小金沢ライブラリー

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ミステリ感想-『依頼人は死んだ』若竹七海

2011年02月25日 | ミステリ感想
~あらすじ~
念願の詩集を出版し順風満帆だった婚約者の突然の自殺。健診を受けていないのに送られてきたガンの通知。決して手加減をしない女探偵・葉村晶に持ちこまれる様々な事件。少し切なく、少し怖い連作短編集。
00年このミス16位。


~感想~
良質な粒ぞろいの短編集……が最終章で一気にダメミスに成り下がる。
なので、「なかった! 最終章なんてものはなかった!」として話を進めるが、若竹作品らしいストイックかつ、斜に構えたブラックな視点が楽しい女探偵の、一見地味な捜査が描かれるのだが、そこに思いも寄らない本格ミステリした仕掛けが施され、あの手この手で驚かせてくれる。
そのトリックの大胆さと来たらなかなかのもので、「普通の探偵ものを読んでいたら意外に本格だった」という生易しさではなく、どんでん返しの激しさ、伏線の張り方に、本格ミステリの手法が色濃過ぎて若干引いたほど。むしろ最初から本格物だと思って読んだほうがいいのかもしれない。
突然ファンタジィの世界にすっ飛んでいく最終章さえ度外視すれば、優れた本格短編集として楽しめることだろう。
逆に言えば、もし最終章も楽しめてしまえば隙はなくなることに。まずはお試しあれ。


11.2.25
評価:★★★ 6
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ミステリ感想-『ダブル・ジョーカー』柳広司

2011年02月22日 | ミステリ感想
~あらすじ~
結城中佐率いる“D機関”の暗躍の陰で、もう一つの秘密諜報組織“風機関”が設立された。D機関の追い落としをはかる風機関に対して、結城中佐が放った驚愕の一手とは。表題作「ダブル・ジョーカー」ほか5編を収録。
09年このミス、文春2位。


~感想~
ハズレなしの良質な短編集。前作はスパイ小説なのにドキドキもワクワクもなかったが、今回はその両方をカバーしてきた。
ゴルゴ13ともタイマン張れそうな結城中佐の完璧っぷりに前作では引いてしまったが、免疫ができた今回は素直に楽しめたのもいいところ。
昨今流行の「操り」の構図をさまざまな角度から描いて見せ、謀略戦の妙味を楽しめるまたとない作品である。
……が、やはり「このミス2位」に推すほどの何かがあるとは思えないのだが。
どの短編もクオリティが高いことは認めるが、年度代表作として推せるほどのアピールポイントが僕には見つけられない。いわゆる本読みと呼ばれる人種とは目の付け所が違うのだろうか。


11.2.21
評価:★★★ 6
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ミステリ感想-『伽羅の橋』叶紙器

2011年02月18日 | ミステリ感想
~あらすじ~
介護施設の職員・四条典座は、認知症の老人・安土マサヲと出会い、その凄惨な過去を知る。
大阪を最大の空襲が襲った終戦前日、マサヲは夫と子供二人を殺し、首を刎ねたという。穏やかそうなマサヲがなぜそんなことをしたのか。
典座は調査を進めるうちに彼女の無実を確信し、冤罪を晴らす決意をするが……。


~感想~
くしくも島田荘司つながりでもう一作。
ばらの町福山ミステリー文学新人賞を受賞し、島田荘司の激賞を受けた(受けてないほうが珍しいのだが)デビュー作。
主に技量的な意味で、読んでいてむかつく文章というものには、そうそうめぐり会っていないのだが、これはその稀有な一例。
これでもだいぶ手直ししたそうなのだが、文章はとにかく煩雑かつ冗長かつ稚拙。語彙はあるものの使い方がいちいち適切ではなく、不安定な飛行を最後までつづける。感嘆符をセリフにしないだけでもだいぶマシになると思うのだが……。
島田御大もその力量の低さを認めつつも「目の覚めるような右ストレート」を持っていると激賞しているのだが、読んでいて次から次へと伏線が目に止まり、推理パートでは予想通りの展開を延々と見せられてしまい、驚く場面はほとんどなかった。
物語もせっかく解決までの期限を切られ、「今すぐ退所してもらわなければいけない」と言っておきながら「一年以内」という想像をはるかに超える長期間を提示され、それまで個人的な職業柄、リアルに描かれていると感心していたのに「ありえねえ」と感じたし、「一年以内」と無駄に長くしたのに突然「順調に回復してるからあと一ヶ月」と無駄に短くなるのもわけがわからない。始めから半年くらいにしとけよじゃあ。
解決後「あと十年遅ければ謎は解けなかった」とつぶやくのもあまりに気の長い話で、この作者の時間感覚はいったいどうなっているのだろうか。
本編に見るべきところは少ないが、島田御大の選評がすばらしい名文なので、それだけは一見の価値ありか。


11.2.17
評価:★★☆ 5
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ミステリ感想-『天に還る舟』小島正樹&島田荘司

2011年02月14日 | ミステリ感想
~あらすじ~
休暇を取って妻の実家に帰省していた警視庁捜査一課の刑事・中村は、そこで一つの事件に遭遇する。
地元警察が自殺と判断した死体に不審を抱き捜査を開始するが、事件は連続殺人事件へと発展し……。


