小金沢ライブラリー

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ミステリ感想-『プラットホームに吠える』霞流一

2006年07月29日 | ミステリ感想
~あらすじ~
警察内部の広報誌を編集しているアキラと、ライターで元捜査一課警部の祖父・ヒタロー爺。
二人が遭遇した奇妙な墜落死事件の背後には、被害者の悪評と、その姉の非業の死、そしてなぜか狛犬の姿が見え隠れしていた。
上りと下りの列車がともに停車した一瞬の間に、プラットホームではなにが起こったのか?
鉄道ミステリとギロチン密室が融合する!


~感想~
うぉーしっしっー!

全編に吹き荒れる脱力ギャグの嵐、霞ワールドとしか形容しようのない言葉遊び、というかダジャレの応酬は、嫌な意味で敷居が高い。
お楽しみの「霞お兄さんの死体で遊ぼう!のコーナー」……もとい解決編は、期待に違わぬすさまじさ。
ゲーム『影牢』を思いだすような物理トリックがグロ面白い。何ヒットコンボですかこれは?
豪快なこじつけでくり広げられる、狛犬をめぐる暗合の数々に、圧倒されつつも煙に巻かれる。なにもかも異色の鉄道(?)ミステリの新世紀(?)。


06.7.29
評価:★★★ 6
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ミステリ感想-『千一夜の館の殺人』芦辺拓

2006年07月26日 | ミステリ感想
~あらすじ~
不遇の天才・久珠場俊隆博士が、莫大な遺産を残して急死した。
遺言状の開示から日をおかず、久珠場家を次々と惨劇が襲う。
動機は遺産? それとも?
相続の立会弁護士・森江春策のもとを離れ、久珠場家に「潜入捜査」することになった助手・新島ともかに危機が迫る。
事件のそこかしこに顔を覗かせる『アラビアン・ナイト』に秘められた謎とは?


~感想~
『アラビアン・ナイト』で幕を開き『アラビアン・ナイト』で幕を閉じる構成は見事の一言。
事件とそのトリックは小粒だが、メインの大仕掛けは「そこに仕掛けるか!」という盲点になされる。いやはや、一見して無意味に思えたアレに、あんな真相があったとは。
展開はいわゆる「遺産相続お家騒動」ものでバタバタと殺人が多発するが、雰囲気は終始のんき。特に明るい描写はしていないのに、どこか牧歌的な空気がただようのは作者の人徳か。
王道ミステリであることを強調するが、展開もトリックも結末も全てが変則的。本格ミステリのセオリーで、セオリーを叩き壊したような異色の作品。
とにかく盛りだくさんでにぎやか、古風でいながら新鮮、王道でありながら異風、さまざまな仮面をかぶった野心作である。


06.7.24
評価:★★★ 6
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ミステリ感想-『『クロック城』殺人事件』北山猛邦

2006年07月22日 | ミステリ感想
~あらすじ~
現在、過去、未来。別々の時を刻む三つの大時計を戴くクロック城。
そこは人面樹が繁り、地下室に無数の顔が浮き出し、怪物「スキップマン」が跋扈する異形の館。
鐘の音が鳴り響いた夜、礼拝室に首なし死体、眠り続ける美女の部屋には二つの生首が。
不可能状況でいかにして惨劇は起こったのか。世界の終焉をひもとく「真夜中の鍵」とは?
メフィスト賞受賞作。


~感想~
なにもかもぶっ壊れた小説。……小説か?
動機も推理も真相も人物も会話も物語も結末も、全てが小説の体を成していない。あまりにも未完成にして未熟にしてテキトー。
唯一、力の入っていたトリックは完全に予想通り。あれしかないだろ。
真面目に読んだら激怒しそうだが、あまりの壊れっぷりに終始ニヤニヤしながら読んでしまった。


06.7.21
評価:なし 0
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ミステリ感想-『どこまでも殺されて』連城三紀彦

2006年07月19日 | ミステリ感想
~あらすじ~
「どこまでも殺されていく僕がいる。いつまでも殺されていく僕がいる」
七度も殺され、今まさに八度めに殺されようとしているという謎の手記。
そして高校教師・横田のもとには、ある生徒から「僕は殺されようとしています。助けて下さい」というメッセージが届く。
生徒たちの協力を得て、横田は殺人の阻止と謎の解明に挑むが……。


~感想~
これはメタ系の仕掛けしかないだろうと思っていると、反転する構図に意表を突かれる。
それも意図しない形の反転で、こういうやり方もあったのかとしばし呆然。
「綺麗」「鮮やか」というわけではないが、その豪快なひっくり返しには度肝を抜かれるだろう。
最後も限定された条件下ながら、意外な結末でまとめ上げてくれる。
揺れる心理を暗く打ち沈んだ筆致で描き通した、梅雨にうってつけの作品でした。


06.7.19
評価:★★★ 6
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ミステリ感想-『霧舎巧傑作短編集』霧舎巧

2006年07月15日 | ミステリ感想
~収録作品~
「手首を持ち歩く男」
「紫陽花物語」
「動物園の密室」
「まだらの紐、再び」
「月の光の輝く夜に」
「クリスマスの約束」


