小金沢ライブラリー

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ミステリ感想-『クドリャフカの順番』米澤穂信

2010年12月30日 | ミステリ感想
~あらすじ~
待望の文化祭が始まった。だが折木奉太郎が所属する古典部では大問題が発生。手違いで文集「氷菓」を作りすぎたのだ。
部員が頭を抱えるそのとき、学内では奇妙な連続盗難事件が起きていた。盗まれたものは碁石、タロットカード、水鉄砲……。
この事件を解決して古典部の知名度を上げるべく、省エネ主義者の奉太郎は事件の謎に挑むはめに。古典部シリーズ第3弾。


~感想~
米澤ミステリらしい変……ひねくれた人物たちが織り成す、一風変わった青春模様が楽しい。
「刷りすぎた冊子」をめぐる販売戦略と「暗躍する謎の怪盗」という魅力的な二本の主線を据えながら、本筋を離れたクイズ大会やお料理対決などでさすがはラノベ畑の軽妙な筆が冴え、見どころが数多い。
折木や千反田だけではなく、シリーズ初となる里志や摩耶花の視点も交え、ひんぱんに入れ替わることで、お祭りらしいにぎやかさが演出されているのもお見事。
あとがきで「主役は文化祭そのもの」と言うとおり、文化祭というレベルを通り越して、どこかのテーマパークに紛れ込んだようなお祭り騒ぎがとにかく楽しい。事件なんか起きなくたってかまわないくらいに。
……でもこんなに全校あげて盛り上がる文化祭なんてこの世に存在するだろか?


10.12.27
評価:★★★☆ 7
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ミステリ感想-『十三番目の陪審員』芦辺拓

2010年12月29日 | ミステリ感想
~あらすじ~
架空の殺人事件を演出し、その容疑者として冤罪の実態を取材する「人工冤罪」計画の犯人役に志願した鷹見瞭一は、DNA鑑定すら欺く偽装を経て、予定通り警察に連行された。
ただし、全く身に覚えのない現実の殺人容疑者として。
関西初の陪審法廷での弁護を引き受けた森江春策が、驚愕の真相を暴き出す。


~感想~
まだ裁判員制度ができていない時期に書かれた異色の法廷ミステリ。
架空の陪審員法を用いているが、裁判員制度と多くが重なるため、いまの読者ならばすんなり話に入れるだろう。
が、惜しむらくは読む時期を完全に逸してしまい、せっかく作者が趣向を凝らした、独自の陪審員法や、それを軸に据えた個性的な仕掛けなどは、魅力が半減してしまった。
架空の法律が制定されたことから生じるあつれきや、世間の反応などなど見どころはたくさんあるのに、実際に裁判員制度が導入された現在の視点からは、どれも新鮮味が失われ、しかも裁判員制度が順調に推移している現実と比べると、作中の陪審員法に対する無理解や反発はもはや平行世界を描いたSFにも等しくなってしまっている。
類まれな労作だけに、今さら読んだのは悔やまれる次第である。


10.12.24
評価:★★☆ 5
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ミステリ感想-『キング&クイーン』柳広司

2010年12月28日 | ミステリ感想
~あらすじ~
六本木のバーで働く元SPの冬木安奈のもとに、元チェス世界王者の警護依頼が舞い込む。
依頼者は「アメリカ合衆国大統領に狙われている」というが……。


~感想~
いつもの偉人伝やジョーカーシリーズのような重厚さからは離れ、軽快なタッチで描かれたサスペンス。
古武術の達人のヒロインや奇人の天才チェスプレイヤー、オネエ系の協力者と濃いメンツがそろっているわりに、印象もストーリーもどうにも薄い。それが読みやすさにつながり、終局のある仕掛けに意外さを内包させることはできているのだが。
いちゃもんを付けるようだが、物語の筋も、事件も、なにもかもが注文どおりに流れているようで、うまく行き過ぎているのが、このヒロインの性格をなぞるような、起伏に乏しい無機質な読後感を招いているようである。
しかし展開も犯人の策謀も、チェスの技巧になぞらえているので、こうした印象を抱くことは、作者の狙い通りなのかも知れない。
と、なんだかんだとケチをつけてみたが、気軽に読んで気軽に騙される、小粒ながら良質のミステリではある。


