小金沢ライブラリー

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ミステリ感想-『恋文』連城三紀彦

2011年11月29日 | ミステリ感想
~あらすじ~
余命いくばくもない昔の恋人に寄り添うため、突然姿を消した夫。妻は素性を隠して二人のもとに赴き…『恋文』。
何かにつけて彼女を悪し様に言う義母は、戦中に友人が恋焦がれていた一人の軍人の話をする…『紅き唇』。
旅行から帰った母は、私よりも若い男をつれていた。男は母と婚約したと言い、父親として振る舞い始め…『十三年目の子守唄』。
どんなことでも「俺なら、いいよ」と受け流し、髪結いの亭主を気取る夫。結婚記念日、妻は夫を裏切り男のもとへ行こうとし…『ピエロ』。
死んだ姪に生き写しのその娘は「母さんのこと愛してたんでしょう」と私に言う。彼女はお腹の子の父親が私だと、全く身に覚えのない事を言い…『私の叔父さん』


~感想~
表題作で直木賞を受賞した傑作短編集。
直木賞といえば功労賞の意味合いが強く、何度も候補に上がった末に「そろそろ獲らせてやってもいいんじゃないか」という気運が高まると、思い出したように与えられる賞のため、往々にしてその作者の代表作の何作か後に出されたぱっとしない作品に与えられがちである。
しかしそこは代表作を挙げろといわれれば十人が十人、別の作品を挙げるだろう連城三紀彦。『恋文』は本来の意味での直木賞にふさわしい、傑作短編集である。
まごうかたなき恋愛小説でありながら、顛倒した論理や、思いも寄らないような真相を裏に潜ませ、ミステリとしても十二分に楽しむことができる、ミステリバカから一般的な読者まで、誰しも満足させる傑作揃い。
つまりは、いつもの連城作品である。いつもの連城作品のそのすごさを知っている方は、ぜひ手に取っていただきたい。今さらすぎる話だが。


11.12.12
評価:★★★★ 8
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ホラー感想-『凶宅』三津田信三

2011年11月27日 | ミステリ感想
~あらすじ~
ここ、絶対におかしい。小学四年生の日比乃翔太は、越してきた家を前に不安でならなかった。
山麓を拓いて造成された広い宅地に建つのは、なぜかその一軒だけ。家族は気にもとめなかったが、夜、妹のもとにアレはやって来た。
家族を守るため、翔太は家にまつわる忌まわしい秘密を探り始め……。


~感想~
ミステリらしい謎解きを備えた、いつもの三津田ホラー。
先に書かれた『百蛇堂』との関連をにおわせながら、ほとんどの怪異は投げっぱなしのまま物語は幕を閉じてしまう。
しかし意外なところに脱力系の真相が隠されており、ミステリとして読むことも可能。
怖いか怖くないかで言えば全く怖くないのだが、三津田作品らしい変則ホラーとしては及第点。
シリーズ完結編の『災園』で投げっぱなされた謎は解かれるのか、続けて読んでみよう。


11.11.25
評価:★★☆ 5
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ミステリ感想-『第四の男』石崎幸二

2011年11月20日 | ミステリ感想
~あらすじ~
お嬢様学校・櫻藍女子学院の生徒が、シーウルフを名乗る男たちに拉致されかけた。
後日、警視総監宛に犯人グループより「別の女子高生を誘拐した」との脅迫状が届く。
そしていつもの四人はいつものように孤島に向かい……。


~感想~
いつもどおりの石崎ミステリ。
女子高生トリオと冴えない中年男がボケとツッコミを応酬し、強引すぎる理由で孤島に向かって事件に巻き込まれ、女刑事にビンタされてDNAトリックで落とすという、もはや様式美すら感じさせるテンプレっぷり。だがそれがいい。
手記を残して頭を殴られ失神し叙述トリックで落とす折原一と並ぶ、偉大なるマンネリである。
年間ベスト級の大ネタを二つも使い捨てた前作には遠く及ばないが、いつもの四人がわいのわいのと騒ぎ立てる光景に癒される僕のような駄目なファンは、迷わず買ってよし。


11.11.18
評価:★★☆ 5
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ミステリ感想-『バイロケーション』法条遥

2011年11月16日 | ミステリ感想
~あらすじ~
画家志望の忍は、ある日スーパーで偽札の使用を疑われる。10分前に「自分」が同じ番号のお札を使い、買物をしたというのだ。
混乱する忍は、現れた警官・加納に連行されてしまう。だが、連れられた場所には「自分」と同じ容姿・同じ行動をとる奇怪な存在「バイロケーション」に苦悩する人々が集っていた。
第17回日本ホラー小説大賞長編賞受賞作。