~感想~
霧舎巧の全短編を集めた短編集。
アマチュア時代の作品も含まれ、せいぜいが「出来のいい同人ミステリ」程度の作品もちらほら。
しかし末尾を飾る書き下ろし「クリスマスの約束」は全く意表を突く大仕掛け。
ネタバレになるが、作者の忠告通り、読了済みでも全ての作品を読んでから取り掛かるべき。そう、そういう細工です。
正直、探偵のキャラも立ってないし小粒な品ばかりだが、この一編だけで評価は跳ね上がる。
クセモノと言われる霧舎巧あなどりがたし。


06.7.15
評価:★★★ 6
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ミステリ感想-『魔夢十夜』小森健太朗

2006年07月13日 | ミステリ感想
~あらすじ~
恵はルームメイトに頼まれ、自殺した女子生徒の足跡を調べるうち、学内にカルトめいた集団があり、自殺した少女がそれに関わっていたらしいことを知る。
そのうちに学校近くのホテルで生徒が変死体で発見され、さらに2人の女子生徒が何者かに突き落とされる。
しかも死体は二重に折り重なっていた。校内に漂う暗闇の正体とは?


~感想~
ミステリの王道ミッションスクールを舞台にした、暗号あり作中作ありオカルトありの王道ミステリ! ……になってもおかしくないのだが、どうにも様子がおかしい。
舞台からして実は「かつてミッションスクールだった」というだけで、そのころの名残りの礼拝堂などは登場するものの、規則はゆるやかになり、普通に寮を出ることは当たり前、(実質1人だけど)男子の受け入れもするし、おなじみの教師ならぬシスターも現れず、生徒は化粧はするわタバコは吸うわのやりたい放題。
べつにミッションスクールじゃなくてもいいのでは? と疑問に思っているとおなじみのアレ(いちおうネタバレ→)黒魔術儀式 が出てきて安心(?)させてくれる。
ミステリとしてみれば、読者の7割が読み飛ばすだろう再三の暗号解読はともかくとして、2つの墜死体をめぐる謎解きはなかなかに見せてくれるのだが、なんといっても物語が痛いのが最大の難点。
どのくらい痛いかというと、「テニスの王子様」の作者がかつて連載していたマンガで、主人公のクールが「COOL! COOL!」と叫びながらバイクを飛ばしているのを見た仲間が
「COOLがHOTになったぜ!!」
と言うシーンくらい痛い。

一例を挙げれば、なまりを隠すために四字熟語だけで話す少女とか、右目に包帯を巻き関わると不幸になると噂される少女とか、「これは破魔の護符よ」なんてペンダントを渡してくれる少女とか、上記のアレに心酔して電波な発言をくり返す少女とか、お嬢様生徒会長と四天王とか、イタイ少女のオンパレードである。
それに加えて、ちょっと言及するのにも困ってしまうような、正直これって必要なのかな? と思う、作者おなじみ(らしい)トンデモインチキオカルトな設定までからんでしまい、とにかく読む人を選ぶ作品に仕上がってしまっている。
なにはともあれ痛い少女フェチな方には強くオススメしたい。


06.7.13
評価:★☆ 3
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ミステリ感想-『交換殺人には向かない夜』東川篤哉

2006年07月12日 | ミステリ感想
~あらすじ~
浮気調査を依頼され、使用人を装い富豪の屋敷に潜入した私立探偵・鵜飼杜夫。
一方ガールフレンドに誘われ、彼女の友人が持つ山荘を訪れた探偵の弟子・戸村流平。
そして寂れた商店街で起こった女性の刺殺事件の捜査を行う刑事たち。
別々の場所で、全く無関係に夜を過ごしているはずだった彼らの周囲で、交換殺人はいかにして実行されようとしていたのか?


~感想~
こう来たか!
ちりばめられたギャグに埋もれて、いつの間にか仕掛けられた伏線が火を噴く。いつものことだが氏の作風は非常に軽い。しかし秘められたトリックは強烈で、そのギャップが驚きを増幅させてくれる。
これまでは論理性を武器にしてきたが、今作はトリック一本勝負。それも「東川篤哉がこんな細工を!?」と二重に驚かせてくれる大仕掛け。
読書中、呆然とし目を疑う場面が必ず2つはあるはず。いまだかつてない交換殺人をご堪能あれ。
限りなく10に近い9点!