~感想~
島田荘司との共著という異色のデビュー作。
今でこそ小島正樹の実力は知れ渡っているが、このデビュー当時の「共著でしかも南雲堂」といううさん臭さと来たらなかった。
作品自体の質は、島田荘司の作品、吉敷シリーズの新作として見ても及第点というなかなかの出来栄えで、かえって「島田荘司が大半書いたんじゃね?」というあらぬ疑惑を招いてしまった。
内容も「一歩間違えばバカミスな物理トリックの連打」、「そんなトンデモトリックを論理をすっ飛ばして直感だけで解いてしまう探偵」、「動機は解決後に書簡でまとめて」とザ・島田荘司とでも呼びたくなるほどのオマージュ&リスペクトにあふれ、ますます「中の人は島田荘司?」という疑念を強めた。
出版社も火消しに躍起で、小島・島田間で取り交わされたメールを公開し、「島田荘司はあくまで動機面で細部にアドバイスを与えただけ」とアピールしたのだが、そもそも共著という形式をとったことが間違いで、島田荘司の名を錦の御旗にした、売らんかなの姿勢が失策だったとしか思えない。
なかなか正当な評価をされないし、また与えづらい作品だが、後のやりすぎコージー(誰か流行らせて)の萌芽とも言える、サービス満点のド派手なトリックが目白押しなので、小島ファンは迷わず読んで良し。


11.2.13
評価:★★★ 6
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映画感想―『ヒックとドラゴン』

2011年02月11日 | 映画感想
~あらすじ~
バイキングの少年ヒックが出会った思いがけない友達、それは傷ついて飛べなくなったドラゴンのトゥースだった。
バイキングとドラゴンは昔から敵同士。しかしヒックとトゥースの間にはいつしか友情が芽生えていく。
それは、バイキングの世界をも変えてしまう奇跡の幕開けだった……。

~感想~
なにが優れているのかと問われれば悩んでしまうほど、取り立てて優れた面はない。
しかし欠点が一つでもあるかと問われれば、文化の違いによる「キャラがかわいくない」という一点さえ除けば、ただの一つも欠点はないと言い切れる。
話によると、人間は吉事が多いことよりも、凶事が少ないことをより幸福に思うそうで、欠点を決定的に排除していったことが、好印象につながったのだろうか。
などと小難しく考える必要はないほどに、王道を往くストーリーは単純明快にして、要所を押さえたものであり、子供から大人まで全年齢を満足させることうけあい。
躍動感あふれるバトル、魅力的なキャラ、卓越した世界観と全てがそろっており、全く飽きさせない。
すこしも話題になっていない、シリーズ物でもない海外CGアニメのため、よほどのことがなければ自発的に鑑賞することはないだろうが、一見の価値のある良作である。

~余談~
日本で流されたCMは、ドラゴンの名前にちなんでオードリーの春日が「トゥース!」を連呼するだけという、広報担当に焼き土下座を強いたくなるほど絶望的なもので、作品の宣伝に逆ベクトルで貢献したことは間違いない。いっぺん死んだほうがいいんじゃないだろうか。


評価:★★★★☆ 9
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ミステリ感想-『どちらかが彼女を殺した』東野圭吾

2011年02月10日 | ミステリ感想
~あらすじ~
妹が自殺の偽装をされ殺害された。刑事である兄の康正は、殺人であることを隠したままで独自の捜査を行い、容疑者を二人に絞り込む。一人は妹の親友。もう一人は妹のかつての恋人。
復讐に燃え真犯人に肉迫する兄、その前に立ちはだかる加賀刑事。殺したのは男か? 女か?

※真相は最後まで明かされないが、文庫版では袋とじで答え付き。


~感想~
せいぜい中編程度にしか使えないトリックを、真相を明かさないという斬新な手法で長編に昇華した、という印象。
トリックは主人公が解いてくれるため、読者は犯人を二者択一で当てるだけなのも残念。真相に至る手がかりも非常に単純な、ありきたりで使い古されたもので拍子抜けしてしまった。
リアルタイムで読み、仲間内であれこれ語り合うのを楽しむべき作品であり、真相が袋とじで明かされている現状(しかも古本だから最初から破れている)では、十分に楽しむことはできない。
しかしそれにしても、もう少しひねった手がかり、あるいはトリックを仕掛けてほしかったと思えてしまう。


11.2.3
評価:★★☆ 5
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ホラー小説感想-『ぼっけえ、きょうてえ』岩井志麻子

2011年02月02日 | ミステリ感想
~あらすじ~
――教えたら旦那さんほんまに寝られんようになる。……この先ずっとな。
時は明治。岡山の遊郭で醜い女郎が寝つかれぬ客にぽつり、ぽつりと語り始めた身の上話。残酷で孤独な彼女の人生には、ある秘密が隠されていた……。
岡山地方の方言で「とても、怖い」という意の表題作ほか三篇。
99年日本ホラー小説大賞、山本周五郎賞を受賞。


~感想~
なぜか感想を書いたことはないが、数年前に井上雅彦の異形コレクションシリーズを欠かさず読んでいた程度にはホラー小説もかじっているのだが、その頃の記憶がよみがえり、またホラーを読みたくなる良質のホラー短編集ではある。
しかしホラー小説大賞に山本周五郎賞と、権威と同時に作品の質も保証する賞を獲っているわりに……と期待しすぎてしまうことや、今やしょうもないエロババアと化している作者の顔がちらついてしまい(作品と作者を重ねるのは愚の骨頂と百も承知だが岩井志麻子と二階堂黎人はしかたないだろ!)虚心坦懐には楽しめないのがネック。
このミス16位に入っているのも明らかに蛇足で(純正ホラーがランクインするなんてどんだけ不作の年だよと思って調べたら、マジで不作の年としか思えないランキングだった)作品外のことばかり頭をよぎってしまった。
読むのが10年遅かったな……。


11.2.1
評価:★★☆ 5
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