界でも尻馬に乗って次々とエセミステリ作家がデビューしたそうだが、そんな玉石混交の中にもやはり本物はいるもので、氏はその数少ない一人。
なにぶんレーベルがレーベルだけに(富士見ミステリー文庫)事件が起きた瞬間にトリックも犯人も解ってしまうが、伏線の妙や、真相と同時に明かされる冒頭のモノローグの意味など、その手腕は見事。
一目瞭然のトリックとはいえ、いまだに大手を振ってメインに使われる、あのトリックを捨てトリックとして用いたことにも意地と矜持を感じた。


08.1.11
評価:★★★ 6
コメント