~感想~
「日本ホラー小説大賞」をとったのが不思議なくらい本格ミステリとして非常に優れた作品である。
全盛期の西澤保彦のSFミステリのような、と表現すれば、かつての西澤ファンには最もわかりやすいだろう。
いわゆる、その世界でしかありえないルールに基づき、特異なルールにのっとった論理的なミステリであり、かつての西澤ファンは今すぐ買い求めていただきたい。
設定そのものはホラーというよりも、新しい切り口のドッペルゲンガーを描くSFなのだが、物語の展開と結構がまごうかたなきホラーになっている。
主人公が巻き込まれるバイロケーションにまつわる恐ろしい事態はまさに悪魔的であり、もしこれが自分の身に起きたらと置き換えてみるがいい。絶望以外の何物でもない。
そしてその事件自体が、本格ミステリとして見れば一本の芯が通った、論理性の塊であり、全編にわたって伏線が張りめぐらされた綱渡りでもあるのだ。
4ページ前でやめておけばよかった野暮ったい結末だけは小さな瑕疵だが、これだけの傑作に対してそんな重箱の隅をつつくことこそ野暮というもの。これが他のどの賞にもベストにも引っかからなかったとは全く信じられない。
一発限りの破格のデビュー作となるのか、期待の新鋭の誕生となるのか、次の作品はまだか。
今後の期待度込みで9点を進呈したい。


11.11.14
評価:★★★★☆ 9
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ミステリ感想-『春から夏、やがて冬』歌野晶午

2011年11月15日 | ミステリ感想
~あらすじ~
スーパーの保安責任者の男と、万引き犯の女。偶然の出会いは神の思し召しか、悪魔の罠か?これは“絶望”と“救済”のミステリーだ。
※コピペ


~感想~
表の帯に「ラスト5ページで世界が反転する! 『葉桜の季節に君を想うということ』を超える衝撃がいま」と作者の代表作を引き合いに出す大胆発言をしておきながら、裏の帯では一転して「「葉桜」も「本格」も「どんでん返し」もひとまず忘れて、歌野晶午が到達したすばらしい小説世界を堪能してください」と完全に逆のことをのたまう、相反した惹句がまず目を引く。
『葉桜の季節に君を想うということ』といえば、本格ファンならばご存知の通りアレ系トリックの大傑作であり、その名を持ち出すということは、当然ながら今作もアレ系であると思われるのに、それを「残り5ページで」などとネタバレをかますのは大問題である。……が、今作については、たしかに残り5ページで何事かは起こるものの、決してそれが主眼ではなく、裏の帯にあるとおり「歌野晶午が到達したすばらしい小説世界を堪能」すべき話なので、実はさほど問題にはならない。

前置きが長くなったが、私見を述べるならばこれは『葉桜の季節に君を想うということ』の再来というよりも、『世界の終わり、そして始まり』のリベンジ作品である。
『世界の終わり、そして始まり』は歌野ファンの間でも賛否両論、かく言う僕は歌野作品の中では最低の大駄作だと断じているが、ああいった手合いの物語の見せ方をうまいこと整えた、というのが今作『春から夏、やがて冬』だと思えてならない。

裏の帯でフォローしたとおり、今作は決して優れた本格ミステリではない。
最後に探偵役が出てきて意外な真相を語る、という典型的なスタイルを取りながら、その真相はあくまでも探偵役による想像、ひとつの推論にすぎないのだ。ネタバレしないよう気を配りながら例を上げると、(↓それでもいちおう文字反転します↓)
探偵役は犯人にアリバイがあることを明かしながら、そのアリバイはただ「ある」というだけで、伏線もなければ、具体的な裏付けも全くないのだ。
作者はあの歌野晶午なのだから、当然これは手落ちではない。意図的に推理に欠陥を生じさせ、単なる想像に留めたのだろう。
となるとこれは、本格ミステリとして評価するのではなく、残り5ページにどんでん返しのあるミステリとして読むべきだ。「本格」でないのならば、意図的に真相をぼやけさせたのは、読者に想像の余地を残したと捉えるべきだろう。探偵の想像をそのまま受け入れるもよし、別の解釈をもって、悪夢的な結末に救いをもたらすもよし、物語の後は読む人に委ねられている。

