小金沢ライブラリー

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ミステリ感想-『立待岬の鷗が見ていた』平石貴樹

2024年11月25日 | ミステリ感想
~あらすじ~
通り魔、押し込み、ひき逃げ。わずか16日の間に立て続けに起こった3つの事件は関係者が重なるものの、アリバイに守られ容疑者を絞りきれない。
全ての事件に関わる作家がその後出版した小説には、現実の事件と妙に一致する部分があった。

2020年このミス20位


~感想~
「潮首岬に郭公の鳴く」に続く函館物語シリーズ第2弾。
今回も名探偵の登場は遅く、まずは前回と同じくベテランに差し掛かった刑事が3つの事件を振り返り、さらに関係者の書いた小説のあらすじも記す凝った構成。
つながるようでつながらない3つの事件とそれにヒントを与える小説という絶対に面白そうな設定だが、残念な点がちらほら。
関連性の無い事件をつなぐミッシングリンクと来ればいの一番に思いつくアレがそのまんま正解という安直さと、しかも犯人も●●でさらにがっかり。作中小説も要するに真相のヒントに過ぎず、なぜわざわざそんな親切をと首を傾げるばかり。
前作と同じ丹念な捜査と名探偵の発想の飛躍は見事だったが、肝心の真相とヒントが残念なことになっており、話題を呼んだ前作の余勢をかってランクインはしたものの、著しく引けを取っていると感じるのは否めなかった。


24.11.25
評価:★★☆ 5
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ミステリ感想-『潮首岬に郭公の鳴く』平石貴樹

2024年11月14日 | ミステリ感想
~あらすじ~
函館の名士である岩倉松雄の孫で美人三姉妹とうたわれた三女が遺体で発見。
頭には鷹の置物で殴られた傷があり、かつて松雄へ贈られた松尾芭蕉の4首の俳句に見立てられていた。
警察は他の姉妹への犯行を警戒するが…。

2019年このミス10位、本ミス10位


~感想~
有栖川有栖が単行本の帯で指摘した通り横溝正史「獄門島」の本歌取りで、やはり三姉妹が狙われる見立て殺人で、しかも全く同じ句も一首使われている。
恥ずかしながら「獄門島」は未読ながら単体でも十分に楽しめる、はず。

やはり名探偵が謎を解くものの登場は遅く、終盤まで刑事の地道な捜査が続くがこれが地味に面白い。ベテランとやや若手の二人組が全ての可能性を潰していくかのようにトライアンドエラーで丹念に調べ尽くし、本丸の名探偵の発想と論理を補強してくれる。
一方でこれだけ優秀な警察が、被害者一家は協力的なのにろくに警備も付けないせいでいとも簡単に連続殺人を許しているのは謎だが、横溝リスペクトと捉えるべきだろう。それにしたって深夜に庭先で毎度毎度運動会さながらに色々やられているのは現実味がないが。監視カメラ一個置くだけでほぼ全ての事件を防げただろ…。

本作の評価を一気に高めたのが異様な動機で、論理的に紐解かれた事件の裏に潜む強烈な動機にはドン引きしてしまう。しかも終わってみれば真相は涼しい顔ではなから堂々と掲げられており、これには恐れ入った。
当然「獄門島」を読んでいればもっと面白いのだろうが、そうでなくても感心しきりの凝りに凝った労作である。


24.11.14
評価:★★★☆ 7
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ミステリ感想-『大江戸科学捜査 八丁堀のおゆう』山本巧次

2024年11月05日 | ミステリ感想
~あらすじ~
長屋に住む謎めいた美女おゆう。その正体は現代の東京に住まう関口優佳。
彼女はタイムスリップして江戸と現代を行き来し、現代テクノロジーで事件捜査に当たっていた。

2015年このミス大賞隠し玉


~感想~
作者のデビュー作だが、新人賞の応募時点でこのまますぐ出版できると太鼓判を押され、しかも容易にシリーズ化できるからあえて大賞ではなく隠し玉(次点)で出されたという破格の経緯で、目論見通りにシリーズは11作を数えドラマ化も果たした。
読めば納得の面白さで、タイムスリップは制約なしに自由、肝の科学捜査も「何も詮索しない分析オタクの知り合いがいる」という一点突破で強引に突き進める。
江戸の事件を指紋や盗聴器や成分分析で捜査するのが単純に面白く、異世界転生・チート物の要素も強くこのアイデアを思いついた時点で勝利確定である。
さらに事件自体も二転三転して裏の裏があり、脇を八丁堀のイケメン岡っ引きとの恋愛要素で固め、いくらなんでも都合の良すぎる分析オタクも早々に…と徹底して盤石の布陣を敷いており、作者の筆の上手さが光る。

