小金沢ライブラリー

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ミステリ感想-『死ねばいいのに』京極夏彦

2010年05月30日 | ミステリ感想
~あらすじ~
死んだ女のことを教えてくれないか。
無礼な男が突然現われ、私に尋ねる。私は一体、彼女のなにを知っていたというのだろう。
問いかけられた言葉に、嘘が暴かれ、業がさらけ出される。そして浮かび上がる剥き出しの真実とは。


~感想~
ほぼ全編が一対一の会話だけで描かれた異色の形式で、京極レベルの筆力がなければ、まず小説として成立しないのは間違いない。
ジャンル分けするのがなかなか難しい作品で、いちおう殺人事件の関係者に聞き込みをし、最終的に謎が解かれるのだからミステリとしての側面はあるのだが、フーダニットに関して言えば、誰が読んでも解答にたどり着けるだろうから、謎やトリックなどと構えるものはなにもない。しかし物語は「彼女はなぜ殺されたのか」というテーマで貫かれており、結末ではねじれた真相が明らかとなるので、ミステリとして楽しむことも十分に可能。
一方こんなタイトルの作品で、しかも決めゼリフが「――死ねばいいのに」とどぎつい言葉でありながら、昨今流行りの癒し小説としても機能しているのが不思議なところで、京極作品名物のうだうだ自分語りする連中を、半ニートの口の利き方を知らない若造が偉そうに説教垂れているだけで、憑き物落としさながらに相手を論破してしまうのが痛快きわまりない。もしかして「泣けなければ小説じゃない」とのたまうスイーツ(笑)が読んでも楽しめるのだろうか。
いずれにしろ多角的な読み方を受け入れる、なかなか破格の作品である。


10.5.28
評価:★★★ 6
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ミステリ感想-『噂』荻原浩

2010年05月29日 | ミステリ感想
~あらすじ~
「レインマンが出没して、女のコの足首を切っちゃうんだ。でもね、ミリエルをつけてると狙われないんだって」
香水の新ブランドを売り出すため、渋谷の女子高生に流された噂。しかし噂は現実となり、足首のない少女の遺体が発見される。


~感想~
著者初のミステリだそうだが、実に堂に入った書きぶりで、都市伝説を絡めた事件、魅力的なキャラ、刑事小説としても楽しめる捜査、そしてなんといっても多重に仕掛けられた大胆なトリックと、熟練ささえ感じさせる出来栄えである。
特にトリックの切れ味が抜群で、読み返すだに感心する綱渡りをやってのけており、最後の最後にはとどめとばかりに思わぬところから一撃を繰り出してくれる。
すこし間延びした印象は受けるものの、だからと言って退屈させることもなく、最後まできっちり読ませる筆力も充分。
これがどの賞にもランキングにも絡まなかったとは全く、どうかしてるぜ。


10.5.13
評価:★★★☆ 7
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ラノベ感想-『零崎人識の人間関係 無桐伊織との関係』西尾維新

2010年05月25日 | ミステリ感想
~あらすじ~
零崎一賊の兄妹になったばかりの零崎人識と無桐伊織は人類最強の請負人・哀川潤を襲撃する。しかしその結果二人は彼女の「仕事」に巻き込まれる羽目に。
向かう場所は“殺し名”第二位、闇口衆の拠点・大厄島、対する敵は生涯無敗の結晶皇帝(クリスタル・カイザー)、六何我樹丸!


~感想~
この『零崎人識の人間関係』四部作は、どの順序で読んでも構わないそうなので、とりあえず初出順に読んでいるのだが、どの作品もいくつかの異能バトルと軽妙な会話だけで成立しているものの、この作品はその中でもちょっと異色である。
というのも、タイトルの無桐伊織が、零崎人識とはもちろん本筋ともあまり絡まないのだ。
本編の主人公は間違いなく闇口崩子と哀川潤であり、無桐伊織も零崎人識も、活躍の場面は少ない。作者自身も「崩子ちゃんの妹っぷりがいっぱい書けて楽しかったです。イエー」と言ってる程だしな。
それどころかメインとなるはずの「大厄ゲーム」さえもルールがほとんど活かされないおざなりな描かれ方である。
まあ「哀川潤がおおあばれ」というだけでもファンは確実に楽しめるだろう。
ちなみに時系列的には四部作の中で(本筋の内容は)一番新しく、『ネコソギラジカル』の直後である。


10.5.18
評価:★★☆ 5
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ラノベ感想-『零崎人識の人間関係 匂宮出夢との関係』西尾維新

2010年05月24日 | ミステリ感想
~あらすじ~
「零崎一賊」――それは“殺し名”の第三位に列せられる殺人鬼の一賊。
汀目俊希として中学校に通う零崎人識の下に、彼の友人(?)の“殺し名”第一位、匂宮雑伎団の次期エース、匂宮出夢が現れた。その口から発せられた「お願い」とは?