06.7.12
評価:★★★★☆ 9
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ミステリ感想-『綺羅の柩』篠田真由美

2006年07月11日 | ミステリ感想
~あらすじ~
30年前、マレーシアの山中で謎の失踪を遂げたシルク王ジェフリー・トーマス。
そして現在、シルク王の面影を色濃く心に刻んだ人々が集うとき、失踪の真相が白日にさらされ、新たなる謎が照らし出される。


~感想~
要望どおり(?)ファン以外はまったく楽しめないシリーズものへと突っ走っている。
隠された事実もトリックも、ミステリではお約束のようなものばかりで、すこしも驚くことができない。物語もいたって冗長で、盛り上げるべきところも淡々と流れてしまい、山場が見当たらない。せっかくの謎めいた美少女霊媒師も、キャラも性格も設定も練り不足で中途半端。いわゆる「キャラ萌えライトノベル」へと変貌を遂げつつあるのに、主人公格の数人を除けばまったく血が通っていない(というかキャラが立っていない)のは残念。
もはやこれはミステリではなく、京介らのやりとりを楽しむトラベルストーリーとして見るべきだろう。
「建築探偵」の肩書きも、建築物がただそこにあるだけではなんらの効果も発揮はしない。
だいいち提示された謎たちも、たとえば(以下ネタバレ→)綾乃と京介の過去、足を引きずる刀根、そして肝心要のトーマスの失踪の理由と、まったく触れられないまま幕を閉じてしまう。シリーズも9作目を迎え、伏線をばらまく時期は終わったはず。いいかげん伏線の回収にいそしんでもらいたいものだ。


06.7.11
評価:★ 2
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ミステリ感想-『イニシエーション・ラブ』乾くるみ

2006年07月06日 | ミステリ感想
~あらすじ~
大学四年の僕(たっくん)が彼女(マユ)に出会ったのは代打出場の合コンの席。やがてふたりはつき合うようになり、夏休み、クリスマス、学生時代最後の年をともに過ごした。マユのために東京の大企業を蹴って地元静岡の会社に就職したたっくん。ところがいきなり東京勤務を命じられてしまう。週末だけの長距離恋愛になってしまい、いつしかふたりに隙間が生じていって…。
※カバー裏より転載


~感想~
やられた。
読了と同時に世界が壊れた。
そして崩壊したのち再構成された世界は、まったく違う色を鮮やかに見せてくれた。
使い古されたなじみの手ではある。しかし、それが恋愛小説というジャンルで用いられると、ここまでの破壊力を帯びるとは。
なにを書いてもネタバレになってしまうため細かいことはいえないが、真相が明かされると同時に、ある人物の印象が一変してしまい、それとともにこれまで見てきた物語が、見たこともない物語に姿を変える、これぞまさにミステリのカタルシスである。
これだからミステリはやめられないのだ。この衝撃を求めて、僕のようなミステリバカはミステリをあさりつづけるのだ。これぞミステリバカで良かったと思わせてくれる大傑作。
読了後にはこちらのサイトの全ての伏線を網羅しているんじゃないかと思わせる詳細な解説をぜひご覧あれ。
読了後、疑いなく誰もがもう一度読み返すだろう今作の、最高のガイドブックとなってくれるでしょう。
この解説込みで10点満点!


06.7.5
評価:★★★★★ 10
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ミステリ感想-『哲学者の密室』笠井潔

2006年07月05日 | ミステリ感想
~あらすじ~
ユダヤ系財閥フランソワ・ダッソー邸で滞在者の死体が発見された。
現場となった三階の塔は施錠され、一階と二階には監視の目が光る「三重密室」だった。
残されたナチ親衛隊の短剣が意味するものは? そして犯人は?
三十年前、終戦直前のナチス収容所に忽然と現れた三重密室との符号を、矢吹駆は現象学的本質直観で解き明かせるのか。


~感想~
やっと読み終えた。
購入から●年。本棚で熟成させつづけ、紙も日焼けする段に及びようやく征服できた。
「バイバイ、エンジェル」・「サマーアポカリプス」・「薔薇の女」とつづいてきたカケルシリーズのまさに総決算。絢爛豪華な哲学の祭典である。
祭典にふさわしく、今回カケルが挑むのは、哲学ファン(ファン?)でなくとも一度は目にしたことのあるだろう著名な哲学者マルティン・ハイデッガー。
彼の哲学と、作中で描かれるハイデッガーの化身ハルバッハの哲学とがどこまで等しいのかは、哲学オンチの僕にはさっぱりだが、とにかくハイデッガー(ハルバッハ)の哲学を主題に物語は描かれる。
言うなれば、プロットもトリックも動機も伏線も推理も犯人もすべてがハイデッガー(ハルバッハ)づくしのハイデッガー(ハルバッハ)耽溺ミステリ。とにかく疲れます。
読み終えたときには、難攻不落の高峰をのぼりつめた達成感や征服感よりも、深い疲労に包まれること請け合い。
ミステリとしてみれば、推理がなされては自爆、結論が導かれては粉砕をくり返し、しかもその正解ではない誤った推理が、実に退屈な、ただ状況に沿うだけのトリックであり、思わず不安になってしまうが、最後に明かされる真相は単純明快なトリックであり、ミステリらしい大仕掛けも飛び出してくれる。
まあそれが3000枚近い分量に見合うだけの大トリックとはとても思えないが、そもそもこの作品はカケルの(あるいは作者の)哲学と思想が爆発炎上する、小説とミステリの形を借りた哲学書だと捉えるのが正しいのだろう。
面白かったとも満足したともいえないが、とりあえず読めば「僕はあの哲学者の密室を読んだ」と胸を張れる、いわば勲章的作品。

僕は「哲学者の密室」を読んだ! 感想はただそれだけである。


上巻06.6.29
下巻06.7.4
評価:★★★ 6
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