10.12.17
評価:★★★ 6
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映画感想―『ソルト』

2010年12月27日 | 映画感想


~あらすじと感想~
いやー酷い酷い。今年観た映画の中で一番酷かった。いや今年どころか今まで観た映画の中でも屈指の酷さ。
頭のてっぺんから足の爪先まで糞な映画なので、遠慮なくネタバレするためいちおうご注意をば。

まず冒頭。アンジェリーナ・ジョリー演じる女スパイ・ソルトが北朝鮮兵に下着姿でリンチされている。
脱がせよ。なぜ無駄に紳士的なんだ。
なお次の場面で一気に時間が飛ぶため、このリンチシーンがどこにつながるのか少々わかりづらいが、冒頭に据えておきながら、ソルトがリンチを受けたという出来事はたいして重要な意味もないので、忘れても構わない。

つづいて謎めいたロシア人の男がCIAに捕まり尋問を受けるが、そのさなか、ロシア男はソルトがロシアとアメリカとの二重スパイだと明かす。それを聞いたソルトはろくに弁解もせずいきなり逃走を始めるため、面食らってしまうが、先にネタを割るとソルトは実際に二重スパイであり、ロシア男はソルトの組織のボスで、ソルトに蜂起をうながしに来たのだ!
なぜボスが自らのこのこと敵中に入り込んできて、一スパイに連絡しに来るのか、敵に捕らわれる以外に連絡方法はなかったのか、この方法だとソルトはもちろんお前も危険じゃないのかとか、百の疑問が湧いてしまうが、ソルトも、そしていつの間にかボスも無事に逃走するので心配は無用である。
ちなみにソルトは履いていた下着を監視カメラにかぶせるというファンサービスをしてくれるが、別にパンツを選ぶ理由もないと思う。

辛くも逃げのびたソルトは、ロシア首相の暗殺を目論む。そのために変装をするのだが、それがなんと髪を黒く染めただけという始末。切れよ。っていうかそれは変装じゃなくてオシャレだ。
葬儀に出席したロシア首相を狙うソルトは、会場の地下に潜み、床を爆破して首相を地下に落とすという斬新すぎる手法(なぜか無傷で、しかもソルトの目の前に落ちてくる光景はシュールすぎる)で、目的を遂げた。
それによりロシアとアメリカは緊張状態に陥り、核戦争の危機を迎えるのだった……。念のために言うが、ロシアのスパイだの核戦争だのが横行しているが、これは21世紀の現代の話である。

任務を果たしたソルトはロシア男たち同志に迎えられた。しかしそこで恋人をいきなり殺されたソルトは、怒り心頭で同志を皆殺しにしてしまった。展開クソ早ええ。
しかし初志貫徹の人であるソルトは、同志の遺志を受け継ぎ、今度はアメリカ大統領を狙う。何がしたいんだよこのヒロインはと頭を抱えたくなるが、とにかくソルトは先行していたスパイの協力を得て、鉄壁のセキュリティーを誇る地下シェルターに挑む。
ソルト「どうやってシェルターに潜入するの?」
協力者「こうするのさ!」
言うやいなや、協力者はなんと自爆テロで吹っ飛び、混乱に乗じてソルトはエレベーターの通路を利用するという古典的な手段で地下深くに侵入した。
今しも核ボタンが押されようとしていたとき、実はロシアの潜入スパイだった大統領の側近が裏切り(くり返すが現代が舞台である)、大統領を気絶させその他の全員を撃ち殺してしまう。
そこに現れたソルトは思わぬ同志の登場に喜ぶが、ここでネタばらし。なんと彼女はロシアスパイたちの陰謀を打ち砕くための三重スパイだったのだ!
ソルトは核ボタンが押されるのを必死に食い止める! 実はロシア大統領を暗殺していないし、ロシアスパイ以外は殺していないのだが、多数のアメリカ人(民間人含む)に重傷を負わせていたことなど振り返りもせず戦う!
そしてロシアスパイを葬り、核戦争の危機を防いだのだが、今までのうさん臭すぎる行動(実際に多くの被害は出してる)から二重スパイの疑惑を解かれていない彼女は拘束され、ヘリで移送される。
だが付き添いの元同僚に、彼女は真実をほのめかす。「私は世界を救った。そしてこれからも世界の危機を救うために戦う」
証拠もクソもないソルトの言葉を無邪気に信じた元同僚は、なんとソルトをわざと逃がしてしまい(もうちょっと待てば大統領が意識を取り戻して潔白を証明してくれるのに)かくてソルトは孤独な戦いを続けるのであった……。

