小金沢ライブラリー

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ミステリ感想-『ビートたけし殺人事件』そのまんま東

2007年02月24日 | ミステリ感想
~あらすじ~
ビートたけしが失踪した!? 手帳に残された謎の言葉の意味とは。
たけし軍団のメンバーが次々と謎の死を遂げる中、ついにたけしまでもが……。


~感想~
知事就任記念出版――などではなく、88年に発表されマニアの間で「意外と良くできている」と評判だった幻の一冊。噂に違わなかった。
「ベテラン作家が肩の力を抜いて書いた」程度の質はある。謎が謎を呼びきっちりと伏線を張り、予想だにしない解決を用意し最後にはどんでん返しまで仕掛けてみせた。重要な手がかりが読者に明かされることなく、解決部分でひょっこり現れてしまうが、そこまでのフェアプレイと本格魂を求める方が間違いというもの。
読む価値十分の拾い物でした。


07.2.24
評価:★★☆ 5
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ミステリ感想-『警官倶楽部』大倉崇裕

2007年02月22日 | ミステリ感想
~あらすじ~
2人の制服警官がカルト教団の裏金運搬車を襲撃! しかし、彼らは本物の警官ではなかった。
鑑識、盗聴、銃撃など、本職顔負けの技を持つ警察愛好家サークルの精鋭「警官倶楽部」の一員だったのだ。
ただ警察が好きなだけの善良な彼らがなぜ強盗を? 現金奪取は成功するが、仲間の息子が誘拐されてしまう。カルト教団の逆襲と闇金業者の暗躍、そして謎の誘拐犯。次々と現れる難敵に「警官倶楽部」も次々と新たなる刺客を送り込む!


~感想~
いわゆるクライム・アクション・コメディ。気鋭のミステリ作家の新作だがミステリ要素は味つけ程度。異能集団と、見るからに悪役たちの対決が物語の主眼である。
冷静に考えると「警官倶楽部」もやっていることは悪役といい勝負――などころか勧善懲悪の名のもとに、もっと酷いことをやっているのだが(石橋を止めるふりをしてよく見るともっと暴れている木梨のような)善vs悪の解りやすい構図は爽快感をもたらしてくれる。ところで(↓以下ややネタバレ↓)
リーダー格の森田の持つ異能がなんなのか楽しみにしていたが、最後まで全く明かされず。そもそも異能を持っていないのか、それとも次回作へ向けて温存したのか。ちょっと拍子抜けであるが、息つく間もなく次々と事態が急転していく物語には満足。どんでん返しこそないもののテンポ良くスピード感ある展開で最後まで読ませてくれる。
読了に丸一週間近くかかった重量級の「厭魅の如き憑くもの」の次に読むにはうってつけでした。


07.2.22
評価:★★★ 6
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ミステリ感想-『厭魅の如き憑くもの』三津田信三

2007年02月19日 | ミステリ感想
~あらすじ~
対立する憑き物筋の「黒の家」と「白の家」、神隠しに遭う子供たち、生霊に憑かれた少女、厭魅(まじもの)が出たと噂する村人、死んだ姉が還って来たと怯える妹、忌み山を侵し恐怖の体験をした少年、得体の知れぬなにかに尾けられる巫女。
作家・刀城言耶が取材に訪れた村を次々と襲う怪異と怪死。犯人は人間? 憑き物? それとも厭魅?