唯一、講評で「最後に明かされる真相が蛇足」と言われていたが、ミステリにおいてサービス精神等でやりすぎることはあっても蛇足はそうそう無いはずと思っていたら、仰る通り完全に蛇足なのは笑った。
今後のシリーズ展開で必要にはなるのだろうが本作の時点ではマジでいらなかったよね…。


24.11.5
評価:★★★ 6
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ミステリ感想-『義経号、北溟を疾る』辻真先

2024年10月28日 | ミステリ感想
~あらすじ~
開拓から間もない北海道に鉄道が敷設され、明治天皇の行幸が決定。
だが北海道大開拓使・黒田清隆の失脚を狙う旧藩士の屯田兵たちは列車の妨害を図り、しかも黒田には殺人事件の嫌疑も掛けられていた。
列車の護衛と調査を命じられたかつての新選組一番隊隊長・藤田五郎こと斎藤一と、清水次郎長の子分の法印大五郎は北海道へと渡る。


~感想~
実在人物と実際にあった歴史的上の出来事を組み合わせ、チャンバラ活劇と殺人事件まで配したまるで山田風太郎のような一作。御大こんなのも書けるんだ。
冒頭、その行幸の記録を紹介し「特別な記録が残っていないところをみると運転は順調だったのだろう」と歴史としての結果を早々に明かしてしまうところが実に心憎い。
斎藤一は笑う時にもニヒルに口角を上げるだけのるろうに剣心的キャラ付けで、架空の人物かと思ったら全然実在してる法印大五郎もコメディリリーフを担いつつやる時はやる。
一方の敵方には少女剣豪と鉄鞭使いの義兄妹に加えこの時代では最新鋭のライフル使いを、味方にはアイヌの野性少女を配するケレン味も楽しく、あとがきで作者が「チャンバラを読むつもりでいたら、犯人捜しまでつきあわされたとボヤいたあなた、すみません」と言う通り殺人事件はガチのミステリで、伏線も動機もさりげなく伏されているのもお見事。
文庫書き下ろしかつ時代ミステリのため斯界の話題にはあまりならなかったが、時代ミステリも読めるなら手にとって見るのも悪くない娯楽小説である。


24.10.28
評価:★★★ 6
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ミステリ感想-『ゼロの誘拐』深谷忠記

2024年10月12日 | ミステリ感想
~あらすじ~
塾帰りの生徒が殺され、経営者の木暮のもとには責任を問う脅迫電話が届く。
そして木暮のまだ乳児の娘が誘拐されるが、犯人は「5日間は無事だ」となぜか期日を切り、はじめは身代金も要求せず…。


~感想~
冒頭、まるで実在の事件の裏側を小説化したかのようにうたい、さらに作中で「ある実験を試みた」と言うが、無論架空の事件であるとともに、87年10月出版と綾辻行人「十角館の殺人」の翌月でもあり、この頃はまだこの仕掛けを施すために但し書きが必要だっただけなので、過度の期待は禁物である。
内容は誘拐事件に様々な事件を絡めつつ、ほぼ昭和ミステリらしいお色気シーンも挟んで最後は一つにまとめ上げる丁寧なもので、可もなく不可もなく楽しめる。

あまりに面白かったのでネタバレながら紹介してしまうが、終盤に犯人がまるで犯行を否定するように「それは……それは、違う」「真実を知ってもらいたい」と訴えながら単に計画的ではなかっただけで普通に殺してたのは笑った。違わねえよ!殺ってんじゃねえか!!


