小金沢ライブラリー

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ミステリ感想-『容疑者Xの献身』東野圭吾

2005年12月30日 | ミステリ感想
~あらすじ~
数学だけが生きがいだったが冴えない高校教師に甘んじる石神。
彼は生まれて初めて愛した女を守るため完全犯罪を目論む。
親友にして好敵手、湯川は果たして真実に迫れるか。
「このミス」「文春」「本格ベスト」「本格大賞」「直木賞」の五冠に輝いた傑作ミステリ!


~感想~
一息に読ませる力を持つ物語。切れ味鋭いトリック。ただのミステリには収まりきらない逸品――ではあるのだが、ブッチギリで五冠を達成するほどの作品とはどうしても思えない。
意表を突かれたのはトリックだけで、展開→真相→決着は予想の範疇を一歩たりとも出ることはなかった。
あまりに整いすぎて意外性に欠けたのか、それとも清冽に過ぎて単純に思えてしまったのか。
確実に傑作ではある。だが、この作品が各賞を総なめにしたと聞くと、僕としては「不作」の2文字が脳裏を駆け回るのを抑えきれない。


05.12.30
評価:★★★☆ 7
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ミステリ感想-『モロッコ水晶の謎』有栖川有栖

2005年12月30日 | ミステリ感想
~収録作品~
助教授の身代金
「ABC」殺人事件
推理合戦
モロッコ水晶の謎


~感想~
『助教授の身代金』
ミステリらしさとドラマらしさがかみ合った秀作。最近のアリス作品に漂う「古畑任三郎」っぽさを全開にした印象。

『「ABC」殺人事件』
トリックが古くさい。トリックを示す手がかりが浅い。読了後の印象が薄い。三拍子そろった一作。

『推理合戦』
『ジュリエットの悲鳴』でも思ったが、ショートショートが巧い。これも良作。

『モロッコ水晶の謎』
『ペルシャ猫の謎』以来の問題作と喧伝しているが、いまどき珍しくもないトリック。
単に「あの有栖川がこんなトリックを使った」というのが奇異なだけで、この種のトリックとしてはひねりもなにもない基礎的なものに過ぎまい。


~総括~
中編3つと掌編1つ。とはいえ表題作は文章を気どったがために長くなっただけ。
ボリュームはイマイチだが、とりあえず及第点で。


05.12.30
評価:★★☆ 5
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ミステリ感想-『暗い宿』有栖川有栖

2005年12月28日 | ミステリ感想
~あらすじ~
犯人当てゲーム“トロピカル・ミステリー・ナイト”に参加するため、リゾートホテルを訪れた火村英生と有栖川有栖。バカンス気分でのんびり過ごしていた2人だったが、訳ありげな夫婦に出会い……(ホテル・ラフレシア)。
廃業した民宿、冬の温泉旅館、都心の名門ホテル―。様々な“宿”で起こる難事件の数々。

~収録作品~
暗い宿
ホテル・ラフレシア
異形の客
201号室の災厄


~感想~
読者が謎を解く手がかりは意図的に伏せられ、ただ読むしかないのが悲しい。
謎自体も読者に推理をさせるほどの魅力に乏しく、うがった見方をすればパズラーとして提供できないため紀行ミステリの体裁をとったように思える。
アリスの論理性に引かれる身としては、どうしても物足りなさを感じてしまう。


05.12.28
評価:★★ 4
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ミステリ感想-『学ばない探偵たちの学園』東川篤哉

2005年12月23日 | ミステリ感想
~あらすじ~
「だんしがしんだいでしんだ」回文もどきの状況で発生した足跡なき密室殺人。
その日から学園に大事件が連鎖する。探偵部の3人と顧問の生物教師がお気楽に解決を目指すが、事件はますます混迷を深め……。


~感想~
ユーモアに特化したものの、なぜか笑いのセンスは「烏賊川市シリーズ」に及ばない。
事件・トリック・解決はまともな中に、笑いがちりばめられているからこそだろうか。
その点、本作は全編にわたってお気楽にストーリーが進行する。
トリックは肩の力を抜いた奇想天外なもの。ユーモアミステリならではといったところか。
読むのに肩が凝りようもない、軽いタッチの佳作。東川篤哉――ひいてはミステリそのもの――の入門編としてもオススメ。


評価:★★☆ 5
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ミステリ感想-『チャット隠れ鬼』山口雅也

2005年12月13日 | ミステリ感想
チャットルームを舞台に山口雅也が描く21世紀ミステリ。
異例の横組み。

~あらすじ~
ネット上の自警団「サイバー・エンジェル」の候補に選ばれた国語教師の祭戸は、チャットで知り合ったJezebel-Pと名乗る主婦との会話に夢中になる。
しかし祭戸は次第に彼女に疑念を抱きだし……。


~感想~
設定だけで展開・オチに予想が付いてしまうのはしかたないか。
伏線の張り方はそつないが、山口雅也ならではの味はほとんど感じられない。
いつか誰かが書いただろうという、予想の範疇を越えられなかった。
肝心の(?)チャットでの会話も、伏線と関係ない部分の会話はあまりに内容がなく、顔文字の多用、無軌道な展開など、いかにもチャットを知らない人間が書いた感じになってしまっている。
もうちょっと会話に目的あるって。
まあ読んで退屈も損もしないが、コストパフォーマンスはいまいち。薄いし。


評価:★★☆ 5
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ミステリ感想-『本格ミステリ04』

2005年12月12日 | ミステリ感想
03年度を代表する短編ミステリを集めたアンソロジー。
01年から毎年刊行され、あまり本格ミステリ作家というイメージのない作家の作品が多く採られている。

~収録作品~
『眼前の密室』横山秀夫
『Y駅発深夜バス』青木知己
『廃墟と青空』鳥飼否宇
『盗まれた手紙』法月綸太郎
『78回転の密室』芦辺拓
『顔のない敵』石持浅海
『イエローロード』柄刀一
『霧ケ峰涼の屈辱』東川篤哉
『筆合戦』高橋克彦
『憑代忌』北森鴻
『走る目覚まし時計の問題』松尾由美


~感想~
シリーズ中では最も楽しめた。
横山秀夫、鳥飼否宇、高橋克彦など名前だけで敬遠していた諸作家が、そこらの本格畑の作家顔負けの「本格っぷり」を見せてくれ、うれしくなってくる。
巻を重ねるごとに収録作品が減っていくのは気になるが、今回に限っては佳作ぞろい。
『Y駅発深夜バス』青木知己・『筆合戦』高橋克彦が秀逸。


評価:★★★ 6
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