~感想~
僕にとって西尾維新がデビューした時の衝撃はすさまじかった。
ラノベと本格ミステリの融合にこの上ない形で成功していて、過剰なまでにキャラ立ちした人物たちの織りなす会話を読むだけでも楽しく、しかも裏ではド本格なトリックが仕掛けられ、度肝を抜いてくれた。
『クビツリハイスクール』からバトル物へと大きく舵を切ったが、それでも本格トリックを仕掛けることはやめず、ラノベとミステリのいいとこどりを存分に楽しませてもらった。が。
シリーズ最終作『ネコソギラジカル』ではミステリを放棄し、単なるバトルラノベへと堕ちて(個人的には)大きく期待を裏切られてしまった。
だがその方針転換は作家としては大成功で、『化物語』や『刀語』のアニメ化、少年ジャンプ連載中の『めだかボックス』の原作など多方面で活躍し、あっという間に時代の寵児となったのは誰もが認めることだろう。
しかし、取替の利かない、唯一無二の個性は失われ、他の誰かが書くことのできるラノベばかり書くようになってしまったのは、非常に残念なことであり、ミステリ界隈にとっても大きな損失であることは間違いない。

で、この『零崎一賊の人間シリーズ』だが、こちらは完全にバトル物のラノベで、はじめからそういう物だとわかっているので、単純にラノベとして楽しめる。
維新と同じくミステリを捨てた作家としては(維新はまだちらほら書いてはいるが)近年では道尾秀介が著名だが、維新は会話の妙と笑いのセンスで、ラノベとしても充分に読ませるので、質的に落ちても商品としては成立している。(道尾ははっきり言って、これまでの傑作群との落差が激しすぎて、全く商品として成立していない)
と、何かを褒める際に他の何かをおとしめるのは、最低の手法なので道尾と比べるのはこれくらいにして、そもそもこの『匂宮出夢との関係』の感想をないがしろにしてきたが、そういうわけでラノベとして、戯言シリーズ外伝としてはそこそこ楽しめる、いたってフツーのラノベであった。


10.5.15
評価:★★☆ 5
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映画感想―『バタフライ・エフェクト』

2010年05月21日 | 映画感想

~あらすじ~
7歳のエヴァン少年は、記憶の一部が飛ぶ現象に悩まされていた。
やがて大学生になった彼は治療の一環としてつけていた日記を読み返すうちに時空を越えて、少年の頃の自分に立ち戻ってしまう。
抜け落ちた記憶を埋め直す取り組みを始めた途端、エヴァンとその周囲の人生が大きく狂い始めた……。


~感想~
これは時間SFとしては『バックトゥザフューチャー』に匹敵する大傑作ではなかろうか。
タイトルは「北半球で蝶が羽ばたくと南半球で竜巻が起きる」という、小さなきっかけが思いもよらない大きな現象を引き起こすというバタフライ理論からとられたもので、そのタイトルに恥じないストーリー展開が実に面白い。
主人公は現在の苦境を変えるべく、過去の一場面へと記憶をそのままに舞い戻り、未来を変える細工を施すのだが、その細工がほんの些細な一言であったり、小さな行動・選択であるにも関わらず、現在への大きな変化をもたらすのだ。
(以下あらすじとネタバレ)
そして今作が優れているのが「悲劇的な純愛映画」という側面であり、そもそものタイムスリップをする動機からして、初恋相手のトラウマを自分の不用意な一言で呼び起こし、自殺に追い込んでしまった――というそれ自体が「バタフライ・エフェクト」である。
主人公は見事に彼女のトラウマを退け、彼女と恋人になるという最高の現在を手に入れるのだが、そのトラウマをはねのけた行動が、別の破滅的な未来を招いてしまう。その後も試行錯誤を重ね、ついに「自分が両手足を失っている」以外は全てに破綻がない現在へとたどりつき、とうとう気づいてしまう。自分さえいなければ全てがうまくいっていたのだと。
ラストシーン、恋人を思うが故に、彼女と他人であることを選んだ彼は、街中で偶然彼女とすれ違う。彼女は振り向いて彼の後ろ姿を追うが、それに気づき彼もまた振り返ったとき、彼女は既に背を向け歩き出していた。もしほんの一瞬、振り返るのが早ければ、二人の目は合い、また別の未来が生まれていたのでは……と最後まで「バタフライ・エフェクト」に支配された展開、まさにSF映画でしかなしえない悲劇である。

僕の好みにど真ん中ストライクの、長く心に残る名作であった。


評価:★★★★★ 10
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映画感想―『ファイナルデッドコースター』

2010年05月17日 | 映画感想

~あらすじ~
ハイスクールの卒業イベントが行われる遊園地で、ウェンディはジェットコースターに乗ったとき、コースターが大クラッシュして死者が出るという予知夢を見た。
彼女は錯乱し、友人数人と降りたが、予知夢は現実となり、事故が起きて多勢の人間が死んだ。
友人たちは生き残ったが、ウェンディは遊園地で友人と撮影した写真に不吉な死の影を見てしまう。