えーと。アメリカはこの映画でいったいなにをどうしたかったのかな?
これは本当に現代を舞台にしなきゃ描けなかったのかな?
どうして21世紀にもなってロシアのスパイを暗躍させたのかな?

なぁにこれぇ。


評価:問題外
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ミステリ感想-『サニーサイド・スーサイド』北國浩二

2010年12月19日 | ミステリ感想
~あらすじ~
「この中の誰かが自殺する」すみれが予知したのは、誰が自殺してもおかしくない壊れかけた心の生徒たち。
7人の中にいる自殺者を探し求めるが、ついにその日がやって来た。傷ついた誰かに気づくことはできるのか。


~感想~
昨年話題となった『リバース』の続編的な位置づけ。とにかく「惜しい!」という感想。
SF的な設定で、自殺を目論む誰かを追う、というストーリーは(全く話題にならなかった)辻村深月『名前探しの放課後』とかぶるが、こちらは自殺候補の7人の視点が目まぐるしく入れ替わり、時系列をバラバラに配した凝った構成で、最後の仕掛けも全く違うため、印象はまるで異なる。
しかし作り込みに甘さが見え、まず盲点に隠された"犯人"は意外だが、他の自殺候補たちと比べると、その動機がどうしても弱く思える。読み返すとたしかに要所要所で伏線は張られているのだが、思春期の自殺の動機としては十全としても、ミステリの真相としてはあまりに弱い。
揚げ足取りになるが、「こんな友達ならいらない、というかこんなことするヤツは友達と呼ばない」という結末や、口実を設けてすみれに自殺候補者たちと握手させるとか、候補者たちに好きなCDを持ってこさせてサイコメトリーさせればいいんじゃね? という身も蓋もない疑問が湧くことや、作中で最も外道なヤツに報いがないどころか後日談すらないことの手落ち具合など、物語としての甘さが目についてしまった。
面白く読めはしたものの、個人的には合わない作品であった。


10.12.12
評価:★★☆ 5
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2010文春結果

2010年12月18日 | ミステリ界隈
01.「悪の教典」貴志祐介
02.「叫びと祈り」梓崎優
03.「マリアビートル」伊坂幸太郎
04.「隻眼の少女」麻耶雄嵩
05.「シューマンの指」奥泉光
06.「写楽 閉じた国の幻」島田荘司
07.「小暮写眞館」宮部みゆき
08.「綺想宮殺人事件」芦辺拓
09.「死ねばいいのに」京極夏彦
10.「謎解きはディナーのあとで」東川篤哉


毎年毎年言っているが、もう文春のランキングはその役目を終えている。
多少の入れ替わりがあるだけで6位までのメンツがこのミスと同じでは、語るべきことなど何も無い。
七河迦南「アルバトロスは羽ばたかない」が11位だったことも、このミス・本ミス・文春全てでのベスト10入りを逃したという点ではむかつくしな。
なお紹介すらしなかった早ミスのいらなさ加減は、今年の(今年のだぞ!)1位が綾辻行人「Another」であったことを指摘するだけでも事足りるだろう。
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2010本格ミステリベスト10結果