長々と無駄口を叩いてしまったので、簡潔に述べよう。
残り5ページのどんでん返しは、それなりに意外性があって満足した。これならば個人的にはミステリとして十分受け入れられる。登場人物をいったん持ち上げておいて(あれを「持ち上げて」と表現するのは異論があるだろうが)どん底に叩き落す手管も物語としてすばらしい。ラストシーンも余韻が残る。
が、やはりあの才人・歌野晶午の新作としては不完全燃焼の感もあり、これも賛否両論だろうなあ。


11.11.14
評価:★★★☆ 7
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ミステリ感想-『ゴーグル男の怪』島田荘司

2011年11月08日 | ミステリ感想
~あらすじ~
「そいつ、両目の皮膚が溶けたように真っ赤なんですよ……」タバコ屋の老婆が殺された濃霧の夜、ゴーグルで顔を隠した男が闇に消えた。
死体の下から見つかった黄色く塗られた五千円札、現場に散乱する真新しい五十本の煙草。曖昧な目撃情報、続出する怪しい容疑者、奇怪な噂が絶えない核燃料製造会社。
そしてついに白昼堂々、ゴーグル男が姿を現した。


~感想~
僕は御大のファンというよりも信者に近いが、それでもこれはちょっと擁護しがたい。
視聴者参加型推理ドラマ「探偵Xからの挑戦状」用に書き下ろされた原作に、原発批判と新たな語り手を配した――だけで、原発批判も語り手も完全に浮いてしまっている。
特にある人物にいたっては読み終わるや「で、お前誰やねん」とツッコみたくなる有様で、いてもいなくても一向に構わない存在である。
事件もトリックもこれはどう考えても中編程度のネタで、それならば文庫版で出して、ドラマ版と同じように読者への挑戦でも挟めばよかったろうに、と思えてならない。


11.11.7
評価:★★ 4
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ミステリ感想-『目撃者は月』都筑道夫

2011年11月07日 | ミステリ感想
~あらすじ~
なにげない日常に忍び寄る殺人の影。名手が巧みに紡ぎ出した傑作短編集!
※コピペ


~感想~
騙された! 内容ではなく「傑作推理小説」という惹句に。
表紙に堂々と書かれた「推理小説」は全くの嘘っぱちで、あとがきで作者自身が述べている通り、収録されたのはほとんどが怪奇小説で、「傑作推理」なぞどこにも見当たらない。
それも結末がつかない方のホラーばかりで、作中で夢オチ(厳密に言うとオチではあまり使われていないのだが、実は夢でしたというパターンが頻出する)も連発され、どうにも食傷気味。
作者の代名詞にならい、傑作ふしぎ小説とでも書いていてくれればよかったのだが……。
連城三紀彦の傑作短編集の直後に読んでしまってはなおさら落ちる。タイミングも悪かった。


11.11.3
評価:☆ 1
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ミステリ感想-『夜よ鼠たちのために』連城三紀彦

2011年11月06日 | ミステリ感想
~あらすじと収録作品~
ホテルで発見された"妻"の死体。だが"妻"はつい先刻、この家で私が殺したはずだった『二つの顔』。
謎めいた誘拐事件の真相を引退した刑事が先輩刑事に手記で語りかける『過去からの声』。
車椅子の少女が首を絞められた。だがその部屋には母も父も誰も入ることができなかった『化石の鍵』。
妻を尾行してくれというありきたりの依頼。しかし尾行に気づいた妻は、探偵に逆に意外な依頼をする『奇妙な依頼』。
妻の復讐のため私は彼らを殺さなければならない。ありふれたように見える復讐者の動機はかつてないものだった『夜よ鼠たちのために』。
妻と愛人の間を交互に行き交う男。彼らの間には複雑な因縁が絡まり合っていて…『二重生活』


~感想~
毎回同じことを書いているがそれでもやっぱり連城三紀彦はすごい!
たったこれだけの枚数の中に仕組まれた精緻なトリックと罠。特に驚いたのは『過去からの声』で、のちに『人間動物園』と『造花の蜜』という誘拐ミステリの傑作長編を二つも放っている氏が、それに先駆けてこんなとんでもない誘拐トリックを、しかも短編でものしていたとは。
その他の5編もいずれ劣らぬ傑作ぞろい。トリック、動機、ミスディレクション、どこかに必ず見たこともない顛倒した発想が潜んでいる。本格ファンはこれを見逃す手はない。


11.10.28
評価:★★★★☆ 9
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