小金沢ライブラリー

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ミステリ感想-『煙の殺意』泡坂妻夫

2002年05月23日 | ミステリ感想
~収録作品~
赤の追想
椛山訪雪図
紳士の園
閏の花嫁
煙の殺意
狐の面
歯と胴
開橋式次第


~感想~
『赤の追想』
妄想。もちょっと飛躍しすぎで、伏線も物足りない。氏にしては。

『椛山訪雪図』
俗物には、実際に見ないことには感慨は湧かない。

『紳士の園』
逆にこの一編には嘆声ひとつ。こんな手があったか!

『閏の花嫁』
これも異色の佳品。まさに人を食った話。いや見事。

『煙の殺意』
さて、どうからめてくるかと期待に胸をふくらましたら……そのままか。物語の明快さが際だっているだけに惜しい。タイトルには感心。

『狐の面』
トリックはどうも……だが、話自体が面白い。欲を言えば聞き手も筋にからませてほしかった。

『歯と胴』
トリック云々よりも、執念の物語にうなる。(ネタバレ→)犯人の過失ゼロで犯罪がバレるのは目新しい。天網恢々疎にして漏らさず。

『開橋式次第』
参った。なんだこの伏線の山は。犯人は明々白々も、そこまできちんと細かく配慮をして……。
この人物造型。軽妙洒脱。いや魅事。


~総括~
一つ一つを取り出してみれば、意外に小粒。傑出した逸品はわずか。
しかしたった一冊に、これだけ多彩な宝石がずらりと勢ぞろい。とくと御賞翫あれ。


02.5.23
評価:★★★★☆ 9
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ミステリ感想-『アイルランドの薔薇』石持浅海

2002年05月01日 | ミステリ感想
~あらすじ~
詩人イェイツが薔薇にたとえたアイルランドの自由。
その鍵を握る武装勢力NCFの副議長が、スライゴーの宿屋で何者かに殺された。
悲願のアイルランド和平実現を目前に控え、警察への通報はできない。
外部犯の可能性も消えて、泊まり合わせた客は、NCFの手によって拘束された。
誰が、なんのために――。日本人科学者・フジの推理が、一人ひとりの「嘘」と「真実」を暴く。
2002年、カッパワン登龍門。


~感想~
奇異な設定はいいものの、意外性のさっぱりないトリック&真相は淡泊。
論理よりも感覚を重点に置かれた推理は、納得させヒザを打たせるところまではいかない。
平易な文章は良いのだが、あまりに平易すぎて稚拙に見える。慣れの問題だが、本名と愛称の混在はややこしすぎる。人物造型はキャラに「それっぽさ」がなく、地味かつ印象薄。
せっかくの題材が「それらしく」描けなかったことでただの背景になりさがった。
面白いか面白くなかったかで言えば、「微妙」。次作を読む気にはなった。
なにもアイルランドくんだりまで来て日本人を探偵役にしなくてもええやん。


評価:★★☆ 5
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