2010年12月17日 | ミステリ界隈
01.「隻眼の少女」麻耶雄嵩
02.「叫びと祈り」梓崎優
03.「水魑の如き沈むもの」三津田信三
04.「綺想宮殺人事件」芦辺拓
05.「アルバトロスは羽ばたかない」七河迦南
06.「貴族探偵」麻耶雄嵩
07.「写楽 閉じた国の幻」島田荘司
08.「丸太町ルヴォワール」円居挽
09.「謎解きはディナーのあとで」東川篤哉
10.「こめぐら」倉知淳
11.「なぎなた」倉知淳
11.「二人の距離の概算」米澤穂信
13.「黒と愛」飛鳥部勝則
13.「セカンド・ラブ」乾くるみ
15.「闇の喇叭」有栖川有栖
15.「ジークフリートの剣」深水黎一郎
17.「アリアドネの弾丸」海堂尊
17.「扼殺のロンド」小島正樹
19.「キッド・ピストルズの醜態」山口雅也
20.「空想オルガン」初野晴


1位確実と思っていた小島正樹「武家屋敷の殺人」がランクインすらせず、「扼殺のロンド」にすら負けているのに目を疑った。なぜだ!?
「セカンド・ラブ」入ってやがるし! なぜあれが「スリープ」に勝てる!?
なにもかも物足りなかった「水魑」が3位に入っているのを見ると、2010年の本格は(世間的には)不作だったのだろうかと思えてならない。
やりすぎコージーがいたのに。君たちには今年もガッカリだよ!
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2010このミス結果

2010年12月16日 | ミステリ界隈
01.「悪の教典」貴志祐介
02.「写楽 閉じた国の幻」島田荘司
03.「叫びと祈り」梓崎優
04.「隻眼の少女」麻耶雄嵩
05.「シューマンの指」奥泉光
06.「マリアビートル」伊坂幸太郎
07.「水魑の如き沈むもの」三津田信三
08.「小暮写眞館」宮部みゆき
09.「アルバトロスは羽ばたかない」七河迦南
10.「綺想宮殺人事件」芦辺拓
11.「丸太町ルヴォワール」円居挽
12.「死ねばいいのに」京極夏彦
13.「神の棘」須賀しのぶ
14.「ダブル」深町秋生
15.「北帰行」佐々木譲
16.「硝子の葦」桜木紫乃
17.「こめぐら」倉知淳
17.「瑠璃玉の耳輪」津原泰水
17.「エウスカディ」馳星周
20.「灰色の虹」貫井徳郎
20.「貴族探偵」麻耶雄嵩


1位はゲームブック以外の作品が全てなんらかの賞かランキングに絡んでいる貴志が戴冠。3作品読んであまり合わなかったので回避していた。
2位は私的ランキングと同じく島田御大。「写楽の正体を暴く」というとんでもない偉業を成し遂げた。3位「叫びと祈り」は前評判の高さは聞いていたが、文春・本ミスでも2位・3位と大爆発するとは。デビュー作(それも短編集)としては破格の作品である。
本ミスを制した「隻眼の少女」がこのミスでも4位。新作を出すたびに話題を呼ぶ麻耶雄嵩はさすが。
7位の「水魑の如き沈むもの」は納得がいかない。シリーズ中でも最低の出来だと思うのだが。9位「アルバトロスは羽ばたかない」は作者の知名度と刊行当時の話題の薄さからすると驚異のランクイン。次回はもっと上が狙えるに違いない!
13位以降は一気にミステリから離れていくのがこのミスらしいところ。某道尾秀介はミステリを離れるとともにランキングからも外れてまずは満足。
いちおう広くアンテナを張っているつもりだったが、21作品中6作品も知らなかったのはちょっとびっくり。全部ミステリの範疇からは外れるけども。乾くるみ「スリープ」が50位以内にも入らず「セカンド・ラブ」にすら敗れていたのは個人的にショックだった。
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ミステリ感想-『スリープ』乾くるみ