~感想~
とんでもない作品である。村を丸ごと一個作り上げ、地形・血縁・成立過程・因習・宗教儀礼まで事細かに練り上げ、しかもそれらを雰囲気作りだけに奉仕させることなく、トリック・プロットに有機的に組み込んで見せた労作。全ページに伏線があると言っても過言ではない大仕掛けとあいまって労作という言葉がよく似合う。
それだけに次作『凶鳥の如き忌むもの』と同じく読み通すのに骨が折れるのも確か。『凶鳥』のように「設定資料」とは感じさせない、エピソードを丹念に積み重ねた物語なのは救いだが、一つ一つの逸話がじっくりと描かれるため、非常に骨が折れる。しかしそれだけ熟成された物語は、なんとも言えない濃厚な空気に包まれ、本書でしか味わえない読書体験をもたらしてくれる。この村で起こる異様な物語をもっともっと読みたくなってくるのだ。
逆転に次ぐ逆転で最後の最後まで気の抜けない解決編、そして思わず口をあんぐりと開いた呆然の真相は、どこまでも本格魂にあふれている。道尾秀介といいホラー畑の作家がどうしてここまで本格なミステリを書けるのだろう。これを「本格ミステリ大賞」の候補に選ばないとは本当にどうかしている。
それにしても――村の地図と家の見取り図があればもっと楽しめたと思うのだが、なぜないのだろう?


07.2.19
評価★★★★☆ 9
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ミステリ感想-『向日葵の咲かない夏』道尾秀介

2007年02月08日 | ミステリ感想
~あらすじ~
明日から夏休みという終業式の日、小学校を休んだS君の家に寄った僕は、彼が家の中で首を吊っているのを発見する。慌てて学校に戻り、先生が警察と一緒に駆け付けてみると、なぜか死体は消えていた。「嘘じゃない。確かに見たんだ!」混乱する僕の前に、今度はS君の生まれ変わりと称するモノが現れ、訴えた。――僕は、殺されたんだ。半信半疑のまま、僕と妹・ミカはS君に言われるままに、真相を探る調査を開始した。
(帯裏より転載)


~感想~
帯表に「分類不能、説明不可、ネタバレ厳禁!超絶・不条理ミステリ(でも、ロジカル)」とあるとおりのミステリ。
ジャンル分けするならば幻想ミステリだが、その実は予告通りに論理的な物語。
しかし全体に漂う不安定な空気、現実的な説明の付かない数々の出来事は、読者を混乱に陥れる。不条理をそのまま不条理のまま受け止めて読み進めても、事態は次々と錯綜していき、いったいなにを信じればいいのか解らなくなる。
だが真相はどこまでもロジカルに、あますところなく全てを語り尽くす。しかし語り尽くしてなお、そこにはなんとも言えない不安定な世界が現出してしまう。
全く救いのない、だがそれゆえに見事な幕引きまで、一息に読破。登場人物たちが隠し、あるいは嘘をついている事柄があまりに多く、解決ではげんなりしてしまったが、読了後、帯に記されたもうひとつの言葉が胸を貫く。本当に着地の巧い作家である。


07.2.8
評価:★★★☆ 7
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ミステリ感想-『少年検閲官』北山猛邦

2007年02月05日 | ミステリ感想
~あらすじ~
全ての書物が駆逐されていく世界で『ミステリ』を求める少年クリス。
旅の果てにたどり着いた、森に囲まれた村では、『探偵』が村人を殺し首を切り取っていた。
『ミステリ』も犯罪も消えたはずの世界で、いったい誰が殺人を犯しているのか。


~感想~
舞台は書物が駆逐され、たび重なる洪水で終末の危機に瀕した世界。
犯罪をなくすために書物をなくすという発想や、それなのに映像メディアが全く発達せず、人々は検閲されたラジオを頼りに生活しているなど、設定自体に無理は多い。
『ミステリ』や『探偵』を失われた夢や財産のように語られるのもこっぱずかしく、一目見て「小鳩くんと小山内さん?」と言いたくなる表紙など、とっつきにくさは満点。
しかしプロットや真相はそれらと密接に関わり(もちろん表紙は関係ないが)、この世界でしかありえない動機・トリックを現出させてくれたのはいい。
ガジェット(ミステリの要素を細かく記した物体)を読めば不可能犯罪を作れるというゲーム的設定はやはり無茶であるし、書物の失われた世界で犯罪が起こる理由を説明するための、後付けに過ぎないであろう。だいたいメイントリックにあのガジェットはぜんぜん使われていない気がするのだが……。
ともあれ世界観と雰囲気だけでラストまで引っぱる魅力はある。続編が出たら読みたい。


07.2.5
評価:★★☆ 5
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