24.10.12
評価:★★★ 6
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ミステリ感想-『死体で遊ぶな大人たち』倉知淳

2024年10月07日 | ミステリ感想
~あらすじ~
キャンプ場に押し寄せたゾンビの群れ。逃げ込んだ宿泊場の密室でゾンビに殺されたメンバーが発見されるが、周囲にゾンビの姿はなく…本格・オブ・ザ・リビングデッド
重大事件のお悩み相談を受け付ける公的施設に訪れた3人の若者は、いずれもそっくりな事件に巻き込まれ自分が犯人かもしれないと悩んでおり…三人の戸惑う犯人候補者たち
40年前の心中事件を振り返るネット番組。女は男の死後に首を絞められたとしか思えない状況で…それを情死と呼ぶべきか
発見された男の死体には自分の腕がなく、代わりに女の腕が添えられていた…死体で遊ぶな大人たち


~感想~
霞流一か白井智之のような短編集のタイトルは4編目と同じだが、全編に共通したテーマでありいずれも死体をあれやこれやした事件・トリックが繰り広げられる。しょっちゅう死体を飛ばしたり爆発させたりする霞・白井ほど過激ではないが…いや…近いことはやっているな。
また近年の作者はシリーズ化しそうでほとんどしない連作短編集を多く書いているが、本作の探偵役はそれぞれ違う立場の人物を配してきたので、誰が探偵を務めるかという楽しみもある。

1編目「本格・オブ・ザ・リビングデッド」は冒頭でげんなり。作者のことだからネタでやっている側面もあるだろうが、いつまで「屍人荘の殺人」のゾンビ要素をネタバレ扱いしなければならないのか。タイトルにもろにゾンビが入っているし、ゾンビは前提であって作品の主要素ではない。ネタとはいえここでネタバレ扱いしたことによってさらに解禁が遠のいてしまった感もありほとほとうんざりである。
あ、トリックの方はなかなかふざけていて良かった。1編目にこれを置いたことで以降何をやっても許される空気を醸成するのにも一役買っている。

2編目「三人の戸惑う犯人候補者たち」はすわ麻耶雄嵩か!? シュレディンガー的な多重解決か!? と思わせるシチュエーションが面白い。
それを論理的に、かつ大胆に紐解いていくのだが、これをやるために公的なお悩み相談所という謎施設を配したのが強引すぎて笑ってしまう。

3編目「それを情死と呼ぶべきか」は内容はともかく近年の悪癖がぶり返され、解決編で誰も疑っていないような前提条件をくどくど検証してページを埋め尽くすのがなんともはや。鍵は掛かってたし複製できなかったでいいんだよもう休め倉知…。

4編目の表題作は一番そんなわけないトリックで正直引いてしまったが、解決後のもう一捻りで唸らされた。ぶっちゃけUの某作や近年でもAが近いことをやっているが、全く予想だにしなかったので驚いた。

近年は質がブレ幅大きい(と個人的に思う)作者だが、パズラー的なトリック重視にまとめたことで良い方に転がった、単純に楽しめる短編集である。


24.10.7
評価:★★★☆ 7
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ミステリ感想-『プロジェクト・インソムニア』結城真一郎

2024年09月29日 | ミステリ感想
~あらすじ~
人為的に明晰夢を起こし、数人でそれを共有するユメトピア。
現実ではナルコレプシーに悩まされる蝶野は被験者として夢の世界を満喫する。
しかし被験者の一人が犠牲となり、現実でも死体として発見された。
夢と現実はリンクしているのか?


~感想~
後に「#真相をお話しします」で年間ランキングを賑わせる作者のデビュー2作目。
夢の世界というなんでもありの舞台に、特殊設定ミステリとして必要な制約を上手く掛けつつ、本格ミステリとしてまとめ上げた快作で、まずユメトピアという設定が(名前はアレだけど)素晴らしい。
夢の世界と現実の姿は同じとは限らず、登場人物の多くには意外な正体があり、ゲーム「カリギュラ」を思い出させる。
夢での死と現実での死をリンクさせる方法自体は拍子抜けするほど単純ながら、それを実現させるため実に特殊設定ミステリらしいトリック・条件・伏線を用意しており、しかも伏線は序盤からあからさまにぬけぬけと、それも何度も記され、条件も単純明快にして納得の代物で素晴らしい。これまで書かれた夢を題材にしたミステリの中ではトップクラスの仕上がりではなかろうか。
作者がこの時点でもっと著名であれば「#真相をお話しします」よりひと足早くランキングを席巻したに違いない、隠れた良作ミステリである。


24.9.29
評価:★★★★☆ 9
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ミステリ感想-『法廷遊戯』五十嵐律人