2010年12月15日 | ミステリ感想
~あらすじ~
目覚めると、そこは30年後の世界だった。『イニシエーション・ラブ』『リピート』に続き、今度は未来へ…6年ぶりの長篇書き下ろし。
※コピペ


~感想~
大傑作。どうやら僕は時間SFが大好物らしいと改めて気づかされた。
同じく時間SFミステリの傑作『リピート』で、SFファンに「設定が甘い」とさんざん言われたことへの雪辱か、最先端科学を基盤に細かい設定を凝らし、30年後の近未来の技術・政治・風俗にまで多くのアイデアを詰め込んでみせたのがまずすごい。反面、僕のような文系まっしぐらの読者には煩雑さや、大半は読み流すしかない退屈さももたらしたのだが。
しかしストーリー展開はさすが乾くるみで、二転三転する大仕掛けに、全編に張りめぐらされた伏線の山、ラストの想像だにしないどんでん返しと、これぞSFミステリならではの醍醐味。
キワモノミステリではないにもかかわらず、よく考えなくても登場人物のおよそ9割が変態なのは、今なおあのメフィスト賞で史上最もHENTAIなミステリとして輝く『Jの神話』でデビューした面も持つ乾くるみテイスト。それなのに、感動作、恋愛小説としても成立しているのだから恐ろしい。変態しかいないのに!
『イニシエーション・ラブ』に続く『セカンド・ラブ』は大失敗だったが、『リピート』に続く『スリープ』は大成功だった。


10.12.14
評価:★★★★★ 10
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ミステリ感想-『アルバトロスは羽ばたかない』七河迦南

2010年12月03日 | ミステリ感想
~あらすじ~
児童養護施設・七海学園に勤めて三年目の保育士・北沢春菜は、多忙な仕事に追われながらも、学園の日常に起きる不可思議な事件の解明に励んでいる。そんな慌ただしい日々に、学園の少年少女が通う高校の文化祭の日に起きた、校舎屋上からの転落事件が影を落とす。警察の見解通り、これは単なる「不慮の事故」なのか?
だが、この件に先立つ春から晩秋にかけて春菜が奔走した、学園の子どもたちに関わる四つの事件に、意外な真相に繋がる重要な手掛かりが隠されていた。
※コピペ


~感想~
今年度一位確定。
真相が明かされた瞬間、頭が真っ白になった。
正直、七河迦南をなめていた。3年前に鮎川賞を取った前作『七つの海を照らす星』は、児童養護施設という一風変わった舞台で起こる日常の謎に、王道トリックを溶けこませるという意欲作で、トリックの大胆さと、舞台設定を活かした奥深い物語、連作短編集としての仕掛けの巧みさに魅せられ、個人的に大好きな作家になりそうだという感触は持ったが……。
受賞後、3年間音沙汰がなく、ようやく出た第二作。まさかここまで化けるとは思わなかった。
トリックの強烈さもさることながら、それによって見ていた世界が逆転し、物語自体の意味が裏返るのが素晴らしい。トリックはただ読者を驚かせるためだけに仕掛けられたわけではないのだ。
児童養護施設という舞台が織り成す、ただ優しいだけではない物語は「日常の謎といえば癒し系でしょ?」と勘違いした我々に叩きつけるアンチテーゼだ。
季節ごとに起きる4つの事件が見せる連関は、昨今よく見られる、メンツが多少同じで時系列が並んでいれば連作短編集だというぬるい風潮に浴びせた容赦ない挑発だ。
アルバトロスは羽ばたかない。だが、七河迦南は飛翔した。

でもどーせ売れてないし賞レースには一切引っかからないんだろな~~。
なお必ず先に前作『七つの海を照らす星』を読むべし。


10.12.3
評価:★★★★★ 10
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