~感想~
ファイナルデスティネーションシリーズ第三弾。
三作目ともなるとどうしても予想通りな部分が出てきてしまうが、今回は写真に死に様が暗示されるという新要素を加えて、もはやお家芸の仕掛けのタイミングのずらし方、画面中に這い回る仕掛けの影、写真に隠された手がかりと、シリーズに期待するものを十分に用意できてはいる。
個人的には、SAWシリーズのように延々と続いて欲しいのだが。


評価:★★★ 6
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映画感想―『デッドコースター』

2010年05月16日 | 映画感想

~あらすじ~
ハイウェイで起きた突然の連鎖事故。トラックに積まれた巨木が崩れ落ちたのを機に、ハイウェイは一瞬にして地獄と化した。
しかし“予知夢”により事故を回避した8人も、死の運命に直面することとなる。


~感想~
『ファイナルデスティネーション』の続編。
せっかくいいオチを付けた前作を引き継いでしまったが、前作をそれなりにうまいこと踏まえて、新たな展開を作り出すことには成功している。
前作よりもピタゴラ装置をうまく活かしていて、来るぞ来るぞと思っていた場面であえて仕掛けを発動させず、気を抜いたところで罠を仕掛けるずらし方がうまく、どんなピタゴラ装置かという楽しみと、いつどのタイミングで死ぬのかという黒い面白さがあるのだ。
前作ほどきれいな着地ではないが、納得できるオチも備えて、続編としての役割を十分にこなした佳作である。


評価:★★★☆ 7
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映画感想―『ファイナルデスティネーション』

2010年05月15日 | 映画感想

~あらすじ~
自分が乗った飛行機が爆発する夢を見たアレックス。はたして夢の通り飛行機は爆発し乗客は全員死亡した。
それ以来、生き残った彼とクラスメイト6人の身に次々と理不尽な“死”が襲いかかる。


~感想~
「深夜に目が覚め、なんとなくテレビを点けたら最後まで観ちまったぜ」とうちの親父が興奮気味におすすめしてくれたこの映画、分類するならばホラーなのだが、何ホラーかと言われると実に説明しづらい作品である。
というのも、主人公たちが立ち向かうのは殺人鬼やモンスターではなく「運命」であり、小さな偶然が積もり積もって訪れる、必然的な死が敵なのだ。
この死を招く仕掛けが秀逸で、早い話がピタゴラスイッチさながらに、部屋中の小物が連鎖反応を起こして大事故を招くというもので、「次はどんなピタゴラ装置で死ぬんだろう」とだんだん楽しくなってくる。
オチもきれいに決まり、親父が興奮するのも納得の良作である。
……が、かなりグロい描写も多々あるので、人によっては要注意。


評価:★★★★ 8
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映画感想―『ウォッチメン』

2010年05月14日 | 映画感想

~あらすじ~
世界を揺るがす事件の陰には“監視者”がいた。ウォッチメンと呼ばれた彼らが今、次々と消されていく。
闇に隠された想像を絶する巨大な陰謀。真実の先に待ち受けるものとは。


~感想~
あらすじがわかりづらいので要約すると、アメコミヒーローが実在する世界で、ヒーローの活動停止が発令され、ヒーローたちの組織が解体されてから数年後、何者かにより元ヒーローが殺害された――というものである。
こう書くと痛快アクションものを想像しがちだが、全くそんなことはなくハードボイルド気味な世界観で、「もしヒーローが実在したら」というIFストーリーを現実に溶け込ませ、社会派気味で重厚気味な映画となっている。
「気味」と何度も念を押したのは、一口で言い表せない猥雑な雰囲気がただよい、別に見たくないヒーロー同士の濃厚な濡れ場だの、全裸の巨大ヒーローが破壊光線でベトコンを殺戮するわくわくベトナム戦争などの描写が、ちゃんと描けばヒーローの光と闇を描いたダークな作品に仕上がったはずの映画を、一気にB級作品にまで引き下げてしまっているのだ。
上映時間も3時間強と必要以上に長く、他ではそうそう観られない題材だけに興味は引くが、観る人を選ぶ惜しい作品である。


評価:★★ 4
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映画感想―『ハンコック』

2010年05月13日 | 映画感想

~あらすじ~
超人パワーで悪を退治するハンコック。不死身のスーパーヒーローの彼だが、コントロールのきかない超人パワーのせいで事件解決の度に街を破壊、いつしか嫌われ者になっていた。
しかし本人は全く反省する気もなく、酒臭い息を吐きながら市民に悪態をついている。
そんな時に出会ったPR会社で働くレイとその家族がハンコックを変えていく。


~感想~
やさぐれた風体で超人パワーを持て余し、人々に嫌われている飲んだくれのスーパーヒーローという、十二分においしい設定だけで満足できなかったのか、暴走した(?)脚本が中盤から期待しない方角へと向かってしまうのがなんとも惜しい作品。
酒ビン片手に普段着で空を飛ぶ冴えないヒーローという絵面、ふとしたはずみに得た協力者の手を借り更生の道へと進むというストーリーが面白かっただけに、ぶっ飛んだ話の転換がどうしても失策、蛇足に思えてならなかった。


評価:★☆ 3
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