2024年09月17日 | ミステリ感想
~あらすじ~
法科大学院で行われていた模擬裁判の無辜ゲーム。
久我清義は過去を暴かれ、復讐者の影がつきまとう。
卒業後、弁護士となった清義のもとに久々の開催が持ちかけられるが、模擬裁判場では旧友が殺されていた。
容疑者となったのもかつての無辜ゲームの関係者。清義はその弁護を引き受ける。

2020年メフィスト賞、このミス4位、文春4位、本ミス9位


~感想~
大学時代の逆転裁判的ゲームからシームレスに弁護士時代へ移行し、主要3キャラのうち1人が死亡し1人が容疑者、残る1人がその弁護士を務めるという激熱の展開が最高。
新人離れしたストーリーテリングで調査が進むごとに事態はどんどん悪化し、有罪・無罪どちらにしろ完全に詰みに追い込まれるのもお見事で、そこから逆転裁判的に決定的証拠で真相が明かされるが、それだけに留まらない結末を迎える。
正直収まるべきところに都合よく収まりすぎて、法廷での最終決戦前の盛り上がりは超えられなかったが、早々に実写映画化・マンガ化と他メディアに展開したのも納得の、デビュー作としては破格の非常によくできた良作である。


24.9.17
評価:★★★★ 8
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ミステリ感想-『楽園とは探偵の不在なり』斜線堂有紀

2024年09月13日 | ミステリ感想
~あらすじ~
ある日天使が降臨し世界は変わった。
顔のない不気味で無機質な天使が人類に与えたルールは一つだけ。2人以上殺した人間は天使によって地獄へ落とされる。
変わった世界で全てを失った探偵は、天使の集う楽園に招かれ、そしてありえないはずの連続殺人事件が起こる。

2020年このミス6位、文春3位、本ミス4位、本格ミステリ大賞候補


~感想~
「決して2人以上殺せない世界の連続殺人」というド真ん中の特殊設定ミステリで各種ランキングでも高評価を受けたが、本作と作者の本分はそこにはない。
天使の降臨によって変えられた世界と、失意の探偵の絶望と再生が主題であり、実のところミステリ要素は副次的な物に過ぎない。
そのため事件はすいすいと犯人の思惑通りに進み、重要な手掛かりはひょんなことからあっさり手に入り、大掛かりなトリックも解決前にほとんど明かされてしまい、本格ミステリとして読むとちょっと拍子抜けする。
だが失意の探偵をめぐるエピソードとその過去は実に読ませるもので、作者が一番描きたかったのもおそらくは事件解決後からエピローグに掛けてなのだろうと勝手に思う。ミステリとしては個人的に拍子抜けながら物語としてはここで一段も二段も上へと至り、探偵譚を締めくくってくれる。
ミステリ要素もある終末的探偵物語として心に残る一作だった。


24.9.13
評価:★★★ 6
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ミステリ感想-『全員犯人、だけど被害者、しかも探偵』下村敦史

2024年09月08日 | ミステリ感想
~あらすじ~
不祥事により糾弾される中、社長室で死体で発見された男。
山奥の地下室に集められた妻や社員や記者ら7人に何者かが告げる。
「48時間後、犯人以外を毒ガスで殺す」
かくして全員が犯人・被害者・探偵となるデスゲームが始まった。


~感想~
良く出来ているし決してつまらなかったわけではないが、この設定とあらすじから期待する物とは全く別の何かが提供されてしまった。
作者の実力ならば期待する通りの物を出すことも余裕でできたはずだが、そこからだいぶ脱線した、しかも(個人的には)期待しない方向に逸れてしまったのが残念。
かなり前半から「そうだったらちょっと期待とは違うな」と不安にさせる要素を小出しにして行くので、早いうちに真相の一端にたどり着いてしまう読者もいるだろう。並外れた実力のある作者なので計算ずくだろうが、個人的にはそれは終盤まで隠しておいても良かったのではと思うが、まあ好みの問題である。
繰り返すが話自体は大変良く出来ているし、各人の主張する犯行や推理もそれぞれの立場に応じたもっともなもので、デスゲームを生き残るための戦術も楽しめる。
この設定に期待する要素には応えたうえで路線から逸脱するため、一定の満足は得られる。そこから先は個人の嗜好であり、この展開のほうが好きだとハマる読者も少なくないだろうが、でもこうした変化球ではなく真正面からのぶつかり合いが見たかったなあと思わずにはいられなかった。


24.9.8
評価:★★☆ 5
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